衆院選がきのう公示された。第一声で自民、公明の与党は経済再生の実績を訴え、野党は景気回復の恩恵が一部の人に偏っていることを批判した。

 経済政策の重要性は言うまでもない。しかし、衆院選に先立って決まった消費税の再増税先送りによって、社会保障の財源に穴があいてしまった。

■暮らしを考える機会

 社会保障は私たちの日々の暮らしを支えている。その社会保障は現在、国債発行という将来世代へのつけ回しでまかなわれている。消費税再増税は▽社会保障の給付を受けている今の世代の負担を増やすことでつけ回しを減らす▽同時に手薄な分野の給付も充実させる。このことを目的にしていた。「社会保障と税の一体改革」である。

 再増税を先送りしたからと言って「負担」と「給付」を考えることまで先送りするわけにはいかない。

 今回の衆院選は、私たちの暮らしを考える機会でもある。

 まず、充実すべき給付に優先順位をつける。財源に穴があいたからとそのまま社会保障を削る発想をやめ、予算全体を見直し、浮かせた分を充てる。社会保障の枠内でのやり繰りではまかなえない以上、そうした取り組みが不可欠である。

 一体改革を決めた自民、公明、民主の3党はどう訴えているのか。

 自民、公明両党は、消費税率を10%に上げる2017年度までの間も、子育て支援や医療、介護などを充実させることを訴える。再増税先送りの結果、当初、予定していた施策をまかなおうとすると、財源は15年度が4500億円、16年度は1兆3500億円不足する。自民は、低年金者への月額5千円上乗せを先送りすることを表明した。公明は経済成長や歳出削減で対応する、としている。

 民主党も、介護労働者の待遇改善や子育て支援を掲げて、財源については行政改革で捻出するとしている。

 しかし、負担との見合いで本当に実行できるのか、説明を尽くしているとは言い難い。

■給付は三つの柱で

 給付の充実策で、今から優先的に取り組むべきなのは、次の3点である。①子育て支援②介護分野③低所得者対策。いずれも消費増税先送りで影響が懸念される項目だ。

 子育て支援策は、これまで高齢者に偏ってきた社会保障を若い世代にも及ぶように転換していく柱でもある。その理念を具体化させなければならない。また、少子化が進む中で、社会全体で子育てに取り組む態勢を整える必要もある。

 介護を担う職員の待遇改善も、喫緊の課題だ。

 介護現場は、慢性的に人手不足だ。その主な原因が、賃金の低さだ。厚生労働省の統計によると、現場で働く人の平均賃金は月22万円で、全産業より10万円以上、低い。

 団塊世代が75歳以上になる2025年には、介護職員を今より最大100万人増やす必要があると推計されている。それを見すえれば、今から待遇改善を着実に進める必要がある。

 それから、低所得者対策である。年収200万円以下の働き手が1100万人を超えて格差が深刻になる中では、対策の充実が欠かせない。

 世代間の助け合いを基本としてきた日本の社会保障は、世代に関わりなく誰もが負担する消費税に頼りつつ、所得に応じた給付を強化していく必要がある。所得の少ない人たちの生活を安定させることは、低迷する個人消費を支え、日本経済を押し上げることにもつながる。

■納得できる負担に

 株価の上昇や好調な企業業績を背景に税収が見込みを上回りそうだという。政府は、近くまとめる経済対策の財源に充てる予定だが、その一部を回してはどうか。政府は、自治体に交付金を支給し、商品券の配布といった対策を検討中だ。商品券より、低所得者に確実に届く対策を優先すべきだろう。

 一体改革は、そもそもが息の長い取り組みである。消費税率を10%にしても将来世代へのつけ回しはなくならず、高齢化に伴って社会保障費は増えていく。低成長が続けば、10%超への増税を覚悟せざるをえない局面も予想される。

 再増税の先送りで、その第一歩からつまずいたとはいえ、給付の充実策はできるだけ実行していくべきである。それが、増税に対する国民の納得を得ることにつながるはずだ。

 米格付け会社が、日本国債の格付けを1段階、引き下げた。再増税の先送りなどで財政赤字の削減目標の達成に「不確実性が高まった」ためだ。

 日本の財政規律に内外の目は厳しい。少子高齢化への対応と財政再建と。長期に及ぶ課題の克服に向けて、各党、特に一体改革を決めた自民、公明、民主の3党に、社会保障の論戦を期待する。