弁護士小森榮の薬物問題ノート

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help RSS 麻薬特例法と覚せい剤譲り受け

<<   作成日時 : 2011/02/22 23:50   >>

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外国に滞在中の女性タレントに逮捕状が出ている件で、ポツポツと散発的に取材を受けていますが、先日、ある記者さんから聞いた話では、この女性に対しては麻薬特例法の譲り受けで逮捕状が出ていたということです。
フム、フム・・・かなり前のことだというし、譲り受けたとされる覚せい剤はもうどこにも存在していないかもしれないし、なるほど麻薬特例法ねぇ。

というわけで、麻薬特例法が定めている、ちょっと特殊な譲り渡し、譲り受け、所持について、かいつまんで説明しておこうと思います。
通称「麻薬特例法」とは、正式にいうと「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成三年十月五日法律第九十四号)」という長い名前をもった法律です。これは、1988年に国連で採択された「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」(通称麻薬新条約)を批准するため、平成3年に制定されたもので、マネー・ロンダリング罪の新設、不正利益の没収、コントロールド・デリバリーなどのための手続きを定めています。

さて、問題の譲り受けは、同法の第8条2項で次のように定めています。
第8条
2項  薬物犯罪(規制薬物の譲渡し、譲受け又は所持に係るものに限る。)を犯す意思をもって、薬物その他の物品を規制薬物として譲り渡し、若しくは譲り受け、又は規制薬物として交付を受け、若しくは取得した薬物その他の物品を所持した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

この条文は、なにやら複雑な書き方をしていますが、要するに、規制薬物であると認識される状況下で規制薬物だと思って譲り渡し等を行った者は、たとえその対象物が規制薬物でなかった場合でも処罰される、と定めたもので、実は、コントロールド・デリバリーとの関係で、こんな規定が生まれたのです。
薬物の密輸や不正流通に対する捜査手法として、荷物の中身を抜き取った状態で、監視の下で荷物を配達させるクリーン・コントロールド・デリバリーが行われることがあります。犯人がその荷物を受け取ったところで現行犯逮捕!としたいところですが、犯人が受け取った荷物には薬物が入っていないのですからはたして逮捕できるのでしょうか。これは、刑法の学説の大きな議論のある、人を射殺したと思ったところ相手はマネキン人形であったという場合に、殺人の意図はあっても殺人未遂が成立するかどうかという問題で、未遂は成立しないというのが、一般的な考え方(通説)なのです。ですから、薬物事件の場合も、薬物を受け取るつもりでも、受け取った品物が薬物でなければ、薬物犯罪の未遂にもならないことになります。
そこで、クリーン・コントロールド・デリバリー捜査を有効に使うために、上記の規定が定められました。つまり規制薬物であると認識される状況下で規制薬物だと思って譲り渡し等を行った者を処罰することができるように、この規定が定められたのです。

ところで、例のタレントさんの場合は、別にコントロールド・デリバリーには関係ないのに、この条文が使われているようです。
こうした使い方は、薬物事件の一部でときどきみかけます。たとえば覚せい剤取締法違反(譲り受け)事件として立件するためには、譲り受けた物が覚せい剤であることを証明する必要があるのですが、すでに現物がない場合など、鑑定をすることができずに立証が困難になります。そこで、この規定が登場するわけです。
事実としては覚せい剤を譲り受けたのですが、それが覚せい剤だと立証できないために、「覚せい剤様のものを覚せい剤として譲り受けた」と構成して、特例法第8条2項を使うことになります。

あれ、麻薬特例法では、罰則がずいぶん軽いなと気づかれた方もあるでしょう。たとえば、覚せい剤取締法が規定する譲り受けに対する罰則は、10年以下となっていますが、その背景には上記のような理由があるのです。

さて、この事件、いつ、どんな形で処理されることになるのでしょうか。適用される法律にも、ご注目ください。

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