京の秋。
千年の都を鮮やかな錦が覆います。
変わらぬ色変わらぬ心…。
町のお店にもそんな思いが受け継がれています。
そのなかのひとつ300年の歴史を持つ文具店鳩居堂。
都の生活を彩ってきたお香や工芸。
そのなかにいました。
今日の主人公遊び戯れる兎や蛙。
誰もが一度は目にしたことがあるはずです。
でも彼らは謎に包まれています。
最初に描かれたのは平安時代。
誰が何のために描いたのか。
実は去年終了した130年ぶりの大修復でその謎の一部が解明したのです。
今回の修理でホントにまさに発見だったと思いますね。
今夜は今まで語られてこなかった兎や蛙の世界をご覧に入れましょう。
京の都の西北清滝川の流れに沿ってのぼれば兎や蛙たちの故郷への入り口が現れます。
今日の作品は数百年もの間この寺に保管されてきました。
現在ここに置かれているのはレプリカ。
本物はそう全部で4巻あるのです。
それぞれ10mほどの絵巻物。
2週連続でお送りします。
前編は兎や蛙など11種類の動物たちが繰り広げる甲巻の世界をご案内いたしましょう。
冒頭は谷川の場面。
物語は右上の鼻をつまんでダイブしようとする兎から始まります。
待ってくれ〜っと犬かきする猿にここまでおいでとからかうように招く兎。
気持よさそうに身体を洗ってもらう猿もいれば鹿に乗った兎の後ろから水を浴びせるイタズラな猿も。
右から左へと絵巻を進めていくとやがて霞がかかり小さな樹木が現れます。
その霞が晴れてくると1匹の蛙が登場。
誰かに声をかけているようですが…。
声援を送っていた相手は弓矢の大会の出場者でした。
対するは兎チームと蛙チーム。
今しも矢を放とうとする真剣な表情の兎と次に控える蛙。
あとに続く者は熱心に弓矢のチェックです。
その先には何やら扇子で手招きしている兎がいます。
いったい何を招いているのか?気になる続きはまたのちほど。
『鳥獣人物戯画』は作者も目的もすべて謎に包まれています。
すべては見る者が推理するしかありません。
今回その推理に参加する男がやってきたのがこちら。
漫画喫茶ならぬはいいらっしゃいませ。
カフェラテ1つ。
はいカフェラテ。
あれ?お客さんひょっとして漫画家さん?まあ一応。
じゃあよかったらこの店絵巻見放題ですからゆっくり見ていってください。
絵巻?漫画はないの?あ〜ひょっとして絵巻初心者ですか?えっと初心者さんにはじゃあこれかな。
絵巻ってのはね漫画のルーツとも言われてるんですよ。
右から左へ展開していく物語はまさにコマ割りされた漫画そのものなんです。
見たことある!でしょ!は〜!確かに漫画っぽい絵だねこれね。
あ〜そんなふうに広げないで戻して戻して。
ダメですよ。
これね50センチずつくらい広げて巻きながらこう見ていく。
これ絵巻の基本。
ほ〜こうやって見るのね。
まあ確かにこうやって見たらネタバレしないもんね。
あれ?この兎は扇子で何を手招きしてるんだろうな?あっ宴会料理を誘導してるってわけか。
ヘヘヘ…。
そうやって先が気になるのはね兎のせいばかりじゃないんですよ。
実はこれかなり計算されて描かれているんです。
計算?こんなの俺でも描けそうだけど。
さて本当に誰でも描けるのでしょうか?『鳥獣人物戯画』の模写を授業で行っているというこちらの大学におじゃましてみました。
本日はオープンキャンパスで模擬授業中。
簡単に描かれているように見えて意外と難しいようです。
さまざまな墨線により動物たちは多彩な表情を見せ躍動感溢れる場面を生み出しているのです。
しかし全体を通して見ると気になる点があるといいます。
前半と後半では筆致が異なる。
いったいどういうことでしょうか?誰もが一度は目にしたことがある国宝『鳥獣人物戯画』。
その陰に隠された意外な真実とは?では『鳥獣人物戯画』甲巻続きを。
兎が扇子で先導していたのは弓矢の大会のあとの宴会料理でした。
その後ろにはまた手招きする兎が。
おいおい何してるんだ?笑いながら後ろを向く兎の先には今頃になって弓矢を担いで走ってくる兎。
どうやら遅刻したようです。
ここで甲巻のほぼ半分が終わり流れるように繋がってきた絵がぷつりと途切れます。
そして後半からは筆致が変わるというのですが…。
後半は猿の僧正の前に鹿や猪が連れてこられる場面から始まります。
おや?狐と兎が後ろを気にしているようですが…。
視線の先には逃げる猿と追いかける兎と蛙。
何か事件でも起こったのでしょうか?絵巻を辿っていくと仰向けにひっくり返った蛙が。
先ほどの猿は容疑者だったようです。
事件の野次馬の中には猫とその猫におびえて兎の陰に隠れる鼠。
こうした細やかな描写がところどころにちりばめられ見る者を絵巻の世界に釘づけにしてしまうのです。
騒ぎの横では蛙たちの田楽踊りが始まりました。
そしてその先に現れたのは再び兎対蛙の対決。
今度は相撲大会です。
いててて…耳を噛むのは反則と言った次の瞬間あいや〜と蛙が兎を投げ飛ばしました。
これが正真正銘かわずがけ。
みごとなポーズを決める蛙ですが実は前半に登場した蛙とは描き方が微妙に異なるのにお気づきでしょうか?比較してみると確かに前半の蛙はさらりとした筆線で描かれていますが後半はかすれや濃淡を駆使して描かれています。
なぜ1つの絵巻の中で前半と後半に描き方の違いが出てくるのか。
その謎を解いたのが上野さんは甲巻はもともと二巻に分かれていたといいます。
白い傷跡のある前半部分の巻物は火災か何かで一部破損したため開くと一定の間隔で新たな紙で補修された破損個所が現れるのです。
前半と後半で筆致が異なるのは別々の絵巻だったから。
それをのちの世で誰かがまとめたため境目で絵が途切れたのです。
更に後半にはもうひとつの切れ目が。
相撲を楽しむ兎と蛙の奥で双六を抱えた猿。
どこへ運んでいくのかと思いきや…。
そうここでまたぷつりと絵が途切れるのです。
甲巻がバラバラになったということはバラバラになる前に写した模本や絵巻から抜け出てしまった断簡によってわかってきました。
そこには現在の甲巻には存在しない場面が描かれていたのです。
たとえば双六を運ぶ猿たちの先にはゲームを楽しむ猿と兎の姿が描かれていました。
結構抜けてる場面があるんですよね。
よく継ぎ接ぎで一巻にまとめたもんですよ。
それでもおもしろい物語と思わせるとこがすごいですよね。
そのとおりなんです。
この絵巻には人を夢中にさせるいろんな演出がなされているんです。
ですから物語のこの一部が抜けてようが見る人をひきつけるんですね。
えっ?ちょっと待って。
あっ!これ漫画と同じだ!ようやく1つ気づいてくれましたね。
この絵巻には他にも漫画に使われている手法がもう盛りだくさんなんです。
ちょっと待って探してみる。
手塚治虫が『鳥獣人物戯画』を見たときの言葉です。
『鳥獣人物戯画』のどこが先駆的だったのか。
漫画家のちばてつやさんは…。
更にちばさんが注目したのが動物の口から出る線。
現代漫画の発明と思われていた技が900年も前に存在していたのです。
すべては物語をドラマチックに見せるための仕掛け。
いかに見る者を楽しませるか考え抜いた表現でした。
いやぁ平安時代にこんな現代的な絵があったなんて信じられませんよね。
ってあれ?何なさってるんですか?いやこのキャラ設定で新しい漫画を。
え〜っいいのかな?そんなパクっちゃったりして。
いいのいいの!まずは溺れる猿を見捨てる兎は意地悪キャラで…。
ん?でもその猿は蛙を倒してる。
蛙は兎を相撲で投げ飛ばしてる。
あれ?ちょっと待ってください。
いいですか?この世界はこんな単純に分けられないんです。
実はジャンケンのようにうまく均衡が保たれてるんです。
え〜っ?強い者と弱い者で分けたほうがわかりやすい気がするけどな。
均衡が保たれた三者の力関係。
これはいったい何を意味するのでしょうか?そして甲巻の結末。
現在のものでは法会の様子に続き法会を終えた猿の僧正に献上品が贈られる場面で終わっているのですが実はその続きがあったというのです。
果たしてその結末とは?物語はいよいよ佳境を迎えます。
『鳥獣人物戯画』が描かれた平安時代は貴族の台頭により階級社会が確立した時代でした。
この絵巻はそんな階級社会を風刺したものという説もあります。
しかし本当にそうなのでしょうか?甲巻の主要キャラクターは兎と蛙と猿。
あるときは兎は溺れる猿をからかいあるときは猿が蛙を打ち倒しそしてあるときは蛙が兎を投げ飛ばします。
京都国立博物館の若杉さんはこの関係について…。
それは現実の階級社会とは真逆のまるでユートピアのような世界でした。
そんな夢物語は僧正にお礼の品が贈られる場面で終わっています。
ところが物語の本来の結末は違っていたのです。
模本によると絵巻はある動物の登場で終焉を迎えていました。
それは蛙の天敵蛇。
人間のように振る舞っていた蛙たちはたちまち本来の姿に戻り葉陰に逃げ込みます。
作者はユートピアを一瞬で打ち消すような恐ろしい結末でこの物語を終えていたのです。
こんなに平等で平和な世界など実際にはありはしない。
所詮は夢物語だといわんばかりに。
動物たちは元の姿に戻り夢からさめたってことか。
時代は平安から鎌倉へと移り変わろうとしていた。
そんななかこんな楽しい世の中になればなぁっていう思いもあったのかもしれませんね。
でもさこれだけ楽しませようといろいろ計算されてるんだからきっと誰かのために描いたんだよね?いったい誰に見せるために描いたんだろうな?それも謎の一つ。
でも続きの巻を見てみれば道がひらけるかもしれませんよ。
えっ続きあるの!?うん。
見せて…いやあの見せてください!すみませんありがとうございます。
甲巻に続く乙丙丁巻。
そこにも甲巻にたがわぬ驚きの世界が広がっていました。
そして130年ぶりに行われた大修復により明らかになった新事実。
それは次回のお楽しみ。
『鳥獣人物戯画』。
900年の時を生き残った動物たちのワンダーランド。
見事なまでに鍛え上げられた肉体。
端整なマスク。
2014/10/25(土) 22:00〜22:30
テレビ大阪1
美の巨人たち 国宝『鳥獣人物戯画』[字]
毎回一つの作品にスポットを当て、そこに秘められたドラマや謎を探る美術エンターテインメント番組。今日の作品は、多くの謎を残す不思議な絵巻、国宝『鳥獣人物戯画』。
詳細情報
番組内容
多くの謎に包まれていた平安時代の絵巻、国宝『鳥獣人物戯画』。近年約130年ぶりに修復され新事実が発覚しました。今回は全4巻からなるこの絵巻の真実を2週にわたってひも解きます。1週目の今日は動物たちが繰り広げる甲巻の世界をご案内。話は谷川にダイブする兎から始まり、やがて弓矢の大会に出場する蛙と兎の戦いへ。ところが前半と後半でなぜか絵が途切れ、筆致も変わっているのです。そこに隠された知られざる秘密とは?
ナレーター
小林薫
音楽
<オープニング・テーマ曲>
「The Beauty of The Earth」
作曲:陳光榮(チャン・クォン・ウィン)
唄:ジョエル・タン
<エンディング・テーマ曲>
「India Goose」
中島みゆき
ホームページ
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/
ジャンル :
趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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