スペシャルドラマ「妻たちの新幹線」 2014.10.25

(秀雄)新幹線…ですか?
(十河)そうだ。
戦前から君や君のおやじさんの島安次郎氏が立てていたあの壮大な計画だよ。
日本の大動脈に新しい幹線を敷き東京下関間を9時間!更にフザンまで海底トンネルを敷き終点の北京まで49時間10分で走らせようというあの弾丸列車計画だ。
ハッハッハッ。
痛い!締めすぎだ。
トラス棒じゃねえんだぞ!
(美山)すいません。
あの…。
いいか。
ああ…!その新幹線をつくってほしい。
君が国鉄に何の未練もないという事はよ〜く分かっとる。
だがな俺は国鉄のためじゃない日本の未来のため果ては世界人類の知見のために頼んどるんだ!この国鉄を利用して歴史に残る最高傑作をつくってもらいたい。
おい!日本の未来だぞ!新幹線は亡くなった君のおやじさんにとっても夢だったんじゃないのか!うん?うん?お座りになられた方が。
うるさい黙ってろ!分かりました。
十河さんにそこまで言って頂けるなら…。
よし!しかし…正式にお受けする前にまず家内に相談をさせて下さい。
今なんと言ったかな?家内に相談をと。
(豊子)
その言葉に十河さんは絶句したそうです。
そりゃそうですよね。
男が我が身の処し方をいちいち女房に相談するだなんて。
これが私の夫島秀雄です
えっ?
(笑い声)トヨ笑い事じゃないだろう。
だってそんな事わざわざ私に相談するなんて。
国鉄に戻れば給料は半分になる。
多忙にもなる。
せっかく建てたこの家で過ごす時間も減ってしまう。
そうですけど…でもあなたもう心の中では国鉄に戻る覚悟ができてらっしゃるんでしょう?なぜそう思う?分かりますよ。
だって私汽車屋の女房ですもの。
そうですか。
よかったじゃないですか。
それなのに迷ったふりなんかして。
ねえお父様。

夫は国鉄でD51などの蒸気機関車や湘南電車などを手がけた技術者でした。
車両局長であった時代に大きな車両火災事故がありその責任のなすりつけ合いをしている国鉄の体質に嫌気がさし退職。
それ以降は鉄道車両関係の民間会社で役員をしておりました
久美子。
(久美子)うん?あっ。
(隆)お父さんが国鉄に戻る?うん。
やった〜!また汽車屋にお戻りになるのね。
(直)へぇ〜この間タックが国鉄入ったと思ったらお父さんもなんてほんとにうちの家族は汽車が好きだなぁ。
そうよ。
隆もお父さんも安次郎おじい様だって汽車屋だったんですもの。
我が家は汽車屋の家族なのよ。
ほんとお父さんとタックが一緒に働くなんてすてき。
うんごはんだ。
頂きます。
(4人)頂きます。
それでいつお戻りになるの?何をなさるの?また電車をおつくりになるの?そんな次から次に…。
直。
口の中に入ってる時はしゃべらないの。
(直)はい。
(久美子)や〜い怒られた〜。
(直)うるさい。
今日のオムレツはどうですか?おいしい。
いつもどおりだ。
(久美子)ほんとふわふわ。
よかった。

夫が技術の最高責任者技師長として国鉄に戻ったのは第2次世界大戦終了から10年。
ようやく日本の経済が上向きになったころでした
(十河)いまや人も荷物も大量輸送が急務である。
日本の大動脈である東海道線を増強するならば私は広軌であると考える。
(十河)広軌新幹線が国鉄の使命を十分に果たしえるかここで積極的な議論を期待したい。
以上。
いきなり「広軌だ」では話が通りません。
あまりにも強引です。
新幹線の事は私にお任せ頂けるのではなかったのですか?分かったよ。
国鉄内は君に任せた。
金と政治は俺が全部やる。
我が日本の鉄道だけがいつまでも狭軌のまんまってのは恥ずかしいじゃないか。
なあ水澤くん。
あ〜水澤先生。
(水澤)そうはおっしゃいますがねそもそもそんな事のためにばく大な金を使う意義が見いだせませんからね。
これは一応お預かりしておきますから。
(山本)政治家なんてのは所詮票に結び付くかどうかなんだからさ。
高速鉄道なんかより自分の町に鉄道を引っ張ってくれるかどうかの方が大事なのさ。
なんてこった…。
(山本)そういう人種だよ僕も含めてね。

(中村)今更広軌の新線を引き直すなんて…。
いくら島さんが日本式蒸気機関車の立て役者だからってねこの計画は無謀すぎ…。
十河さんにしたって所詮は鉄道博物館から引っ張り出された古機関車だ。
じいさんの夢物語だよ。
・こんばんは。
(キク)は…はい!まあ島さん。
すいません遅くに。
明日の増強調査会の資料を…。
(十河)はっ?ふざけるな!こうやって乗客からの苦情が来てるというのになぜできん!?縁日の商人みたいな事言うんじゃない!もう…大きな声で。
島さんにもいつもお手間とらせているんでしょ?すみません。
いえこちらこそ。
(十河)キク!茶がないぞ!はい!ただいま!どうぞどうぞ。
はい。
(久美子)お父さん今日も遅いのね。
お仕事だもの。
お父さんは今コウキ…。
コウキ?コウキ…コウキ何とかっていう新しい高速鉄道をつくろうとなさってるのよ。
昔はいつもこうだったよ。
仕事が終わったあとも家で職場の人に食事振る舞ったりさ。
タックの小さいころはそうだったの?そういえばそうねぇ。
みんなでよく食べたっけ。
でもアメリカではもうこれからは高速道路の時代で鉄道の時代は終わりって言われてるんでしょ。
直。
何言ってるんだよ。
鉄道こそ日本国民の希望だよ。
かっこいいタック。
さすが島家の3代目ね。
3代目なんて関係ないよ。
僕は僕の意思で国鉄に入ったんだよ。
隆お代わり?うん。
隆はその後研修のため家を出ました。
そして大阪などの国鉄の寮で暮らす事になったのです
おうお前が島か。
よろしくお願い致します!おやじさんが技師長やいうて特別扱いはせえへんからな。
鉄研50周年の講演会をする?
(篠原)ええ。
私はねこの鉄道技術研究所で調査してる事が国鉄でちっとも生かされない事にね所長として忸怩たる思いがありまして。
これを読んで下さい。
「東京大阪間3時間への可能性」。
(松平)あっ島さんだ!
(三木)島さんお久しぶりです!うれしいなぁ島さんが国鉄に戻ってくるなんて。
松平くん。
三木くん。
講演会には彼らに参加してもらうつもりなんですよ。
だいぶ進んだようだね空気バネ。
島さん初めて会った日の事覚えていますか?島さんは会うなり僕にこう言ったんです。
日本に電車形式の高速長距離鉄道を走らせたい。
しかし今の電車は振動もひどいし音もうるさい。
松平くん。
是非あなたの航空技術の知識を生かして下さい。
そこで僕は島さんのために必ずやり遂げる。
そう決めたんです。
僕ももう二度と兵器は造りたくなかった。
鉄道は僕たちに新しい夢をくれたんです。
(三木)それから…奥様はお元気ですか?豊子ですか?
(三木)あのころの島さんの奥さんの料理の味が忘れられないんですよ。
(松平)食料の乏しい時期に奥さんの料理がどれだけ僕らの胃袋を救ってくれた事か。
奥さんすいません。
ありがとうございます。
いや〜スイカなんて久しぶりだな。
そうか…トヨの料理が。
だからこその講演会なんです。
えっ?今ある技術を結集すれば超特急は理論的にはもう夢ではありません。
その事を世間に知らせられれば少しは島さんのために役に立てるかもしれないと思って。
これが僕たちにできる精いっぱいの事なんです。
ありがとう。
あら!うん?カキツバタ。
おいおいおい大丈夫か?大丈夫。
すいません。
すいません。
(十河)よし!万が一これが世間様に評判がよかったら国鉄の幹部連中にもこれを聞かせてやるよう段取りしよう。
なるほど。
すまんな茶も出せなくて。
いえいえ。
あの…奥様倒れられたと伺いましたが。
うん。
今度発作を起こしたら命の保証はないと言われたよ。
(十河)俺は君と違ってねキクには苦労ばっかりかけたんだ。
ほんとに苦労ばっかり…。
早く死んだら俺のせいだ。
しかし俺は線路を枕に討ち死にする覚悟で総裁の仕事を引き受けたんだ。
天下国家のため国鉄のためやるしかないんだよ!
(キク)島さん。
どうなさったんですか?大丈夫ですか?夫の事…十河の事どうかどうかよろしくお願い致します。
口は乱暴ですがそれもこれも国鉄の事を愛するがゆえなんです。
どうか…。
島さん。
どうか夫の事…十河の事どうぞ…どうぞよろしく…。
分かっています。
分かっていますよ。
大丈夫です。
ありがとう。
ありがとうございます。
そして松平さんたちの企画した講演会の日がやってきました

(松平)こちらをご覧下さい。
ゴムベローズ式油圧式などあります。
要するに非常に柔らかいバネが出来ます。
調整弁で車体の高さを制御できるなど…。
時速200キロで走行しても例えばビールがおいしく飲めます。
トヨ!あっ…お父さん!トヨ!トヨ!驚くなよトヨ!驚くわよ。
どうしたの?びしょぬれじゃない。
満席だった!えっ?予想外だ。
実にうれしい誤算だ。
つまり僕が思う以上に国民は敗戦国の日本が世界一の超特急を走らせるという大きな夢を待ち望んでいたんだよ。
はい!
(笑い声)あ〜なんという事だ!ほんとに驚いた!満席!満席だった!
この講演は大きな反響を呼び世論は一斉に新幹線待望論を唱え始める事となりました

2年間の研修を終えた隆は広島の工場で蒸気機関車の整備を担当しておりました
やはりいいですね〜現場は。
そうですか。
小田急のスーパーエキスプレスに乗ってみたが実にすばらしい乗り心地だった。
軽量低重心流線形。
あの技術はそのまま新幹線に応用できる。
そうですか。
どうだ?広島の工場は。
頑張ってますよ。
毎日おじいさんやお父さんが設計した蒸気機関車の整備を。
そうか。
整備は実に重要だ。
でもお父さんが今開発してるような高速電車が出来れば蒸気機関車はますます滅びるばかりです。
天下国家のため国鉄のためやるしかないんだよ!古いものは滅びてゆくのではない。
時が来れば一線を去り自分の役割を果たして堂々と退いていくんだ。
(寮母)もう遅いからあまり長話しないでね。
はい。
もしもし。
お父さんと無事に会えた?お父さんはいつも正しいよ。
どうかした?お父さんは僕の事ダメな息子だと思ってるんだろうなぁって。
そもそもさ僕みたいな一職員にとって技師長は雲の上の人だしね。
ねえ隆。
覚えてる?うん?お父さんが海外の研修旅行から帰ってきた時の事。
これは?それはねイタリアのETR200だね。
電車列車方式だ。
あ〜やはりいいねぇ。
ムカデと同じだ。
えっムカデ?そう。
どこでちぎっても別々に動ける。
急な所でも登れる。
正直私は「また変な事言ってるわ」ぐらいにしか思わなかったの。
それなのにまだ小さいあなたはとっても熱心に話を聞いていて。
でもねお母さんあの時思ったの。
隆もいつか立派な汽車屋になるんじゃないかって。
お父さんもきっとそう思ってたわ。
島く〜ん。
島くんいないか?ここです。
君な4月1日付けで本社に異動だ。
はい?君は臨時車両設計事務所へ配属される事になった。
新しく出来る新幹線開発チームの1期生だとよ。
おはようございます!
(石澤)おう隆くん。
来たのか。
石澤さん!
石澤さんは夫が昔から面倒を見ていた優秀な若手技術者の1人。
この臨時車両設計事務所の主任技師です
正月に君んちで会って以来か。
はい。
あっ…もしかして石澤さんが僕をここに呼んでくれたんですか?それとも…。
僕が呼ぼうが君のおやじさんが呼ぼうがそれが君がこれからしようとしてる事に何か関係あるか?いえ。
よし!新人の仕事はまずは雑務だ。
電話がかかってきたらすぐに出ろ。
それからそこの資料を全部まとめてその後俺に濃いめのうまい茶をいれるんだ。
この資料全部ですか?おう。
・電話!・はいもしもし。
もしもしって家じゃねえんだから。
「はいこちら臨時車両設計事務所です」だ。
こちら臨時車両設計事務所です。
(読経)ご苦労も多かったでしょうね。
十河さんは先に寝てはいけない食べてはいけない。
どんなに遅く帰っても玄関まで出迎えないと怒って土足で家に入ってきたそうよ。
すばらしい奥様だわ。
私には無理よ。
トヨ。
はい。
この1か月十河さんは毎晩奥さんの手とご自分の手を赤いひもで結んで眠っていたそうだ。
いつでも奥さんの発作に気付くように。
人の幸せなど他人に推測できるものではない。
そうね。
本当にそうですね。

その年の11月「ビジネス特急こだま」が華々しくデビューしました。
東京大阪間をおよそ7時間で結び日帰り往復を可能にしたこの「こだま」は新幹線につながる高速電車でした
はいお土産。
ありがとう。
ねえどうだったの?特急こだまは。
1日で往復しちゃうなんて疲れたでしょ。
いやそれがこだまの車内はなかなか静かでね大して疲れてないんだ。
最高速度が95キロって…。
静かとはすごいな。
まあ!何?何?梅田の百貨店のレバーペーストよ!やった!明日の朝のパンに塗ろうっと。
ビジネス特急さまさまね。
ほんとね。
大阪でないと食べられないんだからこれは。
おいしそうね〜!今度はこれだって。
また新しい台車?中空軸モーター搭載こだまでも評判よかったみたいだ。
(石澤)1列5席だな。
(星)せっかく広軌にして車体幅も広がったんですからどうでしょうかね?おっ島くん頑張ってるね。
星さん。
いやいや「何で俺は資料集めばっかりなんだ」って思ってんのが顔に出ちゃってるぞ。
そんな事…。
(石澤)「あります」だな。
でもこだまが成功したという事は次はいよいよ新幹線ですよね。
なのに僕は…。
まあ高度経済成長とか何とか言ってるけど何でもどんどん先に進めばいいってもんじゃないさ。
はぁ…。
一番大事なのは安全だよ。
そう!安全第一。
安全…ですか。
…っていうのは全部君のお父上の受け売りなんだけどね。
(石澤)すみません毎年お邪魔してしまいまして。
いいえ大歓迎ですよ。
こうして年に一度でもゆっくり会えるとその度に何らかのヒントをもらえるのでありがたいんですよ。
石澤さんまだ結婚なさらないの?えっ?こいつ今すっかり美智子さんに憧れててさ。
4月のご成婚が待ちきれないって。
それでその髪形か。
似合ってるよ。
直くんは受験生だっけ?君もお父さんやお兄さんのように同じ道を進むのかい?ううん。
他にも興味のある事いっぱいあるから。
私が男だったら絶対におじいちゃんやお父さんと同じ道を進むのになぁ。
いや好きに生きた方がいいよ。
別に僕だってこの道に進む必要はなかったんだ。
もう…毎日雑用ばっかりだからってすねちゃって。
バカ!そんな事言ってないだろ。
すいません。
ちょっと手洗いに。
僕も最初は資料集めばっかりだった。
しかも上司である君たちのお父さんがこのとおりのきちょうめんだから何度笑顔でやり直しを命じられた事か。
目に浮かぶなその笑顔。
それはご苦労でしたねぇ。
(久美子)お父さんってほんと細かいものね。
隆くんは真面目で優秀で一本気です。
島さん。
僕は隆くんを台車開発の片腕にしたいと思っています。
台車の?台車ってあの上に物を乗っけてコロコロする…?まあそうだね。
う〜ん…ちょっと違うかな。
まあおおむねそうだ。
はい。
台車ってのは新幹線を支えていく肝なんだ。
(久美子)まあ!タックが新幹線を支えるの?僕は新しい台車を君たちのお兄さんと造りたいと思ってる。
よろしくお願いします。
僕が新幹線の台車を?
この年の4月ようやく運輸省の認可が下り静岡県熱海市の新丹那トンネル東口で東海道新幹線の起工式が挙行されました
本日広軌新幹線建設の第一歩を踏み出しました。
全世界がいまだなしえなかった最高の鉄道としてお目見えする事を念願しております。
(大石)大盛況でしたね。
あんなにマスコミが集まるとは。
(十河)弾丸列車計画の時にあの大きくて立派な新丹那トンネルを造っといてくれてよかった。
しかし総裁。
先月国会で通った予算1,972億は我々が見積もった所要資金の半分しかありません。
分かっとる。
(大石)島さんわざわざ今そんな話を…。
それでは国会を…いや国民を欺いた見切り発車になりやしませんでしょうか。
うるさい!額面はどうであろうと予算は通過したんだ。
あとは俺がどうにかすると言っとるだろうが!総裁!血圧が…。
今新幹線プロジェクトがどうにか前進できているのは言うまでもなく十河さんがこの席にいらっしゃるからです。
つまりもし次の総裁に十河さんが再任されなかった場合その時点で新幹線は全て水の泡になります。
無論私も国鉄を去ります。
私は十河さんに呼ばれて国鉄に戻ったのですから。
ダメですね。
やはり揺れ幅が大きい。
島くんこれ本当に全部やるの?ええ。
輪軸軸箱支持装置揺枕吊り軸バネ枕バネダンパー。
全部組み合わせたら5万とおりはあるよ。
当然です。
最善の台車を造るためにはあらゆる条件を考慮して最善のパターンを選び取らなくては。
親子だねぇ。
でもこれじゃいくらやっても時間が足りないよ。
(石澤)お〜い。
東京オリンピックの招致が決定したぞ!えっ?1964年の10月だ。
それまでに必ず新幹線を完成させろという話になるだろう。
あと5年ちょっとだ。
ねえお父さん。
私ちょっと分からないのだけれど。
うん?なんだい?石澤さんやタックは台車を造ってるんでしょ?星さんは車体で…。
お父さんは一体何をつくっているの?それはいい質問だ。
実は何もつくってない。
えっ?何も?そうだ。
新幹線のようなビッグプロジェクトでは膨大な情報や技術を有効に組み上げ活用し目的を達成する。
つまりシステム工学的な発想が必要なんだ。
だが本音を言えばやはり現場でつくってる方が好きなんだ。
全体を見なくてはいけないというのは本当に難しい。
(久美子)つまり…お母さんみたいな事か。
えっ?だってお母さんは八百屋さんやお肉屋さんで食べ物を仕入れてお料理のいろんな技術を使って時には季節感とかみんなの好き嫌いなんかの情報も取り入れてで私に手伝わせて毎日おいしいごはんをきちんとテーブルに並べているでしょ。
家事だけじゃなくご近所さんとかのおつきあいだって全部総合的にこなしてるのよ。
私には絶対無理。
何言ってんの。
そんなんじゃお嫁に行けないわよ。
心配しなくても行きますよ〜だ。
まあ…。
お父さんのお仕事とごはんを一緒にするなんて。
いや久美子はほんとに頭がいい。
そのとおりだ。
僕は近くに立派な師匠がいた事に気付かなかった。
嫌だわからかって。
なあトヨ。
はい。
どんな事でもいいからひとつアドバイスをくれないか。
君なりのシステム工学で。
私はただみんながちゃんと食べてそれぞれがちゃんとしていてくれれば幸せなんですよ。
だから…そうねぇ。
ひとつだけお願いするとしたらたまには隆にも何か声をかけてあげて下さい。
隆に?ええ。
あの子何も言わないけれどこの家に生まれて2代続いている汽車屋の家族を見て自分なりに考えてお父さんと同じ道を選んだんですよ。
大体あなたは息子には少し厳しすぎるし久美子に甘すぎます。
まいったな…。
すばらしい。
君の総合的視点には全く頭が下がる。
何言ってるんだか。
不可能なはずはない。
何しろおじいちゃんは50年以上も前にドイツで電車が210キロで走ってるのを見てきたんだ。
今の技術でできないはずがないじゃないか。
おじいさんがですか?そうだ。
うん…。
まあそういう事だよ。
はい。
今のはもしかして僕を励まそうとしていたのかな?きっとそうね。
十河さんは新幹線の資金不足に対してのひとつの妙案を編み出しました。
それは世界銀行からの借款です
十河さんの熱意と夫の説得により借款契約は無事締結する事となり…
新幹線建設は世界に向けて高らかに宣言される事となったのです
ウィーウィルビルドザトウカイドウシンカンセン。
(拍手)
(十河)これで俺がどうなろうと東海道新幹線は完成するだろう。
皆さん新幹線の顔はこれに決まりました!
(十河)あとは島くんに任せておけば3年以内には世界に冠たる超特急が走る。
何だ?失礼しました。
いや〜お待たせました。
加藤さん本日はどうも。
いいえ。
まあお掛けになって下さい。
隆。
あっ…すいません。
こうして若いお二人をお引き合わせするのにはふさわしい日なんじゃございませんか?本当に大丈夫なのか?女の子がアメリカへ留学なんて…。
もう…まだそんな事言ってるの?お父さん。
そうよ。
いやしかし…。
では行って参ります!
隆の結婚が決まり直は東大に入学。
久美子は高校でニューヨークの短期留学生に選ばれ我が島家にも明るい風が吹いておりました
まあ…。
キクさん無事に進んでいますよ。
どうか見守っていて下さいね。
しかし…
東京都荒川区の常磐線三河島駅構内で列車の多重衝突事故が起こりました
160人の方が亡くなり325人の方がけがをされるという大惨事でした
(遺族1)それで死人が戻るか!
(遺族2)そうだ!
(遺族たちのどなり声)
(遺族3)それでも死者は戻ってこないだろ!
十河さんはひとつき近くかけて犠牲者の家を一軒一軒訪ねて回ったといいます
新幹線なんてのんきにやってるから在来線で事故を起こすんじゃないですか?これまでの総裁のように全責任を負ってお辞めになるんですか?質問は順番にお願いします。
これだけの大事故なんですよ!ご自身で答えて下さいよ!
(技術者)十河さんやっぱり辞める事になるのかな?…って事は新幹線はなくなるって事か?
(技術者)ここまでやったのに…。
そういう事だな島くん。
どんな状況になろうと俺たちはやるべき事をやるだけだ。
夜食の準備してくれ。
はい。
俺はもう国会に進退を預けようと思っとるんだ。
君はどうするんだ?君も辞めるのか?辞めないと答えたよ。
えっ?父の時代には成し遂げられなかった。
でも今の時代なら必ずできるはずなんだ。
僕にはまだやらなくてはならない事がある。
そうですか。
よかった!だって私も乗ってみたかったんですもの。
あなたや隆がつくった新幹線っていう乗り物に。
ああよかった!鴨宮モデル線区で新幹線の試験走行を始めます。
しかし鴨宮線区は用地買収が遅れた関係でまだ全30キロのうちの4〜5キロしか出来てない。
ええそれでかまいません。
来月から走らせますので各部それに間に合わせるよう準備をして下さい。
そりゃむちゃだ。
あまりにも無謀じゃないか。

夫の鶴の一声で鴨宮モデル線区は全ての完成を待たず約10キロの区間で走行試験が開始される事となりそれぞれの現場での作業は一刻を争うものとなりました
(石澤)装置のここに補強を入れたらどうだ?なるほど。
これで図面上げてくれ。
はい。
石澤さん。
えっ?やはり第1回の試運転は70キロに抑えないと。
う〜ん…。
そんなある日の事です
多代さん。
これにしたら?
(多代)そうね。
やだタックったらあくびなんて。
隆。
いいのよ。
隆さんずっと徹夜でお疲れなの。
いや…ごめん。
ねぇ〜。
ただいま。
お帰りなさい。
お邪魔しております。
ああ多代さんいらっしゃい。
まあまあ掛けて。
お食事は?まだだ。
あとでいい。
はい。
お父さん。
現場はみんな疲れきってますよ。
あんなむちゃなやり方はお父さんらしくありません。
お父さんはもっと合理主義だったはずじゃないですか。
このままでは新幹線より先に人が故障しますよ。
そうだったか。
それは気付かず申し訳なかった。
ただ…合理だけでは成し遂げられないものがある。
私は君たち現場の技術力を信じている。
きっとできると信じているんだ。
分かりました。
ありがとう。
お前が現場にいてくれて…よかった。

(多代)すてきですね。
隆さんとお父様同じ夢を追ってらっしゃるなんて。
いやあんな父を見たのは初めてだよ。
えっ?今まで家では仕事の話なんかめったにしなかったんだ。
父は本当にクールというか感情を表に出さない人でさ。
そんな父が「信じる」なんて言葉を使うなんて。
新幹線が父を変えたのかな?どうぞ。
あいつ…。
隆は…なかなかいい男になってきたね。
そうですね。

(運転手)総裁。
お時間です。
うん。
そしてその年の6月公式に新幹線の試運転が開始されました
(警笛)
実際に走る新幹線を目の当たりにすると世間では再び新幹線待望論が高まりました。
また三河島事故の遺族団から「事故処理は十河さんにやってほしい」という要望書が出され池田勇人首相は「十河総裁辞任に及ばず」という結論を出しました
(美山)総裁よろしいでしょうか?どうぞ。
(美山)はい撮ります!
それから3か月たつと今度は時速200キロを目標に連日速度向上テストが行われました
(大塚)こりゃ運転屋冥利に尽きるぜ。
大塚。
お前の腕に懸かってるんだ。
速度域の挙動。
高速運転での線路のゆがみの範囲。
時速200キロで置き石をはねたらどうなるか。
何だよ?心配性だね設計屋さんは。
同期を信じろ。
いい調子だ。
そのまま。
(大塚)「53キロ地点通過。
速度198」。
松平さん。
ここまでは蛇行動の兆候はないようです。
付加価値ですか?はい。
一等客車ならではの…例えば音楽が聴けるとか。
そんな飛行機じゃあるま…。
検討します。
まあ…!トヨ。
イエス。
サンキュー。
サンキュー。

速度向上テストは最終段階を迎えこの日の目標は時速250キロでした
(大塚)「速度245。
55キロ地点通過。
速度248」。
(大塚)「54キロ1/2通過。
250!」。
よし!目標時速達成だ。
よし!いけ!えっ?いけ!はい!まだ加速します。
えっ?
(大塚)「53キロ通過。
速度254」。
大塚のヤツどこまで飛ばす気だ?
(大塚)「255」。
(大塚)256!速度256!大塚くんここまで。
了解!間もなくブレーキをとります。
いや〜限界まで粘ったねぇ大塚くん。
全くですな。
まあ合格かな。
256キロ。
これで世界最高速達成です。
(新幹線の警笛)これが我々の今考えている台車の最終形です。
これでしたら先ほどのような高速走行をもっとしっかり支えられるはず…。
なるほど。
すばらしい!はい。
一番重視したのは高い安全性です。
この「IS式台車」っていうのは?はい。
石澤の「I」と島隆くんの「S」を取ってこの台車は「IS式台車」と名付けようと思っています。
えっ?そうかいい名前だ。
これからはこのIS式台車が我らが新幹線を支えてくれる事になる。
これで大丈夫だ。
完成まであと少しだという時に…!
(十河)心配するな。
この老いぼれの首で不足額は補填される。
十河さんは新幹線建設の予算超過の全責任を取り国鉄を去りました
久美子これお願い。
はい。
ただいま。
(2人)お帰りなさい。
辞めてきたよ。
明日から国鉄には行かない。
大丈夫だよ。
新幹線はほぼ99%完成したんだ。
技術的にはもう何も心配ない。
そうですか。
長い間お疲れさまでした。
さあお夕飯にしましょう。
そうしよう。

東京駅19番線のホームで東海道新幹線の出発式典が行われました
しかしその式典には十河さんも島秀雄も招待されませんでした

(美山)おはようございます。
失礼致します。
君仕事はどうしたんだ?総裁の…いや十河さんの様子がどうしても気になりましたもので。
ふん…。
無事に走ってさえくれれば血圧計は要らん。
あっ…失礼致しました。
(新幹線の警笛)時間どおりに通りましたね。
当たり前だ。
そういうようにつくったんだ。
はい。
子供たちが巣立っていくのはうれしいけれど少し寂しいものですねぇ。
あの時も…そうだったんじゃないですか?あの時…新幹線も。
いや…新幹線は私が生んだ訳じゃない。
現場の創意工夫によって完成したんだ。
人類全体の知見に貢献できた。
もう十分満足だよ。
はい。
おじいちゃん!おばあちゃん!こんにちは。
いらっしゃい。
こんにちは。
相変わらず仲がいいね。
よく来てくれたわね。
お夕飯の支度できてるわよ。
おばあちゃんのお料理大好き!ありがとう。
さあさあさあ。
よいしょ!はい。
さあ行きましょう。
お母さん!お母さん!お父さん!何してたの?ほら早く!
(久美子)これは…?うん?トヨが今夜のごはんのために作っておいた料理だ。
みんなで…母さんのごはん食べよう。

まあ…なんという幸せでしょう。
人生の最後の最後の日まで家族のためにごはんを作って食べさせる事ができたなんて

もし天国で十河さんの奥様に会えたならきっと2人でお話しますよ
「私たち汽車屋の女房で幸せでしたね」って
2014/10/25(土) 19:30〜20:45
NHK総合1・神戸
スペシャルドラマ「妻たちの新幹線」[解][字]

新幹線を作った男と呼ばれる技術者、島秀雄と第4代国鉄総裁、十河信二。この二人の男には陰で支えた妻たちがいた。東海道新幹線開業50周年に送る、家族の絆の物語。

詳細情報
番組内容
東海道新幹線開業50周年に送る、「超特急」という夢を支えた絆の物語。新幹線を作った男と呼ばれる技術者、島秀雄。そして剛腕の情熱家、第4代国鉄総裁の十河信二。この二人なくして東海道新幹線は実現できなかった。しかし、この二人には陰で支えた妻たちがいた。高度経済成長を支えた鉄道マンの生きざまを熱く描きながら、島の妻・豊子を語り部に、昭和を走り抜けた技術者の魂とそれを支えた夫婦・家族を描く涙と感動の物語。
出演者
【出演】中村雅俊,南果歩,溝端淳平,真野恵里菜,伊東四朗,加賀まりこ,田辺誠一,中原丈雄
原作・脚本
【原案】

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