木曜時代劇 ぼんくら(2)「烏(からす)を連れた差配人」 2014.10.23

本所深川見廻り方同心井筒平四郎は深川北町にある鉄瓶長屋の煮売り屋お徳の店に立ち寄るのが日課であった。
ところがその長屋で不幸な殺人が起こり差配の久兵衛が長屋から忽然と姿を消してしまう。
平四郎は久兵衛が事件の裏に隠されたやむにやまれぬ事情のために姿をくらましたと知り事の真実を伏せたままにする道を選んだのであった
(烏の鳴き声)
(平四郎)ああ〜!
(鳴き声)おい飯は?
(弓之助)食べてまいりました。
私の事はお気遣いなさらないで下さい。
6尺と1寸?どうした?ここにある椿の木です。
6尺かと思ったのですが外れてしまいました。
へえ〜。
(志乃)「へえ」ではございません。
あのような事をして一体何が楽しいのか私には分かりません。
俺にも分からねえ。
けど…面白えや。
あなた。
何?弓之助をここに通わせているのはあのようなきれいな顔形の子は町場に置いておくと末はろくな事にはならないと思うからこそ私どもできちんと躾をするためだと申し上げたはずでございます。
あのままではあちこち測ってばかりいる変な子になってしまいます。
よし。
寒い寒い寒い寒い…。
弓之助がいつか私たちの子になった時このままでは困ります。
いや俺にどうしろっていうんだ。
「論語」でも読んでやったらいかがですか?「論語」?はい。
私が教えている手習いの子たちも字を1つ覚える度に目を輝かせるのです。
弓之助ももう12。
そうです「論語」を読んでおやんなさいまし。
何でしょう?「論語」よりヤットーでも覚えた方がよくはねえか?ゆくゆくは町方役人になるんなら「論語」よりヤットーじゃねえかな?そうでしょうか?弓之助。
はい?敷居を踏んではいけません。
(弓之助)あっ!敷居を踏むとその家の当主に災いがかかるといういわれがあるのです。
叔父上に何かあったらどうするのですか?はい叔母上申し訳もございません。
行ってらっしゃいまし。
うん。
小平次。
へい。
今日は弓之助と出かける。
へい…ええっ?お前は家の用事があるそうだ。
弓之助行くぞ。
えっちょっ…。
置いてけそれは。
あっはい。
行ってまいります。
あああの…旦那?
(鳴き声)あっち行け〜!縁起でもねえ。
じいさん烏と鬼ごっこか?
(友兵衛)旦那ご苦労さまです。
こちらのお子さんは旦那のお坊ちゃんで?甥っ子だよ。
弓之助だ。
弓之助でございます。
お仕事ご苦労さまでございます。
こりゃご丁寧にどうも。
(烏の鳴き声)
(友兵衛)まだいやがったのか!この野郎!おいおいおい邪険にすんなよ。
烏だって生き物だろうが。
烏は不吉だっていうじゃありませんか。
迷信だそんなのは。
アハハ…。
おいさっき話したお徳の店が…おい。
(烏の鳴き声)追い払われても何のそのか?前にも見たなこの烏。
赤い筋が入ってるだろう。
間違いねえ大した洒落者だと思った烏だ。
ここんとこ度々見てる。
あっ。
ちょっと寄ってくか。
え…。
ごめんよ。
お律かい?権吉はどうした?
(お律)あ…井筒様とは気付かずあいすみません。
ああなにも謝る事はねえが…どうした?ぼんやりして。
いえ…。
ああいや取り立てて用はないんだけどな。
権吉が腰が痛いって言ってたのを思い出してさ。
あ…お父っつぁんの腰はもう平気です。
そうか。
お茶屋の仲居仕事はまだ続けてるのか?はい。
元気がねえなあ。
どっか具合でも悪いんじゃねえのかい?いえ…ちょっと風邪をひきました。
そいつはよくねえ。
そういや随分とやつれてる。
権吉はいねえのかい?けどお父っつぁんは元気ですから。
ああ。
ならいいや。
何かあったらお徳に相談するといい。
久兵衛さんがいない間はお徳が仕切るからな。
(お律)…はい。
じゃあな。
(弓之助)あの人は何か心に引っ掛かるものがあるようですね。
そうだな。
何かあったかもしれねえ。
…っておい何でそんな事が分かる?私を見てもちっとも驚かなかったからです。
あ?大抵の女の人は私を初めて見るとびっくりして見とれるものです。
そうでない人はほかに思う人がいるか心に何か抱えている人なのです。
何だ…しょってやがる本当に。
…え?
(おえん)ちょっと旦那この子一体どうしたんですかい?随分と男前だこと。
ほれぼれしちゃう。
かわいい〜!ちょっと待って!
(お徳)…ブッ!いやそりゃねえだろうおい。
だってまるで作りが違うから。
あっそういえば旦那のご新造様はおきれいだってうわさですもんね。
昔の話だ。
そうですか藍玉問屋の河合屋の坊ちゃんなんだ。
けど旦那にそんなに羽振りのいいご親戚がいるなんて知りませんでしたよ。
女房の姉さんが嫁いだ先だからな俺には関わりねえ。
またすぐそういう言い方して。
待ってて下さいね。
おいしいこんにゃく召し上がってもらいますからね。
ありがとうございます。
まあかわいい。
お徳を測ってどうすんだよ。
はい。
えっ?何ですか?何でもねえよ。
ああそれでお律の事だけどな。
博打ですよ。
しばらく前から権吉さん博打に夢中になってんですよ。
権吉が小博打に首を突っ込んでんのは先からだろう。
昔の仲間とつるんでた…はずだ。
別口なんですよ今度は。
はい坊ちゃん熱いですからね気を付けて。
(弓之助)頂きます。
旦那もついでに。
別口って事は賭場にでも出入りしてるってのか。
おお〜おっかない事言うんだから旦那は。
「はいそうです。
賭場に出入りしてます」なんて答えたら権吉さんをとっつかまえちまうんじゃないんですか?はい。
武家の中間部屋の賭場には俺たち町方は手が出せねえ。
だったらお律ちゃんはどうなるんですか?親孝行な娘なんだから!かわいそうになあお律も孝行娘とか言われて。
そんなものにがんじがらめにされちまってよ。
えっ!?捨てりゃあいいのさ。
娘が博打にどっぷりつかった父親を捨てちゃいけねえって事はねえ。
そんな父親のためにあんな姿になっちまうぐらいならとっとと捨ててこの長屋…。
旦那!何?いくら旦那だって言っていい事と悪い事があるだろう!この世の中で一体誰が実の親の事を捨てるっていうんですか!どんな親だろうと親は親!子は子じゃないか!旦那がそんな事言う人だなんて思わなかったよ〜!私ゃもう…あ〜!じょじょじょ…。
あんまりじゃないか!じょじょ…冗談だよ冗談だよ。
うまいなあこのこんにゃく。
うまいなうまい。
なあ弓之助。
ああ〜かなわねえなあお徳には。
あの方は優しくて面倒見のよい人なのですね。
ああ。
舅姑の世話を焼き長患いの亭主をみとって気丈に働き続けてきた女だからな。
そういう人にあんな事を言うのはどうでしょうか?あ?世の中の人は皆自分と同じような人ばかりだと思っているような奇特なお人なのでしょうから。
お前12だよな。
はい。
ガキのくせに言うねえ。
はあ〜。
あの人たちは?ああ勝元の若い衆だ。
ここの地主の湊屋が明石町でやってる料理屋なんだがどうやら新しい差配人が来るらしい。
(烏の鳴き声)ああうお〜。
おいおいおい…おい!
(烏の鳴き声)
(佐吉)おお〜官九郎ここにいたのか。
官九郎?ああ…へえうちで飼ってる烏でして。
飼ってる?へえ。
ひなの頃から育ててるんでなれてるんです。
ああ〜。
井筒の旦那でございますよね?ああ勝元の若い衆かい?へい。
久兵衛の荷物は運び出したみてえだな。
へい。
勝元の方で預かる事になりまして。
…で新しい差配人はいつ来る?ああ…あっ。
どうしたい?ああいや…。
どうした…何だよ。
何?
(小声で)この方がそうなのではありませんか?ええ〜?へい。
旦那にきちんとご挨拶に伺う前にお目にかかっちまって。
坊ちゃんのおっしゃるとおり私が新しい差配人の佐吉と申します。
ええ〜!?今後ともどうぞよろしくお引き回しのほどを。
お前いくつ?27になりやした。
あのな長屋の差配人ってのは50を過ぎて還暦にかかったような男がやるものと相場がおい。
へい。
相場がな。
へい。
うそだろうおい。
(房吉)井筒様のおっしゃるとおりでございます。
ですがあの長屋の差配人のなり手がないのでございます。
う〜ん…そいつはあれか?久兵衛が姿をくらました一件に関わりあるのか。
(房吉)…はい。
回想
(正次郎)久兵衛〜!
ついひとつきほど前の事。
久兵衛が正次郎という男に逆恨みを買いその側杖を食って八百富の太助が殺された。
自分がここにいては更にひどい事が起こると考えた久兵衛は長屋の住人の安全を守るために姿をくらましているというのが事件の表向きの事情であった
(房吉)そんな危ない長屋の差配人など喜んで来てくれるはずがございません。
あの佐吉という若者は元植木職人であるじ湊屋総右衛門の遠縁にあたる者でございます。
身内のよしみでやっと承知させ幸い深川の名主の方々も事情が事情。
佐吉を雇う事を認めてくれたのでございます。
ここはどうかひとつ。
はい。
あのな。
はい?いやうん…うん。
どうかなさったのですか?叔父上。
うん。
話は聞いてたな?はい。
実はな内緒だがこの一件には裏がある。
裏?ただし聞いたからには誰にも言っちゃならねえ。
それでも聞きてえか?はい。
殺された太助には長患いの父親と父親を看病する妹がいた。
お父っつぁんはもう死んでるようなもんだからって。
お父っつぁんだって分かってくれるってお父っつぁんだってそれを望んでるんだって兄さんそう言って聞かなくて。
だから私…。
いいよもう。
もういいから分かったからもう分かったからね。
こいつが本当の話だ。
つまりは久兵衛の話はお露を救うためのでっちあげって訳だ。
お徳はもちろん長屋の連中のほとんどがうすうす感づいてる。
ですがお使いの方はそんな事情知らないようでしたが。
そこがおかしい。
俺は湊屋がてっきり久兵衛に事情を聞いてると思ってたんだが…。
どう思う?それは湊屋さんというお方のご気性にもよると思います。
「どんな理由であれ人を殺した娘をかばうなどまかりならん!すぐに自身番に突き出せ!」。
というようなお人ならお露さんをかばいたい久兵衛さんは本当の事を告げられない。
うん。
従って湊屋では表向きの作り話を信じたまま新しい差配人が見つからずに往生していたのかもしれません。
それともまたひっくり返して湊屋さんも久兵衛さんから聞いて本当の事情は知っていても表向きの作り話のとおりに繕わなければならなかった。
だから新しい差配人は見つからなかった。
うん?はい?よくそんな面倒くさい事すぐ思いつくなお前。
あ?うん。
ええ?うん。
うん。
ククククク…。
エヘヘヘ…。
ただの煎餅か。
ただいま帰りました。
うん。
あらどなたかお見えでした?茶入れてくれ。
煎餅がある。
なっ?あい!はい。
はい。
さてどうなる事やら。
全体何を考えてるんだあの湊屋さんは。
あんな若い差配人見た事も聞いた事もありませんよ。
案の定深川北町の別の長屋の差配人たちは佐吉の事で文句を言いだした。
だが地主の湊屋が推し深川の名主たちが了承したとなればとどのつまり従わざるをえない
ちょっとちょっと。
(箕吉)えっ?いい男だねえ。
何言ってんだよ。
掃除ばっかりしてんじゃねえかよ。
・差配の月番から外されたそうですよ。
あの佐吉とかいう人。
知ってるよ。
じいさんどもが名主どもへささやかに逆らったって事だろ?それでも別に文句も言わず掃除ばっかりしてるんですから。
掃除ねえ。
そういやいつにも増して通りがきれいだった。
いつだってきれいですよ!大体職人みたいな格好ばっかりして羽織着てどっかに出かけなきゃなんない時はどうなるんですかねあの佐吉って人は!佐吉だって羽織ぐらい持ってるさ。
持ってるだけじゃ駄目なんですよ。
もめ事の仲裁や訴え事の付き添いなんかの時にはきちんと着て体裁を整える事ができなきゃ差配さんとは言えないんですからね!はいはいおっしゃるとおり。
混ぜっ返さないでおくんなさいよ。
そう怒るなよ。
佐吉がここに来たのも元はといえばお露の一件があったためだろうが。
お露はどうしてる?猿江町の長屋で元気にやってますよ。
富平さんも少しよくなったみたいだし。
あっそうだ。
お露ちゃんといえば八百富の後は空き家になったまんまなんですよ!あの佐吉とかって人あれをどうするつもりなんですかね!お徳よいちいち佐吉とかいう人なんて言い方して大変じゃねえか?ブブッ…。
あんな子どもみたいな人差配さんとして認める訳にはいきませんからね。
子どもね。
それに烏飼ってるんですよあの佐吉とかって人。
ああ〜私ゃ烏なんかもう大っ嫌いなんだ!
(烏の鳴き声)おいどけ!キャ〜!おいじいさん。
鉄瓶長屋ってこの先かい?へへへ…へいへい。
何怖がってんだよじいさん。
べべべ…別にあっしは…。
おいどけ!大変だ〜!どけ!
(おしま)お徳さんちょいと!どうした?何だい?おいどけい!おい権吉娘を連れに来たぜ。
分かってんだろうなあ!覚えがあるだろう!えい!何だいあんたたち!何でえお前こそ!ええ!?ああっ!あっ旦那旦那!旦那旦那!こっちこっちこっち!おいおいちょっとどいてくれ。
お徳。
10両の借金があるんですってさ旦那。
何だと?み〜んな博打で負けたんです。
相手は証文持ってやって来たんですから。
そうだよね権吉さん!先からきつい取り立てに遭ってたんですよ。
けど10両なんてお金どう逆立ちしたってできゃしない。
それで困り果てたこのバカ親父が10両のかたに娘を売り飛ばす約束をしてきちまったんですよ!はあ…そうか。
けどよく引き下がったな連中が。
私がいましたもの。
何だお前こそ!ああ!?ひゃっ!ちょいとお待ちよ。
へっ来るんだよほら。
うわっあっあっ!こきやがれこのスットコドッコイ!鉄瓶長屋のお徳さんがこんな事黙って見逃すと思ってんのか!そんなに連れていきたきゃこの権吉さんを連れていきゃあいいだろう!ええ?手前が作った借金だ!手前で返すのが当たり前だろう!ええ?ほら文句があるか!このトンチキ!大丈夫かい!?ハッハッハ!そりゃあ相手も面食らったろうなあ。
権吉じゃあどう転んでも岡場所に座って客を引く事はできねえ。
なあ小平次。
うう…うへぇ〜。
(笑い声)何がおかしいんだよ!旦那も余計な事言わないでおくれよ。
こっちは必死だったんだから。
ああすまんすまん。
…で佐吉はどうしたい?青菜に塩でどっかに隠れてるんじゃないんですかね。
権吉。
(権吉)へえ〜へいへい。
ちょっとばかり顔貸しな。
お前が出入りしてる賭場の事を聞かせてもらおうじゃねえか。
(権吉)旦那〜。
お…お父っつぁん!はあ…はあ…。
はあ…はあ…。
あなたは…。
井筒様のお坊ちゃん。
どうなさいました?お長屋が大変な騒ぎになってるそうです。
…え?つまり押しかけてきた野郎どもはお前がお律を年季奉公に出す約束で金貸し屋から借りた10両の借金の肩代わりをしてくれた遊郭のやつらって訳か。
はあ…。
どこの遊郭なんだ?店は?
(口籠もった声)聞こえねえ。
洲崎の岡崎という遊郭でへえ。
…でその岡崎のやつらは金は払ったのにいつまでもお律が来ないのでどなり込んできたって訳だ。
アハハハハハハハッ!笑ってる場合じゃないだろう!どうしようもねえなあ権吉。
(権吉)いやあのこれこれこれね。
こんなはずじゃあなかったんですよ旦那。
賭場に誘うやつがいたんでそれまでの借金返そうと思ってやったらいかさま博打に引っ掛かっちまってでまた借金が増えてそれを返すためには…。
はあ〜ああ〜…。
もうその繰り返しで。
ですからね旦那はなのあの賭場に誘ったやつがいけねえんですよね。
勘弁しておくんなせえ。
ちょいと下さいな。
毎度ありがとうございます。
おい佐吉さん佐吉さん。
しっしっしっしっしっ。
(弓之助)えっちょ…えっちょっと!・気の毒になお律。
ざっと話を聞いた限りじゃ俺にはどうしてやる事もできねえ。
どうしたもんかなあ。
旦那そんな殺生な事言わないでおくれよ。
賭場の連中をとっつかまえて下さいな。
ねえ権吉さん。
一体どこのお武家の中間部屋なんだよ!お徳よしな。
けど旦那!賭場の連中を捕まえたところであれだ。
その事と権吉の借金とそれを岡崎のやつらが肩代わりした事とは話が別だ。
つまり10両を工面しない限り…。
そんなバカな話がありますか!あんまりじゃないかそんな事。
お律ちゃんがかわいそすぎるじゃないか〜。
私…岡場所に行きます。
お律ちゃん駄目だよあんたそんな事言ったら。
いいんですお徳さん。
駄目だよ駄目ったら駄目だ。
旦那も何とか言ってやって下さいよ。
岡場所に行く事は先からお父っつぁんに頼まれてたんです。
だけど…だけど心を決める事ができなくて。
だからだから私…。
・そんなにやつれちまったんだな。
(お律)けど今決めました。
年季が明けるまでの辛抱だし私平気です。
けどねお律ちゃん。
私お父っつぁんを捨てる訳にはいかないもの。
私が約束を果たさなかったらお父っつぁんがあいつらにどんな目に遭わされるか分からないでしょ?いけないよお律ちゃん。
どうしてあんたがそんな辛抱しなきゃいけないのさ。
いけない!そんなのいけないよ!お徳さんだって一人で苦労してきたじゃない。
それは違うよ。
私は苦労を押っつけられた訳じゃないもの。
あんたのお父っつぁんみたいに自分の博打の付けを娘に回してヘラヘラしてるようなやつのために苦労してきた訳じゃないよ私は!だって…お父っつぁんがかわいそうだもの!
(泣き声)お律さんの言うとおりだ。
行かせたらどうですか?旦那あいすいません。
ちょいと湊屋の旦那に呼ばれて明石町の勝元に行っておりやした。
おお話は聞いてたのか。
へえおおかた。
今頃来て何言ってんだか。
余計な事くちばし突っ込まないでとっとと出てっておくれ。
お徳。
お律さん今泣いてたってどうにもならねえ。
泣くのは本当につらくなってからにした方がいい。
ちょいとあんたさっきからなんて言いぐさだい!おいおいおい。
いいですか?あんたが岡場所に行くのが嫌で行く事なんかないって思うなら権吉さんの事なんて放っておいて行かなきゃいい。
いくら父親だからって娘が何でもかんでもしなくちゃならねえなんて事はねえ。
けどねあんたが岡場所に行かないで後々までその事を悔やむような事があるならあんたはあんたのために岡場所に行った方がいい。
その方があんたの気持ちが楽になる。
私のために?ちょっとあんた!だからお徳。
続けろ佐吉。
へい。
行くならあんたのためだ。
権吉さんのためじゃねえ。
あんたのしたいようにすりゃあいい。
お父っつぁんを見捨てられないってのはとどのつまりあんたの気持ちがそう言わせたんだ。
権吉さんを見捨てたら自分の気持ちが収まらないだから行くと決めた。
だったら行くべきだ。
私はそう思います。
このバカ!人でなし!岡場所に行くのを勧めるやつが三千世界のどこにいるんだ!お徳。
ヘヘヘヘヘッ。
そうかそうだったんだ。
そうかそうか。
おい権吉どうしたい?お律佐吉さんの言うとおりなのか?お前はお前がそうしたいから岡場所に行くんだな?俺が無理強いした訳じゃねえんだよな。
お父っつぁんが悪い訳じゃないんだ。
そういう事なんだな?ヘヘヘヘッヘヘヘヘッ。
そうよお父っつぁん。
そうなのよ。
ヘヘヘヘッ。
ふん!お前は人を怒らせる名人だな。
えっ?こっちの話だ。
じゃああっしはこれで。
うん。
お前にはやなものを見せちまったな。
いえ。
それにしても権吉の野郎ひでえ父親ですね。
いや案外これでよかったのかもしれねえ。
えっえっ?お律さんの顔も変わったようですしね。
気付いたか。
お前すげえな。
え〜っとえ〜何ですか?旦那。
すげえなお前。
だから何なんですか?旦那。
泊まってくか?弓之助。
いいえ帰ります。
泊まってけたまには。
いいえ帰ります。
小平次。
弓之助を送ってやれ。
へい。
(拍子木)
(友兵衛)火の用心。
さっしゃりやしょう。
(拍子木)戸締まりしやしょ。
火の用心。

(拍子木)・
(友兵衛)火の用心。
どうしたんだい?権吉さん。
お律知らねえか?いいや。
いないのかい?ああ。
どこ行ったんだろうねえ?こんな朝早くから。
ねえ。
(お絹)愛想尽かされたんじゃないのかい権吉さん。
えっ?
この日以来お律の姿が消えた
どこ行ったんでしょうねえお律ちゃん。
よかったじゃねえか岡場所に行くより。
そりゃそうだけど。
それもこれもお前の嫌いな佐吉のおかげだ。
ええ〜?あの時権吉がたとえうそでも泣いて謝ってりゃあお律も今頃は泣きながら岡場所に行ったろうさ。
ところがあの野郎…笑いやがった。
回想ヘヘヘヘッ。
途端にお律は目から鱗が落ちたって訳だ。
がっかりしたんだ愛想が尽きたんだ。
初めて父親に。
権吉はごくつぶしのどうしようもねえ野郎だがひょっとすると泣いて謝って娘を岡場所に売り飛ばす男よりまだましかもしれねえ。
それもこれも佐吉があんな事を言ったからだ。
だろう?たまたまですよ。
怪我の功名でしょう?何であんな若造が。
何だい?ああお握りと煮しめを。
ふん。
あ…。
今もお徳と話してたんだがお前こうなると分かっていてお律にあんな事を言ったのか。
さあ?思ったまま口をついて出ちまったんです。
お前面白え男だな。
差配人に向いてるかもしれねえな。
どうですかねえ?あっしはもう一人店子をしくじっちまいましたしそれに権吉さんだってそう長くはここにはいられないでしょうから。
ああなんとかなるさ。
岡場所のやつらだって娘がいなくなったからって権吉に客を取らせる訳にはいかねえ。
でも借金が。
俺が間に入って少しずつでも返すようにしてやるさ。
お律の事も心配はねえ。
働く場所はいくらでもある。
へい。
25文。
あ…はい。
じゃああっしはこれで。
おい。
へい。
お前にはかわいい烏だろうがあの官九郎な。
へい。
どっかに預けてみちゃどうだ?嫌う連中も多いからさ。
旦那のご心配はありがたいんですが今更そいつはかわいそうなんで。
じゃあ。
このままだとかわいそうなのはお前の方なんだけどな。
あんな若造差配人なんかであるもんかい。
烏なんて飼いやがって験が悪い。
博打打ちに験担ぎは付き物ってか。
だがお前は佐吉に感謝したっていいはずだ。
存外いい差配人だぜあいつは。
ヘヘヘッ。
じゃあ旦那賭けますかい?何?佐吉がここに居つけるかどうか。
ちゃんとやってけるかどうかですよ。
ヘヘヘヘッどうです?面白いいくら賭ける?そりゃあ…10両ですよ。
(笑い声)そいつはいいややってみようじゃねえか。
じゃあなじいさん。
へへへへへいへい。
ちょっどうした?いいえ…。
うん?えっ?おい。
この木っ端役人が。
何も知らねえくせに偉そうにしやがってよ。
(烏の鳴き声)行け!あっ…。

何かがゆっくりと始まっていた。
ふつふつと湯がたぎるように
やあっ!たあっ!
あちこちで何かが起きようとしていた。
だが平四郎はいまだ夢の中である
えっ何だこりゃ。
離れろって。
迷子じゃないんですか?旦那。
迷子?お前がどこの子で何て名前かなんてのは気が向いた時に教えてくれりゃあいい。
ここにいやすったのかあんた。
ご亭主の加吉さんを知ってるんですよ私。
いいお客さんだったんですよ。
何言ってんですか!ちょいと聞かせてくれや。
善治郎一家が出てったんだってな。
おかげでまた一軒空きが出来たんですよ。
気がかりなのはその先か。
2014/10/23(木) 20:00〜20:43
NHK総合1・神戸
木曜時代劇 ぼんくら(2)「烏(からす)を連れた差配人」[解][字]

宮部みゆきの傑作時代劇人情ミステリーをドラマ化。江戸深川の鉄瓶長屋から次々と店子が姿を消してゆく。この不可解な事件を、“ぼんくら”同心・井筒平四郎が暴いてゆく。

詳細情報
番組内容
鉄瓶長屋から姿をくらました差配人の久兵衛(志賀廣太郎)の替わりとして、大家である湊屋から若い佐吉(風間俊介)がやってきた。井筒平四郎(岸谷五朗)がひいきにする煮売り屋のお徳(松坂慶子)は、なぜか佐吉を毛嫌いするが、その佐吉の仲裁で、父親の博打の借金の為に岡場所に売られそうになった孝行娘が、父親に愛想をつかして長屋から出奔、ことは一件落着する。しかし、その影で何やら得体の知れない動きがあるらしく…。
出演者
【出演】岸谷五朗,奥貫薫,風間俊介,加部亜門,秋野太作,志賀廣太郎,松坂慶子,六平直政,【語り】寺田農
原作・脚本
【原作】宮部みゆき,【脚本】尾西兼一
音楽
【音楽】沢田完

ジャンル :
ドラマ – 時代劇
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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日本語(解説)
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