祖国のパスポートを燃やす若者たち。
イスラム過激派組織イスラム国に忠誠を誓っています。
支配地域を急速に拡大するイスラム国。
アメリカなどの空爆をものともせず攻勢を強めています。
私たちは、この組織が拠点としているシリア北部ラッカの映像を入手しました。
自由に歩く人々や営業する商店。
イスラム国の統治の下市民生活が営まれていました。
今、そこにアメリカからも若者たちが引き寄せられ次々と戦闘員になろうとしています。
こうした若者たちが自国に戻りテロを起こすのではないかという危機感が高まっています。
世界に広がるイスラム国の脅威。
国際社会がどう立ち向かっていくのか考えます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
世界各国でテロに対する危機感が高まっています。
欧米をはじめ世界中の若者たちが次々とイスラム国と名乗るイスラム過激派組織に勧誘されイラクやシリアで戦闘員になっているからです。
はっきりとしたことは分かっていませんが勧誘された戦闘員の数は80か国から1万5000人に上ると見られ今月、日本人が参加しようとした動きも明らかになりました。
勧誘の有力な手段となっているのがソーシャルメディア。
インターネットを通して若者たちがリクルートされているのです。
世界中のテロリストや過激な思想に染まった人々を集めているイスラム国。
残虐さが際立つこの過激派組織に若者たちが感化されたり実際、イラクやシリアに行って戦闘経験を積んで帰国すれば大規模なテロが起きる危険性が高まると見られています。
実際、カナダの首都オタワでは22日連邦議会の議事堂に男が侵入し銃の撃ち合いがありました。
地元メディアは発砲した男がイスラム国と関わりのある人物である可能性を伝えています。
世界各国の若者たちを引きつけている、このイスラム国。
もともとはイラク戦争後アメリカ軍と戦ってきたイスラム教スンニ派の武装勢力ですがシリアで内戦が始まるとシーア派のアサド政権の打倒を掲げ、シリアに転戦し急速に勢力を拡大しました。
アメリカがイスラム国を弱体化させようとシリアに空爆を拡大して1か月になりますが世界中の若者たちを戦闘員に加えながら勢力は衰えておらず現在、トルコ国境付近にまで勢力を広げようとしています。
なぜ各国の若者たちが過激で残虐な組織に引き寄せられているのか。
明らかになってきた巧妙な勧誘の手口とイスラム国の統治の実態をご覧ください。
シリア北部の都市アイン・アルアラブ。
イスラム国はトルコとの国境沿いの重要拠点を奪おうとクルド人の暮らすこの場所を集中的に攻撃しています。
最前線で戦い負傷したクルド人の民兵です。
イスラム国は各地の戦闘で奪った最新の兵器で容赦のない攻撃を加えてきたといいます。
戦車はイラク軍から奪ったもののようでした。
彼らは撃たれても前に進み死ぬまで向かってきました。
取りつかれたように突進してきたというイスラム国の戦闘員たち。
死亡した戦闘員の所持品からは薬物や注射器が見つかりました。
イスラム国はどのようにして人々を支配しているのか。
イスラム国が一方的に首都としているシリア北部の都市ラッカの映像です。
住民が撮影した映像をNHKが入手しました。
音声はありませんが最新の街の様子が映っています。
中心部の広場にはイスラム国の黒い旗が掲げられていました。
街なかを歩く人々の姿。
洋服や雑貨などを売る商店も営業していました。
体全体を真っ黒な布で覆った女性たち。
かつてのシリアとは異なり厳しい戒律を強制していることがうかがえます。
街を走る黒塗りのパトロールカー。
イスラム国は、治安組織まで作り市民を監視していました。
隣国トルコに逃れてきた男性です。
たばこを吸うとむちで打たれ逆らえば殺されます。
毎朝、誰かの首が広場に掲げられていました。
これはイスラム国の戦闘員が撮影した映像です。
市民を集めてイスラム国家を守るために戦い抜けと鼓舞していました。
恐怖による支配の一方で国家の形を整えようとする姿も見えてきました。
イスラム国の通信部門で働かされていた男性が取材に応じました。
必要なものはなんでもあります。
防衛省や保健省電力省などもありそれぞれに閣僚がいます。
一般市民から税金も徴収しています。
映像にはアジア系や白人など外国人も見られます。
こうした外国人戦闘員は現地の人の殺害をためらわず給料もシリア人の5倍から10倍と優遇されているといいます。
シリア人よりも外国人戦闘員のほうが信用されています。
外国からわざわざ指導者に忠誠を誓いに来たのですから。
空爆によって、イスラム国の壊滅を目指すアメリカ。
しかし、その足元で次々と若者たちがこの組織に加わろうとしています。
これは、アメリカからシリアに向かおうとした若者たちの写真です。
その数は、アメリカ政府が把握しているだけでも100人以上に上ります。
ニコラス・トゥサント被告、20歳です。
ことし3月イスラム国に加わろうと現地に向かう途中で逮捕されました。
トゥサント被告が住んでいたのはカリフォルニア州の低所得者が多く暮らす地域です。
州の軍隊に所属し家族や近所の人とよく話をする好青年でした。
しかし1年ほど前から様子が大きく変わったといいます。
トゥサント被告のソーシャルメディアのページです。
イスラム過激派組織への共感を多数投稿していました。
勾留中に、地元メディアのインタビューに応じたトゥサント被告はイスラム国に命をささげるつもりだったと答えました。
なぜ、アメリカの若者たちが続々とイスラム国に引き寄せられているのか。
取材を進めるとその巧妙な手口が明らかになってきました。
ことし5月、若者をイスラム国に送り込もうとしてFBIに逮捕されたムフィド・エルフギー被告です。
NHKが入手した捜査当局の資料によるとエルフギー被告はソーシャルメディアを駆使して勧誘活動を行っていました。
フェイスブックでは13の名前を使い分け膨大な情報を日々発信していました。
エルフギー被告はまずソーシャルメディアで社会に不満を感じている人を見つけ共感を示す書き込みをします。
そしてイスラム国の魅力を伝えます。
若者が関心を示すとみずから経営するピザ屋などで面会。
イスラム国にカンパしないかと持ちかけます。
賛同が得られるとイスラム国のPRビデオのリンクなどを次々と紹介していました。
ビデオに映し出されるのはイスラム国に参加して幸せそうな若者たちの姿。
衣食住に事欠かず充実した生活が送れるとシリアへの渡航を促すのです。
シリアに渡ろうとして逮捕されたトゥサント被告もインターネットでイスラム国の情報を頻繁に見ていたと見られています。
このころ、所属していた州の軍隊を除隊させられ失恋もしていました。
イスラム国に渡ろうとした若者と接見したことのある弁護士です。
イスラム国は若者の心の隙間をついて勧誘を仕掛けていると指摘します。
イスラム国のソーシャルメディアを使いこなす能力が彼らの勢力拡大の一因です。
非常に強力な人員募集のツールになっているのです。
今夜は、中東情勢、そしてイスラム過激派組織に大変お詳しい、日本エネルギー経済研究所、研究理事の保阪修司さんをお迎えしています。
イスラム国ですけれども、外国人の戦闘員を加えながら、勢力を拡大してきたわけですけれども、そのリクルートのしかたですけれども、ソーシャルメディアの使い方、それほど巧みですか?
そうですね。
ソーシャルメディアに限らず、インターネット、例えば掲示板であったり、あるいはマイクロ…であるとか、ツイッターとか、フェイスブックとか、さまざまな媒体を使って、重層的な宣伝活動をしているということが言えると思います。
これはアルカイダ、国際テロ組織のアルカイダもですね、同じようなやり方をしていたんですが、それがさらに洗練されてきたと、こういうことがいえるんではないかと思います。
かつては、どちらかというと、手作り感のあるような、アマチュアっぽい作品、ものが多かったんですけれども、最近のビデオ等を見ると、非常に洗練されて、プロフェッショナルな感じがすごくしますよね。
これは恐らく、シリア、あるいはイラクだけではなくて、恐らく海外にも数多くの協力者がいて、そういう人たちが積極的にボランティアとして関わっているんではないかというふうに考えられています。
言語も多岐にわたるんですか?
そうですね。
これまではずっとアラビア語が中心だったんですけれども、それに加えて英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、さらにはインドネシア語、アルバニア語といった形でさまざまな言語で、宣伝を行うというのも、大きな特徴になっています。
しかし、実態としては非常に過激で、残虐な組織ですけれども、なぜそういった組織に、世界中の若者たちが引き付けられるのか、どういった人たちなんですか?
恐らくさまざまな人たちがいるんだと思うんですけれども、一つにはそもそも前提として、若いというのが一つ、それからもう一つは、なんらかの形で悩みを抱えている、あるいは怒りを抱えているということですね。
その心の闇といいますか、空白に、こういった宣伝活動が食い込んでいくというのが、基本的なパターンではないかというふうに思います。
多くの人たちは自分がそのなんらかの形で、社会に位置づけられたいと、役に立ちたいというふうに考えていますね。
その役に立つ場を求めているわけですね。
それをシリア、あるいはイラクで、イスラム教徒が殺害されている、攻撃を受けていると、こういうことを宣伝することによって、それを大義として、その大義の中に、こうした若者たちが引き付けられていく、そこに行けば自分が役に立つんだと、なんらかの形で、自分の居場所があるんだ、場合によっては死に場所があるんだというふうに考える人たちが多いんではないかと、またさらにはそれに加えて、ただ単に、暴れたいと、暴力を行使したいという人たちも含まれますし、さらにはここで殉教をしたいと、殉教することによって、天国に行きたいというようなことを考える人たちも恐らくいると思います。
そういう多層的な人たちが、シリア、イラクに流れ込んでいるという感じですかね。
そこで、感化、過激な思想に感化されたり、あるいはそのトレーニングを受けて、戻ってきた、国でテロを起こすんではないかという脅威が高まっていると見られていますけれども、その脅威というのは、今どのように見てらっしゃいますか?
確かに欧米諸国にとっては、シリア、イラクで戦ってきた若者たちが、戦い方を覚えて、それぞれの国に帰って、そこでまたテロを起こすということを非常に脅威に感じていることは間違いないと思います。
また同時に単にシリア、あるいはイラクに行かないまでも、こういった思想に感化されて、それぞれの国で、テロを起こすと、いわゆるホームグローンとかあるいはローンウルフといわれる人たちですけれども、こういったテロの脅威というのも非常に高まっていると思います。
しかし行ってない人たちで感化された方を、追跡するっていうのは、本当にこれは難しいでしょうね。
そうですね。
さまざまな形でインターネット上なんかで、痕跡を残すケースがありますので、そういったところの監視活動とかですね、あるいはコミュニティーレベルでのケアとかいうものが、恐らく重要になってくるんだと思います。
テロの大きな脅威となりかねないイスラム国に共感する若者たちですけれども、今、ヨーロッパやアメリカでは、若者たちがイスラム国に、加わらないようにする取り組みが始まっています。
欧米の首脳に敵意をむき出しにするイスラム国の戦闘員たち。
インターネットで繰り広げられる宣伝活動に国際社会は危機感を強めています。
アメリカのオバマ大統領は先月国連総会の演説でそのメディア戦略に対抗する必要があると強調しました。
アメリカ政府はソーシャルメディアを中心にイスラム国の残虐性を告発するキャンペーンを始めました。
若者たちが安易に、イスラム国に共感しないようにするのが目的です。
今、ヨーロッパでもイスラム国の影響力を排除しようという取り組みが始まっています。
すでにおよそ450人がシリアに渡ったドイツ。
このNGOでは若者がアクセスするフェイスブックやイスラム過激派のサイトなどを監視しています。
イスラム国に影響を受けたと思われる人たちの書き込みに対し反論する活動を続けています。
この日、見つけた文章です。
僕には国境なんて見えない。
イスラム国には国境という考え方はないんだからと書かれていました。
文脈から見るとイスラム国が世界で存在しうる最高の政治体制だと主張しているのが分かります。
これに対しスタッフが反論しました。
そうだとすると国際秩序はどうなるの?こうした反論を書き込むことで相手を冷静にさせ、過激な思想に染まらないようにするのがねらいです。
心に隙間を抱えた若者たちに自分で考える力を持ってもらいたいのです。
さらに教育現場ではイスラム教徒が中心となって若者の不満を取り除く取り組みが進められています。
ベルリン近郊にあるイスラム教徒の生徒が8割を占める学校です。
この学校では定期的にイスラム教徒のカウンセラーを招きワークショップを開いています。
この日は、ドイツ国内で報じられたイスラム教徒に関するニュースを見ながら、いかにイスラム教徒が誤解されているかについて議論しました。
議論の末、ある生徒が自分自身の体験を打ち明けました。
悩みを共有することで孤独感を募らせないようにするとともに社会には多様な価値観があることを学んでもらおうというのです。
このワークショップがなんでも解決できる万能薬だとは思っていません。
生徒たちには世の中は白か黒ではなくさまざまな考えがあることを分かってほしいのです。
今、ご覧いただいた、アメリカの残虐性を告発するキャンペーンですとか、ドイツによるISSの監視、ワークショップと、これらの効果、どう見てらっしゃいますか?
効果は恐らく限られていると思います。
インターネットが彼らの有効な手段であると、宣伝手段であることは間違いないんですけれども、同時にインターネット、あるいはソーシャルメディアというのは、テロリスト予備軍を監視するあるいは発見する、ひじょうに有効な手だてでもあるわけですね。
実際、こういう形でソーシャルメディアをフォローしていくというレベルと、もう一つ、政府レベルで言えば、例えばシリア、イラクに入るため、途中にある国々との連携というものがたぶん効果的なんではないかと思います。
具体的にはどういった国ですか?
例えばヨルダンとか、あるいはトルコとか、国境を接した国々、そういう所を経由して、シリア、イラクに入るわけですから、水際で入ろうとする人たちを止めてもらうと。
そのためには情報交換を含めた密接な連絡が必要だと思いますね。
中東情勢の不安定化というものが、イスラム国のいわば、追い風にもなっているのかと思うんですけれども、イスラム国、過激派組織の勢いというのは、どこまで広がっていくと思われますか?
私自身は恐らく今後は、こう着状態になるのではないかというふうに考えております。
密輸による資金、これが徐々に狭められていくと、さらには寄付やなんかの、資金源も徐々に絞られてくると。
そうすると、なかなかやっぱり、イスラム国としても拡大はしづらくなってくるんではないかと思います。
アメリカがシリアを空爆して1か月になりますけれども、この空爆の効果、相当、軍事的な面でも効果が出てくるとお考えですか?
はい。
空爆は残念ながらやっぱり、イスラム国を根絶させるというまでにはいかないはずですので、当然その、地上からのなんらかの支援というものが、恐らく重要になってくると思います。
ただそのためには例えば、アサド政権、あるいはイラク政府、あるいはさまざまな反体制派組織などとの連携というのが必要になってくるんですけれども、これは実は非常に難しいという状況ですね。
弱体化に向けたやはり周辺国との連携というのも、大きな鍵になると?
そうですね、ただしそれは最も難しい問題だと思います。
2014/10/23(木) 19:30〜19:58
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“イスラム国”世界に広がる脅威」[字]
インターネットを駆使し世界中の若者たちを戦闘員に加わらせているイスラム過激派組織「イスラム国」。勢力拡大の背景と再びテロの脅威にさらされ始めた各国の動きを伝える
詳細情報
番組内容
【ゲスト】日本エネルギー経済研究所中東センター副センター長…保坂修司,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】日本エネルギー経済研究所中東センター副センター長…保坂修司,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
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