NHK短歌 題「鼻」 2014.10.21

ご機嫌いかがでしょうか?「NHK短歌」司会の濱中博久です。
第三週の選者永田和宏さんです。
今日もよろしくお願い致します。
早速ですが今日お迎えしているゲストをご紹介致しましょう。
将棋棋士の羽生善治さんをお迎え致しました。
ようこそお越し下さいました。
よろしくお願い致します。
羽生さんは若くして将棋界初の7タイトルを独占するなどその活躍は皆さんご存じのとおりでございます。
現在通算タイトル獲得数歴代1位を誇ります。
この羽生さんをお迎えしたという事は冒頭の一首は…永田さん。
実はねこの前名人戦の第三局を新聞社の企画で観戦をさせてもらったんです。
羽生さんの手順のところで一手指されたら退席して下さいと言われてたんですよね。
入って次の一手を待ってたんですがなんとねその時の長考で1時間20分だったの。
長いですね。
1時間20分あの場に居られたのは将棋ファンの人には申し訳ないぐらいだったんです。
長かったですよね。
そうですね。
30分ぐらいの長考はよくあるんですけれども1時間以上は一局の中で1〜2回ぐらいなのでかなり珍しいところで先生には申し訳ない事をしてしまったかなと思います。
とにかく見てられるのはすごい幸せだったんだけど僕が何かをしてお二人のあれに影響を与えたら困る。
ひたすら気配を消すのに必死だった。
ピリピリした雰囲気ですか?空気がシーンと締まってる感じで息するのがしんどいぐらいの感じで気と気が押し合ってるという感じだったですね。
観戦された永田さんがさっきの歌をお詠みになりましたが羽生さんいかがです?結構対局中に着物を直したり袴とか羽織とかを直したりするのはよくある事なのでそれの雰囲気を伝えて頂いたのかなという感じがします。
これ歓談されていますね。
これはね名人の就位式の時で端っこに映ってるのが長谷川櫂さんで長谷川櫂さんも第一局の観戦をしたんですよね。
羽生さんをお迎え致しましたがゲストにはいつも短歌についてのイメージを短い言葉にして頂いております。
羽生さんはどんな言葉になりましたでしょうか?「ダイエット」…さてどういう事ですかね。
削り取っていくといいますかそぎ落としていくという事もありますし無理は禁物という事もあります。
いかにも苦しそうだというね。
後ほど詳しくお話をして頂きます。
どうぞ後ほどよろしくお願い致します。
入選歌のご案内を致しましょう。
題が「鼻」または自由でございました。
永田和宏選入選九首です。
ほんとにね今ガザのニュースはいつもいつも心塞ぐような厳しい情勢についてのニュースなんですがこれをアナウンサーが美しい鼻濁音で滑らかに読んでいかれる。
濱中さん鼻濁音得意でしょ?職業的に出さなきゃいけないんですけど「私が」になるわけですよね。
極端に言うとね。
柔らかく滑らかに流れていく感じね。
そこに作者は美しい日本語だと思うんだけどちょっと違和感を感じてるというそういう歌ですね。
そこがとても「ガザ」とあれとがうまく合ってると思いますね。
では二首目にまいります。
羽生さんに伺いましょう。
「甲子園」夏の風物詩という事もありますし何ていうんですかね青春のまぶしい感じといいますか負けて残念なところを鼻で表現してあってその雰囲気もすごくいいなと思いました。
「鼻までひさしひき下げて」というところがとてもその投手の心をうまく表してますね。
カメラなんかが来るんだけどもう見られたくないからこう鼻まで引き下げるとそこがうまいとこですね。
さあ次が三首目です。
面白い歌ですね。
ああ面白い歌ですね。
奥さんがね帰ったら鼻唄を歌ってる鼻唄を歌ってると気分いいのかと思うとそうじゃない。
奥さんが自分で「鼻唄を歌ってる時は必ずしもいい時じゃないんだよ気をつけなさいよ」って。
それにがしがしと力を入れて米をといでる時も「もっと危ないんだよあんた気をつけな」って言ってる。
まあ身につまされる歌ですよね。
身につまされるってどういう事ですか?そういう事がよくあったという事ですか?そうですね。
では四首目です。
これもね面白い歌で「鼻」っていうお題が面白いんだけどもし鼻がなかったら眼鏡ってどんな形なのか?ここで眼鏡を支えてるからいいんだけど濱中さん眼鏡…。
必ず鼻で支えるものですけどね。
なかったらどんな形になるんだろう?ゴーグルみたいになるのかな?ペタッとね貼り付ける。
大体こんな事考えるのが面白いですよね。
では五首目です。
これまた変な歌で「嚊」は三首か四首あったんです。
全体の中で。
確かにそう言われれば嚊というのは口と鼻が並んでて口うるさいのと鼻息の荒いのが嚊なのかな?これ奥さん怒らなきゃ駄目だと思うんだけどまあでも面白いところに気が付いた歌ですね。
ただ横に並べただけで嚊になるというのがなかなかね。
これは浄瑠璃なんかでも使うあれですね。
嚊様とか出てきます。
ああそういえばそうですね。
では六首目です。
羽生さんいかがでしょう?つらい時に出るのが涙ではなくて鼻水というのが非常に実感というか重みがある感じがしました。
勝負師羽生さんは負けて鼻水が出た事ありますか?まあ寒くて出る事はありますけど。
負けて悔しくて出た事はない?そうですね。
羽生さんつらい事ないんですよ。
なるほど!いつも勝つから。
でもね面白い歌でね上二句と次の二句は同じ構造をしている。
「寒いから出る鼻水」「つらいから出る鼻水」。
でもこの2つは全然違う鼻水なんだっていうところがうまいところでそれに対してあんまり感想を述べないでそれが「あることを知る」と収めたところがなかなかいいタイミングというかいいあんばいですね。
では七首目にまいります。
これも羽生さんに伺いましょう。
煙が出ている風景が目に浮かぶようですしちょっとかわいらしいようなところもありますしすごく雰囲気のいい歌だなと思いました。
羽生さん蚊取り線香をこういう豚の器に入れてました?いや〜久しく見てないですね。
我々の親の世代はいつもありましたけどね。
親の世代っていうか僕の世代もありましたよ。
親のような世代…あっ違うか失礼しました。
懐かしい歌ですよね。
本当に昔こうであれ鼻かな?口かな?両方あるみたい。
口で作ってあるのもあるしお鼻のもあるという。
鼻だったら文字どおり鼻息になるんだけど鼻から煙が出ていると。
「ペットのような蚊遣り器の豚」というのがなかなかかわいいんですよ。
蚊遣り器というのはね。
それを本当にうまく表現してますね。
懐かしい歌です。
これ出てくると夏だなという感じしますしね。
では次が八首目です。
懐かしい歌ですね。
「誰が為に鐘は鳴る」。
非常に有名なイングリッド・バーグマンとゲイリー・クーパーという男性との…。
これとても有名なシーンでキスをしてあっ鼻って邪魔にならないのねとバーグマンが言うんですよね。
日本人にはなかなか実感できないとこで僕らそんな事考えた事なかったんですけど外人は鼻が高いからバーグマンはキスをする時鼻をどう避けるんだろうかと思ってたんですよね。
その当時の私と同世代の人だと思いますがその当時バーグマンをまねて口づけを初めてしたという懐かしい歌ですね。
イングリッド・バーグマン我々の世代の絶世の美女ですね。
では次です九首目です。
面白いところに目を付けた歌ですね。
山形県ってねちょっと地図が出るといいんだけど見てるとねいかにも顔の形でしょ?ほんとだ。
鼻高いんですよ口があって。
「ほどよき位置に目のありて」目は描いてないんだけど大体あの辺りにあるだろうって想像できるのでなかなか面白いところに目を付けた歌だなと思いますね。
今ね結構こういう歌はやってて新潟県はゴジラの形だとかいろんなのがあってそれぞれのお国自慢の一つなんですけどね。
改めて県の形を今意識致しましたね。
以上入選九首でした。
ではこの中から永田さんがお選びになった特選三首の発表です。
まず三席からです。
三席は桝井幸子さんです。
では二席です。
二席は小山肇美さんです。
いよいよ一席の発表です。
中島富美子を選びました。
これ先ほど言ったように非常にシビアなニュースが軽やかに読まれていくところに違和感を持ってる歌なんですがそれとは離れてこういうのは「機会詠」というんですよね。
社会的ないろんな事件を歌にする。
機会はチャンスですけどね。
僕はね機会詠というのは一般庶民がどんなふうに歴史的な事件を自分の感覚で受け入れてるかというところが出てくるのですごく大事なものだと思っていて我々日常のいろんな事を詠んでいいんだけど時にはこういう社会的に大きな意味を持った事も何とか歌にしてほしいというそんな気持ちもありますよね。
以上今週の特選でした。
今回ご紹介しました入選歌とその他の佳作の作品はこちら「NHK短歌」のテキストにも掲載されています。
是非ご覧下さい。
さあそれでは「うた人のことば」です。
能楽堂で修羅能がしばしば演じられますけれども勝修羅と負修羅ってあるんですね。
その負修羅の扇というのは金地に大きな波頭がしぶきを上げているその真ん中に大きな真っ赤な夕日が沈んでいく絵が描かれてるのが負修羅なんです。
本当に人間というものの葛藤とか争いが非常に寂しいむなしいものに思えてくるんですよね。
能でも短歌でも同じ事が言えると私は思うのね。
型を磨く。
その中で言葉を短歌はね型を砥石として日本語の美しさを磨いていく。
ある人物になって舞台で舞ってそれが終わった時足袋を最後に脱ぐでしょ?足袋包みに包んでしまうとねそれと同時に自分の本来の姿に戻って幻が消えてゆくというまた何かになりたいというそういう気持ちがありますね。
さあそれでは続いて「入選への道」のコーナーです。
たくさん頂戴するご投稿歌の中から一首永田さんが取り上げて手を入れられます。
さあどのように変わるでしょう?どんな歌ですか?面白い歌ですね。
旦那さんと長女は鼻が高い。
次女と私は鼻が低い。
一家の中で高い組と低い組があって悲喜も交々だって言ってるんです。
これで分かるんで面白い歌なんだけど最初に「高い鼻」って出てくるとちょっと興ざめなところがあるのと結句の悲喜も交々はまあ言わなくても十分分かるのでこんなふうに思い切って直してみましょう。
最後に「鼻のこと」を持ってくるんですね。
元のが出てるからあれだけど新しいのだけにするとなかなかインパクトがあって高いの…何が高いんだろう?低いの…何が低いんだろうと思ってると最後に「鼻のことです」ああそうか〜と思う。
しかも「悲喜」という感情の事を言わなくて十分言い尽くしてるという事なんですね。
すばらしい!ありがとうございます。
これぐらいにすると入選になるんですけどね。
参考になりますね。
皆さんもどうぞ参考になさって下さい。
それではご投稿歌のご案内を致しましょう。
では選者のお話です。
永田さんの「時の断面あの日、あの時、あの一首」今日は「労働の日々シューカツの悲哀」です。
そろそろもうすぐ就活の時期に入るんですが大学3年生の終わりぐらいから就活に入っていくと。
自分の履歴書を書いて写真を貼っていろんな会社に送るわけですよね。
ところが面接にも行かずに不採用通知が来る。
その時に作者はあの時緊張して無理をしてちょっと笑って自分のほほ笑んだ写真を送った。
あの写真は今その会社のごみ箱に行ってるんだろうかとかいろいろ思っちゃうんですね。
ある種採ってもらいたいという事があるわけだからちょっと卑屈になったような笑いであったのかもしれないし本来の自分の笑いでなかったのかもしれない。
それを不憫に思うというそんな感じですね。
今みんなこんなふうな事を何度も経験しながら就職をしていく。
そういう学生たちを身近に見るような立場になって就活の時期になるといろんな事を考えますね。
いい歌ですこれはね。
選者のお話でした。
それではゲストにお迎えしている羽生善治さんにもいろいろお話を伺ってまいりましょう。
まずは短歌とはどんなイメージをお持ちですか?と短い言葉にして頂きました。
もう一度お見せ頂きます。
「無理は禁物」とも先ほどおっしゃいましたがさあどういう意味合いなんでしょうか?やはり作っていくプロセスの中で無駄をそぎ落としていくというところもありますしそれをいかにスマートにスムーズにという事もあるのかなと思っています。
無駄をそぎ落とすって本当に大変ですよね。
何でもそぎ落とせばいいという事じゃないのでその辺りの加減といいますかバランスがやはり難しいんではないかなという気がしますね。
将棋の手もあれこれわ〜っといっぱい浮かんでくるものですか。
意外ともう最初のところで大部分の可能性は捨ててしまっているという事が。
そこでそぎ落としが既に最初からあるんですか?最初の段階でかなり落としちゃってそこから推考していくという事になります。
僕もね何かの本に書いておられて驚いたのは最初ぱっと見た時にもう二〜三手に決まっちゃう感じ?そうですね。
第一感でかなり2つとか3つに絞ってそこから論理的に考えていくというところで…。
そういう羽生さんに今日はお好きな歌をご紹介下さいとお願いをしてございますがどんな歌をお選びになりましたでしょう?お願いします。
良寛さんの歌になりましたがなぜこの歌がお好きなんですか?この歌も本当にその情景が目に浮かぶようで日本の原風景といってもいいのかもしれないですしこういうのが本当にいつまでもずっと続いてほしいなという気もしますし最後の「暮れずともよし」というところが良寛和尚の人柄といいますか出ているなと思いました。
勝負師羽生さんはのどかな歌がお好きですね。
良寛さんって本当にこういう感じの歌がね多い。
本当はあの人は内面はもっと殺伐とした部分を抱えてた人みたいなのね。
でも歌としてはのどかですし今原風景とおっしゃったけど本当に原風景という感じですね。
そうですね。
本当に日が暮れてる時にそういう場面というか風景があってほしいなという感じがしますね。
今日こういう羽生さんの本是非ご紹介したかったんです。
「直感力」。
棋士としての羽生さんというのはいろんな所で見る事ができるけどこの棋士としての羽生さんがどんな日常生活をしておられてその中でどういう事を感じながら生活をしておられるかという事が非常によく書いてあって納得というか我々にも実感できるところがとても多かったんです。
例えばねこんな事書いてあってね歌の事がちょうど書いてあるので読みますけど例えば短歌とか和歌というものはね…。
「ただその言葉だけ字面だけ追っても何を言いたいのか分からないが文字や言葉の間に垣間見られるより奥深いものを推察しそこから展開される世界を追体験するからこそ面白い」と。
つまり盤面だけ見ている言葉だけ見ているんじゃなくてその間にあるものを見るからこそこういう文芸は面白いんだって書いてあって僕自身は羽生さんが打っていく駒と駒の間のようなものに奥行きを感じておられるのかなと思ったんですけどね。
「棋は対話なり」という言葉があるんですけど一手を指すという事は一手その人の気持ちなり思いなり考えを表している。
たった一手なんですけどその中にどういう事を考えてどういう事を思ってどういう感情の揺れがあってそれでその一手を指したのかというのは対局をするとひしひしと感じてきてそれはまさに短歌の行間を読むではないですけどそういう事とやっている事はかなり共通しているところがあるのかなと思います。
非常によく分かります。
短歌っていうのは言葉だから字面を追うと意味は分かる。
でも意味分かってもしょうがないところがあって意味の向こうにある今行間とおっしゃった言葉と言葉の間ですね。
駒と駒の間も同じだと思うけどそこをどういうふうに読み取るかってとても面白くて。
昔からある短歌とかそういうものも時代を超えてその時の人の心情というかそういうのも感じ取られたりとか?不思議なもんで「万葉集」からありますからね。
文明とか文化というのは非常に発展していくものだけど人間の感情って万葉人と同じ感情を持ってますからね。
将棋はそんな昔の人でもやっぱりそういう感じしますか?気持ち性格はこうなんだとか。
あります。
そういう性格も気持ちも非常に正直に表れますし時代背景みたいなものもその棋風の中にはっきりと表れるというところもありますしそういうところを見ながら感じ取れるというのが将棋の面白いところだと思っています。
相手が何考えてるんだろうと随分お考えになるんでしょうね。
そうですね。
そこの勝負でしょうね。
それもすごく大事なところで。
歌でも性格表れるんですよ。
もっともっとお話伺いたいところですがお時間となりました。
棋士の羽生善治さんをお迎え致しました。
どうもありがとうございました。
ありがとうございました。
永田さんでは次回もよろしくお願い致します。
「NHK短歌」時間でございます。
ごきげんよう。
2014/10/21(火) 15:00〜15:25
NHKEテレ1大阪
NHK短歌 題「鼻」[字]

選者は永田和宏さん。ゲストは棋士の羽生善治さん。羽生さんの名人戦を観戦した経験のある永田さん。緊張感のあふれる時間を短歌に詠んでいる。司会 濱中博久アナウンサー

詳細情報
番組内容
選者は永田和宏さん。ゲストは棋士の羽生善治さん。羽生さんの名人戦を観戦した経験のある永田さん。緊張感のあふれる時間を短歌に詠んでいる。【司会】濱中博久アナウンサー
出演者
【出演】羽生善治,永田和宏,【司会】濱中博久

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ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格

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