クローズアップ現代「公文書は誰のものか〜問われる1400万件の管理〜」 2014.10.21

日本国万歳!沖縄返還に関する費用を巡って日本とアメリカが交わした密約。
アメリカが保存していた外交文書は日本には存在していません。
政策決定に関わる文書など135万件の資料を保管する…膨大な公文書の中から歴史資料として重要な文書をどのように保存していくのか模索が始まっています。
政府は3年前公文書に関する新たな法律を施行。
各省庁での文書管理を徹底し歴史的価値があると見なしたものについては公文書館に移管して保存していく事を義務づけたのです。
今政府が扱う公文書は1,400万件。
重要な公文書を選別し保存する事の難しさを指摘する専門家もいます。
公文書は誰のものなのか。
次の世代に残していくための課題を検証します。
(国谷)こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
重要な政策や法律はどのような背景そして議論を経て決定したのか。
財政や社会保障産業農業安全保障の在り方などを巡って難しい課題が山積する中で政策決定のプロセスを記録そして保存し国民の知る権利に応えられるようにする事は民主主義の根幹に関わるとされています。
また歴史の検証に耐えられるように記録を保存する事はこの国の歴史を残すという意味でも大きな意義があります。
ところが東日本大震災の際重要な10の会議の議事録が作成されていなかったり年金記録がずさんに管理されていたりあるはずの重要な外交文書がなかったりするなど公文書の保存や管理の在り方が繰り返し問われてきました。
今夜取り上げるのは「公文書管理法」。
3年前に施行され公文書の保存だけではなく政府の意思決定のプロセスを検証できるようにするために重要な会議を記録するよう定めています。
誰がいつどの文書を残すべきと決めるのか。
法律では文書の作成者ができるだけ早く廃棄するか国立公文書館に保存するかを決めるとしています。
重要な文書が恣意的にあるいは誤って廃棄される事はないのか。
安全保障上特に重要だとされる情報を特定秘密に指定する事ができる特定秘密保護法の施行を2か月後に控えこの公文書管理法の重要性が高まっています。
というのも特定秘密に指定された文書が全て自動的に保存されるわけではないからです。
秘密の指定期間が過ぎた文書の中には廃棄するか保存されるのか選別されるものが中にはありその判断を誰が下すのか客観的なチェック体制は十分なのか問われています。
公文書管理の現場はどうなっているのか。
今回初めてカメラが入りました。
医療や福祉など国民の健康に密接に関わる政策を担う厚生労働省。
省内の130万件の公文書管理を監督する…3年前に公文書管理法が施行された事を受け今も省内の公文書の総点検を行っています。
文書管理に統一のルールを作り歴史資料として重要な公文書については全て国立公文書館に移管する事を定めた…公文書の作成者が省内での保存期間が過ぎた文書を移管するのかそれとも廃棄するのか。
あらかじめ設定しておく事が義務づけられました。
移管させなければならないと国が指定しているのは…こうした枠組みに入らない文書の価値をどう評価するのか判断が難しいケースもあるといいます。
平成24年度に長良さんたちが移管したのは…まだおよそ3万件の公文書の価値を判断できていません。
歴史的価値のある公文書の保存を巡って始まった試行錯誤。
近現代史が専門の東京大学の加藤陽子教授は日本はこれまで欧米諸国に比べ公文書の管理に関する意識が低かったと指摘します。
沖縄返還の費用の負担を巡る日本とアメリカの密約。
その外交文書は日本には保存されていません。
近年も防衛省で3万4,000件の秘密文書が防衛省だけの判断で廃棄されていた事が分かりました。
公文書管理法では重要な公文書が誤って廃棄されないための仕組みも設けられました。
各省庁が廃棄とした判断が正しいかどうか内閣府の職員が審査。
それによって移管に変更する事を可能とする仕組みです。
各省庁が廃棄とした公文書はどのように審査されているのか。
年間230万件以上に上る多種多様な公文書を4人で確認しています。
膨大な量を審査するため文書の中身まで確認する事はほとんどできないといいます。
判断の根拠としているのは省庁が作成した目録です。
ここには秘密文書扱いされていたかどうかなど文書の詳細は記されていません。
平成24年度歴史的資料として重要だとして国立公文書館に移管された公文書は1万件。
廃棄された文書は231万件に上りました。
各省庁が廃棄とした文書が保存に変更されたケースはほとんどありませんでした。
一方国に先駆けて独自に公文書の保存を進めてきた自治体もあります。
神奈川県は県民の要望を受けて20年以上前から公文書の保存に取り組んできました。
県庁での保存期間が過ぎた公文書は全て県立公文書館が一旦引き取る仕組みを設けています。
その数は年間20万件。
その中からどの文書を歴史資料として公文書館で保存するか。
13人の担当者が全ての文書に直接目を通して判断しています。
この日保存する事に決めたものの一つが保健福祉局の文書でした。
神奈川県は国の3倍以上の割合で公文書を保存しています。
国の公文書管理について有識者会議のメンバーとして提言を行ってきた学習院大学の保坂裕興教授です。
国が重要な公文書の保存を徹底していくためには更なる体制の整備が必要だと考えています。
今夜は行政学現代政治がご専門で公文書管理にもお詳しい東京大学教授牧原出さんをお迎えしています。
政府にある公文書というのはお伝えしてるように1,400万件あるんですけども1つのファイルを2センチの厚さだとして並べてみますとその量というのは東京から名古屋に達するという膨大な量で大変な作業ですね。
重要なものを選んでいくというのは。
確かに公文書管理法が出来て各省を通じて統一的なルールが出来たって事は非常に大きな前進だと思います。
ただ先ほどの神奈川の県立公文書館のように一件一件を公文書館の職員が見るという話じゃないと。
となるとですねやはり歴史的に重要な公文書をきちんと拾い上げる事ができるのかこれはまだまだ課題は大きいと思います。
内閣府の担当者は廃棄されたものの審査は4人で行ってるっていう事ですから本当に歴史的な検証に耐えうるもの国民の知る権利に応えられるその記録や物がちゃんと保存されてそれで管理されていくのかってちょっと気にかかるんですけれども何をもって重要なものなのか。
これまでやはり公文書として残ってきたものは例えば閣議決定の最終文書であるとか法律として最終的に残ってきたものだとかあるいは途中の段階でも法律の条文の案であるとかそういうものが多いですね。
それに対してやはり歴史的な検証に必要なのはどうしてそういう案が出来たかというそのプロセスを示す文書です。
ですからある種のメモみたいなものであるとか打ち合わせの時の決定された資料であるとかそういったものも大事なんですけれどもこれが残っていかないとなかなかやはり歴史的に検証するのは難しいと思います。
最初の案がこうで結果はこうなりましたっていうその経緯が大事なんですか?ええそうなんですよね。
どうしてそうなったかという事を示すためには先ほどあったようにそのこれまでのカテゴリーに入らないような文書というものもきちっと残していくというそういう仕組みをつくって頂きたいと思います。
ただ全体的に見ますとほんとに議事録が残されていなかったりあるいは管理がずさんで見つからなかったりといういろんな問題点がこれまで指摘されてきたわけですけども公文書管理がいわゆるずさんだったり非常に徹底されてないって背景には何があるんでしょうか?やはり日本の場合にはやはり沈黙は金であるとかしゃべらないとか残さないという組織文化があってやはりそういう文書を残しにくいというのがあったと思います。
それからやはり行政官というのは自分が行ってきた事は全体の部分であってそれは部分であるからあまり重要でないんだという事で残そうとしないっていうそういう傾向があったのもあります。
それからですねこれまでも過去の政策決定が重要な省庁でやはり公文書を保存していたというのがあるんですね。
ただそれでもそれはあくまでも行政の執務のためであって国民のためという意識がなかった。
それによってやはり資料が残りにくかったというのがあると思います。
本来は一つ一つの決定が歴史をつくっている。
そしてその文書というのは行政官のものではなくて市民のものだという。
そうですね。
やはりそれは民主主義の伝統というものであってそれをこれからつくっていく事が課題なんだと思います。
とりわけこの公文書管理法がこれから重要になってくるその背景には2か月後に施行されます「特定秘密保護法」というのがあるわけですけれどもこの秘密指定期間が30年を超える文書は指定が解除されると国立公文書館に自動的に移管はされるんですけれども30年以下のものは公文書管理法にのっとって移管をするのか廃棄するのか選択をされていくと。
その時に恣意的にあるいは誤って重要なものが廃棄されないだろうかと。
秘密が秘密のままに廃棄されないかっていうそういう懸念が少なくないですよね。
そうですね。
確かに公文書管理法が先に制定されていたという事でその枠組みの中でですね特定秘密を扱うのは大きいと思いますけれどもその特定秘密がきちんと保存されるかどうかという事はこれからしっかりと監視していかなければいけないと思います。
そのためにはやはりこれは第三者的なまなざしが大事になりますよね。
やはり第三者機関をしっかりつくってですねそれを監視していくという事ですね。
更にはマスメディアや国民がやはり監視していくという事も欠かせないと思います。
関心を持って見つめていくという事になりますか。
さあ次の世代による検証に耐えられるような公文書の保存や管理というのはどうあるべきなのか。
200年以上前から国を挙げて公文書の保存に取り組んでいるフランスのケースを次にご覧頂きます。
200年以上前から公文書の保存と公開に力を入れてきたフランスです。
先月歴史教育の一環として公文書館の見学会が行われていました。
週末に行われたこの見学会には1万2,000人近くの市民が訪れました。
フランスは公文書の管理に日本の3倍年間およそ60億円を費やしています。
去年は300億円以上かけて国内3か所目となる公文書館を建設しました。
こうしたフランスの公文書管理は市民がそのコストを引き受ける事で構築されてきました。
主権は国ではなく国民にあるとした18世紀末の人権宣言。
以来歴史的価値を持つ公文書は国だけのものでなく市民のものだという意識が形成されてきたのです。
重要な公文書を適切に保存していくためにフランスが重視しているのは文書管理の専門職アーキビストの育成です。
アーキビストになるためには法律や国家制度の歴史など数年間専門教育を受ける必要があります。
あらゆる分野の公文書の価値を的確に評価できるようになるためです。
養成されたアーキビストのうち800人が政府の公文書管理局から省庁などに派遣されます。
各省庁に所属しているアーキビストとチームを組み第三者の視点で文書管理の徹底を図ります。
各省庁で誤った廃棄が行われていないか厳格に判断するのです。
ブノワさんは厚生労働省の職員に文書管理について指導しています。
どのような公文書が歴史的に意味を持つのかアーキビストには前例にとらわれない柔軟な発想で判断を下す事が求められます。
この日ブノワさんが注目したのは職員が一旦廃棄とした公務員試験に関する文書でした。
合格者の点数が記されたこの文書は国家公務員の学力の変化を測る統計資料として大きな価値を持つと判断したのです。
更に別のアーキビストがブノワさんの判断を異なる視点でチェックします。
フランスで歴史的な価値を持つとして各省庁から公文書館に移管されるのは公文書全体の20%にも上ります。
こうやってフランスを見ますと省庁の中に専門家が2人もいてそれぞれの判断をチェックをしている仕組みがありますしまた国民の意識も非常に高い。
この公文書を巡る日本とフランスの意識の違いこれ隔ててるものは何なんでしょうか?まずフランスは日本と同じで単一主権国家であって連邦制の国家じゃない。
アメリカやカナダやオーストラリアは連邦制ですけど日本やフランスは違います。
その場合にはやはり中央政府に非常に大きな大量の公文書がやはり集まるんですね。
これを処理するためにはやはりそのための仕組みが必要でそれが今フランスであったように専門家アーキビストが各省庁に入ってそこで文書をチェックする。
何を残すかを決めていくという仕組みなんです。
ただそのフランスでもやはり第2次世界大戦でドイツに占領されたりとかいろいろなう余曲折がある中でこの仕組みをつくっていってそれが今機能しているという意味ではですね長い時間をかけてこの仕組みをつくっています。
日本もやはりこのフランスから長い時間をかけてそういう仕組みをつくるという事を学ぶべきなのが一つとそれからやはり長い時間例えば200年かけてですね公文書の仕組みをつくるという事の背後にあるのがやはり民主主義の伝統なんですよね。
やはりこれも日本はフランスから学ぶべきところが多いと思います。
はっきりと民主主義を機能させるためには公文書がきちっと保存・管理されなければいけないっていう意識が徹底してるんですよね。
そうですね。
やはりそれは国民があれだけ関心を持ってるわけですからね。
それは日本の国民もやはりそういうところを学んで是非公文書館に関心を持ってほしいし行ってほしいと思いますね。
日本は200年かけるわけ…そんな時間はないわけですから例えば省庁の中で公文書の今取捨選択が行われてるとすればその中にアーキビスト専門家の方々が省庁の中にいるという事が当たり前になるっていう事を目指すべきでしょうか?やはりきちんとした移管をするためにはその早い段階から文書の選別が必要です。
そこにはやはり専門家が入らざるをえないんですよね。
ただどういう専門家が必要かとなった時にまだ日本は体制がぜい弱です。
数が少ない。
専門家の数が少ないと。
それだけじゃなくてやはり彼ら彼女たちはですね各省と交渉するための交渉力もなきゃいけないしそのために専門家として尊敬される人たちじゃなきゃいけない。
そういう人たちをこれから時間をかけてやはり育成していくという事が大事だと思います。
情報の面で歴史家でもあるし科学者でもあるという大変な職業だと思うんですけども今のこの時代日本にとってその公文書の管理が適切に行われる事の意味これどう捉えたらいいでしょうか?やはり低成長時代になって政策決定が難しいような問題がすごく増えてると思うんですよね。
もう年金とか財政だけじゃなくて環境問題それから災害とか安全保障。
こうした領域に日本がぶつかるというのはこれはもう日本は世界のフロントランナーであるわけでその日本がどうして決めたかって事は世界にとっても意味があるしそしてなんといっても次世代に対する責任説明責任ではないかと思います。
ほんとにこの借金巨額の借金があるわけですけども例えばなぜそういう事になったのかという事を次世代の人たちが自分たちの目で検証して分かるようにしなければいけない。
そのために新しいこのためにいろいろ検証した上でやはり新しい問題に次世代の人が取り組んでいく。
それを残す責務が私たちにはあるんじゃないかと思います。
ありがとうございました。
今夜は東京大学教授牧原出さんと共にお伝えしてまいりました。
今夜の「クローズアップ現代」はこれでお別れです。
2014/10/21(火) 00:10〜00:36
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「公文書は誰のものか〜問われる1400万件の管理〜」[字][再]

いま膨大な公文書の管理が、各省庁や地方自治体の課題になっている。管理のあり方を問われる事態も後を絶たない。海外の事例も見ながら、文書の適正管理に何が必要か考える

詳細情報
番組内容
【ゲスト】東京大学教授…牧原出,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】東京大学教授…牧原出,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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