きょうは2人の女性閣僚が辞任しました。
東京の下町根津。
ふらりと入ったその店は桁外れな魚屋だった。
高級な魚が驚くほど売れる。
並べられているのは一串120円のメザシから根室産最高級のベニジャケ一切れ1,000円。
築地でも「屈指の目利き」と評判の男が選び抜いたものばかりだ。
その男はやたらと腰が低い43歳。
この日この男が築地で目をつけたのは一尾1万円を超える明石鯛。
この極上の鯛を獲ったのはどんな漁師なのか。
聞けば地元で10年連続水揚げ1位を記録する伝説の鯛漁師がいるという。
ハハハハハハハ。
今夜の「プロフェッショナル」は特別企画。
魚を生業にする男たちの不屈の物語。
(競りの鐘)その魚はどのようにして私たちの食卓に届けられるのか。
その道をたどると知られざるプロフェッショナルたちの仕事が見えてきた。
漁師の朝は早い。
枕元には人生訓。
「あせるなおこるな」の文字。
台所では妻が弁当の支度をしていた。
結婚から42年。
この日課を一度も欠かした事はないという。
15の時から海に出てこの道一筋に生きてきた。
兵庫・明石浦は鯛の最高級ブランド「明石鯛」で全国にその名を知られる漁港だ。
戸田はここで明石鯛の水揚げ10年連続1位という前人未到の記録を今も更新し続けている。
港を出て30分余り。
戸田が船の速度を緩めた。
戸田が手がける「吾智網漁」は40メートルもの長い網を用いて魚を追い込む極めて難しい漁法だ。
漁の成否は潮の流れをいかに読むか。
鯛が生息する磯などのギリギリに網を落とせれば大量の鯛がかかる。
だが潮を少しでも読み間違えれば鯛は一匹もかからない。
当たり外れの大きい漁だ。
この日は風があり潮の流れが速い。
網が潮に流される距離を計算する。
その精度の高さこそ戸田の真骨頂。
通常より5メートル離して網を慎重に下ろしていく。
そして網が広がりきる瞬間を待つ。
鯛を逃さないよう素早く網を引き上げた。
鯛は潮と共に居場所を変える魚だ。
それを読み切るのは名人の戸田といえども容易ではない。
次も一匹もかかっていなかった。
それでも戸田に焦るそぶりは見えない。
妻が焼いたトーストをゆったりと食べ始めた。
この日はまれに見る不漁。
諦めていつ港に引き返してもおかしくない状況だ。
それでも戸田は網をかけ続けた。
この姿こそ30年に及ぶどん底を乗り越えた戸田の生き方そのものだ。
戸田さんは明石で代々続く漁師の家に生まれた。
幼い頃からその心を捉えて離さない魚があった。
当時極めて漁が難しいとされていた鯛。
桜色に輝く美しい姿に惹かれた。
「明石で漁師として生きる以上鯛を専門に獲ってみたい」。
父も手を出さずにいた難しい鯛漁を一から始めた。
だが鯛が生息する磯がどこにあるのかさえ分からない。
短気な戸田さんは網を投げ急いでは磯に引っ掛け破ってばかり。
朝から晩まで粘っても一匹も獲れない事もざらだった。
(競りの鐘)時は高度経済成長期。
明石の鯛は高値で売れた。
しかし戸田さんは遠くからその光景を眺める事しかできなかった。
吾智網漁に挑み始めて10年。
戸田さんは悦子さんと結婚。
念願の所帯を持った。
だが鯛は一向に獲れない。
戸田さんは他の魚を獲っては細々と食いつないだ。
少しでも収入を増やそうとのりの養殖を始めた。
けれど慣れない仕事に体調を崩し胃潰瘍で倒れた。
漁師仲間からの心ない言葉が聞こえてきた。
そんな戸田さんを支えたのは悦子さんだった。
子育てをしながら港で毎日夫の帰りを待ち続けた。
「今日もあかんかった…」。
肩を落とす夫に一つの言葉を繰り返しかけた。
戸田さんは悦子さんのために鯛を何としても獲ろうと思った。
来る日も来る日も根気強く潮の流れを観察した。
そして鯛が生息する海底の地形を頭にたたき込んだ。
吾智網漁を始めて20年。
それでも獲れない。
戸田さんは地道な努力を一つ一つ積み重ねてはひたすら「夜明け」を待った。
思うように鯛が獲れるようになった時戸田さんは50歳になろうとしていた。
(笑い声)出港から既に4時間。
いまだ鯛はさっぱり獲れていなかった。
諦めた仲間は次々と引き揚げていく。
だが戸田は待つ。
最後の切り札があるという。
その時だった。
(取材者)前兆というか?
(戸田)そうそう。
海面に僅かに浮かぶ筋状の泡。
満ち潮の前兆を戸田は見逃さなかった。
速かった潮の流れがいっときだけ緩む。
この瞬間に賭ける。
30匹を超える鯛がかかっていた。
(取材者)うわ〜すごい。
他の船が不漁にあえぐ中この日一番の水揚げを記録したのはやはり戸田だった。
明石海峡でもまれた質のいい魚が水揚げされる兵庫・明石浦。
(競りの鐘)この漁協は魚の質を更に高めるため特別な仕掛けを生み出してきた。
総工費7,000万。
全国でも珍しい魚専用の巨大プール。
24時間新鮮な海水と空気で満たす事で魚の鮮度を保つ。
戸田さんたちが獲ってきた鯛もいったんこのプールに放され競りの時間を待つ事になる。
競りでは仲買人の厳しい目にさらされる。
生きているからこそごまかしのきかない生きの良さや身の締まり具合。
選び抜かれた鯛だけが「明石鯛」と認められるのだ。
だがこだわりはそれだけではない。
明石鯛を明石鯛たらしめるプロフェッショナルの仕事がある。
伝統の「明石締め」。
用いるのは「手鉤」と呼ばれる特殊な道具だ。
鯛を一撃で脳死させる事で暴れて身が傷むのを防ぐ。
そして脊椎に針金を通して死後硬直を遅らせ魚のうまみ成分を引き出す。
「漁師が獲ってきた魚を最高の状態で食卓に届けたい」。
その思いと共に全国各地へと発送されていく。
明石の鯛は翌朝一番には東京・築地に到着する。
一日の取引高15億円。
世界最大級の市場だ。
その築地で明石鯛を待ちわびる一人の男がいた。
今築地で最もいい魚を仕入れると言われる…気さくで腰が低い。
だが求める魚の質はめっぽう高い。
客から注文が入っていた魚。
ところが…。
松本の流儀。
それは至ってシンプルだ。
松本はたとえ嫌がられようとも魚を箱買いせず一匹一匹目利きをする。
朝8時。
築地から戻ると最も大切にする仕事が始まる。
この日の仕入れは35万円。
どれだけいいものを買い付けようとも生かすも殺すも仕込みの腕次第。
松本はその徹底した仕事では「誰にも負けない」と自負している。
膨大な手間を要するアワビの汚れ。
残らず全てこすり落とす。
シマアジは厚さ僅か0.3ミリのウロコを一枚残らずそぎ落とす。
更にお年寄りや子供でも安心して食べられるよう骨も抜く。
魚の本当のおいしさを一人でも多くの人に知ってもらうために松本は持てる技術を注ぎ込んでいく。
11時の開店まであと30分。
ショーケースに自慢の魚が並び始めた。
そしてあの明石鯛に取りかかった。
だが漏れてきたのは意外な言葉。
刺身でも十分うまい。
しかしほんの少しだけ水っぽさを感じる。
このままでは若干味がぼやけた印象になりかねない。
突然野菜を切り始めた。
蒸す事で余分な水分を抜き鯛の持つ繊細な味わいを浮かび上がらせる。
松本の出した答えだった。
鯛は昼過ぎには完売した。
魚を商う事への誇り。
それは松本が生涯を懸けてその背中を追うと決めた人物から受け継がれた。
松本さんは鮮魚店の3代目と期待されて北海道旭川に育った。
だが「魚屋はかっこ悪い」と家業を継ぐ気はさらさらなかった。
18歳の時ハリウッドスターを夢みて海を渡った。
しかしたった1年で帰国。
しかたなく東京で職を探す事にした。
見つけたのはあれだけ嫌だと思っていた鮮魚店でのアルバイト。
毎朝築地に通っては商品にならない魚を拾い集め加工して売るのが仕事だった。
そんな中帰省した旭川であの見慣れていたはずの光景に胸を打たれる。
それは父の魚屋。
旬で質の高い魚だけを選び抜き手をかけ愛情たっぷりに売っていた。
父二朗さんは松本さんに言った。
「父のようになりたい」。
それまで働いていた店を辞め質にこだわる高級鮮魚店で修業を始めた。
毎朝社長について築地に出向き魚の目利きを一から学んだ。
寝る間も惜しんで仕込みを覚え1年で店長を任されるまでになった。
そして5年後33歳の年の瀬。
突然訃報が飛び込んだ。
魚屋の誇りを教えてくれた父ががんで亡くなった。
なきがらと対面した松本さんはある決心をする。
松本さんは不景気の中独立。
出店の資金2,000万円は借金した。
毎朝築地に通ってはお金に糸目をつけず最高の魚だけを買い付けた。
しかし現実は甘くはなかった。
「高すぎる」と客からは敬遠されさっぱり売れなかった。
売れ残った魚は家に持ち帰り自分で食べるしかなかった。
資金は減る一方。
仕入れられる魚は限られていく。
だがここで「二の線」に手を出せば父のようにはなれない。
出口のない毎日が永遠に続くように思われた。
だがその度に松本さんの脳裏にあの父の店が浮かんできた。
「ここで逃げてはいけない」。
仕入れの量は減らしてでも最高の魚だけを買い続けた。
どうすればおいしさを最大限引き出せるか仕込みを突き詰めた。
そして求められればどこまでも配達に走り回り客がつくのを待った。
・独立から7年。
店は今「少々高くてもおいしい魚を食べたい」という客でにぎわう。
海で漁師が獲った魚。
その道をたどるとこだわり抜かれた仕事があった。
そして行き着いたのは…。
わ〜来た〜!
(拍手)「魚を火で焼く」という極めてシンプルな料理法で全国から注目を集める職人がいる。
皮はパリッと香ばしく身はもっちりふっくら。
「日本一の焼き魚」と称される魚を焼き続けて36年。
日本一と名高いそのゆえんは炭火で魚の水分を絶妙に抜きうまみを最大限引き出すその技術にある。
炭火の強弱を魚の水分が異なる部位に合わせ巧みに焼き上げていく。
ハハハハ。
3年前村上はかつてない困難に直面していた。
(女性)えぇ〜!夢じゃないよね?えぇ〜!生まれ育った気仙沼が津波にのみ込まれた。
それでも村上は店を建て直し1年半でなんとか営業再開にこぎ着けた。
おはようございます。
震災を経て魚を生業とする村上が強く思うようになった事があるという。
この日も魚屋の松本は仕込みをして客を待っていた。
だが客足は悪く思いの外魚が売れない。
仕入れをした者にはその命を粗末にしない「務め」がある。
(松本)今日これが安くておいしいです。
おつゆ作ろうか。
鰯は単価が安いためつみれにする手間は割に合わない。
だが松本はそれをいとわない。
閉店まであと僅か。
鰺が3尾売れ残っていた。
翌日に回すと刺身ではすすめられないため塩焼き用におろし始めた。
店の事を考えれば明日には何としても売らなければならない。
だが自信を持って仕入れた鰺。
今日食べるのが一番うまい。
松本が迷い始めた。
松本は自宅に持ち帰り家族で味わう事にした。
この日は赤字。
それでも松本の顔に曇りはなかった。
(取材者)ありがとうございました。
ありがとうございます。
(主題歌)魚を生業にするプロフェッショナルたち。
今日も漁師は海で魚を獲る。
その魚をどうすればよりおいしく食べられるのか。
考え抜く人たちがいる。
とにかく自然が相手やからな。
そやからものすごい苦しい時1週間でもあるもんな。
「待つ」いう事がほんまのこれ哲学や思うわ。
それしかない。
どうもどうも。
一つ一つ丁寧にお客さんに迷惑かけないようにお魚に迷惑かけないように自分の仕事を手を抜かないで一生懸命やるっていう事だけだと思います。
2014/10/20(月) 22:00〜22:50
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「魚スペシャル〜魚とともに生きる男たち〜」[解][字]
特別企画。“魚”にまつわるプロを特集。築地市場で「最もいい魚を仕入れる」と評される下町の鮮魚店主。明石浦でタイの水揚げ10年連続1位を記録する伝説の漁師が登場。
詳細情報
番組内容
特別企画。“魚”にまつわるプロの仕事を大特集。日本人にとって身近な食材であり続けてきた魚はどのように獲られ、食卓に届けられるのか?その道をたどると知られざるプロの仕事が見えてきた! ▽いま築地市場で「最もいい魚を仕入れる」と評される下町の鮮魚店主 ▽明石浦でタイの水揚げ10年連続1位を記録する伝説の漁師 ▽震災で店を津波に流されながらも店を再建した「日本一の焼き魚」を供する料理人。熱き男たちの物語
出演者
【出演】戸田修一,松本秀樹,村上健一,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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日本語
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