(拍手)先月世界遺産に登録された群馬県の富岡製糸場。
(一同)万歳!絹産業の発展を示す遺産として高く評価されました。
(一同)イェーイ!イェーイ!「四国遍路を世界遺産に」。
88か所霊場が開かれて1,200年とされる今年取り組みが加速しています。
遍路の価値を学術的に証明するための札所の調査。
荒れた遍路道を整備して昔ながらの景観を取り戻そうとする人たち。
行政や市民が一体となって取り組みを進めています。
四国遍路世界遺産への道のりにはどんな課題があるのか?登録を目指す動きを通して貴重な文化をどう守っていくのか考えます。
「四国羅針盤」です。
四国に住む私たちにとって札所は近所のお寺であり遍路道は生活道路であるなど大変身近な存在です。
今日はその四国遍路の世界遺産を目指す道のりと課題に迫ります。
日本国内には現在18の世界遺産があります。
古都・京都や広島の厳島神社そして富士山など。
そこに先月群馬県の富岡製糸場が加わりました。
世界遺産になると文化財を守りやすくなったり飛躍的に知名度が上がって大幅な観光客の増加を見込む事ができたりなど多くのメリットがあります。
そこで四国各県や経済団体などを中心に2006年四国遍路は世界遺産を目指すと宣言しましたしかし道のりは平坦ではありません。
ユネスコから世界遺産として認定を受けるために今四国遍路は札所や遍路道について国の文化財保護法の対象となる史跡や重要文化的景観などとしての指定を受ける事を目指しています。
そのためには札所や遍路道が学術的な価値があると証明できなくてはなりません。
四国遍路の世界遺産を目指す取り組み。
まずはその現状をご覧下さい。
先月県の職員が文化財の調査の準備に訪れました。
(北山)お世話になってます。
こちらこそお世話になります。
(北山)今日は今度の調査の事で打ち合わせにまいったのでまたよろしくお願いします。
ご苦労さまでございます。
この札所には石像物や古文書など遍路の歴史を物語るたくさんの文化財があります。
境内の一角には江戸時代のお遍路の墓が残っていました。
調査など世界遺産に向けた取り組みの中心となるのが登録推進協議会です。
自治体や88の札所でつくる霊場会大学などが8年前に立ち上げました。
協議会がアピールしているのは遍路特有の文化のすばらしさです。
四国全体を巡る道や88ある札所。
更にお接待など地域の人たちが受け継いできた文化は世界に誇る遺産だと訴えてきました。
そして去年国がユネスコに推薦する候補「暫定リスト」に入るという大きな目標を掲げました。
国内にある18の世界遺産。
次にその座を狙う暫定リストには武家の街・鎌倉や長崎の教会群など11件が認定されています。
ここに四国遍路を2年後に入れると宣言したのです。
世界遺産になるにはこのリストから国が推薦した候補をユネスコの諮問機関が調査。
世界遺産委員会の審査に通ると正式に認定されます。
今四国遍路は暫定リストの1つ下のカテゴリーに入っています。
京都の天橋立や熊本の阿蘇など5つの候補がリスト入りを目指してしのぎを削っています。
暫定リストを決める文化庁。
四国遍路は歴史的に価値のある文化財の洗い出しが足りていないと指摘しています。
おはようございます。
課題を克服するために地道な調査が続いています。
おはようございます。
去年から愛媛大学の研究チームが蔵に眠っていた1万6,000点余りの文化財を調べてきました。
学術的な価値のある新たな資料がいくつも見つかっています。
研究グループでは調査を他の札所でも続け史跡としての寺の価値を示したいと考えています。
古い遍路道を復活させ景観を取り戻そうとする動きもあります。
愛媛県南部の山中に集まったのは世界遺産に向けた活動を続ける住民団体です。
岩が崩れて通れなくなった道を半年かけて少しずつ整備してきました。
これはもう昔から…整備をしている道は巡礼の道筋を示した古い絵図にも描かれています。
40番札所観自在寺から北に延びるこの道。
かつてはお遍路だけでなく大名も通った主要な道でした。
結構重いからね。
更に整備した道の近くに空き家を借りてお遍路の宿泊所の準備も進めています。
道だけでなくお接待の文化も大事にする事が世界遺産につながるとメンバーは考えています。
作業は全てボランティア。
足りない予算は民間企業に掛け合って集めました。
夏までに完成させる予定です。
行政や市民が一体となった取り組みが進む一方で遍路特有の課題も見えてきました。
登録推進協議会の事務局を務める香川県。
各県の調査の状況を取りまとめています。
力を入れてきたのが札所や道が文化財保護法の対象となる国の史跡に指定される事です。
例えば愛媛県。
赤い部分が国の史跡を目指す場所です。
しかし実際に指定を受けた場所はまだなく今後の見通しも立っていません。
遍路道の多くは住民が生活で使う道でもあります。
アスファルトで舗装された道も多く文化財としての価値を認めてもらうのは容易ではありません。
更に札所も時代とともに姿を変えています。
老朽化などのために新しくされた建物も少なくありません。
できるだけ…更に国の史跡になる事に慎重な寺もあります。
住職の青峰良穎さんです。
国の史跡になると現状を保つ事が義務付けられるためリスクもあると考えています。
史跡になった場合特に心配しているのが瓦屋根の維持です。
江戸時代に建てられた鐘楼。
傷みやすい瓦は定期的にふき替えが必要です。
昔ながらの手法で現状を保とうとすると費用がかさみます。
史跡になる事で寺の経営に影響が出る事を懸念しています。
スタジオには熊野古道で知られる世界遺産紀伊山地の霊場と参詣道の遺産登録に携わった和歌山県世界遺産センターセンター長の辻林浩さんにお越し頂きました。
辻林さん四国遍路の世界遺産への道のり現状見てみたわけですけれどもまだいくつもハードルがありそうですね。
そうですね。
今見せて頂いた中で文化財保護法で保護しきれてない物件がたくさんあるという事なんですね。
史跡あるいは名所にしてもそうなんですけども所有者から承諾書を取るのが大変な作業になると思いますね。
特にお寺が88もあって距離が1,400キロそのうちでどれだけの距離が残ってるかは別としましてもかなりの数の同意書を取る大変な作業がこれから先に待ってると思うんですよね。
一つ一つクリアーしていかなきゃいけないという事ですよね。
それともう一つあるのはお遍路がいつから始まったか。
どんなふうな変遷があったのか。
その辺も史実に照らし合わせて明らかにするという作業も大変な作業じゃないかなというふうな気がします。
「2年後には暫定リスト入り」を目指すとしていますがどうですか?これは可能ですか?非常に楽ではないという見方をされた方がいいんじゃないかと思うんですけどもね。
というのは「1つ抜けたから次足していく」というようなシステムをとってないと思うんですよね。
ああ…日本の富岡製糸場が世界遺産になったからそこにもう一個いけるかというと…。
そうじゃないと思うんですね。
ある程度数が抜けてから補充するという形になるかと思いますしそれと同時に世界遺産委員会が登録を少しずつ規制していこうというふうな動きがある中ですぐにっていうのはそれほど楽な話ではないと思います。
世界的状況また国内的状況から見てもそう簡単にいく話ではないと…。
そう思いますね。
あと似たような世界遺産が他にある場合に認定されにくいという事も聞くんですがこの点はいかがですか?世界遺産委員会で同じ国の同じようなコンセプトの資産は2例目は推薦しないというような決まりがあるようでしてなかなか難しい話なんですけども…。
四国遍路は「道」というふうに捉えると熊野古道であったりスペインの巡礼の道…。
既に世界遺産に登録されているだけの道じゃなくて登録されてなくても他にある道と比較検討した上でより価値が高いんだよという証明が必要なんですよね。
それをどうするかっていうのがちょっと大変かなと。
他には秩父だとか坂東だとか西国っていうような観音霊場があるわけですけどもそういうものとどんなふうに違いがあるのか。
しかもそれよりもより価値があるんですよという証明をどうするかっていうところがあるかなと思うんですね。
そう考えますと辻林さん四国遍路の世界遺産を目指す動きをご覧になってるわけですが四国遍路のアピールすべき最大のポイントっていうのはどういうところだというふうにお考えになりますか?僕はやっぱり他には見られないお接待の文化だと思うんですよね。
基本的にこういうある意味目に見えないというんですかね形のない文化っていうのは登録の条件にははまらないんですけども文化遺産の登録条件の一つにそういうものも加えて登録するっていう登録のしかたがあります。
私どももそれ使ってるんですけども。
そういう意味でするとやっぱりこのお接待の文化って非常に需要な要素があるんじゃないかなって思うんですね。
お寺と道だけではないもうプラスアルファという事ですね。
はい。
いろいろな課題が世界遺産を目指す上であるという事が分かりますけれども辻林さんが世界遺産登録に尽力された和歌山県の紀伊山地。
実はこちらもいろいろな課題を克服するためにさまざまな手段を活用して保護を進めていったそうです。
ご覧下さい。
10年前に世界遺産に登録された和歌山県の紀伊山地です。
参詣道と霊場から成る遺産は四国遍路と共通点が多く同じような課題を抱えていました。
まず辻林さんは史跡に指定される事への寺や神社の不安を取り除く方策を考えました。
例えば参詣ルートの重要な拠点となる熊野本宮大社の跡地。
かつて神社の中心となる社殿があった高台です。
その高台の外側の場所は奉納イベントで仮設の建物を造るなど神社はさまざまな使い方ができるよう望んでいました。
そうした事情をくみ取り規制をいくつかの段階に分ける事にしました。
社殿があった高台のエリアは一切の変更を認めません。
一方外側は条件付きで多少の変更を認め神社の了解を得ました。
参詣道を広く価値ある道として認めてもらうための知恵も絞りました。
紀伊山地の参詣道は延べ600キロにも及びます。
四国の遍路道と同じように舗装された道が多くあります。
国の史跡は赤い部分だけ。
つながった道としてユネスコに価値を認めてもらうために使ったのが「バッファゾーン」という考え方です。
世界遺産になるには史跡に指定された道の周辺に緩やかに保護を行う緩衝地帯「バッファゾーン」を設ける必要があります。
辻林さんたちは史跡にできない道はこのバッファゾーンとして広く申請する事にしました。
これによって参詣道の多くを世界遺産を構成する道として認めてもらう事に成功したのです。
関係する人たちの不安を取り除いたり和歌山も結構な苦労があったという事なんですね。
そうですねまあ世界遺産にかかわらず文化財に指定するという時はもうほとんどの方何も手を着けられないんじゃないかって心配される方多いんですよね。
だけどそうだからといってそうですかと引き下がるわけにいかないですしその方たちにはなぜ世界遺産に登録するかっていう…その登録するための意味あるいはそれの持ってる思想というのをきっちりと説明してあげる事が大事だと思うんですね。
そうする事によって不安が取り除ける。
それと同時に所有者の方ときっちり話し合って社寺がこれから先どんなふうな開発計画をお持ちなのか伺ってその上で一緒になって考えて両者が立つような方法を考える必要があるんじゃないかなと思いますね。
世界遺産を目指すというのは非常に息の長い取り組みが必要になるというふうに感じるんですけれども世界遺産を目指す上で一番大切な事は何だというふうにお考えになりますか?まず世界遺産の前に国の文化財であるという事が大事なんですね。
それは何かっていうと「守っていく」という事が大事だと思うんですね。
資産をきっちり守ればいろんな方面に波及効果がある。
特に今日本の世界遺産に登録されてるものはどちらかっていうと…。
私どもを含めてそうなんですけども観光にどんどんどんどんシフトしていってるんじゃないかという見方ができるかと思うんですよね。
観光目的のために世界遺産を目指す流れがあると。
何となくそんな感じがするところがあるんですよね。
だからそうじゃなくて基本は世界遺産となる資産をきっちり後世に残していくために保存をするという。
それがまずあってそれからいろんな事を一緒になって考えればいいんじゃないかなと。
そうでないと世界遺産になる意味がないと思うんですね。
世界遺産になるのはでは目的ではなくて手段という事ですか?守るための。
世界遺産というのはやはり守るのが第一義で活用っていうのも当然あるんですけども両立させる方法を考えていく必要があるんじゃないかなと思いますね。
どちらかっていうと登録さえすればあとは他の方向に走ってもいいんだという感じを受けるんですけど実はきっちり守る事によって初めて他のものが一緒になってついてくるっていう考え方を持たないと世界遺産に登録する意味がないんじゃないかなと思います。
地元の盛り上がりも大事ですか?これはもう一番大事ですね。
一番大事なのはそれじゃないかと思う。
なぜかっていうとその地元の人が盛り上がるという事は世界遺産をきっちり守っていこうとする姿勢があるという事です。
ここの場合は…霊場となってるお寺にはちゃんと檀家さんがおられて今までず〜っとこの遍路を盛り上げてきたわけですし沿道にはお接待という文化が残ってます。
だから社寺と道だけじゃなくてお接待に関わる遺産というんですかねこれをもう少しリストアップしてそれをメインにして出していくぐらいのやり方の方がここの世界遺産の登録には近いんじゃないかなって気がせんでもないんですが。
ありがとうございました。
和歌山県世界遺産センターセンター長の辻林浩さんでした。
1,200年の歴史を持つとされる四国遍路。
これが世界的に評価される事は四国の人々にとって大きな誇りです。
四国遍路をどう守っていきたいか。
それを考え抜く事でとるべき道が見えてきそうです。
「四国羅針盤」でした。
2014/10/20(月) 15:15〜15:41
NHK総合1・神戸
ろーかる直送便 四国羅針盤「遍路 世界遺産への道」[字]
四国八十八か所霊場の開創1200年となる今年、四国遍路の世界遺産登録に向けた動きが加速している。関係者の取り組みを取材し、登録への課題にどう向き合うのか考える。
詳細情報
番組内容
四国八十八か所霊場が開かれて1200年とされる今年。四国各県や霊場会などが四国遍路の世界遺産登録に向けた取り組みを加速させている。学術的な価値を証明するための札所・遍路道の調査や、荒れた道を整備して復活させようとする動きがある。一方でアスファルトで舗装された道が多く史跡指定を受けにくいなど、生活に根差しているがゆえの課題も浮き彫りになっている。世界遺産登録に向けた現状と課題を専門家とともに考える。
出演者
【ゲスト】和歌山県世界遺産センター センター長…辻林浩,【キャスター】鹿沼健介
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