五感を刺激し食欲を駆り立てる極上の料理。
それは料理人たちの情熱と卓越した技の証し。
一度食べたら忘れられない味。
その神髄に迫ります。
豊かな自然の恵みで四季の移ろいを表す日本料理の世界。
中でも「日本料理の華」と言われ料理人の技や感性が最も現れるのが「お椀」です。
その高みを目指す事に懸ける料理人奥田透さん。
世界的レストランガイドで7年連続三つ星を獲得。
その名は海外にも知られています。
深まる秋奥田さんが持てる力を惜しみなく注いで生み出す「えびしんじょの椀」。
日本料理の粋が詰まっています。
決して強さではなくすごさではなく何か優しさだったり日本人が持ってる奥ゆかしさが料理として表現されているのが「お椀」じゃないかなと思います。
豊かな風味がいつまでも余韻として残る極上のだしと柔らかなしんじょの出会い。
まつたけと柚子の香りが深まる秋を感じさせてくれます。
小さな椀の中で全てが調和して生まれる珠玉の味です。
(谷原)失礼いたします。
おじゃまいたします。
こんにちは。
はじめまして。
谷原と申します。
奥田です。
よろしくお願いします。
どうぞどうぞそちらに。
お待ちしておりました。
すみません。
早速座ってもよろしいんでしょうか。
ありがとうございます。
すみません。
本日は和食の達人である奥田さんにちょっとお料理の…。
和食といいますと世界遺産になったりとかとても注目をされてますので手ほどきを頂きたいと思って来たんですけれども。
ありがとうございます。
早速谷原さんが頂くのは今日の主役。
出来たての「えびしんじょの椀」です。
だしのいい香りがしますね。
じゃまずだしから。
う〜んおいしい!えびしんじょ。
ふくよかですね。
う〜ん。
このえびの食感と周りの包まれてる衣の部分もまろやかといいますかねっとりとしたといいますか。
日本料理としては定番なんですけど逆に言いますとこれから先もずっと受け継がれていくべきすばらしい料理かなとは思いますね。
是非この「えびしんじょのお椀」を教えて頂きたいと思うんですが僕にできますでしょうか?もちろんもちろん。
意外と簡単だと思います。
また簡単だとおっしゃいますけど…。
まずはこのえびしんじょ。
ふっくらと仕上げる技に迫ります。
えびはですね背ワタがあるんですね。
それも一緒に取れちゃえば楽かなと。
まずここでこうして。
ここに背ワタが出てきます。
これも一緒に。
つまんでれば…。
それ取れちゃうんですねそれで。
こんな感じです。
ここを開けます。
先ほど背ワタは取ってるんですけどまだここに若干の砂ですとか取りきれなかったワタが残ってる事がありますのでこうはじくと。
半分に切ります。
ただあんまり大きすぎるとしんじょの生地と一体にはならない。
あんまり小さすぎると今度一体にはなるんですけどかんだ時のアクションが出てこないという。
そうしますと多分このくらいの大きさがベストかなと。
1cm角前後ぐらいって事ですね生の状態で。
決して難しい事ではないんですけど一つ一つの事が少しずつずれていくと仕上がりがそのままずれて味が変わっていっちゃうんですね。
一つ一つの事きちんとやっていくと完成度の高いものになって。
簡単なんですけどちゃんとしたものが出来るという事ですね。
焦点がきちっと合ったものになるって事ですね。
えびしんじょのしんじょの生地ですね。
すり身を作ります。
すり身といいますと大きなすり鉢でやるのかなと…。
もちろん私がこういう業界入った時はすり鉢でやってました。
最近はプロセッサーの方が回転率が速いので仕上がりがフワッとするんですね。
もととなる白身魚はたらを使います。
甘みとえびとの相性ですとか。
それで選んでいくんですね。
ここでお塩ですね。
お塩入れる事によってたら自体の甘いところが逆に出てくる。
スイカにお塩をかけるような感じ。
それとお塩を入れる事によってたらから少しずつ水分が出てくるわけですね。
それが逆に今ちょっとパサパサしてるところが最初のつなぐ役になっていく。
これが山芋です。
山芋入れるんですか?入れます。
そうすると生地がふっくらと。
そうですねフワッとするんですね。
もともと「しんじょ」の「じょ」という字は薯蕷饅頭の「薯」である意味山芋を意味するんですね。
そうなんですか。
じゃあ次の卵白ですね。
じゃくず粉いきましょうか。
山芋だけですとフワッとはするんですけど少し重たい。
芋っぽくなってしまう。
卵白だけですと今度サラッとし過ぎてうまみがない。
くず粉だけでつなごうと思うと今度粉っぽくなっちゃうんです。
何回も試したんですけどやっぱり一つずつが何か外れてしまうとうまくいかないんですよね。
いろいろ試したその究極の組み合わせはえびしんじょに関していうとこの組み合わせという事なんですね。
こんな感じですかね。
すり身になってきましたね。
もう完成ですか?これだけだとちょっとおいしくならないんですよ。
これで完成じゃないんですね。
そうなんですよ。
ここで加えるのが卵の黄身で作る「卵の素」。
これが奥田さんのえびしんじょの最大の決め手です。
油を少しずつ入れてマヨネーズ状につないでいきます。
ある意味これが水で油ですのでたくさん入れてしまうと分離しちゃうんです。
ですのでほんの少しずつだましだましでいって固まり始めたら量を増やしていく。
最初だけ恐る恐るほんとに少しずつ。
これ結構疲れる作業じゃないですか?そうなんですよ。
昔は若い頃はほんとにすり鉢と裏ごしとこういうのだけですよ仕事は。
ハハハ!という事は今は若い衆にやってもらってるお仕事なわけですね。
そうですね。
さすがに疲れてきましたよね。
これでもだいぶ様子変わってきましたね。
そうなんですよ。
これぞ奥田流「卵の素」。
えびしんじょにコクとうまみが加わりふっくらとした食感になります。
これで出来ましたね。
こんな感じですね。
うわっ!滑らかで。
一見洋菓子とかで使うような。
そんな感じですよね。
生地とえびを混ぜます。
手で混ぜた方がいいんですね。
そうですね。
しんじょの滑らかさですとかえびの入ってる量ですとか手の加減が一番分かりやすいかなと。
ここから形にするんですけど1つの大きさ…ちょうどこのくらいですね。
これをこちらとこちらでまず空気を抜くようにして丸く取っていくわけですね。
角を角を丸く取っていきます。
で最後…。
意外と不規則の方がお料理って面白かったりするのでちょっと崩したところが面白いのかなって感じですね。
ちょっと…あ!滑らかで気持ちいいですねこれ。
そのくらいですね。
でこういう感じですね。
上手ですね。
何か和食とかしんじょとかってすごくハードルが高い料理な感じがするんですけど手でこうやってこねる段にくると子供と一緒にやっても楽しいだろうなと思います。
手作りっていいんだと思うんですよね。
手作りが。
そんな感じで。
いいんじゃないですか。
あとは蒸す事15分。
う〜ん!待ちきれませんよね。
ねえ谷原さん。
あら?いない。
椀の味を決定づけるのがだし。
言わずと知れた日本料理の基本です。
このだしを常に変化させているという奥田さん。
なんと具になる椀ダネによって昆布や水の種類を変えているのです。
こちらは「鱧と焼きなすのお椀」。
だしに使うのは…さっぱりとした上品なだしが鱧の繊細な味を引き立てます。
静岡県安倍川の湧き水と真昆布のだし。
2つの椀ダネを包み込むまろやかなだしです。
徹底しただしの追究。
それは奥田さんの料理人としての生き方の現れでもあります。
包丁一本で生き抜く板前の世界に憧れ高校卒業と同時に料理の世界に入った奥田さん。
しかしもともと手先が器用ではなく修業中は苦労の連続だったといいます。
包丁を持っても上手な事がなく何の自慢にもなりませんがこの指だけで18針縫ってるんですね。
下手くそでした。
ケガが絶えず悔しい思いをするそんな毎日。
不器用な自分が料理を極めるにはどうすればいいのか。
奥田さんが出した答えは新たな技術を身につける事ではなく日本料理の基本に立ち返る事でした。
その一つがだし。
奥田さんは日本各地の水を取り寄せては合わせる昆布の種類や戻す時間煮出す温度などを変え何度もだしをとる事を繰り返しました。
味わいの違いを舌に覚えさせ誰よりもだしを知り尽くす。
それが自分の料理を進化させるための第一歩だったのです。
日本料理というのは何百年という歴史の中で今があったりしますのでそれまでの人たちがさんざんいろんな事は考えてきて下さったわけですよ。
で今なわけですよね。
ですのでここから少しでも進歩をさせたい進化をさせたい変化をさせたいという気持ちは常にあります。
でもそれが何か奇妙な組み合わせをしたりですとか使った事ない調味料を何とかしたりですとかただ巻いたりこねたりするだけが新しさでも進化でも変化でもないと思ってるんですね。
奥田さんは月に一度店の若手を集めてだしの勉強会を開いています。
極めようとしても極め尽くせない日本料理の奥深さを伝えていこうとしているのです。
この日も店の椀のだしをどう変えていくか議論が白熱しました。
これとこれとこれが最高だって決めた瞬間から多分歴史は止まって面白くないんだと思うんだよ。
頭一回リセットしたうえで違うものを発見していかないと違うものは出来ないから。
これなかなか難しいんだけど。
そりゃいい考えだね。
そういう事だよな。
先人が残した伝統をしっかりと受け継ぎより高みへと進化させていきたい。
一椀に注がれただしは奥田さんの日本料理への思いそのものです。
だしは昆布とかつお節をいろんな事をやって悩んでたんですけど。
奥田さんが選んだ昆布は羅臼。
えびしんじょの濃厚な味に負けない濃いだしがとれます。
おだしというのはかつお節と昆布が一番重要に思われますがもっと大事なのは水だと思うんです。
水ですか?水です。
鹿児島・垂水の温泉水。
軟水で昆布とかつお節のうまみがよく出ます。
昆布はまず常温の水に1〜2時間浸し芯まで柔らかく戻します。
こうする事で煮出す時にうまみが出やすくなります。
大切なのは煮出す温度。
火加減を調節しながら60℃を保ちます。
1時間半ぐらいゆっくり出していきます。
1時間半もやるんですか?僕も家でだしは日々とるんですけど昆布でせいぜい15分とかですね。
多分出てないんだと思うんです。
出てないんですねほんとのうまみはまだ。
試行錯誤の末にたどりついたのが…雑味を出さずにうまみだけを最大限に引き出す事ができます。
あしらいを今のうちに仕込んでおいた方がいいかなと。
今日はまつたけですね。
うわっでかっ!これかさが開いてなくて相当立派ですよね。
残暑が短かったので冷たい風が吹いたので多分きのこ類とかいいんじゃないかなと思ってます。
秋といえばそうまつたけ。
香りが椀に季節感を添えます。
まずここで。
大胆ですね。
なぜかまつたけって金物嫌うって昔から言われてましてあんまり包丁入れると香りが出にくいそうなんです。
ですのでこの…。
自然にこう。
繊維が縦になってますのでバサッと。
お〜。
いや〜これたまらないですね。
はいたまりませんね。
こちらまでまつたけの香りがぷ〜んと。
えびしんじょが蒸し上がりました。
熱々のうちに椀に盛りつけます。
蒸し上がりましたね。
じゃこちら私がいきまして。
煮汁でサッと火を通したまつたけをえびしんじょに添えます。
いんげんは少し…。
2つに裂くんですね。
ちょっとススキとかに見立てて。
こんな感じで。
すてき。
それではだしですね。
昆布を引きます。
色もだいぶ出てますよね。
やっぱり昆布の自然なうまみをここに抽出したいと。
かつお節は背中の脂の少ない部分。
癖の出る血合いは除きます。
少し厚く削るのが奥田さん流です。
昆布だしの温度を…これがかつお節の持ち味を最も引き出せる温度だといいます。
一気にですか?はい一気にです。
バサッとバサッと。
そんな感じです。
厚く削った分重みですぐに沈み雑味が出ないうちにうまみと香りを引き出す事ができます。
OKですね。
一番だしが出来上がりです。
これが一番だしなんですね。
ここからもうすぐに味を付けます。
ここからは早ければ早いほど香りと味が逃げないわけですよね。
だしは引きたてがやっぱり一番味がいいんですか?ここが最高の地点であってここから1秒ごとにおいしくなくなってしまうわけですよ極端な話。
だから神経を研ぎ澄ませて。
まずですねお塩です。
これに対しておしょうゆをほんの…。
味付けというのはほんとこれだけの世界なんですね。
OKです。
これでもうお椀を張ります。
白髪ねぎですね。
あられ柚子。
あ!柚子入れた瞬間にいい香りが。
香りがね出ましたね。
これで完成です。
奥田さんこん身の一品「えびしんじょ椀」が出来上がりました。
目には見えない丁寧な仕事の数々が日本料理らしい奥深い味わいを生んでいます。
大丈夫ですか。
失礼いたします。
続いて谷原さん。
だしが熱々のうちにそっとお椀に注ぎます。
果たしてその味わいはいかに。
あ〜いい香り。
先ほどの作ってる様を見て昆布とかつお節入れたらこんなにうまみが出るのかと思いましたね。
ほんとですよね。
あ〜おいしい。
しんじょもふっくらして。
やっぱりこのフワッとした感じは山芋ですとか卵白ですとかああいったものがうまく役割を果たしてのこのお料理なのかなとか。
このふくよかなおだしによく合いますね。
合2014/10/20(月) 11:00〜11:25
NHKEテレ1大阪
きょうの料理 谷原章介のザ・男の食彩「和の粋をおわんに〜ふっくらえびしんじょ」[字]
俳優の谷原章介が、こだわり抜いた男の料理を探求するシリーズ。今回のテーマは「えびしんじょの椀(わん)」。えびしんじょをふっくら仕上げる技、極上のだしの秘密に迫る
詳細情報
番組内容
東京銀座の日本料理店店主、奥田透さん。パリにも店を構え、その実力は国内外で高く評価されている。決して奇をてらわない料理には、理にかなった丁寧な仕事が隠されている。「えびしんじょの椀(わん)」は、そんな奥田さんらしさが詰まった逸品。主役のえびの魅力を生かしながらも、ふっくらと濃厚なえびしんじょ。椀(わん)だねによって使う材料も変えるという、こだわりのだし。妥協のないプロの技に、谷原章介が迫る。
出演者
【講師】日本料理店店主…奥田透,【出演】谷原章介,【語り】江原正士
ジャンル :
情報/ワイドショー – グルメ・料理
趣味/教育 – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32721(0x7FD1)
TransportStreamID:32721(0x7FD1)
ServiceID:2056(0x0808)
EventID:20782(0x512E)