(マスターナレーション)
一日が終わり人々が家路へと急ぐ頃俺の一日は始まる
営業時間は夜12時から朝7時ごろまで
人は「深夜食堂」って言ってるよ
客が来るかって?それが結構来るんだよ
ボーン
(柱時計の音)
(ミキ)「結婚には大切な3つの袋があります」ってスピーチ久しぶりに聞いたわ。
(ルミ)結婚生活なんてどうせすぐ袋小路なのに。
(2人)ねえ〜!
(忠さん)こないだまでは純愛がどうのこうのって言ってたんじゃないの?
(ルミ)散々のろけて結婚したって数年後には浮気だの離婚だの。
(ミキ)ご祝儀返せ!
(ルミ)ねえなんだっけあの〜堪忍袋とおふくろと…。
(八郎)あとはほらきん…。
(ミキ)下ネタやめてよ。
巾着袋ですよ失礼だなぁ。
(戸山)胃袋でしょやっぱり。
お待ち。
おっ。
(ルミ)戸山さんまたバターライス?料理評論家なんだからもっといろいろ試さなくちゃ。
(ミキ)試した結果それにたどりついたのよねっ?ガラガラガラ
(戸の音)いらっしゃい。
(かしまみさお)こんばんは。
ああ〜誰かと思ったよ。
久しぶりにマスターのメンチ食べたくなっちゃって。
ずっと来たいと思ってたんだけどさいつもたいちゃんと一緒だったから一人だとなんだか気が引けちゃって。
たいちゃんってのは8年前に亡くなったこの人の旦那のことだ
私ねとうとうたいちゃんの年追い越しちゃった。
待ってなすぐ作るよ。
うん!おいしい。
ふふっ。
肉汁があふれてて。
全然変わんないね。
そりゃあ作り方同じだから。
マスターのこと。
あははっ。
顔見れて安心したよ。
亡くなる前の日にねマスターのメンチカツ食べたいって急に言ってじゃあ退院したら行こうよってたいちゃんと話してたの。
そうかい。
好きだったからなぁたいちゃんも。
うっ…。
ううっうぅ…。
うぅ…マスターごめんなさい…。
うっ…。
無理しなくていいよ。
メンチ包むからたいちゃんにお供えしてやりなよ。
ありがとう。
そうするわ。
(八郎)かしまみさおですよ彼女。
歌手の。
(2人)ええ〜っ!?
(忠さん)最初誰かと思ったよ。
夫婦でよくメンチ食べに来てたっけ。
(八郎)今でもスナックとか行くと必ず誰か歌いますよね。
・いいのいいのよ
(忠さん)・何も言わないで
(八郎)そう「何も言わないで」。
覚えましたよあのコード。
(忠さん)名曲だよな〜。
(ルミ)たいちゃんって橘泰三のこと?
(ミキ)ああ!旦那さんが作詞作曲して奥さんが歌うんで評判になった?
(戸山)そういえばあったなそんなの。
旦那のたいちゃんが亡くなって歌うのをやめちゃったんだよ。
(忠さん)時々「あの人は今」ってんで週刊誌とかに記事出るんだけどさほとんど家に閉じこもったっきりだってね。
ほれてたんだなぁ。
(八郎)僕も僕が死んでもずっと僕だけを思ってくれる人と結婚したいですね〜。
(戸山)うちの女房とはえらい違いだよ。
あいつ僕が死んだら万歳三唱しかねないや。
(客一同)あははっ!
(戸山)マスター僕もメンチ。
あいよ。
カラオケご利用いかがですか〜?いかがですか〜?いかがですか〜?いかがですか?今「あの名曲を」っていうキャンペーン中でかしまみさお推してるんですよ。
本人映像に合わせてこの機会にぜひ歌っていきませんか?どうですか?ガラガラガラいらっしゃい。
ふぅ〜…。
バターライス1つ。
あっやっぱいいや。
酒冷やでくれる?あいよ。
(戸山)あぁ〜…。
女房が倒れちゃってね。
今入院してんだよ。
えっ?ガンでさ。
手術はしたんだけどこれからどうなるか…。
はぁ…何を食べても味がしないんだ。
料理評論家なのにさ困ったよ。
女房は料理が下手でね。
で僕おいしいもの探して食べ歩いてるうちにいつの間にか料理評論家なんて呼ばれるようになったんだ。
でもやっぱり女房が作るまずい飯がいちばんうまいよ。
(戸山)ティッシュは昨日買ってきただろ。
あっ爪切り忘れたな。
明日持ってくるよ。
(清子)ねえ窓の外に木があるでしょ?あの葉っぱが全部落ちたら私死んじゃうような気がするの。
そんなバカなこと。
な〜んてね。
言ってみたかったのよ入院したらそんなこと。
お前ね〜。
なんか弱気になっちゃって。
退院したらうまいもの食べに行こうよ。
麻布にシャレたトラットリアが出来てさ。
シチリアからも客が来るんだよ。
退院できるの?先生もそう言ってただろ。
でも…。
してほしいことなんかない?うん?わがまま言ってよ。
じゃあ聴きたい曲があるんだけど。
(戸山)ない!?はい。
申し訳ありませんが廃盤になっておりまして。
(「何も言わないで」)・あなたの腕に抱かれるたび
(戸山)・心の音が聞こえてくるの・こ…コンコンコン失礼しま〜す。
(「何も言わないで」)
(店員)ごゆっくりどうぞ。
ガン!あっ痛て…。
すみません!大丈夫ですか?か…かしまさん?しかしなんでまたカラオケなんか。
実はね私自分が歌ってるところ見たことなかったのよ。
たいちゃんが見ててくれればそれでよかったから。
でも見てみたらほんとにこれが私なの?私こんなふうに歌ってたんだって。
そしたら急にライトの熱さとかマイクの太さとかいろんなこと思い出しちゃって。
それで歌ってたんですか?昔の自分と一緒に。
ううん。
もう歌わないんですか?ほんとに聴いてほしい人がいなくなっちゃったからね。
あの…うちのがね入院中なんです。
僕よりひと回りも年下で僕はあいつに看取ってもらうつもりでいたんだけど…。
とにかく何かしてやりたくてでも何もしてやれなくて。
それがこないだ聴きたい曲があるって。
かしまみさおの「何も言わないで」を聴きたいって。
あいつに好きな曲があったなんて僕は知らなかった。
いやそれだけじゃない知らないことがいっぱいあったんです。
みさおさんお願いがあります。
「何も言わないで」をもう一度歌ってもらえませんか。
女房のために。
悪いけどできない。
ほんと失礼なお願いでしょうけど。
聴かせてやりたいんです。
できない。
(戸山)どうして?ダメなのよ!奥さんを励ますために歌えって言うの!私はねたいちゃんの棺の前で約束したのよ。
もう人のためには歌わないって!
(清子)・いいのパチン
(爪を切る音)
(清子)・いいのよパチンうん?ごめん。
何が?いや…CD廃盤なんだって。
知ってた。
知っててわがまま言ったのよ。
泣かないでよ。
泣くわけないだろ。
ガラガラいらっしゃい。
(戸山)マスター17日貸し切れないかな。
時間でいいから。
いいけどどうしたんだい?
(戸山)女房退院が決まったんだ。
でちょっと祝ってあげようと。
そりゃよかったおめでとう。
(戸山)うん…まあこれからだよ。
じゃよろしく。
はい。
ねえマスター私メンチ食べても泣かなくなったでしょ。
うん。
毎回泣かれても困るけどね。
そうね。
みさおさん。
あんたやっぱり歌わないのかい?たいちゃん死ぬときも私ステージで恋の歌歌ってた。
もっと早くただの女んなってちゃんと奥さんやってあげるんだったな。
たいちゃんはただの女じゃなくて歌ってるみさおさんのことが好きだったんじゃないのかな。
・ガラガラ
(戸の音)・コツコツコツ
(足音)「めしや」のマスターに聞いて来ました。
ええ…。
あっかしまさん?えっ…。
奥さんに直接話した方がいいと思って。
ほんとにごめんなさいね歌えなくて。
ううん。
こちらこそ謝らなくちゃ。
うちの人が無理なこと頼んじゃって。
でもあの人がバカなことしでかしてくれたからみさおさんに会えたのね。
ふふっ。
来てくださってありがとうございます。
みさおさん。
また歌うときは人のためじゃなくて自分のために歌ってくださいね。
ふふっ。
愛してるなんて言ってもらったことなかったけど歌がたいちゃんのラブレターだったんだね。
私たいちゃんにラブレターたくさんもらった。
でも怖くてさみしくて読み返せなかったの。
ずるいよ…こんなに好きにさせといてさ死んじゃうんだもん。
ずるいよ。
その日は戸山さんの奥さんの体調を考え早めに店を開けることにした
(ミキ)おいし〜!
(忠さん)おいしい。
おいしいよ。
(ミキ)なんか取る?
(清子)おいしい。
(忠さん)大根だな。
(ミキ)大根?
(戸山)じゃあそろそろ…歌おうかな。
(清子)えっ?
(ミキルミ)よっ待ってました!
(忠さん)たった一度の恋でした。
忍び忍んだ愛でした。
三つ星の声で歌います「何も言わないで」聴いてください。
・
(ギターの演奏「何も言わないで」)・あなたの腕に抱かれるたび・心の音が聞こえてくるの・言葉はいつも足りなくて・すべてを伝えられないわ・だからねぇずっとこのままで・無口なあなたは照れていて・・私はそんなあなたが好きで・耳元で囁くの・恋のうたを・いいのいいのよ・何も言わないで・いいのいいのよ・何も言わないで・何も言わないで
(拍手)聴いてくださってありがとうございました。
(拍手)いいね〜。
マスターメンチちょうだい!あいよ。
うっ…ううっ…。
ふふふっ。
この二人がみさおさんを生き返らせたのかもしれないね
(清子)牛肉と豚肉の割合は7対3ぐらい。
パン粉は粗めでたっぷりと。
うんうん。
不安だなぁ。
(清子)跳ねないようにゆっくりと。
あっそれ温度計ってる?
(清子)えっ?知りません。
あっメンチ爆発するよそれ。
パン!
(メンチが爆発する音)熱っ!熱っ!俺漫画しか描けないから。
今連載の話も出てて。
すごいじゃないですか。
自分にうそついてるとそのうち裏切られるぜ。
ああ〜!全部なくしたつもりで最後まで残っちまったものが漫画だったんじゃないのかい?2014/10/20(月) 00:50〜01:20
MBS毎日放送
[新]深夜食堂 3[多][字]第1話「メンチカツ」
▽繁華街の片隅の小さな食堂。営業時間は夜の十二時から朝の七時頃まで。人呼んで『深夜食堂』▽小林薫 美保純ほか
詳細情報
お知らせ
【解説放送あり】
繁華街の片隅の小さな食堂。営業時間は夜の十二時から朝の七時頃まで。人呼んで「深夜食堂」。メニューは豚汁定食にビール、酒、焼酎、それだけ。あとは勝手に注文すれば、できるものならマスター(小林薫)が出してくれる。
今夜も、小寿々(綾田俊樹)や忠さん(不破万作)たち、お馴染みの面々が、めしやで話に花を咲かせている。
番組内容
ある日の夜、8年前に夫を亡くした歌手のかしまみさお(美保純)が、ひさしぶりに店にやってきた。夫の大好きだったマスターのメンチカツを食べたみさおは泣き崩れる。仕事上でもパートナーだった夫が作詞作曲した「何も言わないで」は、今でもみさおの代表曲として人の心に残っている。しかし夫の死後みさおは人前で歌うことができず、家に籠っていたのだった。そんな中、常連客である料理評論家の戸山(岩松了)の妻が入院する…
原作・脚本
【原作】
安倍夜郎「深夜食堂」(小学館「ビッグコミックオリジナル」連載中)
音楽
【主題歌】
高橋優「ヤキモチ」(ワーナーミュージック・ジャパン)
制作
【番組HP】
http://www.meshiya.tv/
http://www.mbs.jp/meshiya/
【Twitter】@meshiya
https://twitter.com/meshiya
ハッシュタグ「#meshiya」
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 音声解説
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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2/0モード(ステレオ)
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