今年6月画期的な農薬が発売されました!農家にも消費者にも環境にもうれしいものだというのですが…。
あれ?虫が湧いてますよ。
いえいえ。
この虫たちこそ画期的な農薬なんです!一体何の虫か分かりますか?正体は…害虫のアブラムシを食べてもらおうというのです。
テントウムシ1匹でなんと一日最大…えっ100匹も?しかもこのテントウムシ野生のテントウムシにはない…決して無視できない虫のお話です!
(テーマ曲)テントウムシが農薬になるんですか?そうなんですよ。
でもただのテントウムシじゃないんですよ。
これは農林水産省で登録されたれっきとした農薬なんですよ。
農薬というのはそもそも害虫とか病気から作物を守るために使いますよね。
3分の1もですか?結構ですよね。
大変ですね。
なんとかして作物を守らないといけないんですがこうやって生き物を使う農薬を生物農薬といいます。
生物農薬…。
生き物が農薬の代わりになるっていう事ですよね。
生物農薬というのはメリットがあるんですよ。
ああなるほど!…でこのテントウムシを使った農薬の開発が今熱いんですよ。
へえ〜。
テントウムシが食べる害虫の代表がこちらです。
アブラムシ。
体長数ミリほどの昆虫です。
問題が2つあります。
1つ目は…作物の成長が著しく悪くなってしまうんですね。
もう一つがウイルスによる病気を媒介する事。
感染した植物の汁をアブラムシが吸って別の植物に移動すると感染が広がってしまいますよね。
農薬として注目されているのはこちらの…体長が1センチ弱あるんです。
さっき言いましたが……でご覧のようにスタジオにテントウムシ君に来てもらいました。
黄色い方が…ピンクの方が…さあこれ違いが分かりますか?違いですか。
え〜?いや全く同じようにしか見えないんですけど…。
え〜見た目は一緒ですよ。
分からない!ではどこが一体違うのでしょうか。
生物農薬のテントウムシ見てみましょう。
おっテントウムシが棒を登っていっててっぺんに着いてさあどうするかな。
あっ羽を広げて…。
今何が起きたんでしょうか。
落ちた!あれ?そうなんですよ。
それはなぜでしょうか?飛ばないって事が?え〜何でだろう。
飛んじゃうと次の作物やらずにその次行っちゃってムラが出来ちゃうとか?野生のテントウムシはよく飛ぶんですね。
せっかくその畑に放ってもしばらくたつと飛んでってしまうんです。
別のとこ行っちゃうんですね。
なのでその畑でちゃんと…なるほど。
確かに飛ばなければずっと働いてくれる訳ですもんね。
ではどうやって飛ばなくさせたのでしょうか。
実現までには10年もの歳月がかかっていました。
広島県福山市にある…こちらが飛ばないテントウムシの生みの親…飛ばないテントウムシを作るために使用したのがこの竹とんぼのような道具。
これにテントウムシをくっつけます。
ローターが回り始めました。
この回転数からテントウムシが飛ぶ距離が分かります。
そう世古さんがまず行ったのが…サラブレッドの交配では速い馬を作るのが目的ですが今回は飛ばないテントウムシを作るのが目的です。
そのために世古さんが作った装置がこちら。
枠にはセンサーが取り付けてあり1時間にどれだけの距離を飛ぶのか記録していきます。
この装置を3台使い同時に12匹計測していきました。
平均で1時間当たり900m飛んだのに対して…世古さんは野生のテントウムシの中から飛ぶ距離が短いものを選抜していく事にしました。
集団をオスとメスに振り分けそれぞれの個体で調べます。
そして飛ぶ距離の短い30%を選抜しました。
この飛ばないもの同士を掛け合わせます。
更に生まれた子どもでも飛ぶ距離の短い個体を選び交配させるという選抜と交配を繰り返していきました。
交配を繰り返し世代を重ねていくうちに飛ぶ距離は徐々に低下。
30世代目でついに飛ばないテントウムシが誕生しました。
飛ぼうとして羽を広げますが…飛びません。
畑に放してみると飛ぶテントウムシは翌日にはほとんどいなくなったのに対し飛ばないテントウムシは1週間後でも4割の個体を確認できました。
飛ばないテントウムシの多くが畑に定着していると考えられます。
こちらはその時のアブラムシの数を調べたグラフです。
飛ばないテントウムシを放すと1か月もの間アブラムシの発生を極めて少なく抑える事ができたのです。
すごい。
テントウムシが飛ぶか飛ばないかだけでアブラムシの増える量が全然違いましたね。
何かちょっとローテクっぽいんですけど…。
これ時間かかりますよね。
ですよね。
1年間に7から8の世代を重ねる事ができるんですが完全に飛べなくなるのは…どうして3つのグループを作ったんですか?ああそうなんですか。
飛ばない性質は共通なので維持されつつ産卵数などはちゃんとしたものが生まれてくると。
そういう事なんですね。
そうなんだ。
工夫が必要なんですね。
そうですね。
つまりやってる事は品種改良なんですよ。
ただ野菜とか家畜の品種改良っていうのはよく耳にするんですけど昆虫の品種改良ってあんまり聞かないですよね。
こうして飛ばないテントウムシ作りには成功したんですが実は商品化までにはある壁がありました。
飛ぶ距離の短い個体を選抜して交配させるという作業を繰り返しついに誕生した…あとは商品化に向けて系統を維持するだけでしたがここで不思議な現象が起こりました。
フライトミルによる選抜を中止すると世代を重ねるにつれて飛ぶ距離が回復するようになったのです。
え〜どうしてでしょうね。
復活しちゃうんだ。
これはフライトミルで選抜する際本来は飛べるはずの個体が何らかの理由で飛ばなかったため誤って選抜された事が原因と考えられます。
その結果飛べるはずの個体が生存力や繁殖力で優位に立ち集団の飛ぶ力が回復していったと考えられます。
大量の飛ばないテントウムシの中からフライトミルを使って飛ぶ力が回復してしまった個体を捜し出すのは大変な労力を要するため代わりとなる方法を考える必要がありました。
そこで世古さんが考えたのがテントウムシの習性を利用して簡単に選抜する方法。
使用したのは研究室にあったこちらの3つの道具です。
まず容器の中にフラスコを入れその中にテントウムシを入れます。
最後に足場となる割り箸を入れると完成です。
テントウムシはこのように上へ上へと登っていって割り箸の先端から飛ぼうとします。
そこで飛べる個体はそのまま飛んで外へ出ていき飛ぶ事のできない個体はこのまま下に落ちていきます。
へえ〜。
何か意外と簡単な道具でやってましたね。
怠けて飛ばないやつがいたというのがちょっとびっくりなんですけど。
本当面白かった。
こうやって品質を維持したからこそようやく商品化できたんですね。
さあこうして誕生したのが飛ばないテントウムシの農薬です。
あれ?これは幼虫って事ですかね。
幼虫なんですよ。
作物にまくの幼虫なんですか?そうなんです。
もうちょっと大きくなると成虫と同じくらいアブラムシ食べるんですよ。
え〜そうなんですか。
幼虫がアブラムシを食べる映像ちょっと見てみましょう。
ほら食べてる食べてる。
あ〜食べてますね!ガッツリ食べてましたね。
ですよね。
幼虫なのに。
繰り返し使える。
へえ〜なるほど!いいですね。
でもこの飛ばないテントウムシ周りに悪い影響とかってないんですか?仮に外に出ていって…という事で飛ばないテントウムシだらけで…そうなんですね。
ここからは専門家の方に伺いましょう。
近畿大学農学部の矢野栄二さんです。
よろしくお願い致します。
お願いします。
生物農薬今注目されてるんですね。
今化学農薬が効かない害虫が増えてます。
これを薬剤抵抗性っていうんですけども一度抵抗性を持ちますと農薬が効かないものですから爆発的に害虫が増えます。
うわ〜。
特にアブラムシは卵を産まずに直接子どもを産むので非常に厄介ですね。
へえ〜。
本当だ。
卵じゃないんだ。
直接産まれるんですね。
へえ〜!
(矢野)それでこのアブラムシは交尾をせずにこのように子どもを産みます。
これを単為生殖といいまして生まれた子どもは親と全く同じ遺伝子を持ってます。
ですから親が抵抗性を持ちますと子どもも全部抵抗性になります。
それって…ええ。
そういう事ですね。
うわ〜!それは大問題ですね。
害虫と天敵の関係でいろんな防御反応が知られてまして一つは行動的な防御反応なんですけどね。
例えばアザミウマなんかは天敵を蹴飛ばしたりしますしそれから防御物質ですね。
それをいろいろ出して外敵から攻撃を受けた時それで攻撃を免れるという事は知られてますがただそういった行動はそんな短期間に発達するものではないと考えられますから抵抗性はすぐには出ないと思います。
生物農薬ほかにどのようなメリットがあるんですか?農家にとって非常にメリットがあります。
普通の農薬は水で1,000倍に希釈してそれを散布機で散布するんですよね。
それが非常に重労働です。
それから散布の時に散布液を吸い込んだり体についたりしてそれもまたあんまり農家の人にとってよくないので。
生物農薬の場合は散布の時単に虫をまくだけですからそういう事を全部避けられるという事と環境中にも化学的負荷がかからないという事で非常にメリットは大きいと思います。
テントウムシ以外には生物農薬ってあるんですか?いろんな種類がありましてテントウムシは捕食性天敵っていうんですけど捕食性天敵としてはダニですね。
割と生産コストが比較的安いのといろんな害虫を攻撃できるタイプのダニが出てきて今非常に消費量が伸びてますね。
それ以外に線虫ですとか特にカビですね。
これは表面に菌糸が出てるんですけどもかなり今消費が伸びてます。
あとそれ以外に最近注目されているのは捕食性のカメムシですね。
カメムシは普通害虫のイメージあるんですがいわゆる捕食性のものは害虫に口を突き刺して体液を吸って殺します。
え〜!捕食性カメムシはいろんな害虫を攻撃しますので今注目されてます。
生物農薬っていつごろから注目をこれほど浴びてきたんですか?テントウムシの品種改良ってものすごい時間がかかってたようですが例えば遺伝子組み換えみたいなハイテクの技術とかは使えないんですか?基本的に組み換え生物を野外で使うというのは一般的にちょっと受け入れがたいという事でなかなか難しい面がありましてね。
それとは別に遺伝子に直接働きかける新しい方法が今応用されつつあります。
遺伝子に直接働きかける新しい方法。
そんなハイテクを使って飛ばないテントウムシの研究をしている新美輝幸さんです。
新美さんが使ったのは…まずRNAと呼ばれる物質を人工的に合成します。
そして合成したRNAをテントウムシの幼虫に注射します。
10日ほどしてサナギから出てきたのはなんと…一体テントウムシの体で何が起こったのでしょうか?昆虫が羽を作る時にはまずDNAからメッセンジャーRNAと呼ばれる分子に遺伝情報がコピーされます。
このメッセンジャーRNAを基にたんぱく質などが作られ羽が成長するんです。
そこでこのメッセンジャーRNAの働きを止めてやれば羽が成長せず飛ばないはずだという考え方です。
メッセンジャーRNAは似た配列である2本鎖RNAを外から入れるとそれとくっついて壊れてしまいます。
これがRNA干渉。
遺伝子の働きを止めるのです。
ところがこの羽のないテントウムシを実用化するには…実はテントウムシの硬い羽は外的から身を守る鎧の役目を果たしています。
つまり羽がないと身を守れなくなってしまうのです。
そこで羽があっても飛ばないテントウムシを作るために現在は羽ばたく力に関係した遺伝子を制御する研究を行っています。
そして生まれたテントウムシがこちら。
羽を広げて飛ぼうとしますが…羽ばたく事ができません。
更に実用化に向けて2本鎖RNAを効率よく幼虫の体に入れる方法も研究しています。
RNA干渉。
これは2006年にノーベル賞を取りましたよね。
これは遺伝子組み換えとは違うんですよね?ええ。
このRNA干渉を使う方法も期待できそうですね。
この方法の弱点というのはこれは生物がもともと持っている遺伝子の働きをなくすという事はできるんですが…そういう制限はありますけども…ですから品種改良だと非常に何世代も経ないといけないので時間かかりますが…ここまで飛ばないテントウムシを生み出す方法品種改良とRNA干渉を見てきました。
…で実は高校生がテントウムシを飛ばなくさせるまた別の方法を考え出したんです。
そんなすごい事をやってのけたのは農業教育に力を入れている成田西陵高校。
地域生物研究部の生徒たちです。
考え出したのはテントウムシの羽を接着剤で固定して飛ばなくさせる方法です。
この方法理屈はとてもシンプルですが完成までにはいくつか課題がありました。
その一つが…ゼリー状の瞬間接着剤だったり液体状の瞬間接着剤だったりあとマニキュアなども試したんですが…そんな時フラワーアレンジメントの授業で使っていたある道具に生徒の一人が目をつけました。
あ!ねえこれ使えばいいんじゃない?それいいね!これは工作などに使われる道具で樹脂で出来たスティック状の糊を熱で溶かして使用します。
結果は大成功!見事羽を固定できました!もう一つの課題は…テントウムシは動き回るためそのままではスムーズに固定する事ができません。
最初は手で持って作業していたため1匹にかかる時間は30秒以上。
そこで思いついたのが掃除機の吸引力を利用する方法でした。
テントウムシを乗せる部分はふるいと漏斗を組み合わせて自作。
また掃除機1台では吸引力が弱かったため2台連結させて吸引力をアップ!これでテントウムシの動きをピタリと止める事に成功。
1匹当たりの時間は30秒から2秒と大幅に短縮できテントウムシの体を傷つける事なくしかも大量生産が可能になったのです。
実際に効果を確認したところ…飛ばないテントウムシを放した畑では1か月間アブラムシの繁殖を抑える事ができました。
接着剤はしばらくたつと自然に外れまた野生に戻る事ができるようになっています。
いやすごい!高校生らしいアイデアでやってていいなと思いました。
この研究は実は私の所属している害虫防除の学会でポスター発表されまして賞をもらったんですよね。
専門家からも評価されてます。
現在特許を申請中で数年後をめどに商品化を検討しているという事なんです。
あの掃除機がすごくいいですよね。
あれで張り付けるみたいなの。
非常にシンプルで分かりやすい発想で専門家の人はむしろ難しく考えてああいうふうに思わないと思うんですよね。
身の回りのものを使ってやっててコストが安いという事が商品化した時非常にメリットになると思います。
それから技術的にもすごく単純ですので使いやすい技術ですね。
これってやっぱり専門家の方は接着剤を使うとかいう発想は出てこないんですか?やっぱりRNA干渉みたいなああいうハイテクとかの方がやっぱり興味行くんでしょうね。
生物農薬の今後はどうなっていくんですか?例えば温度ですとかほかの天敵とかいろんな事に影響されますのでそういった影響をなるたけ抑えて…生物農薬広がっていきますかね?今後。
今まで害虫防除は化学農薬に頼ってきた訳ですけど今は総合的病害虫管理という考え方が出てきまして化学農薬だけじゃなくて生物農薬のような生物的防除法というんですけど…。
それから光とか熱を利用した物理的防除法とかそういうものを組み合わせて防除しようと。
飛ばないテントウムシを作り出すには結構地道な研究の積み重ねなんだなというふうに感じて…。
もしこういう生物農薬が広まれば今まで使ってきた農薬より安心だなっていうふうには思いましたね消費者として。
矢野さんどうもありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」…。
次回もお楽しみに!2014/10/19(日) 23:30〜00:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO「夢の生物農薬“飛ばないテントウムシ”」[字]
害虫のアブラムシを大量に食べるテントウムシが農薬として発売されました。成虫になっても飛ぼうとしないのがポイント。いったいどんなテクニックで実現したのか。
詳細情報
番組内容
今年6月、テントウムシの幼虫が農薬として発売されました。害虫のアブラムシを大量に食べる「生物農薬」です。しかも成虫になっても飛ぼうとしない特別なテントウムシなので、散布した畑でどんどんアブラムシを食べてくれます。その実現にはちょっと変わったテクニックが使われていました。他にも、RNA干渉というハイテクを使った方法や、高校生がローテクでやってのけた、飛べないテントウムシ実現への取り組みを紹介します。
出演者
【ゲスト】近畿大学教授…矢野栄二,【司会】南沢奈央,竹内薫,【キャスター】江崎史恵,【語り】土田大
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32721(0x7FD1)
TransportStreamID:32721(0x7FD1)
ServiceID:2056(0x0808)
EventID:24110(0x5E2E)