NHKスペシャル 認知症800万人時代▽行方不明者1万人〜知られざる徘徊実態 2014.10.19

外がとっても気持ちよくってほらまぶしいよ。
路上で徘徊していたところを保護された女性です。
認知症のため名前も住所も分からず7年間施設で暮らしています。
保護された時の写真です。
身なりは整っていましたが深夜に一人でさまよっていたため警察に通報されました。
それから7年。
身元が分からないまま症状が進行し寝たきりになりました。
今認知症を患った人が徘徊し行方不明になるケースが全国で相次いでいます。
その数年間1万人。
この日保護された81歳の女性。
行方不明になったのはこれが8回目でした。
私たちはこれまで詳しく分からなかった認知症の行方不明者の実態を取材。
全国で年間350人を超える人が徘徊などの末に命を落としている事が明らかになりました。
住宅街の片隅で人知れず亡くなっていたケース。
線路に迷い込み電車にはねられ亡くなった事故。
(鈴の音)身近な所で起きる悲劇を私たちは防ぐ事ができずにいます。
社会が見過ごしてきた認知症行方不明者1万人。
現場からの報告です。
徘徊の末行方不明となり2年たった今も見つかっていない人がいます。
橋茂さんと姉のみえ子さん。
捜しているのは認知症の母親です。
ごめんください。
2人の母…おととし5月から行方が分からないままです。
この日はツヤさんに似た人を見たという情報を頼りに自宅から20キロ離れた集落を訪れていました。
ごめんください。
手がかりは得られませんでした。
ツヤさんは娘のみえ子さんと2人で暮らしていました。
これ一番着ましたね。
おしゃれをして出かけるのが好きだったツヤさん。
いなくなる3年前から認知症の症状が出始めていました。
名前や住所を言えない事もあったためみえ子さんは服や靴などに名前を書いていました。
行方不明になった日ツヤさんは朝早く一人で散歩に出たと見られています。
近所の人が家の近くを歩いている姿を見たのが最後の目撃情報でした。
警察や消防は自宅から半径7キロにわたって捜索。
足取りはつかめませんでしたが事件性は低いとして捜索は3日間で打ち切られました。
行方不明になって2年。
みえ子さんは今もツヤさんの分の食事を取り分けています。
発見されてお風呂に…ツヤさんのように行方不明になる人はどれだけいるのか。
私たちは全国の警察を取材しました。
認知症やその疑いがあり行方不明になった人は1年間で…およそ1万人に上っていました。
多くは無事保護されていますが命を失う最悪の事態も相次いでいます。
死亡した人は確認されただけで351人いる事が明らかになりました。
徘徊の末亡くなった人たち。
なぜ死を防ぐ事はできなかったのか。
私たちは取材ができた116人について家族などに話を聞きました。
おととし9月に亡くなった…家族が警察に届け出た1週間後遺体で見つかりました。
(鈴の音)娘のまゆみさんです。
歌子さんは3年ほど前から徘徊を繰り返していましたが死につながるとは思っていませんでした。
ここはいつも戸が閉まってるんですけど…。
歌子さんが発見されたのは意外な場所でした。
自宅の向かいにある民家の裏。
捜していた場所よりもはるかに近くでした。
塀と塀の隙間の奥で倒れていたのです。
フェンスの先は人通りの多い道路。
しかし誰も気付く事はありませんでした。
私たちは亡くなった人たちがどこで見つかったのか取材しました。
その結果半数以上が歌子さんと同じように自宅から1キロ以内の場所で亡くなっていた事が分かりました。
なぜ自宅の近くにいたのに助けてあげられなかったのか。
まゆみさんが今も悔やんでいる事があります。
町内に情報提供を呼びかけるチラシ。
しかし貼り出したのは行方不明から6日たったあとでした。
その翌日チラシを見た近所の人が歌子さんを見つけたのです。
近所の人も歌子さんが日頃から徘徊している事は知っていましたが深刻な事態につながるとは想像もしていませんでした。
住宅街の片隅で人知れず失われた命。
埋もれていた認知症による行方不明の現実です。
認知症行方不明者1万人。
更に取材を進めると解決が難しい新たな行方不明者の存在が浮かび上がってきました。
徘徊して無事保護されても身元が分からないままの人がいるというのです。
おととし3月大阪市内の路上で保護された男性です。
重度の認知症を患い自分の名前や年齢住んでいた場所も言えません。
自分の部屋が分からなくなる事もあります。
違う違う。
違うのか。
違う。
こっち。
警察が身元を調べましたが何も情報は得られず男性は介護施設で2年間暮らしてきました。
きれいな桜ですね。
大阪市は男性の保護の手続きに必要だとして太郎という仮の名前を付けました。
太郎さんの住んでた所も早く見つかったらいいですね。
何の手がかりもなかった男性。
太郎さん桜見て何か思い出す事…。
ところが先月事態が大きく動きました。
こちらの男性2年前に路上で保護されました。
しかし認知症で身元が…。
この放送がきっかけとなり兵庫県の74歳の男性と分かったのです。
先月下旬2年ぶりに家族と再会を果たしました。
男性の家は保護された場所から僅か数キロの所でした。
なぜ身元が分かるまで2年もかかったのか。
男性を家族に引き合わせた成年後見人です。
認知症の行方不明者を想定した社会の仕組みがない事が問題だと考えています。
多くの手がかりがあっても長年家族のもとに帰れない人もいます。
群馬県の介護施設で7年間ずっと保護されている女性です。
認知症の症状が進み今は寝たきりで話す事もできなくなりました。
仮の名前は柳田久美子。
当時の持ち物などから推測されました。
施設や自治体は身元の特定につながればと今回取材に協力しました。
保護された時の写真です。
グレーのパンツに赤い花柄の服を着ていました。
柳田さん。
当初から介護を続けてきた施設長の浜野喜美子さんです。
服装や言葉遣いから品のよさを感じたといいます。
柳田さんが見つかったのは7年前の10月。
群馬県にある館林駅の近くでした。
深夜に後ろからついてくる女性がいると通報があり交番で保護。
しかし名前も住所も言えなかったため警察は市に対応を委ねました。
当時担当した市の職員です。
身につけていたものには身元につながると思われる手がかりが数多くありました。
グレーのパンツには銀色の細かい飾りがあしらわれていました。
指輪は全部で3つ。
その一つ結婚指輪と見られるものの内側には「5.12」「StoM」と彫られています。
名前をうかがわせる有力な手がかりもありました。
靴下には片仮名で「ヤナギダ」下着には「ミエコ」と書かれていました。
しかし女性が保護された時口にした名前は「クミコ」。
このため柳田久美子という仮の名前が付けられたのです。
これほど多くの手がかりがあるのになぜ身元が分からないのか。
警察には届けが出された全国の行方不明者の情報を共有するためのシステムがあります。
群馬県警は「ヤナギダクミコ」と「ヤナギダミエコ」という名前で調べましたが該当はありませんでした。
このシステムはまず名前で検索する仕組みになっているためもし名前が間違っていた場合これ以上調べられません。
顔写真や所持品などの手がかりがあっても活用できないのです。
群馬県警は顔写真や服装などを記載した文書を全国の警察に送りました。
しかし情報は得られませんでした。
保護された当時笑顔があふれていた柳田さん。
時がたつにつれ次第に表情が失われていきます。
そして4年ほど前から寝たきりになりました。
施設に来た時柳田さんはよく歌を歌っていました。

(「高校三年生」)大好きだった流行歌。
今は聴く事しかできません。
歌に合わせて手を動かす柳田さん。
(CD)・「ああ高校三年生ぼくら離れ離れに」人の身元が7年もの間分からないという現実。
行方不明の現場では社会が想定していない事態が進んでいたのです。
認知症による行方不明は今見過ごす事のできない深刻な社会問題として表面化しつつあります。
徘徊の末高速道路や線路に入り込み死亡する事故が各地で相次いでいます。
愛知県で起きた列車による死亡事故。
遺族が鉄道会社から訴えられ先月300万円を超える賠償を命じる判決が言い渡されました。
責任が家族にまで問われる時代。
行方不明者の家族はどんな困難を抱えているのか。
私たちはアンケートを行いました。
「24時間見守り続ける事は難しい」。
「家族で背負う事で精神的にボロボロになる」。
つづられていたのは切実な声でした。
岩本守道さんと純子さん夫婦です。
あ〜今日暑かった。
な?妻の純子さんは2年前から徘徊の症状がひどくなりました。
守道さんは片ときも目を離す事ができません。
左やで。
左左。
純子さんはこれまで何度も行方不明になり危険な目に遭った事があります。
守道さんが書き留めた純子さんの徘徊の記録です。
日時や場所など詳しく記されています。
今年3月には徘徊して地下鉄の駅の階段から転落。
救急車で運ばれました。
守道さんは純子さんが家から出ないよう玄関に鍵を掛けた事もあります。
しかし純子さんは外に出ようとベランダから飛び降りてしまったのです。
地面までは3m以上。
この時は軽いケガで済みましたが一歩間違えば命に関わるところでした。
窓のサッシには木の棒を置き純子さんに気付かれないよう周りと同じ色に塗りました。
玄関の鍵は掛けず人の動きに反応するセンサーをつけました。
(チャイム)
(チャイム)それでも純子さんは徘徊し繰り返し行方不明になっています。
純子さんが持っていた切符。
これまで何度も地下鉄の駅で保護されています。
守道さんは純子さんが市内の実家に帰ろうとしていたと考えています。
しかしその家は取り壊されもうありません。
取材中純子さんは何度も外に出ようとしました。
(チャイム)
(チャイム)守道さんの気が休まる事はありません。
認知症の行方不明の問題を抱え追い詰められる家族。
アンケートでは行政や地域など社会の支えが十分でないと感じている人は87%に上っています。
今後問題は更に深刻化するのではないか。
その懸念が今広がっています。
一人暮らしの高齢者の急増です。
2010年500万人だった一人暮らしの高齢者は2035年にはおよそ1.5倍760万人を超えると推計されています。
86歳の認知症の男性です。
10年ほど前に妻を亡くし一人暮らしを続けています。
男性は一日に何度も出歩き自分がどこにいるのか分からなくなる事もあります。
これまでに2回行方不明になり警察に保護されています。
1週間見つからず自宅から3キロほど離れた道路脇で衰弱して動けなくなっていた事もありました。
家族がいない一人暮らしの認知症の人たちを見守る国の制度は介護保険しかありません。
おはようございます。
男性のもとにはヘルパーが訪れ食事の準備や洗濯など身の回りの手助けをしています。
しかし常に見守るのは限界があります。
男性が現在受けている介護サービスです。
毎日1〜2時間の訪問介護と週2回のデイサービス。
認知症でも体が動かせる場合は介護の必要性は低いと判断される事が多くサービスを受けられる時間は短くなります。
このため行方不明となる危険性があっても一日の大半を一人で過ごさざるをえない人が少なくないのです。
この日ヘルパーが部屋を訪ねると男性の姿がありません。
来た来た。
この日は無事でしたがいつまた戻ってこられなくなるか気が気でないといいます。
自治体や介護の担当者は施設へ入所させる事も検討しました。
しかし介護施設に空きがなく本人も自宅で暮らしたいと強く望んでいるため現状のまま支えるしかありません。
介護保険でも防ぐ事が難しい認知症による行方不明。
社会はどう向き合えばいいのか。
その一つのヒントが北海道の釧路にあります。
ここでは全国に先駆けて地域を挙げた取り組みが続けられています。
家族が警察に行方不明の届けを出すとその情報が直ちに町じゅうで共有されます。
・「761FMくしろ」それではここでSOSネットワークから所在不明老人のお知らせです。
このFM局では警察から行方不明者の情報が送られてくると番組を中断して伝えます。
放送は30分置きに繰り返されます。
情報の基になるのは警察から送られてくる手配書です。
最後に確認された時間や場所体格や服装などの特徴が記されています。
手配書は警察から釧路市と周辺の7つの町や村に送られます。
更にFM局やタクシー会社新聞販売店やガソリンスタンドなどにも伝えられます。
こうした協力機関は合わせて350。
地域ぐるみで行方不明者を見つけ出そうというのです。
市民の間にも協力の輪が広がっています。
この女性は車の中で聞いたFM放送がきっかけで行方不明になっていた男性を見つけました。
路上で行方不明者を発見したタクシー運転手の男性。
去年釧路周辺で行方不明になった人は55人。
そのうち一般市民が見つけたのは警察を上回る17人に上っています。
釧路で始まったこの取り組みはSOSネットワークと呼ばれ20年前から続けられてきました。
国は全国に広げようとしてきましたが導入した自治体は1/3にとどまっている事が今回の取材で分かりました。
更に導入していても「活発に稼働している」と答えたのは半数以下でした。
多くの自治体が理由として挙げたのが警察など関係機関との連携がうまくいかない事です。
釧路ではどう乗り越えたのか。
鍵は個人情報の取り扱いです。
全国各地の条例では「個人情報を同意なしに第三者に提供してはならない」と定めています。
そのため自治体は原則家族の同意が得られるまで警察から手配書を受け取る事ができない事になります。
しかし釧路では北海道や警察と協議を重ね家族の同意がなくても情報を得られるようにしたのです。
根拠としたのは条例の例外規定です。
「命を守るためには提供できる」という規定を全国に先駆けて適用したのです。
この取り組みによって助けられた女性がいます。
三村時恵さんです。
行方不明になった6時間後自宅から6キロ離れた路上で市民に保護されました。
夫の達男さんは妻が認知症だと周囲に知られたくないと思っていましたが警察は自治体に情報をすぐに伝えていたのです。
地域ぐるみで命を守ろうと取り組みを続ける釧路。
行方不明者の課題に直面する全国の自治体にも新たな仕組み作りが求められています。
行方不明の母親を捜し続ける橋茂さんと姉のみえ子さんです。
母ツヤさんがいなくなってから2年がたちました。
どこかで生きていてほしい。
去年折り始めた鶴は1,000羽を超えました。
7年間身元が分からないままの柳田久美子さんです。
家族のもとに帰れる日を信じて施設は介護を続けています。
保護された時身につけていた指輪。
そこに刻まれた日にちは明日5月12日です。
認知症行方不明者1万人。
誰もが当事者になりうる時代を迎えています。
社会が見過ごしてきた問題にどう答えを見いだすのか。
その問いかけから目を背ける事はできないのです。
この「NHKスペシャル」が最初に放送された日身元が分からなかった女性について情報が相次いで寄せられました。
女性の夫…今週施設を訪れ7年ぶりに妻と再会しました。
ほらお父さん。
(滋夫)パパって言ってるの。
パパだって。
ねえパパに会えたよ。
女性の本当の名前は…東京・浅草で行方不明になっていました。
三重子さんが持っていた指輪は…滋夫さんから三重子さんへ贈られたものでした。
再会した日は指輪に刻まれていた5月12日。
2人にとって41回目の結婚記念日でした。
ラジオ局のアナウンサーだった三重子さん。
退職後イベントで司会を務めるなど活動を続けていました。
行方不明になった時滋夫さんは地元の警察署に届けを出していました。
公開手配のチラシが関東地方の交番に張り出されましたが手がかりはつかめなかったといいます。
当時群馬県警は「エミコ」という間違った名前で把握していました。
このため行方不明者の情報共有システムでは照合できなかったと見られています。
7年ぶりに再会を果たした2人。
しかし言葉を交わす事はできませんでした。
身元が分からないままの認知症の人について国は全国調査を行う方針です。
問題の解決に向けて社会が動き始めています。
(スタッフ)よ〜いはい!キャ〜!2014/10/19(日) 16:15〜17:10
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル 認知症800万人時代▽行方不明者1万人〜知られざる徘徊実態[字][再]

認知症やその疑いがあり、徘徊などで行方不明になった人が年間およそ1万人に上ることが分かった。番組では各地の行方不明の現場を取材、実態と全体像を明らかにする。

詳細情報
番組内容
認知症やその疑いがある人が、“はいかい”などで行方不明に…。その数は、年間およそ1万人に上ることが初めて明らかになった。この内、亡くなった人は350人以上。未発見のままの人も200人を超えることが分かった。番組では、全国各地の行方不明の現場を取材するとともに、家族や自治体へアンケートもおこない、その実態と全体像に迫る。さらに対策の現場も取材、社会はどう向き合っていくべきか考えていく。

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 報道特番

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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