(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(桂文珍)ありがとうございます。
長い間夫婦というものをこう考えてみますというと仲がいいというのが一番よろしいかと思うんでございますんですけどね。
あの〜私のあの〜まぁまぁ仲のいいご夫妻60歳同士なんですけどこれがいつも仲良ういつも散歩をなさいましてねで夕方になったら一緒にこう歩いたはるんです。
田舎のほうですんで畔道をこう歩いたはりますとちょうど春先田植えの終わった頃でございましたですな。
カエルがグエ〜グエ〜グエ〜鳴いとおる。
その中を二人が仲良うこう散歩をしててそのグエ〜グエ〜の中に1匹だけウエ〜。
(笑い)「ええ?お父さんえらいカエルの声がおかしいけどちょっと様子見てやりぃな」。
「ええ?どないしたんや?オオ〜ッこのカエルお前見てみいなええ?これ草に足絡んで逃げられんようなってんねや」。
「ふん。
助けてやりぃや」。
「ああああ。
助けてやろう助けてやろう。
おい。
オホホピョンピョンピョンとこうオ〜オ〜オ〜逃げていきよった。
よかったよかった」。
「ええ事したやないの」。
「ああ。
ええ事できたな」。
二人が角をヒョイと回りますと「先程はどうもありがとうございました」。
(笑い)「ええ?」。
「助けて頂いたお礼にっちゅうてはなんでございますねんけど願いを3つかなえる事ができますんでどうぞ仰って下さい」。
「エエ〜ッ!いやお父さん願いが3つかなうねんて。
私2つ言うてええ?」。
(笑い)「いきなりかいな?まぁまぁ言うんやったらほな先言いぃな」。
「あっそう?すみません最近ちょっとシミが増えたんでこれ消したいんです」。
「ああいいですよ」。
(手を叩く音)「はい」。
「ワッワア〜ッシミが消えた。
いやうれしい。
あの〜ダイヤの指輪も欲しいんです」。
「ああいいですよ」。
(手を叩く音)「はい」。
「ワッきれいなダイヤ〜。
あの〜それから…」。
「おい。
ちょっと待ちぃな」。
(笑い)「全部言うてもうてどないすんねやな。
私も1つ言わしてくれぇな」。
「アッお父さん言い言いお父さんも頼み」。
「ハア〜そやね。
ちょっとほんならこっちすんまへん」。
「何ですか?」。
「人生一度きりですんでねどうでっしゃろな?30歳ほど若い嫁はんに…」。
(笑い)「変える事はでけまっしゃろか?」。
(笑い)「30歳も若い奥さんにですか?ウ〜ンなんとかしましょう」。
(手を叩く音)「はい」。
手叩くとこのお父さんいきなり90歳になりました。
(笑い)
(拍手)いや〜怖いですよね〜。
(笑い)皆さん方見てると女性の皆さん方は「そうだよ〜」みたいな…。
(笑い)勝ち誇ったような表情をなさいましてね〜面白いもんでございますな。
どこに落とし穴があるや分かりませんですけど。
男というのは割と単純なところがございますんで。
この噺は大阪の中船場という所に萬両というお酒屋さんがございましてなええ。
その本家のほうは西宮の今津という所で造り酒屋をやっとおりますがこの萬両のお店も奉公人をぎょうさんに雇いましてそらぁもう手広うにやっております。
その萬両の店先にお立ちになりましたのは年の頃は40過ぎでございましょうかな。
黒紋付羽織袴で鼻の下に八の字髭というのをこう伸ばしましてな手にはどういう訳ですか生まれて一月ほどの赤ちゃん赤子を抱いて表にお立ちになるところからこの噺の幕が開きまして。
「あ〜ごめん」。
「へい。
あ〜お越しやす」。
「あ〜こちらの銘酒を1升頂きたい」。
「へえ。
ありがとうございます」。
「遣いに致しますでな角樽で願いたいのじゃ」。
「へい。
よろしゅうございます角樽でございますな?お遣い物でございますな?ええ」。
「それからご覧のように赤子を抱いておりますのでな丁稚さんにちょっと運んで頂くとありがたいのでござるがな」。
「ハア〜左様でございますかいな。
定吉定吉」。
「ヘエ〜イ」。
「あのなこちらの旦那さんについていってなああ角樽を1升お届けするように」。
「ヘエ〜イ」。
「あ〜子供衆さんどうもご苦労じゃな」。
「へい。
ありがとうございます。
私らこうしてねええたまに表へ出して頂いたほうが気が晴れましてなええ。
もう店の中で用事ばっかりさせられてるともう鬱々しますんですけどこうやって表へ出して頂くとうれしいんです」。
「あ〜そういうものかな」。
「あの〜男の赤子さんでございますか?」。
「そうじゃ男の子じゃ」。
「よろしゅうございますな〜。
家の若旦那さんご夫妻にはまだ子供さんがでけしまへんねん。
親旦那さんは『早う孫の顔が見たい孫の顔が見たい』言うたはりますねんけどなええ何ででけへんかというとこの若旦那が茶屋遊びばっかりしはりましてなそれでもう御寮人さんのこれがお花さんていいますねやけどこれがねなかなかしっくりいってしまへんさかいなかなか子供がでけしまへんねんで」。
「ほう。
その方は子供さんやのに世間の事がよう分かっておりますな」。
(笑い)「へえ。
私体は小そうおますねんけどちょっとひねてますねや」。
「ほう勝間南瓜じゃな」。
(笑い)「おっ今から行きますのはなこの路地を入りまして奥から3軒目の家じゃがな急に参りますので向こうの様子をちょっと見てくるのでその間この赤子を預ってくれますかいな?」。
「ホ〜イよろしゅうございます」。
「番頭さん番頭さん。
定吉はまだ帰ってきまへんのか?」。
「ええ。
あれ髭生やしたあのお客さんについて行たまままだ戻ってきぃしまへんね。
あれはもういつも道草ばっかりしよりますんで帰ってまいりましたら私のほうからちゃんとええ説教いたしますんで」。
「あ〜ひとつよろしゅう頼みまっせ」。
「ワア〜ッ」。
「えらいけたたましい声がするやないかい。
お〜何じゃい?オ〜オ〜定吉やないか。
どないしたんや?ええ?お前赤子抱いてお〜何じゃ?その角樽持ってどないしたんじゃ?」。
「アハッあのなあの髭生やしたおっさんについて行きましてんほんならな『ここの路地奥から3軒目の家やさかい様子見てくるさかいその間赤子預ってくれ』ってこない言われましてなで私ズ〜ッと待ってましたんけどな四半刻ほど待っても出てきはらしまへんねん『これどないなってんねやろな?』と思て奥から3軒目のな?お家行たらおばちゃんが出てきはって『髭生やしたおっさん来はらしめへんでしたか?』言うたら『そんな人来てないで。
あんたその赤子どないしたんや?』『預ってますねや』『あ〜ここは抜け路地になってるさかいにあんたひょっとしたらそれは捨て子されたんと違うか?そらぁえらいこっちゃで』って言われて私分からんようなって帰ってきました」。
「えらいこっちゃないかいな。
オ〜オ〜オ〜おいその赤子をそこへばまぁ一旦下ろしてな。
番頭さん。
何ぞ手がかりはないのかいな?」。
「ええ。
え〜旦那さんこの産着の中にこういう物が入ってございましたが」。
「何?何?え〜手紙じゃないかいな。
え〜『萬両殿』か。
オ〜オ〜家へ宛てた手紙じゃな。
何?何?うん。
エ〜ト『私は東国の士族で松本と申す者でござるがこの度明治の維新でもってその家禄を失ってしまい…』え〜『商法というものに手を出したところが武士の商法とやらでことごとく失敗を致し妻はこの子を産み落として10日余りでこの世を去ってしまい…』お〜気の毒なこっちゃな。
え〜『男手一人では子供を育てるという訳にもまいらず萬両殿はまことに慈悲深きお方と聞き及びこの子を捨て子つかまつる』。
そんなもんつかまつってどないすんねん。
ええ?」。
(笑い)「え〜『この孝太郎…』あっ孝太郎っちゅう子供や。
『この孝太郎が立派に成人致しますようご教育の程を伏してお願い申し上げ候。
なおそのしるしとして酒1升お届け致します』」。
(笑い)「酒1升てこらぁ家の酒やないかいな」。
(笑い)「えらいこれはまた粋な事をするお方じゃな〜。
しかしまぁこれえらい事になったで。
えらいこっちゃ。
あ〜お花お花」。
「まあ〜お父っつぁん何でございます?あらっいや〜可愛らしい赤子さんでございますな〜。
これお父っつぁんの隠し子でっか?」。
(笑い)「阿呆な事阿呆な事言うねやないが。
実はな…」。
「ハア〜ハア〜ハア〜あらっいやあらっまあ〜あらっいや〜えっ?いやいやあらっア〜ッホ〜ッヘ〜ッ」。
「お前人の話聞いてんのかい?」。
(笑い)「ええ。
ちゃんと聞いとおります。
左様でございますか。
まあ〜可愛らしい赤ちゃんやのにね〜そうでございますか」。
「あ〜どやろな〜そこでなお前さんにちょっと相談やねんけどな家の伜とお前さんとの間にはまだ子供ができへんがなな?その事をお前さんがちょっと苦にしてなさる事は私はよう分かってまんねや。
ああああ。
でまぁな別にそれを責めるという訳やないねんけれどもどやろな〜?この萬両の店の暖簾を守っていくには跡取りが要るんでな〜ああ〜。
もしもこれから先家の伜とお前はんとの間に子供がでけんってな事やったらこの子を養子として育ててやりたいと思うんじゃがどない思う?」。
「まあ〜そらぁ私のほうはよろしゅうございますけど若旦那がどういうふうに仰いますやら」。
「あ〜そやな〜」。
「お父っつぁんそらぁあかんあかん。
何を言うてんねんな。
ええ?そんなどこの馬の骨や分からんような奴をそんな者そんなああ暖簾を継がせたりそんなできんできんできん。
そらぁあかんあかんあかん」。
「お前はなそういうないつも水くさい事を言うな〜。
『どの子も仏の子』という言葉があるじゃないかい。
ええ?お前はそうしていつも水くさい事を脂っぽい顔して言うわ」。
(笑い)「もうちょっと優しい気になったらどうじゃほんまに。
ええ?あ〜あ〜そう?もうよろしよろしよろしよろし。
もうお前には頼まんもうほなよろし。
ほなこの坊は私とお花との間にでけた子やという事に」。
(笑い)「親旦那さん。
それはちょっと世間体具合悪いと」。
「いやまぁ番頭さん分かってるますわいな。
分かってますわい。
それぐらいの気じゃっちゅうてますねや。
あ〜しかしまぁそうなるというとこれ赤子にこの乳をやらんないかんねやがお乳の出る乳母どんをな…。
あ〜せや定吉ではちょっと頼りないな。
常吉常吉」。
「へい」。
「あのな手伝いの又兵衛の所へ行てな『お乳の出る乳母どんを今日中に探して連れてこい』っちゅうてもしも『見つけられん』ってなこっちゃったら『貸してる金皆今日中に返せ』言うて」。
(笑い)「あ〜『もしも返されへんねやったらもう家も明け渡せ』とこんな事言うといで。
さぁ〜早う乳母どん見つけておいなはれ」。
「ヘ〜イ。
ウワ〜ッ家の親旦那さんも無茶な事言うな〜。
そんな急に言うたってな〜。
お乳の出る乳母どんが見つかる訳あれへんがな」。
「又のおっさ〜ん」。
「おお〜お乳の出る乳母どんやったら居たはるで」。
(笑い)「何も言うてへんのに何で分かるの?」。
「あ〜お前はんの顔に書いたあるが」。
「エエ〜ッ?」。
「押えたって分かるかいな。
ああ。
いやなああ何もかもお見通しやとこういうこっちゃ。
あ〜お文さん出ておいなはれ」。
「まあ〜常吉っとんご機嫌さん」。
「あっあなた鰻谷のあのお手かけはんいやあの〜御寮人さんいやお手かけ…。
何でここに?」。
「いやいやいやこらぁな私がちょっと説明せな分からんやろけどなこのお文さんをなうん乳母どんに仕立てて送り込もうと私が考えてんねや」。
「どどどういうこってす?」。
「いやなお前はんもよう知ってるようになこのお文さんはな北の新地の梶川いう所から出てなはったああ一流の芸妓はんやな?その芸妓はんのこのお文さんに惚れて若旦那が通うて通うてとうとう芸妓落籍かしてな鰻谷に1軒家借りてそこへ囲うてなはった事をお前はんもよう知ってるやろ?な?お前はんも内緒の使いでチョイチョイ行ってたが。
二人の間に子供がでけた。
男の子や。
な?あ〜若旦那のほうは『毎日顔が坊の顔が見たい』お文さんはお文さんで『一つ屋根の下で三人が暮らしたい』と思てはる。
『何ぞええ手だてはないか?』っちゅうんで俺に相談があったんでなこれを思いついた訳や」。
「いえいえ違う違う違う違う…思いついたって?」。
「せやよって捨て子した」。
「いや違う違う。
あれはこんな髭生やしたおっさんが家へ捨て子…」。
「あ〜あの髭生やした?あれはなこの裏長屋の八卦見を雇うてんねや」。
(笑い)「エエ〜ッ?ほなあれ偽物?」。
「うん。
そうや偽物や私が雇うてんねや。
な?ああ。
な?あ〜まぁまぁ萬両の親旦那さんもなあの御寮人さんのお花はんもまことにそりゃ気だての優しいお方やよってにな育てようという事になるわいな。
ほんなら『お乳の出る乳母どんを探せ』とこういう事になって家へああ使いが来るのはもう皆読めとるがな。
な?」。
(笑い)「そこでこのお文さんを家の嬶の妹やという事にしてで送り込もうとこう考えた訳や」。
「えらい事を考えましたな〜。
やっぱり又はんのおっさんはやっぱり見かけどおり腹が黒い」。
「何を言うてんねや。
ようそんな事言うてんな〜」。
「いやせやけどこんなきれいなこんな別嬪なそらぁ乳母どんは居たはらしめへんで」。
「いやいやそうかも分からんな。
ほななちょっとうつむき加減でああついておいなはれ」。
「あっどうも親旦那さんお使い賜りまして」。
「あ〜又はんご苦労はんやな。
いやどやな?ええ?お乳のでる乳母どん居てたかいな?」。
「さぁそれがちょっと身内の恥を申すようでなんでございますねやが家の嬶に妹がおりましてええこれが他所へ縁づいとったんでございますんですけどもまぁ向こうの舅はんと折り合いが悪うてえ〜戻されてしまいまして男の子がでけとったんでございますが『男の子は男親につく』ってな事を言うて子供を取られてしまいまして。
で〜まぁお乳は出るんですけど戻っておりましたんでこちらへお役に立てるんやったら奉公さしてもらおうっちゅうんで今ここへ連れて参りましたんで」。
「そうか。
そらぁありがたいな。
ほな早速入ってもうて入ってもうて」。
「初めてお目にかかります。
文と申します。
どうぞよろしゅうお願い致します」。
「お〜顔上げて顔上げて」。
(笑い)「きれいな人やな〜。
こんなきれいな乳母どんやったら赤子やのうて私が乳吸いたい」。
(笑い)「何を言うてまんの何を言うてまんねや。
親旦那さん大丈夫だっか?」。
「冗談に決まってますやないかいな。
ほな早速な…。
あ〜あ〜お花お花。
坊を連れておいなはれ乳母どんが来やはったよってにな」。
「ほなお願い致します。
ちょっとお父っつぁん見てみなはれ一生懸命飲んでますやないかいな。
いや〜お腹がすいてましたんやなお父っつぁん。
こないして見てるとほんまの親子のようですな〜」。
(笑い)「そやな〜実の親子のようやな〜」。
そりゃそのままでございますから。
まあ〜まことに昔の事とはいえ不思議な生活が一月ほど続きましたある日の事でございます。
「あの〜若旦那さん」。
「おっお文。
こっち入っといでこっち入っといで」。
「いや。
外でお目にかかるのはよろしゅうございますがお部屋に入るの…」。
「いえ。
ええねんええねん。
今日は嫁はんがな実家へ帰ってんねんうんうんそれから家の親父もな寄り合いで晩遅うにしか帰ってきよらへんよってになそれから店の者はな皆な宿下がりさせてええ休ませてるそれから定吉は遠い所へ使いに出してる。
あいつは寄り道ばっかりするよってにな入っといで入っといで。
どないやどないやどないや?」。
「いやそれやったらちょっと失礼致しますけど」。
「辛い思いをしてんのと違うか?ええ?自分の子供やのにな〜『坊坊』言うて育てないかんしな辛いのと違うか?」。
「いや。
それがあの〜御寮人さんに随分と優しいして頂きましてちょっと咳をしただけでも『あんた風邪でもひいてんのと違うか?早う休みなはれ』言うて大事に大事にして頂いたりこの間も小間物屋はんが来はった時に『目移りがして簪どれを選んでええねや分からんようになったるさかいあんた選んで』いうて言われて私選んで差し上げると『あんたも1つ買いなはれ』『いや。
私そんな高い物を』と言うたら『私が買うてあげます』言うて買うて頂いたり『もう姉妹がないのであんたの事をほんまの妹のように思うてんねんで』言うて優しいされる度に私何か針のむしろに座らされてるみたいで辛うございます」。
「いやいや辛いやろうけどなもうちょっと辛抱しといて。
な?あいつの悪い所を見つけてなああ無かっても無理やり見つけてなあれを放り出してな?その後釜にお前にすわってもらうよってにな?もうちょっとの辛抱や。
な?そんな事より久しぶりやないかいなちょっとこっちおいで」。
「いやいや。
いやもう昼間からそ…」。
「いやええやないかいなな?どないや?」。
「いや。
ちょっとそんなそんな…」。
(笑い)「いやいやもう定吉っとんが帰ってきます」。
「定吉は遠い所へ行ってんね」。
「いえ。
あの〜定吉っとん」。
「ただいま戻りました」。
「おう向こうへ」。
(笑い)「向こうへ…。
閉めて閉めて」。
「定吉。
何でこんな早う帰ってくんねや。
もっとちゃんと道草せんかい」。
「そんな怒り方ありますかいな。
あの〜若旦那さん途中まで戻ってまいりましたら御寮人さんにバタッとお目にかかりましたんでほれで今お知らせに戻ってまいりました」。
「オ〜オ〜オ〜そうかあ〜嫁はん帰ってくるの。
オ〜オ〜オ〜オ〜オ〜何じゃ帰ってきたんか?」。
「ハッただいま戻りました」。
「あっア〜ア〜ご苦労さん。
定吉。
向こうへ行っとき。
うん。
そこを閉めてなピタッと閉めて。
うん。
ハア〜ッうんアハッうんお父さんお母さんお達者になさって?」。
「ありがとうございます。
あの〜久しぶりに実家へ戻りまして父親といろいろと話をしたんでございますんですけど父親があの〜この間あの〜同業者の寄り合いであの〜『萬両の若旦那の話が噂話やけれどもお〜出た』。
でその時に『どうもこのごろ萬両の若旦那は茶屋遊びが止まらんらしい。
それだけやなしに最近は悪い連中から金も借りて博打にも手を出したはってこのままでいくとあの〜萬両のお店もそろそろ危ないのと違うやろかいうようなそんな噂をこう聞いてんねやけどもお前うまいこといってんのか?』と。
で『子供が居てないのをまぁ幸いというたらなんやけれどもこれからうまいことやっていく自信がないのやったらもうお暇を頂いたらどうや?』いうて父親が申しますんで私もいろいろと考えましてで道々いろいろ考えたんですがやっぱりこれから先仲良うやっていくのも難しいと思いますんでお暇を頂戴したいと思いまして」。
「エエ〜ッ!それはあかんで」。
(笑い)「いやそれは…いやそ…いやいやそ…いや…いや…。
そ〜う?」。
(笑い)「いや〜せやけどそ…いやそれ…いやそりゃ…。
そん…いやそんな事急…いや…いや…。
そ〜う?あっそう」。
(笑い)「な〜?お前さんは一遍言い出したら後へ引かん性質やよってにな。
ほんならまぁそういう事にしますか。
いやそらぁ私も至らん所があったんでなそらぁまぁこのとおりやねんけどな。
この話はそっちから出たんやよってな?それだけまぁな…。
いやどうも長い間ご苦労さんでした」。
(笑い)「お世話になりました」。
「そこ閉めといて」。
「ハア〜ッ」。
(笑い)「ハ〜ハハハハハハハ世の中は面白いもんやな〜ええ?悪い所見つけても放り出してやろうと思たら向こうから言うてきよった。
こらぁありがたいな〜」。
「あの〜若旦那さん」。
「おっお〜オ〜オ〜文こっち入っといでお前にええ話があんねんええ話が」。
「いや〜あの〜先程からの話の続きでございますねんけど」。
「フンフンフン何や?」。
「いや私いろいろ考えましたんですけどお暇を頂きたいと思いまして」。
(笑い)「何を言うてんねんなお前。
家の嫁と今別れ話がでけてお前はんが後釜にすわるのもう決まったようなもんや。
何を言うてんねん」。
「いやそれが若旦那はなにかというと何も罪咎のない御寮人さんに『別れよう別れよう』悪いとこも何もないのに『別れよう別れよう』と言うようなそんな男の人と私一緒におりましてもいつ何時私も同じような目に遭わされるや分からしませんので…」。
(笑い)「お暇を頂きたいと思いまして坊と一緒に出ていきます」。
「あ〜阿呆な事言いないな。
あかんであれは『家の暖簾を継がすんや』いうてお父っつぁんが言うてんね。
それあかんあかんあかんそんなもん通れへん通れへん阿呆な事言うてんねあれへんわ。
お父っつぁん言うてくらぁ。
お父っつぁんお父っつぁん」。
「お〜伜ええとこへ来たな〜。
お前にちょっと話があんねやけどな」。
「フンフンフン何でんねん?」。
「私この店から暇をもらいたいと思てんねん」。
(笑い)「阿呆な事言いなはんなええ?主が店から暇もうてそんな阿呆なそんな寝言みたいな事言いなはんな。
寝言っちゅうのはねんん寝てる時に言いなはれ」。
「フン寝言は寝てる時に言いなはれ。
ああよう言うてくれるわ。
その言葉をそのままお前はんに返さしてもらいます。
な〜。
まぁそこへ一遍座れ。
な?ア〜ッ」。
「お前がな茶屋遊びをして女子を落籍かして間にでけた子供を家に捨て子したっちゅな事は皆知れてます。
その上に乳母どんやいうてその女子を家に引っ張り込んだんや。
それも皆分かってますねやで」。
「えっ?誰が?誰がそれを?」。
「誰がそれをてなあのなハア〜ッお文がなあのお花に優しいされる度に針のむしろへ座ってるようで辛うて辛うてこの間とうとう何もかも喋ってくれました」。
「んん何で?そんな阿呆な」。
「阿呆な事あるかい。
阿呆はそっちじゃ。
ええ?な〜?それを聞いてあのお花はなハア〜賢い女やで。
ハア〜それを聞いて怒る訳でもなし『あ〜あんたも苦労したんやな〜』言うて女同士手に手を取って泣いておったわ。
な〜?あんなええ女二人泣かしてる。
悪い男が一人ここにおると」。
(笑い)「誰?」。
「誰?誰?」。
(笑い)「結局のところあの坊は女二人で育てる事になりました」。
(笑い)「私も及ばずながらその手伝いをさしてもらいます。
そうなると要らんのはお前じゃ」。
(笑い)「な?ア〜ッ茶屋遊びが済んだかと思たらこのところ良からん連中に銭を借りよってからに博打に手出してこのままいたらええ?親の首に縄を掛けかねんようなそんな伜はアア〜ッ家におられたら困る。
お前みたいな奴は勘当じゃ。
とっとと出ていけさらせ」。
「ウワ〜イ。
又兵衛」。
「聞きましたであんた勘当になりましたんやてな〜」。
「喜んどる場合やあらへんがな。
私が店へ帰らな店がえらい事になるねやがな」。
「いや〜あんたが帰ったほうがえらい事になりまっせそらぁ」。
「いや〜アハハそやけど私ゃ行く所がないねやがな。
なんとか考えてぇな手だてを」。
「ウ〜ンそうでんな〜困りました。
あっ1つだけええ手がおますわ」。
「オ〜ッどないしたらええねや?」。
「八卦見の所へ連れたげまっさかいどこぞへ捨て子をしてもらいなはれ」。
(笑い)
(拍手)
(打ち出し太鼓)
(テーマ音楽)2014/11/17(月) 15:00〜15:30
NHKEテレ1大阪
日本の話芸 落語「萬両」[解][字][再]
第345回NHK上方落語の会から桂文珍さんの口演で「萬両」をお届けします(10月2日(木)NHK大阪ホールで収録)。
詳細情報
番組内容
第345回NHK上方落語の会から桂文珍さんの口演で「萬両」をお送りします。(あらすじ)大阪船場の酒屋の若旦那に愛人のいることがばれ、今後、決して女の家には近寄らないと誓わされた。そんなある日、店に赤ん坊を抱いた男が来て赤ん坊を店に残して姿を消してしまう。赤ん坊の懐から出て来た手紙は、この店の主人宛で、わけあって捨て子をするから育ててくれと書いてあるのだが…。10月2日(木)NHK大阪ホールで収録。
出演者
【出演】桂文珍,内海英華,桂米輔,桂米左,桂佐ん吉
ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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