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ヘイトスピーチ  差別する自由などない

 在日特権を許さない市民の会(在特会)による街頭宣伝で損害を受けたとして、京都朝鮮第一初級学校が損害賠償を求めた裁判で、京都地裁は「著しく侮辱的、差別的で、人種差別撤廃条約が禁じる人種差別にあたり、違法」とし、1200万円余りの支払いを在特会に命じた。学校周辺での街宣活動も禁じた。
 偏見に満ちた威嚇(いかく)的な言葉で、授業を妨害するだけでなく、児童に恐怖感を与えるような街宣「ヘイトスピーチ」に公益性はない。当然の判決だ。
 判決によると、在特会は学校前で「朝鮮学校はぶっ壊せ」「日本からたたき出せ」「朝鮮人は保健所で処分しろ」などと、拡声器でシュプレヒコールを繰り返した。怒号を浴びて泣き出す児童もいたという。幼い心に刻まれた傷を思うとやりきれない。
 在特会側は、同校が隣接する児童公園を違法使用していたことに抗議するための「保護されるべき政治的表現」だと主張した。それならば、なぜ差別表現が必要なのか。ののしること自体が目的だったことは明らかだろう。
 在日外国人や中国、韓国の人々への差別意識と憎悪をむき出しにした街頭デモが東京や大阪など各地で横行している。しかし、警察が対処したのは暴力事件になった場合などに限られている。
 今回の判決は、言葉の暴力に沈黙し、そうしたデモを許してきた日本社会への警鐘ともいえる。ドイツをはじめ西欧諸国では、ユダヤ人虐殺の否認、ナチスの称賛、人種差別などは厳しく規制されている。日本でもヘイトスピーチへの法規制を求める声がある。
 ただ「一切の表現の自由は、これを保障する」という憲法21条の規定は、言論が封殺された戦前の歴史を顧みれば重い意味を持ち、規制には慎重であるべきだ。法規制のあり方を検討しつつ、「卑劣な差別的言動を許さない」という意識を社会全体で高めたい。
 ヘイトスピーチの参加者には、誰かを標的にして不遇感や閉塞(へいそく)感を晴らしたい-という屈折した衝動があるようにも映る。ネット上には歴史認識や領土問題で強硬姿勢をとる安倍晋三首相に期待する声も少なくない。
 その安倍首相は国会で「日本人は排他的な国民ではなかったはず。どんなときも礼儀正しく寛容で謙虚でなければならない」「他国の人々を誹謗(ひぼう)中傷し、われわれが優れていると認識するのは間違い。自分たちを辱めている」と答弁している。
 偏狭で恥ずべき排外主義が、幅広い国民の支持を得られるはずがない。われわれの意識もまた、試されている。

[京都新聞 2013年10月08日掲載]

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