(メンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲」)本番直前3分前。
その女性はヴァイオリンを弾きながら控え室から現れた。
これまで何千回と弾いてきたこの曲。
それでもぎりぎりまで自分の音を確かめる。
世界の最高峰を走り続ける。
デビューは僅か11歳。
以来30年ひたむきに音楽と向き合ってきた。
その追求に終わりはない。
(主題歌)圧倒的な技術と表現力で世界にその名が轟く五嶋。
欧米の名だたる指揮者やオーケストラと共演を重ねてきた。
絶頂期突然ヴァイオリンを弾く事ができなくなった。
だがそれを力に変えた。
今年前代未聞のコンサートを企画。
新たな一歩を踏み出そうとしていた。
見つめたい原点があった。
「音楽」とは何か。
果てなき道を歩む探求者の記録。
ヴァイオリニスト五嶋みどりはロサンゼルスに居を構える。
五嶋が現れた。
小柄な体。
80センチのヴァイオリンケースが大きく見える。
五嶋はプロの演奏家であると同時に教育者でもある。
仕事場は音楽教育で全米トップクラスの大学。
五嶋は10年前この大学に32歳という異例の若さで教授として招かれた。
だがふだんの姿からはそんな雰囲気はまるで感じない。
アシスタントはいるが買い物からスケジュール管理まで人任せにしない主義だ。
毎日決して欠かす事のない大切な作業が始まった。
(音階練習)単純なドレミに始まり1時間かけて弾いていく。
(音階練習)怠ると途端に腕が落ちるという。
中でも重要なのが耳だ。
音で聴覚を刺激し僅かな音色の違いも聞き分けられるようにする。
学生へのレッスンが始まった。
オーディションを経て選ばれた若手たちに五嶋は演奏家として必要な事を教えていく。
五嶋が重視するのはミスをしないテクニックではない。
自らが曲をどう感じどう語るかだ。
ヴァイオリニスト五嶋みどりが最も大切だと考えている事がある。
「自分の音を探すのには近道はない」と五嶋は言う。
アシスタントの男性が帰るとまたヴァイオリンを手にした。
弾き始めたのは3週間後に日本で披露するメンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲」。
これまでに数え切れないほど演奏してきた曲だ。
五嶋はまるで初めて挑むかのように同じフレーズを何度も弾き続ける。
世界のトップを走り続けてきた五嶋みどりさん。
人々を魅了する音色の秘密を教えてもらった。
五嶋さんが使っているヴァイオリンは280年前に作られた…あのストラディヴァリウスと並び称されるヴァイオリンの名器だ。
値段が付けられないほど貴重な楽器だが五嶋さんは恐れず弾く。
そのための工夫が施してある。
そして弓はおよそ200年前にフランスで作られたものだ。
演奏活動で世界を飛び回る五嶋さんにはもう一つ肌身離さず持ち歩く物がある。
長年愛用しているこのカバンだ。
そんな話をしてくれた数日後。
五嶋さんのこの備えは本当に功を奏した。
(取材者)えっ!?3月中旬。
五嶋は演奏会のために来日した。
共演するのはヨーロッパ屈指の伝統を誇る…五嶋が指揮者との打ち合わせに向かった。
現代最高の指揮者の一人に数えられる…丁寧な音作りに定評がある完璧主義者だ。
音楽の解釈は指揮者によって千差万別。
短い時間でそれを理解し共に目指す音楽を探っていく。
シャイーは微妙なニュアンスを細かく要求する。
五嶋は瞬時にシャイーの意図をつかんでいく。
本番の日。
五嶋は綿密に最終リハーサルを行った。
リハーサルは無事終了。
だが五嶋はいつまでもヴァイオリンを弾くのをやめようとしない。
本番ぎりぎりまでひたむきに音と向き合う。
目指すのはただ一つの事。
(拍手)いよいよ本番が始まる。
(拍手)
(拍手)この日の公演を終えた五嶋さん。
控え室から一人の女性を連れてきた。
五嶋さんの母節さんだ。
お久しぶりです。
節さんは五嶋さんに初めてヴァイオリンを教えた先生でもある。
いやこんなんねオフオフ。
母と子の二人三脚で歩み始めた音楽の道。
だがそれは栄光もあれば挫折もあるいばらの道だった。
五嶋さんは1971年大阪に生まれた。
母節さんは近所の子供たちにヴァイオリンを教える教師。
五嶋さんも4歳から節さんの徹底指導を受けるようになった。
その後10歳で渡米。
数多くの名ヴァイオリニストを育てた教育者からレッスンを受ける。
そして渡米から僅か10か月後世界的な指揮者にその才能を認められ衝撃的なデビューを飾る。
演奏の依頼が次々と舞い込むようになり一躍トップヴァイオリニストの仲間入りを果たした。
来る日も来る日も練習と演奏会に追われる日々。
あらゆる時間をヴァイオリンに費やした。
そんな生活が10年続いた22歳の夏。
突然心身に不調を来した。
母節さんに対して急に反抗的になったり何も言わずに黙り続けたり食事を一切とらなくなったり。
下された診断はうつ病と拒食症だった。
当時の事を五嶋さんはこう語っている。
「もう悩むとかじゃなくてわけがわからない」。
「悲しみがいつもずっと回転してるんですよ」。
緊急入院の措置がとられヴァイオリンを取り上げられた。
入院は3か月にも及んだ。
その後病状は徐々に回復。
再び演奏できるまでになっていった。
五嶋さんはこれまでの自分を振り返りある決断をする。
それは音楽以外にも自分の世界を広げる事だった。
五嶋さんは23歳にして一般大学へ入学する。
初めて触れる学問クラシック音楽を聴いた事もない友人たち。
何もかもが新鮮だった。
五嶋さんは自分の音色が次第に豊かになっていくのを感じていた。
そして演奏活動と並行して教育や社会貢献活動などにも熱心に取り組んでいく。
今年2月五嶋さんはアメリカ西部の田舎町を訪れていた。
無償で行っているアマチュアオーケストラとの共演だ。
相手は高校生中心の室内管弦楽団。
病気になる前も今も五嶋さんの忙しさは変わらない。
それでも五嶋さんはあえて演奏以外の仕事もする事でそれを刺激とし自らの「音楽」を生み出している。
デビューから32年。
今感じている事を語り始めた。
3月中旬五嶋は特別な思いを胸にある打ち合わせに臨んでいた。
この秋何としても実現させたい公演があった。
それは日本を代表するクラシック専門のコンサートホールでの前代未聞の試み。
五嶋が障害のある子供たちとこの大舞台で共演するというものだ。
五嶋は8年前から日本の養護学校などで楽器の指導をする活動を行ってきた。
今回の公演では知的障害や身体障害がある3校の高校生たちと1時間にわたって演奏する。
しかしクラシックの殿堂での五嶋の挑戦は大きな波紋を呼んでいた。
この日音楽評論家からは率直な疑問が投げかけられた。
(評論家)あっいいですね。
「音楽」とは何か?五嶋は改めてその問いに真正面から向き合おうとしていた。
3か月後。
生徒たちと練習するために五嶋が再び日本を訪れた。
(拍手)五嶋が個別に練習を見始めた。
曲はチャイコフスキーの「くるみ割り人形」。
タッタッタタタタタタタタ…って。
練習はまだまだ手探りの状態。
五嶋は優しく見守る。
1週間後。
五嶋は次の学校を訪れていた。
手足などが不自由な生徒たち。
一つの課題があった。
この学校が取り組んでいるのは教師が作曲したオリジナル曲。
生徒の扱える楽器が少なく既存の曲では難しいからだ。
あっはい。
(教師)は〜い。
だが完成形の定まっていないオリジナル曲。
生徒にとってハードルの高いものとなっていた。
曲は7分ほどある。
だがリズムも音もバラバラで30秒ほどでどうしても止まってしまう。
何度やっても演奏が続かない。
だが五嶋は黙って耳を傾ける。
(教師)今合ってたと思う人?五嶋が練習に加わる。
この日8回目の練習が始まった。
五嶋は自分の音で生徒たちを導いていく。
生徒たちも必死についていく。
気付けば演奏はこれまでになく続いていた。
初めて曲の最終パートに挑む。
生徒たちの表情が変わってきた。
曲の最終盤まで来た。
(拍手)
(主題歌)
(ドラム)ありがとうございました。
その後も五嶋は共演する学校を訪れた。
ヴァイオリンの音好きですか?音好きですか?先月10日演奏会の日を迎えた。
(拍手)ヴァイオリニスト五嶋みどり。
音楽と向き合い続けるその歩みに終わりはない。
(主題歌)
(拍手)感情に振り回されず「仕事」と言われているもの与えられた仕事自分で選んだ仕事そして頂いた仕事というものに向かって情熱を注ぐ事だと思います。
2014/11/03(月) 22:00〜22:50
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「バイオリニスト・五嶋みどり」[解][字]
クラシック界の最高峰を走り続けるヴァイオリニスト・五嶋みどりが登場。コンサート本番直前に行われる秘密の練習から知られざる教授としての姿など1年にわたる記録。
詳細情報
番組内容
クラシック界の最高峰を走り続けるバイオリニスト・五嶋みどりが登場。11歳での衝撃的な全米デビューから30年、圧倒的な技術と表現力で人々を魅了し続ける音色の秘密に迫る。コンサート本番直前に行われる秘密の練習から五嶋の知られざる教授としての姿など、日本とアメリカでの1年にわたる記録。この秋、五嶋は念願のコンサートを独自にプロデュース。本物の音楽とは何か、ひたむきに音楽と向き合い続ける五嶋に密着した。
出演者
【出演】バイオリニスト…五嶋みどり,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
ジャンル :
音楽 – クラシック・オペラ
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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日本語(解説)
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