美の巨人たち 国宝『鳥獣人物戯画』 2014.11.01

一段そしてまた一段。
苔むした石段が私たちをいにしえの世界へといざないます。
今日の作品は何百年もの間この寺で守られてきました。
2週連続でお送りしている絵巻物です。
前編では皆さんおなじみの動物たちが繰り広げる甲巻の愉快な世界をご覧いただきました。
そこにはこれまで語られてこなかった知られざる物語が隠されていました。
ところがいったい誰が何のために描いたのか?真実は謎に包まれたまま。
その謎を解く鍵が去年終了したおよそ130年ぶりの大修復で発見されたのです。
今夜は甲巻に続く3巻。
あまり目にしたことがない不思議な世界の謎に迫ります。
まずは甲巻に続く乙巻から。
そこには甲巻とはまったく違った世界がありました。
冒頭は馬の群れ。
毛繕いする馬。
野を駆け回るもの。
そして子馬。
絵手本のようにさまざまな姿の馬が描かれています。
馬に続いて牛の群れ。
木の枝にとまる鷹。
犬鶏と身近な動物が続きます。
擬人化されずあくまでも見たままの姿。
しかしその先は様相が一変します。
水しぶきをあげるのは1本の角が生えた動物。
ここからは空想上の生き物が登場するのです。
見たこともない動物も。
いったい彼らはなぜ描かれたのか…。
続く丙巻は甲乙が描かれた平安時代から下がり鎌倉時代に描かれたと言われています。
タッチもがらりと変わり描かれているのは人間。
さまざまな遊びに興じる人々の姿が描かれています。
勝負に負けて丸裸にされた男に心配そうな妻。
耳引きや首引きといった引っ張り合いの勝負。
見物や応援も巻き込んで大騒ぎ。
そして絵巻がちょうど半分にさしかかる頃一変します。
現れたのは甲巻と同じ人間のような振る舞いをする動物たち。
その表情は甲巻以上に人間臭く実にユーモラス。
お祭りでしょうか。
絵の中からその騒がしさと楽しさが伝わってきます。
それにしてもいったいなぜ同じ絵巻に人間戯画と動物戯画が存在するのでしょうか…。
さて見れば見るほど謎が深まる『鳥獣人物戯画』。
最後は丁巻です。
最も不思議な絵巻かもしれません。
なぜならその描き方はあまりにもラフ。
どの場面もどこかふざけた様子の人々はまさに漫画。
石を投げ合う場面では効果線が使われていたりブタ鼻やアゴがしゃくれた僧侶は現代のキャラクターのようです。
こちらの僧侶は涙を流していますがまったく悲しい場面には見えません。
おやおやこちらの男は下半身丸出し。
4巻通して見ると更に謎が深まった感がするのですが…。
今週もこの人たちが絵巻推理で盛り上がっているようです。
あらゆる絵巻の模本が揃う漫画喫茶ならぬ絵巻喫茶。
どうです?4巻全部見て新しい漫画を描くヒントはみつかりましたか?いやわけわかんないでしょ。
4巻って言ったって全然違うし!う〜ん思ってたのと違いましたか。
蛙とか兎の絵だと思ったらまさか龍まで出てくるなんて。
山羊とか象も当時の日本にはいなかったはずだから想像で描いたんでしょうな。
実物を見たことないのに描いたの?だとしたら結構すごいな〜!よく描けてるな〜!あれ?なんだ?この動物。
ねぇマスターこれなにこれ?それは虎だ!虎?山羊とか象とかよく描けてるのになんだかこれだけおかしいな…。
首は長いしなんかセクシーだし。
おお!結構いいところに目つけるね〜!はい。
実はそのナイスバディーな虎こそがその絵巻の謎を解く鍵なんです。
この虎が?はい。
カチャッ!乙巻に描かれた奇妙な虎の正体とは?なぜ丙巻には動物と人間が混在しているのか?丁巻がラフなタッチで描かれた理由とは?これらの謎をたどっていけば『鳥獣人物戯画』誕生の秘密につながるというのですがそれはいったい?『鳥獣人物戯画』。
誰もがどこかで見たことがあるはずです。
最初に見かけたのは教科書ではないでしょうか?およそ40年前の教科書です。
ここには作者の名前が書かれています。
鳥羽僧正。
いったい何者でしょうか?当時の僧侶で最高の位まで上り詰めた高僧です。
そして腕前はありながら少々変わった絵を描いた絵師だとも言われています。
こんな絵を描いたとか。
絵巻の上で繰り広げられているのはなんとおなら合戦。
こういった戯画を得意としたことから長い間『鳥獣人物戯画』の作者として伝えられてきました。
しかし現在では4巻それぞれ作者も描かれた年代も異なると言われており鳥羽僧正説は薄れてきています。
そこで有力となっているのが…。
宮廷絵師説の根拠となったのが宮廷で行われる儀式などを描いたこの絵巻に『鳥獣人物戯画』をフィギュアにしたような飾り物が出てきます。
一方の絵仏師説の根拠となったのが密教の法を伝承するために描かれた図像集の中にこんな一枚が。
そうこの虎乙巻に描かれた虎にそっくりなのです。
他にも密教図像には乙巻に描かれた空想上の動物や当時日本にいなかった動物が数多く登場します。
更に京都国立博物館の若杉さんによると…。
宮廷絵師は非常に慎重な筆のひき方をします。
線のひき方をします。
こんなに線が太くなったり細くなったりかすれたりとかそういう墨の使い方をしません。
かつて絵仏師が多くいたという高山寺で『鳥獣人物戯画』が守られてきたことを考えても描いたのは仏教関係の絵師という説もうなずけます。
では絵仏師はいったい何のために誰のためにこの絵巻を描いたのでしょうか?う〜ん…。
あらららら…。
今度は絵巻全部広げてどうしたんですか?いや4巻並べてみたら何かわかるかなと思って。
うん…まず全部バラバラではないってことはわかるよね?うん…。
甲巻と乙巻はまあタッチが似ている。
いや丙巻の動物戯画は甲巻と同じキャラだし丁巻に出てくる…ほら。
オマージュしてるっぽい場面出てくるでしょ?甲乙では動物を描いたから丙丁では人間を描いてみたとか?う〜ん…じゃあさなんで丙巻には人間の絵を描いてまた動物戯画に戻るの?不自然な気がするんだよな。
またまたいいところに気がついた。
偉い!そこのところもね昔から研究者を悩ませてきたところでね。
このまったく別々の巻を誰かが勝手にくっつけちゃったんじゃないかなんて言われてた。
しかし3年前に驚きの新事実が判明したんだ。
新事実?うん。
明治27年創業の老舗表具店ここで『鳥獣人物戯画』はおよそ130年ぶりに修復が行われました。
そこで前半に人間戯画後半に動物戯画が描かれた奇妙な丙巻について新たな事実が発覚したというのです。
きっかけはこの汚れのような跡。
丙巻の動物戯画にはところどころに墨のにじみのようなものが見られます。
墨跡の原因はこちらの人間戯画にありました。
この人間戯画を反転させ動物戯画の裏に合わせると墨跡と烏帽子の形がピッタリと一致し烏帽子の墨が動物戯画に写っていたことがわかったのです。
墨の形がピタリと一致する部分は絵巻の中で中心を境に対称を成していました。
このことから前半の人間戯画と後半の動物戯画は長い1枚の紙の裏表に描かれていたことがわかったのです。
裏表に描かれた1枚の紙を後世の人々が2枚に剥ぎ取り絵巻として見られるように仕立てました。
そのため前半が人間後半が擬人化された動物という奇妙なひとつの絵巻が誕生したのです。
更に光をすかし紙の質を確認したところ4巻すべての紙が絵巻で使われるようななめらかな紙ではなくお寺の古文書類などに使われる再生紙のような紙だという事実が判明します。
修復をしている立場から見ると誰かに発注されて誰かに見せるために描いたっていうよりも…。
『鳥獣人物戯画』は発注されたものではなく絵仏師が仲間内だけで見せ合って楽しんだそんな絵巻だったのでしょう。
しかし動物や人間たちの卓越した表情に見る者はつい頬が緩み絵巻の世界に惹き込まれてしまうのです。
だからこそ後世の人たちはさまざまな工夫を重ね守り通してきました。
『鳥獣人物戯画』は900年という時を生き残った奇跡の4巻だったのです。
すばらしい作品を後世に残すために絵巻に仕立てるなんてロマンだよなぁ。
この漫画だってもしかしたら…。
ああそれはないですね。
え?いやいやそんなことより…。
ちょ…なになに?この最後の丁巻。
これどう思った?いや…これこそ単なる落書きって感じだよね。
なんで4巻目に入れちゃったのかな?いやこれねたぶん明らかにひとりだけ下手な絵師が入っちゃったってそういう感じでしょ?まだそんなふうに思ってたの?ほらもっとほれちゃんとしっかり見て!うわっ!丁巻の作者は決して下手だったわけじゃないんだよ。
一見下絵のようにも見える早描き風のラフなタッチ。
しかしそこには平安鎌倉の絵師の偽らざる技量が隠されていたのです。
そもそも戯画とはどんな絵なのでしょうか。
辞書によると…。
定義に最も近いのは『鳥獣人物戯画』の最後を飾る丁巻だといえるでしょう。
まさに漫画のルーツともいえる軽妙さ。
ではなぜこのおかしみの境地に達することができたのか?他の3巻に比べると即興的で一見ふざけたようにも見える丁巻ですが…。
ヘタクソではなかなかあれだけの絵は描けないと思うんですけども。
確かに馬の動きひとつ見ても少ない描線でしっかりと静と動が表現されています。
しかもラフに見せながら巧妙におかしみを感じさせる。
丁巻の作者はある程度名の通った絵師だったとも考えられるのです。
当時絵師は現在の画家のように自由に描くことは許されず常に注文主の意向に沿ったものだけを描く存在でした。
そのなかで『鳥獣人物戯画』はまったく違ったのです。
『鳥獣人物戯画』は絵師が誰にも縛られず描きたいものを描いた作品だったのです。
そして描くからには見る者をとことん楽しませる絵を描こうと考えたのでしょう。
だからこそ描かれた動物や人間は伸びやかで笑いがそこらじゅうに溢れているのです。
そして900年の時を超え守り継がれ今なお見る者の心を躍らせおかしみを与えてくれるのです。
日本人ってなんかこうきっちりすばらしいものだけじゃなくてなんかこうゆる〜いものも大事にする民族なんじゃないかなって思うんだ。
ヘタウマが通用するのも日本だけって聞いたことがあるな。
だからアニメとか漫画みたいなサブカルが文化として成り立ってるのかな?そうそうだからこそその絵巻900年も残ってきたんじゃないかな?そうかもなぁ。
『鳥獣人物戯画』って日本人の精神を表してるのかな。
森羅万象を笑いに変えちゃう精神ってとこかな?よし!俺も900年の歴史に残るような偉大な漫画を描くぞ!お〜っどれどれ?ってまたパクリかい。
4年におよぶ修復を終えた『鳥獣人物戯画』は今京都国立博物館で展示されています。
動物たちが体をよじらせ笑っています。
人間たちもご同様。
時には龍やバクが登場しファンタジーの世界へ導いてくれるのです。
まだまだ謎だらけの絵巻ですがこれだけは言えます。
これを描いた者は見る者をとことん楽しませようとした。
そしてとことん楽しんで描いた。
『鳥獣人物戯画』。
この国が世界に誇る究極のエンターテインメント。
今年6月に誕生した東京の新名所2014/11/01(土) 22:00〜22:30
テレビ大阪1
美の巨人たち 国宝『鳥獣人物戯画』[字]

毎回一つの作品にスポットを当て、そこに秘められたドラマや謎を探る美術エンターテインメント番組。今日の作品は、先週に続き、多くの謎を残す絵巻、国宝『鳥獣人物戯画』

詳細情報
番組内容
多くの謎に包まれていた絵巻、国宝『鳥獣人物戯画』。先週に続き2週連続でその魅力、謎に迫ります。近年約130年ぶりに修復され新事実が発覚しました。前回放送の甲巻に引き続き今日は残り3巻の世界へ。絵を見ると不思議な点が幾つも浮かび上がってきます。見たこともない動物が登場する乙巻。時代もタッチも変わり人間と動物が混在する丙巻。そして突然絵がラフになる丁巻。そんな各巻の謎の先にあった絵巻誕生の秘密とは?
番組内容続き
日本人の心を捕え続ける国宝の魅力に迫ります。
ナレーター
小林薫
音楽
<オープニング・テーマ曲>
「The Beauty of The Earth」
作曲:陳光榮(チャン・クォン・ウィン)
唄:ジョエル・タン

<エンディング・テーマ曲>
「India Goose」
中島みゆき
ホームページ

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趣味/教育 – 音楽・美術・工芸
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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