(たい平)平成26年度NHK新人落語大賞!
(藤井)厳しい予選を勝ち抜いた本戦出場者5人をご紹介します!
(拍手)2011年入門大阪予選通過桂三度。
(拍手)2004年入門東京予選通過三遊亭歌太郎。
(拍手)2007年入門東京予選通過春風亭昇吉。
(拍手)2002年入門東京予選通過春風亭朝也。
(拍手)2002年入門大阪予選通過笑福亭べ瓶。
(拍手)以上5人の皆さんです。
(拍手)NHK新人落語大賞。
司会の林家たい平です。
藤井彩子です。
(2人)どうぞよろしくお願いします。
(拍手)若手落語家の日本一を決めるNHK新人落語大賞。
いよいよ始まりますね。
そうですね。
去年までは新人演芸大賞落語部門と題してお送りしてたんですけれども今年から名前が変わりました。
新人落語大賞になったんですね。
そうなんですね。
やっぱりね落語家になったらこの賞はNHKの賞は欲しい!そして僕も賞を取りまして本当に人生が変わりました!あれ?たい平師匠大賞お取りでしたっけ?大賞じゃないんだけど…。
(笑い)準優勝にあたる優秀賞ってのを頂きました。
優秀賞を取られました。
もう人生が変わりました!ですから本当にみんなが取りたいこの大賞ですからね。
是非目指して頑張って頂きたいと思います。
いかがですか?たい平さん。
この5人の顔ぶれご覧になって。
すごいね!NHK新人落語大賞。
新人に見えないような人もいるっていうのがすごいね。
一体どなたが大賞に輝くんでしょうか?では皆さんご準備をお願い致します。
(拍手)それでは審査をして下さる皆さんをご紹介致しましょう。
落語家の桂米丸さん。
米丸師匠!お願いします。
落語家の桂文珍さん。
文珍師匠よろしくお願いします。
浅草演芸ホール会長の松倉久幸さん。
もう会長は元気ですから会長に負けないぐらい若手の皆さんも頑張ってほしいですね。
天満天神繁昌亭支配人の恩田雅和さん。
恩田支配人よろしくお願いします。
作家の山本一力さん。
私もファンです。
よろしくお願いします。
演芸作家の神津友好さん。
先生よろしくお願いします。
そしてNHK制作局エンターテインメント番組部部長三溝敬志が審査に加わります。
さてこのNHK新人落語大賞なんですが出場資格3つあるんですね。
そうなんです。
まず1つ目なんですがプロの落語家である事。
そして2つ目東京の落語家さんには前座二ツ目真打ち…。
すいませんいいですか?前座二ツ目真打ちって下りないで下さい。
(2人)前座二ツ目真打ち。
…と昇進していきますよね。
その3つある中での二ツ目である事。
これが条件です。
ただ大阪にはこういう制度がありませんのでそれに相当するキャリアの方という事になります。
そして3つ目なんですが入門してから15年未満である事です。
決勝で披露して頂く演目は11分という時間が決まっております。
12分を過ぎてしまうとなんと失格という…。
失格ね。
失格になってしまいます。
なお出場順は前もって出場者の皆さんで抽せんをして決まっておりますのでその順番で今日は頑張って頂きたいと思います。
それでは早速始めてまいりましょう。
平成26年度NHK新人落語大賞。
まずはこちらの方です。
史上初の東大出身落語家として現在は情報番組などでも活躍する昇吉さん。
ですがこの大会では2年続けて苦杯をなめています。
そして今年3度目の決勝進出を果たしました。
過去2回惨敗してしまったんでね。
今回は珍しいネタで絶対に大賞取りに行きます。
3回目か。
まあね師匠も弟子も何もね高座上がったら一人なんで自由に頑張って下さい。
頑張ってね。
(出囃子)
(拍手)どうもたくさんの拍手をありがとうございます。
私が春風亭昇吉と申しまして落語会の羽生結弦といわれております。
どうぞよろしくお願い致します。
(拍手)今年が3年目という事でなんとか今回を三度目の昇吉
(正直)にしたいと思っております。
どうぞよろしくお願いします。
今江戸時代の暮らしってのが見直されてるんだそうですね。
江戸時代ってのは何でも物を大切にする。
今の言葉で言うとエコとかリサイクルってやつですね。
これが盛んでした。
ただいまではほとんど見られなくなりましたが昭和の中頃までは紙屑屋という商売がございましてこれは町なかを籠を担いで「屑〜い屑屋おはらい〜」なんてんで流して歩く。
そうやって方々で屑を買い集めてきては今の言葉で言う分別ですね。
いろいろとこう選り分けてそれぞれに再利用したというその時分のお噺で…。
「若旦那幾日何日うちいてもらっても構いませんがねいつまでもそうゴロゴロしてる訳にもいかねえでしょう。
ちっとは働いてみようっていう了見にはなりませんか?」。
「私もねいろいろ考えてはいるんだけどお前さんの前だけども骨折り仕事はできないしさ。
といって肩に天秤棒を当てて商いに出るってのは惚れた女が見たら泣くだろ?」。
「そんな事言ってちゃ困りますね。
どうです?この間ちょいとお話をした楽に儲かる仕事あれやってみませんか?」。
「何だい?」。
「紙屑の選り子なんですけどもね」。
「何それ?」。
「そこの三軒長屋の真ん中あれ空き店でしょ?そこに屑をたくさん買い集めてあるんです。
その屑の選り子をやってもらいたいんですがね」。
「何だい紙屑の選り子?何か汚いね」。
「でもね汚い屑の中からいろんな物が出てくるんですよ。
時によるとサンゴの五分玉だとかねダイヤモンドなんてのが出てきたりなんかする。
そういうのはみんな選り子の儲けになるんですから」。
「えっ!?それもらっちゃっていいの!?じゃあ何だそら宝探しみたいなもんだね!面白そうじゃねえか!うんひとつやってみようか!」。
「あっそうですか?では行きましょう。
若旦那後を閉めて。
…でここに屑がうずたかく積んでありましょ。
これを選り分けて頂くんですけどまずこの白い紙白紙は白紙でこっち入れて頂いてちょいと汚れた紙これは符丁でカラス紙なんて事言いますがね。
カラスはカラスでこっち入れて頂いてそれからこのタバコの空き箱こらね線香紙なんて事言います。
それからっとこのねミカンの皮これは陳皮って言いましてね七色とんがらしの中に入れたりしますんでこれはいい値で売れます。
それからあ〜これこれ…。
これが一番値が張るんですよ。
ご婦人の髪の毛これきれいにすいて人形の髪の毛になったりかもじになったりしますんでね。
毛は毛でこっちへ入れて頂いて。
いいですか?ちょいとやってみますんでね」。
「白紙は白紙カラスはカラス。
線香紙は線香紙陳皮は陳皮毛は毛」。
「うまいもんだね熊さん。
おめえさんがやったらいいんじゃない」。
「私がやるって訳にはいかないんでひとつよろしくお願いします。
それからこの屑ん中からはいろんな物が出てきます。
手紙や本や何かね。
若旦那のようになまじ読み書きができるとついそういうものを読んじまう。
仕事のはかがいかねえってやつですからね。
決してそういうものを読まねえように。
それからね静かにしてもらいたいんですね。
…というのが隣のおじいさん患ってんです」。
「ほうそうかい」。
「ええ。
息子さんが心配してるんで静かにするように。
…でこっち隣が稽古屋」。
「いよっ稽古屋!」。
「ほら若旦那。
三味線と聞くとすぐ浮かれるんですから。
隣の稽古屋から三味線が聞こえても浮かれちゃいけませんよ。
静かにするように」。
「分かったよ」。
「じゃあしばらくしたら様子見に来ますんでね精出しておやんなさい」。
「分かったよ。
ハハッ驚いたね。
私がこんな事やるとは思わなかったね。
でも面白そうじゃね。
ひとつやってみよう。
え〜何だい?『白紙は白紙カラスはカラス』っと!『線…』あら?何だい?早速出てきましたよこれ。
サンゴの五分玉!梅干しの種じゃねえかい。
『白紙は白紙カラスはカラス』!あら?何だ本が出てきましたよ。
何だいこら?『風流都々逸選』。
あ〜都々逸の本だ。
私ね都々逸好きなんだよ。
都々逸知らねえってえとね人間が野暮だと思われるからね。
え〜何何…。
『丸めて投げ込む紙屑籠は愚痴や未練の捨て所』。
こいつは今の私の身の上だね。
『あざのつくほどつねっておくれ。
それをのろけのタネにする』。
色っぽいね〜。
続きがあるよ。
『あざのつくほどつねってみたが色が黒くて分からない』。
これじゃあしょうがないね。
『肉屋の夫婦に双子ができてこれが本当の双生児
(ソーセージ)』。
くだらないね。
私の好きな都々逸はね『夢に見るよじゃ惚れよは薄い』」。
(三味線)「あら何だい隣の稽古屋から三味線だ。
粋なもんだね。
おあつらえだい。
『夢に見るよじゃ惚れよは薄い』」。
・「真に惚れたら」・「眠られぬ」「うわ〜い!」。
「若旦那いけませんよ!」。
「熊さんまだいたのかい?『白紙は白紙カラスはカラス』っと!あら何だい?こりゃ。
また出てきましたよ。
あら!すてきに大きなダイヤモンド!…と思ったらドアの取っ手じゃねえかい!『白紙は白紙カラスはカラス』!あら何だ?また出てきましたよ。
何だい今度は?手紙だよ。
巻紙の上の方が赤くなってる。
天紅の手紙ってやつだね。
色っぽいねひとつ読んでやろう。
え〜何何…『一筆しめし参らせ候。
御前様のお姿を一目ミツバよりどうしたインゲンササゲやら』。
あら?何だこれ。
野菜づくしになってんのか面白いね。
『スイカな方と思い染めニンジン様にトウガンをかけかなう月日も長イモの。
マツタケつらきものはなし。
私お前にホウレンソウ。
寝ても覚めてもお姿が目につくイモやレンコンの何のヘチマと思わずにミョウガにかなうお返事をネギあげ参らせ候エンドウ豆太郎様へ。
恋するタケノコより』。
くだらないね!『白紙は白紙カラスはカラス』っと!あら何だい?また本が出てきましたよ。
何だい?今度は。
義太夫本だ。
『義経千本桜道行』。
はあ〜『道行』もねいろいろあるけどやっぱり『千本桜』が一番いいね。
幕が開くってえと一面に桜の吊り枝。
『吉野山』だ。
静御前が初音鼓を調べてる。
…と花道の七三からドロドロ〜ッせり上がりで上がってくるのが狐忠信。
なりがいいね。
黒ビロードに源氏車の金の縫いつぶし!あの縫いつぶしってやつがいいね。
私熊さんとこの食い潰し。
えらい違いだね」。
・「思いぞいづる」・「壇ノ浦の」「海に兵船平家の赤旗!陸に白旗!」。
・「源氏の強者」
(三味線)「熊さ〜ん!」。
「どうしました?」。
「隣の空き家誰かいるんですか!?」。
「うちの居候に紙屑選らせてんですけど」。
「ちょいと静かにするように言ってもらえませんかね。
今親父に薬をのませようと思ったら薬瓶はひっくり返る湯飲みはひっくり返る大変な思いをしてるんですが!」。
「若旦那いけません!」。
「あら熊さん大丈夫だよ。
大丈夫大丈夫!『白紙は白紙カラスはカラス』!あら?また本が出てきましたよ。
今度は分厚い本だね。
何何?『わず語らず』。
『わず語らず』?借金の言い訳かね?これね。
『わず…』。
そうじゃないよこれ!『言わず語らず』だ。
『道成寺』かい?」。
(三味線)「あ〜また始まっちゃったよ!私ね踊りやお芝居やなんか好きだからさこういうのが聞こえてくるってえとついつい踊りだしたくな…。
駄目駄目駄目。
またね熊さんに怒られちゃうんだからもう踊りませんよ。
そうだ。
これをね耳を押さえて聞こえないようにしちゃおう。
もう絶対踊りませんからね!あ〜やだやだ!」。
・「都育ちは蓮葉なものじゃえ」
(三味線)「熊さ〜ん!熊さん!」。
「どうしました?」。
「お宅の若旦那表へ出て踊ってますよ!」。
「あらそうですか!若旦那いけませんよ!そんなとこで踊っちゃ!ねえ若旦那!」。
(三味線)「熊さんまで踊ってる!しょうがねえ!おばあさんのり屋のばあさんすいませんけどねあれ止めてきてもらえませんか?」。
「全くしょうがない。
近頃の若い…。
若旦那そんなとこで踊っちゃいけませんよ。
熊さんお前さんが踊ってちゃしょうがない。
若旦那熊さんも…」。
(三味線)「おばあさんまで踊ったらしょうがねえ!若旦那!あんた本当に人間の屑ですね!」。
「ですからその屑を選り分けております」。
(拍手)それでは審査員の皆様にお話を伺う事に致しましょう。
まずは米丸師匠いかがだったでしょうか?驚いたね。
すっきりしてるしね色っぽいよ。
芸は広くできなくちゃいけないね。
よかった!続いて恩田支配人。
大変結構でした。
この「紙屑屋」は上方落語なんですよね。
それをよくはめ物も入れてここまで器用にされたと思いました。
大変結構な舞台でした。
ありがとうございました。
そして山本一力先生。
若旦那がどれだけ遊びに銭を使ったかがよく分かりました。
ハッハッありがとうございます。
もう端的に言い表されていて本当ですよね。
踊りの稽古は随分されたんですか。
はい。
もう頑張ってやりました。
どのぐらい?もうず〜っとやりました。
できる範囲で。
昇吉君は落語の稽古しないで踊りの稽古してた。
(笑い)はい。
続いてはこちらの方です。
テレビのリポーターや動画の配信など落語以外の事にも積極的に取り組んでいるべ瓶さん。
今一番力が入っているのがラジオでしゃべる仕事。
ラジオで頭角を現した師匠の笑福亭鶴瓶さんの背中を追いかけています。
いろんな経験をしてる分それを落語に生かせればいいかなと。
落語に僕の今までの人生が入っていい落語ができればなと。
13番弟子の一番ラストですけどもだから「べべ」なんですけどね。
こんなとこへ出れるだけでももうけもんですよ。
2回破門してますから。
(出囃子)
(拍手)え〜ありがとうございます。
べ瓶の方でおつきあい頂きたいなと思いますけれどもまず最初に業務連絡がございます。
うちの師匠鶴瓶が2度破門にしたとおっしゃってましたが正確には3回でございます。
それだけ説明をさせて頂きますけれども。
落語の方にもいかがわしい人間が入っておりますけれどもね…。
「ああお父ちゃん帰ってきた!お帰り!お父ちゃん帰ってきたお帰り!うわ〜お父ちゃん!お父ちゃん肩たたきまひょか?」。
「何やお前急に。
いらんいらん。
肩なんか凝ってへんで」。
「そんな事言わんと。
日頃からお疲れやろなと思いまして腰さすります」。
「いらん」。
「足つぼ押します」。
「いらんちゅうてるやろ。
何やお前は。
気持ちの悪い。
大体お前がそうやって言うてくる時は考えがあんのやろ!」。
「考えあるやねんてそんなお父ちゃん。
たまには親孝行したいな思てこないして子どもの方から言うてんのに何でそんな避けんねんな。
こんだけ歩み寄ったってんのに」。
「おいおいおいおい何が『歩み寄ったってんのに』偉そうな事言うな。
あのな親孝行みたいなもんは日頃からきっちりしてくれたらええねん。
お父ちゃん今日は久しぶりに仕事が休み。
うちでゆっくりしたい。
ところがお前がそないしてチョロチョロしとったらドキドキすんのや。
すまんけどなちょっと表遊びに行ってきてくれ。
いやドキドキすんのや行ってこい」。
「あっそう。
ほんならあのお父ちゃん表遊びに行ってくるさかいおくれ」。
「おくれって何をや?」。
「『何をや?』って子どもが親に手ぇ出して『おくれ』言うたら大体何か分かると思うけどな。
まさか生首やない」。
「当たり前やろ。
怖い事言うなおい。
何が欲しいっちゅうねん」。
「…くれ!」。
「何?」。
「…くれ!」。
「あのな男の子やろ!はっきり言え!」。
「金くれ!」。
「やかましいわアホ。
どっから声出しとんねんアホ。
小遣いやったら今朝やったやろ」。
「あれみんな全部使うてしもうた」。
「あのな使うたんはお前が悪いねん。
行ってこい」。
「う〜んどうしてもあかん?」。
「毎日やっとるやろ。
行ってこい」。
「あの…お父ちゃん。
明日の分をおくれ」。
「小遣いの前借りかい。
そんな事してみい。
明日なって困んのはお前やないかい」。
「ううん明日なったらあさっての分もらう。
あさってになったらしあさっての分もらう。
しあさってになったらやのあさっての分もらう。
順に順に先もらっていくやろ。
お父ちゃんアホやさかいそのうち分からんように…」。
「ええ加減にせえアホお前!そんな事言われて余計やれるかい。
行ってこい!あかんちゅうてんねん。
大きい声出す前に行ってこい」。
「あっそうですか。
くれませんか。
結構です!小遣い要りません。
お父ちゃんにもらわんでもお母ちゃんにもらうから!」。
「ハッハッハッハッハ…。
お前はそういうところがまだまだ子どもやっちゅうねん。
あのなお母ちゃんが持ってるおあしお金というのはお父ちゃんが毎日一生懸命働いて稼いだお金をお母ちゃんに預けてんねや。
えっお父ちゃんが『あいつにやるな』ちゅうたらくれる訳ないやないかい。
そういうからくりが分かってへんさかいお前はまだまだ子どもやっちゅうねんほんまに。
かわいらしいガキやで」。
「何にも知らんねんなこの人は。
くれるねんて!お母ちゃん帰ってくるやろ?『お母ちゃん小遣い頂戴』ちゅうたら『あかんで。
お父ちゃんからあんたにやるな言われてる』とこない言われる。
ほんなら僕こない言うたりまんねん。
『あ〜それやったらお母ちゃん。
こないだお父ちゃんが留守やった時に知らん男の人が来た話お父ちゃんにしよっかな〜』言うたら『あかんでその話だけはあんた』ちゅうて5銭握らせてくれる事なってあんねん。
あんまり親ゆするのは気は引けるけど『背に腹は代えられぬ』と申しますがな。
ハッハッハッハ…。
では行ってきます」。
「待ておい。
座れ。
いや座れ。
何かい?お父ちゃんが留守の時に知らんおじさんが訪ねてきてんのか?」。
「えっ!何で知ってるの!?」。
「今お前言うたやないか!今お前言うたやろ!」。
「言うてしもうた。
この話したらあかんかったのに言うてしもうた。
えらい事してしもうた。
お父ちゃん気のせい!お父ちゃん気のせい!気のせいやと思う!」。
「何が『思う』やお前。
はっきり言うたやろ今。
いやいや別にお父ちゃん怒ってる訳やない。
違うがな。
その知らん男の人おじさんというのはお父ちゃんに仕事の用事があって来た人かも分からへんやないかい」。
「それだけは絶対ないねん。
お父ちゃんには用事ないねん。
お母ちゃんにしか用事ないねん。
お母ちゃんのか…か…か…体にしか用事ないねん。
けどこの話聞かん方がええと思うわ。
僕はこんな平和な家庭にこれ以上波風立てとうないねん!」。
「ちょっと待ってくれお前。
待ってくれ座ってくれ頼むわ。
ちょっとその話せなあかんのと違うんかい」。
「えっ?もしかしてこの話聞きたい?」。
「いやまあそりゃちょっと聞きたいな」。
「ああそう。
ほな5銭頂戴」。
「何でやねん。
おい!そんなもんにやれるかい!」。
「ほんならこの話はできません。
しとない話を無理やりさすんやからお金もらわん事にはそんなもんできません。
お父ちゃん落語とか聴きに行った事あるか?ああいう所へ行くと落語を聴く前にお金を払いますか?落語を聴いたあとにお金を払いますか?」。
「アホな事言うなお前。
そんなもん木戸銭ちゅうぐらいや。
先払うに決まってるやないかい」。
「そやろ?落語聴いたあとにお金下さい言うて誰があんなもんに払う?訳の分からん男が出たり入ったりして…。
話というのはそういうもんです。
先銭になっております」。
「どこで習てきたんやそんな事お前…。
理にかなっとるやないかい。
しゃべれ!」。
「ありがと。
ハハハッハハハッ。
あんなお父ちゃん。
この間京都へ仕事行った時ありましたやろ?」。
「京都へ仕事?ああ行ったな。
それがどないしてん」。
「出て行ったすぐあとにな表の方で『こんちは〜』ちゅうて声が聞こえんねん。
僕誰かいなと思て表の戸をス〜っと開けたら知らん男の人が『お母ちゃんは?』とこう言う。
お母ちゃんか思て『お母ちゃん表に知らん人来てるで』ちゅうたらお母ちゃん『さよか〜』ちゅうてそのおじさんの顔見た途端にやでものすごいうれしそうな顔してんねん。
僕あんなうれしそうな顔お父ちゃんの前で見た事ないわ。
ものすごいうれしそうな顔してんねん」。
「おっ母がかい?その男っちゅうのはどんな男やねん」。
「どんな男てお父ちゃん。
今どきあんなきざなお方がいてんねんな。
全身真っ白い服着てな何や世間に後ろめたいところがあるんか色のついた眼鏡掛けて。
お父ちゃん知ってますか?ステッキというやつ。
僕あんなの外国の写真とか絵でしか見た事ないわ。
そんなん持って『こんちは』ちゅうてんねん。
ほなお母ちゃんがうれしそうな顔して『まああんたよう来てくれた。
今うちのヘチマが出たところやがな』言うて…。
お父ちゃんヘチマ言われてるわ。
僕はカボチャやと思う」。
「どっちでもええねんそんなの。
それからどないしてんや?」。
「えっ?」。
「それからどないしてん?」。
「続き聞きたい?」。
「続き聞きたいも何もお前終わってへんやろ!」。
「5銭!」。
「何でやねん!今やったやろ」。
「いや今のはここまでやねん。
「こっからまた5銭要るねん」。
「アホな事言うなお前!そんなもんいちいちやれるかい。
しゃべれ!」。
「あっそう。
くれへんのやったら話はここまでです。
けどここまでやったらお父ちゃん何の話かいなと思うだけで済むやろ?こっからちょっとえげつないねん。
けどこの話は聞かん方がええと思う。
僕は表に遊びに行ってきます」。
「ちょっと待てお前!やめれるかいお前…。
しゃべれ!」。
「ありがとうありがとう。
ハハッ。
ほななお母ちゃんがその男の人を『早いことこっち来なはれこっち来なはれ』ちゅうて奥の間へ連れていくねん。
おかしいな思たさかいな僕お母ちゃんの横に張り付いとったらないつもやったら5銭握るのもギャーギャー言うくせにその日に限ってやで『あんたがおったらいろいろややこしいの。
これ持って遊びに行きなはれ』ちゅうて10銭も持たせてくれてん10銭!僕うれしなったさかい表にピャ〜ッと飛び出していって遊びに行ったんやけどもな何かおかしいな思たさかいにな町グルッと1周してきて帰ってきたら…お父ちゃんおかしいねん。
僕表行く時に戸をピャッと開けたまま行ったんやけどもその戸がピシャッと閉まってんねん。
いつも言うやろ『風通し悪いねんさかい開けていきなはれ』ちゅうて。
その戸がピシャッと閉まってんねん。
お父ちゃんこの戸をス〜ッと開けたい?」。
「いや…開けな話が進まんやろ」。
「5銭」。
「何でやねん今やったやろ!」。
「今のはここまでやねん。
この戸は5銭もらわんと一生開きませんよ」。
「待ってくれお前…こんなとこでやめられるかアホ!しゃべれ!開けろ!」。
「ありがとう開けます。
ハハッ!ス〜ッと開けたらな中に布団が敷いてあんねん」。
「何で昼の日中にそんな…。
ハッハッハッハッハ…!お前ええ加減にせえよとら坊。
大人なぶんのもええ加減にせえっちゅうねん。
何が布団やおい。
それ座布団やろ!」。
「残念。
寝るお布団です。
別名寝具といいます。
それが敷いてあんねん。
その上にお母ちゃんがその知らん男の人いざなうように『こっち来なはれこっち来なはれ』ちゅうて。
そしたらその男の人もまんざらでもないような顔して『ああさよかああさよかああさよか』ちゅうてうれしそうな顔して『ああさよかああさよか』ちゅうてお母ちゃんの上覆いかぶさるように覆いかぶさるように覆いかぶさるように…!」。
(笑い)「しゃべれ!」。
「ありがとうありがとうハハッ!お父ちゃんだいぶからくりが分かってきたな。
ハハハハッ!ほななほななそのなお母ちゃんの体をなその知らん男の人が触りまくるねん!」。
「何でや!」。
「知らん知らん!大きな声出したらいかん。
背中触ったらお母ちゃんが『あっ!』ちゅうて腰触ったらお母ちゃんが『あっ!』ちゅうて足の裏触ったら『あっ!』ふくらはぎ触ったら『あっあっ!』ふくらはぎから太もも触ったら『あっあっあっ!』。
太ももから太ももから太ももから…!」。
(笑い)「しゃべれ!」。
「ありがとう!お尻触るねん!」。
「お尻!?何でそんなとこ触るねん!」。
「大きい声出したらいかんちゅうねん。
僕こんな事お母ちゃんにする人一体誰やろなと思ってなス〜ッとのぞいたらな僕その男の人の事知ってんねん!」。
「誰や?誰や?」。
「お父ちゃんも知ってる人や」。
「何やと…?人が仕事してる時に大好きなお母ちゃんにそんな事さらしやがって…。
一体そいつは誰や!?」。
「うん20銭要るねん」。
「高い!20銭…。
いや待て。
考えようによっては安いなおい。
やる!一体そいつは誰や!?」。
「うんお父ちゃんありがとう。
横町の按摩さんがお母ちゃんの体もみに来てたの。
お父ちゃんどうもありがとう!」。
「待て待て待て!おい!おい!あいつほんま…!こら!帰ってこいこら!とら坊!」。
「やかましいな大きな声でほんまに。
近所に丸聞こえやないかかっこ悪いなこの人はほんまに。
どないしたんや?」。
「どないしたんやないがなお前。
お前がおらへんさかいぎょうさんとら坊に銭取られたやないかい」。
「それあんた小遣いやったんと違うんかいな?」。
「違うがな。
あいつほんま…。
こないだ俺が京都へ仕事行った時に按摩はん呼んだやろ?その話をうまい事話ぶつ切りにしてそのつど5銭5銭ちゅうて持っていきよんのやがな。
最後興奮して20銭払うてしもうたんや。
『全身真っ白い服着て』やて。
考えたら白衣やがな。
あいつはうまい事しゃべりよるでほんまに」。
「情けないこの人は。
まただまされたんかいな。
ほんまにもう。
けどその話一体どんな話やったんや?」。
「そやから言うてるやないか。
そのつど話をぶつ切りに…」。
「そらどうでもええの。
どないして話をぶつ切りにしたんやっちゅうてんねん」。
「いやそや…。
お前もしかしてこの話聞きたい?」。
「当たり前やないの。
どんな話やったんや?」。
「ああそれやったら5銭下さい」。
(拍手)さあそれでは審査員の皆さんにお話を伺いましょう。
まずは文珍師匠いかがだったでしょうか?はいお疲れさまでした。
限られた時間の中で本当によくね生意気な子どもが描けておりましたですね。
はい。
きっとご本人の中にそういう部分があるのかなと思ったりなんかしております。
フフッ。
噺聴いてるうちにねだんだんその世界に引っ張り込まれましてですね私もこんなとこに座ってんと早う家へ帰らな危ないんちゃうかとそんな気にさせてくれはる噺で結構でございました。
ありがとうございます。
そして神津先生。
はい。
え〜今ね「お母さんオレオレ」の時代ですからね。
そういう「真田小僧」になってましたね。
ですからねなかなか説得力のある語りでございました。
どうも。
ありがとうございました。
どうだったですか?もういつ倒れてもいいです。
もうやる事はやりましたので…。
大丈夫ですか?もうやりきったっていう…。
もう何やったら早く向こうへ行きたいです。
さあ次の方はこちらの方です。
123!三度さんは世界のナベアツとしてこのギャグで一世を風靡しました。
しかし桂文枝師匠の創作落語を作り続ける姿勢に感銘を受け…今回決勝に進む事になりました。
僕は落語界に途中参加なのでこの賞を取れたら本当にゼロからのスタートが切れるんじゃないかなと思ってます。
三度の才能はすごいと思います。
頑張って上方落語界落語界に風穴を開けて下さい。
頑張れ!
(出囃子)
(拍手)お邪魔致します。
ありがとうございます。
続いては桂三度でございます。
一生懸命頑張りたいと思いますがただ落語をやってますとたまに人に言われるのが「落語って1ネタずつ長ないか?」と言われるんですがそんな事はございません。
上方落語の有名なお話に「時うどん」というお噺がございます。
江戸東京では「時そば」とそばに変わるんですがその「時うどん」ご存じのない方のために最短バージョンというのがございまして「時うどん」の内容ストーリーは全部伝わるようにギュ〜ッと最短時間にショートカットさせたものがこういうものでございまして昔は時間の事を四つ五つ六つ七つ。
まあそういうふうに数えておりました。
「おううどん食いに行こか」。
「清やんちょっと待ちいな屋台のうどんいうたら1杯16文やで。
2人合わせて15文やったら銭が足らんがな」。
「任せとけっちゅうねん。
行くで。
うどん屋うどん1杯くれ」。
「へいお待ち遠さんで」。
「おっおおきに」。
(うどんをすする音のまね)「うどん屋銭払うで。
銭が細かいさかい手で受けてくれるか?いくで。
1つ2つ3つ4つ5つ6つ7つ8つ。
うどん屋今何時や?」。
「へい九つでおます」。
「10111213141516。
おおきにごちそうさんまた来るわ」。
「おおきにありがとさんで」。
「清やんお前うどん屋に1文ごまかしてうまい事やったな。
わいも明日やってみるわ」。
明くる日「うどん屋うどん1杯こしらえて」。
「へいお待ち遠さんで」。
「おおきに!」。
(うどんをすする音のまね)「うどん屋銭払うで。
いくで〜。
1つ2つ3つ4つ5つ6つ7つ8つ。
うどん屋今何時や?」。
「へい五つでおます」。
「あ〜!6つ7つ8つ…」と3文損しよったというのが「時うどん」というお話でございます。
内容は伝わったと思いますね。
そこで「短くなるやないかい」と思われる方いらっしゃるかもしれませんがそんな事はございません。
ちょっとほかの物語と比べてみたいんですが例えば大ヒットしました映画「タイタニック」。
ディカプリオ主演2時間半ある映画でございます。
あの「タイタニック」内容ストーリーは全部伝わるようにグ〜ッと最短時間にしたものがこういうものでございまして…。
「うわ〜大きな船乗れた!僕は君の事が好きや」。
「私はあなたの事が好き」。
「ほな手ぇ広げよか」。
「手ぇ広げる〜」。
その夜氷山にぶつかりまして…。
「あ〜船が沈む〜!」。
「僕も沈む〜!」。
「沈まんといて〜」。
終わりです。
(笑い)これだけです。
見た方分かると思います。
単純なストーリーでございます。
邦画もございます。
邦画の興行収入ランキング5位ぐらいには入っているんじゃないでしょうか。
昔大ヒットしました高倉健さん主演の「南極物語」。
最近では木村拓哉さんが連ドラでリメークしましたけどもあの「南極物語」もグ〜ッとしますとこういうものでございまして…。
「あ〜南極離れなあかんけど犬日本に連れて帰られへん。
ごめんな」。
1年後。
「犬生きてる〜!」。
終わりです。
これだけですね。
(拍手と笑い)単純なストーリーでございます。
アニメもございます。
皆さんご存じ「101匹わんちゃん」。
「101匹わんちゃん」もグ〜ッとしますとこういうものでございまして。
「おいぎょうさん犬おんなこれ。
98匹はおるんちゃうか?」。
「アホ101匹や」。
終わりです。
(笑い)多分。
見た事ないんですけどね。
まあまあそれらに比べたら「時うどん」がいかに内容の詰まったお噺かというのが分かってもらえたかと思いますがしかし逆に考えますと単純なストーリーを映画のように2時間グ〜ッと引っ張れるというのはすごい事やなと思うんです。
落語にも短いお噺がございます。
小咄というものでございまして例えば「隣の空き地に囲いが出来たで」。
「へえ〜」。
これだけですはい。
「囲い」と「塀」ね。
「塀」と「へえ〜」が掛かっているシャレになっているとまあこれだけのもんなんですけどもこの小咄を映画のようにグ〜ッと引っ張るにはどうすればいいか。
恐らくですけどもこの「へえ〜」と言うた受け手側の男。
この男をものすごく勘が悪い男にすればもうちょっと引っ張れるんじゃないでしょうか。
「隣の空き地に囲いが出来たで」。
「空き地なんかありました?」。
「いやいやどこに引っ掛かってんねん」。
「先輩のマンションの隣はコンビニですやん」。
「いや違うがな。
隣の空き地に囲いが出来たで」。
「じゃあ見に行きましょうよ。
見に行きましょう。
30過ぎたおっさんが公園でうだうだ言うとってもしゃあない。
見に行きましょう」。
「いや実際に見に行っても空き地も囲いもないねや」。
「何でそんなうそつくんですか?」。
「うそちゃうやん。
ノリやんノリ」。
「ノリって何ですか?」。
「いやだからな例えばこの指のピストルでなお前の事撃ったらどうなる?こうバン!」。
「う〜」。
「そうそうそうそう…。
で隣の空き地に囲いが出来たで」。
「フウ〜!」。
「いや『フウ〜』やないねん。
いやノリはええけどな。
ものすごいヒント出したるわ。
なあハト飛んでるやろ?俺がな『ハトが何か落としていったで』。
ほなお前はな『ふ〜ん』って言うねん」。
「ちょっと待って下さい先輩。
僕と先輩は大学ん時から15年来のつきあいですよ。
言うたらもう親友ですやん。
その先輩が『ハトが何か落としていったで』言うてるのに僕『ふ〜ん』って。
僕先輩にそんな冷たないですよ!」。
「ありがとう。
うれしいけどちゃうねん。
お前はほんならハトが何落としたと思う?」。
「ハトが何落としたか?ハトってね平和の象徴とか言われてものすごいいいイメージあるでしょ?違うんですよ。
ほんまはめっちゃばい菌持ってるんですって。
子どもに触らしたら絶対駄目なんですって。
だからハトが落としたのは信用?」。
「全然違う。
お前なハトが糞落としたぐらいで考え過ぎや」。
「ハトが糞…あっ!『糞』と『ふ〜ん』が掛かってるんですか?」。
「まあまあそういう事やん。
お前シャレ好きやろ?」。
「はい僕シャレ好きです。
シャレスキー伯爵です」。
「まっそれはいらんねんけど。
ほんなら『あの人は国で一番偉い人か?』言うたらどうなる?」。
「国で一番偉い人?王様?あっ」。
「あの人は国で一番偉い人か?」。
「おう」。
「そうそうそうそう。
頭の中身は心臓か?」。
「ノー」。
「そうそうそうそう。
お前の家の鍵無くしてもうたわ」。
「キー!」。
「そうそうそうそう。
で隣の空き地に囲いが出来たで」。
「オープンスペース」。
(笑い)「はあ?」。
「いや空き地とオープンスペース…」。
「何のシャレにもなってないやん。
ほんで注目せなあかんのは囲いやねん」。
「ちょっと難しいですわこれ。
言うて下さいよ。
えっ?えっ『言わへんのか〜い』ですよ。
『言わへんのか〜い』ですよ。
分かりました。
ほなもう酒の力借りて楽になりましょう。
ねっ飲みに行きましょう」。
「もう飲みに行きたいだけやん」。
「まあまあ先輩いきましょう」。
「まあまあまあってお前飲ませ過ぎやお前」。
(飲む音のまね)「お前も飲み過ぎやぞ。
嫁はん大丈夫か?」。
「はい。
もう先輩と行く言うてあるんで大丈夫です。
それより隣の空き地のやつですよえ?言うて下さいよ。
えっ?『言わへんのか〜い』ですよほんま。
先輩ね大体昔っから何でも引っ張り過ぎなんですよ」。
「そんな事言うたらお前かて大学ん時から勘が悪いがな」。
「まあそうですね。
うちの嫁はんにもつきあう前言われました。
うちの嫁はん同じ大学のサークルやったじゃないですか。
嫁はんがつきあう前突然僕んとこ来てね…」。
「ヤスダ君クリスマス予定あんの?」。
「予定はないなさみしいな」。
「じゃあ私も予定ないねやんか」。
「さみしい女やな」。
「うん。
でもイルミネーション見に行きたいなと思ってんねやんか」。
「誰と?誰と?」。
「そんなん目の前にして言いにくいわ」。
「言いにくい?下ネタか?」。
「下ネタじゃない」。
「俺なそれよりなイルミネーションになみんなにはないしょでこっそり交じっててほしい人おんねやんか。
誰か分かる?」。
「いやそんなん分かれへん」。
「何言うてん。
小林幸子さんやんかイルミネーションに交じって。
『わっ小林幸子や!』言いたいやんけほんま。
何で分からんの?勘悪いな」。
「あんたや!」。
「…言われてね。
ほんで結局告白されてつきあう事になったんですけどもそんな恋愛で言うたら先輩の方がひどいですよ。
え?大学ん時ず〜っと好きな子がおる言うてんのにえっ?告白もせんとうじうじしてそのうち『その子に彼氏ができてん』言うてね。
僕が『奪い取りましょうや!』言うてんのに『え〜』ってうじうじしてるから結局『その子結婚してん』って引っ張り過ぎなんです。
はっきりして下さいよ。
ほんでいまだにそのずっと好きやった子誰かも教えてくれへんしね。
冷たいですよ。
はっきりして下さい」。
「あ…そこまで言うんやったら俺かてお前が言うように酒の力借りて楽にならせてもらうわ。
俺がなずっと好きやった子ってな今のお前の嫁はんや!」。
「えっ?ど…どういう事ですか?」。
「いやお前な勘悪いねん。
俺な今日みたいに大学ん時からず〜っとヒント出してんねん。
なっ?俺が告白もせんとうじうじしとったんはお前の嫁はんがお前の事好きやってうわさを聞いたからや。
空気読んでてん。
なあ?それやのにお前がしつこく『先輩の好きな子誰ですか?誰ですか?』って聞いてくるからやな俺もうしかたなく『最近その子彼氏ができたらしいクリスマスにできたての彼氏とイルミネーション見に行ったらしい』って俺言うてもうた。
ほんならお前『僕も行きました』やて。
引っ掛かれよ何か。
何か引っ掛かれへん?お前のハートツルツルか?ほんでお前は確かにえっ?『その子を奪い取りましょうよ。
その彼氏どこおるんですか?』って言うた。
俺はすぐ近くにおると徒歩0分やて言うてもうた。
ほんならお前『訳分からんわ〜』やて。
感じろや。
一回考えろや。
ほんでお前『訳分から〜ん』って15年やってるけどなみんなやめてほしいと思ってるからな。
気付けよ勘悪いぞ。
なあ?ほんでお前の結婚が決まってお前の結婚披露宴の時お前ベロベロに酔っ払ってなあ?俺の事無理やり前連れてきてマイク持って『先輩は大学ん時から5年間ず〜っと好きな子がいます。
今日発表してもらいましょう!』。
言えるかい!」。
(笑い)「一番言うたらあかん場所や。
ほんなお前んとこの親父も『誰や?誰や?』。
DNAってすごいね。
そっくりや。
ほんでなお前なもう知ってんねん。
知ってんねんほんまは。
なっ。
何年か前に俺の部屋来て俺の昔の日記勝手に読んだやろ。
あの日記見て『え〜?先輩の好きな子ってひょっとしてセリナっていうんですか?』やて。
ユウコとかマサミとかベタな名前ちゃうで。
セリナやで?お前んとこの嫁はん何ちゅうねん?」。
「セリナです」。
「気付けよな〜。
あの日記読んで『へえ〜』やあれへんで」。
「あっ!『隣の空き地に囲いが出来たで』。
『へえ〜』ですよね!」。
「今それ言う?この空気で。
なあ?」。
「先輩すいません。
でもしんみりすんのはやめましょう。
ぱ〜っといきましょうねっ。
飲みましょう。
すいません日本酒下さい!」。
「あ〜日本酒は冷やでよろしいんか?」。
「いや日本酒ぐらいせめて燗がええわ」。
「…でね先輩」。
「終わらへんの?今終わらへんの?」。
「いや何がですか?」。
「勘悪いな終わる雰囲気やったやん」。
「終わりませんよガンガンいきますよ!…でうちの嫁はんのどこが好きやったんですか?」。
「うわ〜お前それは引っ張り過ぎやで〜」。
お時間でございます。
(拍手)それでは審査員の先生方にお話を伺いましょう。
米丸師匠いかがだったでしょうか?見事ですね。
ご自分で作ったんですか?この新作。
全部自分で作りました。
(米丸)この一つのこういったものが確立されますと今の噺を聞いてますと何にでもあのスタイルで新しくなりますよ。
しっかりやって下さい。
はい。
点つけんのも大変だと思ってるんです私は。
うれしいね。
ありがたいです。
さあ続きまして松倉会長。
なかなか新作ポンポンポンポンとテンポが速くて非常によかったですね。
これを伸ばしてって下さいよ。
あなたのこの噺。
きっと将来大成しますね。
頑張って下さい!
(拍手)皆さん力強いお言葉を頂いていますよ。
これ新作はどういうところからヒントを得て作るんですか?本当に「落語って1ネタずつ長ない?」って言われたんです。
んでじゃあ限界まで短くしたらどうなんのと思ってやってみてほないや映画の方が短くなるやんと思って本音をやってるだけです。
いや〜審査員の先生方もうなっておりました。
続いてはこちらの方です。
合わせる顔がなくなっちまうってんだよ。
歌太郎さんは3年前にこの同じ大会で決勝に進出。
しかし大賞には手が届きませんでした。
ネタを間違えないようにするので精いっぱいだったと振り返る歌太郎さん。
今年再び大賞に挑みます。
3年前よりは心にも余裕があるのでお客様の前でお客様が一番喜んでくれたという意味での大賞が欲しいと思います。
大賞を取ろうなんて考えない。
その場にいらっしゃるお客様を楽しませる。
これだけを大事に考えて下さい。
(出囃子)
(拍手)
(出囃子)
(拍手)三遊亭歌太郎と申しましてねもうしばらくのご辛抱でございます。
どうぞ最後までお気を確かにおつきあい頂きたいなと思いますけれども。
昔はってえと花火なんてのがございましてねまあまあ今でもございますがよく言いますね。
「橋の上玉屋玉屋の声ばかりなぜに鍵屋と言わぬ情
(錠)なし」なんてな事を申します。
昔はってえと花火を褒める。
よく「玉屋〜」なんつってやってます。
ところがこれはちゃんとやるってえと大変に長いですな。
あれはポ〜ンと揚がったやつがパ〜ンと開いてつぼんだやつが川の中へ落ちる。
ここまでを一声で褒めなくちゃいけない。
ですから大変に長い「揚がった揚がった揚がった揚がった!た〜まや〜!」。
ジュウ〜。
そんな長くなくたっていいんでしょうけれども。
旧暦の5月28日これは江戸の川開きとされております。
それまでは川で遊ぶ事が禁じられている。
ところがこの日を境に川で遊ぶ事が許される。
江戸の夏の始まりでございますんでもうこの川開きの当日はってえと両国橋の橋の上花火見物の人でもってザ〜ッとごった返しております。
ちょうどそのころこの両国橋は両国広小路の方から橋へとさしかかってまいりましたのが一人のお職人たが屋さんという。
これは今じゃめっきり見かけなくなってしまった仕事でございますな。
風呂桶のたがの緩んだの手桶のたがのはじけたのこういった物を直して回るたが専門のお職人。
どっかでもって仕事が終わって1杯引っ掛けたんでございましょう。
目の縁がほんのり赤くなっている。
道具箱を担いで橋へとさしかかってきたところでもって気が付いた。
「あ〜そうか。
今日川開きだ。
弱っちったな。
こんな大きな荷を担いでこの橋を渡ってったら申し訳ねえな。
かといって永代へ回るってえのはこれは荷だからな。
すまねえけどこのままちょいと渡らせてもらおう。
ちょいとごめんよちょいとごめんよちょいと…」。
「おいお前何をしてやがんでえ。
そんな大きな荷を担いでこんな混んでる所渡ってくるやつがあるかい。
あっちへ行きやがれ!」。
「ちょいとごめんちょいとごめんちょいとごめんちょいとごめん…」。
「何をしてやがんでえてめえは!こっちへ行きやがれ!」。
あっちへ突かれこっちへ押されしながらたが屋は橋の中ほどへ。
ちょうどそのころ反対側。
本所の方から橋へとさしかかってまいりましたのが一人のお旗本。
馬上豊かにまたがりますってえと中間に槍を持たせております。
供侍を3人連れましてパッパッパッパッ…。
橋の中ほどへとさしかかってまいります。
たが屋さんとちょいと違うというのはこの供侍が人払いってえのを致しますな。
「寄れ〜寄れ!寄れ〜寄れ!」。
たが屋の方はあっちへ突かれこっちへ押されしながら中ほどまでやって来る。
この突いたり押したりする人たちを「寄れ〜!」ってんでどかしちゃうもんですからたまりませんですな。
たが屋勢い余って道具箱を担いだままダダダダ…。
侍の前へ立ちはだかった。
まあその当時は士農工商なんて事を言ってます。
侍が大変に…えらいという事になってますから立ちはだかったから大変だ。
「おのれ無礼者!」ってんで胸をド〜ンと突かれてたが屋が尻餅をついた。
その時に道具箱を落っことしちゃった。
間の悪い時ってのはしょうがないですな。
道具箱の端に掛けてありましたたがご案内のとおり青竹のごく張りの強いやつです。
これをピキ〜ッと裂いて長い一本のたがをこしらえてこれを持ちやすいようにってんでキュ〜ッと丸めて丸めて一番しまいのところには留めというものがしてあったんですがこの留めがはじけた。
たが屋キュッキュッキュッ…シュ〜ってえと馬上のお殿様の笠を下からはね上げちゃった。
笠がヒラヒラヒラ川の中へポチャンってえとあとお殿様の頭の上にはあの土瓶敷きのようなものだけ載っかってる。
あんまりいい形のもんじゃないですな。
「おのれ無礼者!その方屋敷へ参れ!」。
「どうも相すみません。
いやあっしもねこんな混んだ橋渡ってくる事はなかったんですけれどもうちへ帰りゃあ年取った親父とおふくろがあっしの帰りを待ってんですよ。
あっしが帰んねえってえとどうにも釜の蓋が開かねえんでございます。
どうかこのとおりご勘弁下さいまし。
屋敷なんか行こうもんならあっしの首は胴から離れちまいますんでどうかこのとおりご勘弁下さいまし」。
「おい何だよあれ?あれたが屋悪くないじゃねえかよな侍が悪いんじゃねえか。
たが屋悪くないよたが屋!」。
「侍が悪いよコンチクショー!」。
「何だこの野郎!」。
「おいおいお前ね何か言うのはいいけど言ったあと俺の背中隠れるんじゃないよお前。
俺がずっと侍と目が合うじゃねえか」。
「構わねえ」。
「いや構うよ」。
「屋敷へ参れ」。
「これだけ頭を下げても勘弁しちゃもらえねえんですか」。
「屋敷…。
屋敷行ってどうしようってんだい?斬るんだろ?だったらここで斬ったらいいじゃねえか。
人様が見てる前じゃ何かする事はできねえのかい!この丸太ん棒め!」。
「丸太ん棒…その方武士をつかまえて丸太ん棒…」。
「丸太ん棒じゃねえか。
てめえなんぞはなただ突っ立てるだけ血も涙もねえ丸太ん棒みてえな野郎だから丸太ん棒ってそう言ってんじゃねえか。
俺はさっきから話してんだろ。
うちへ帰りゃ年取った親父とおふくろが俺の帰りを待ってるんだい。
だったら何だって親に免じて勘弁する事ができねえんでい!それでも農工商の上に立とうって侍かい。
侍も弔いもあるかい。
さあ斬れ。
どっからやるんでい?首から斬るか腕から斬るか?斬って赤えところが出なかったら赤えのと取り替えたらあ!すいか野郎ってえのは俺っちのこってい!さあ斬れ斬れ斬れ!斬りやがれ!」。
鶏も追い詰められて5尺飛びなんて事を申します。
あの飛べない鶏も犬や猫に追い詰められまして「コッコッコッコ…コケ〜ッ!」。
5尺も飛び上がるなんて事があるんだそうです。
この時のたが屋がまさにそう。
命を捨ててたんかを切ったもんですから侍の方もこのまんま引く訳にはいかないってんでギラリ長いのを抜きますってえと「え〜い!」。
斬りかかってくる。
たが屋の方は自分で命を捨ててるぐらいですからよ〜く見える。
スッと体をかわしますってえと侍の腕つかんでガブ〜ッ食いついた。
またこのたが屋の歯が丈夫。
「痛い〜痛い痛い…。
離せ離せ離せ離せ…離せ〜離せ〜!」。
あまりの痛さに侍刀を落っことしちゃった。
つかんでいた腕をぐんと引きますってえとトントントントン…。
たたら踏んでのめっていく。
落っこっている刀を拾ってたが屋が侍を「うんしゃ〜!」。
斬っちゃった。
こうなりますってえともう見物人は大歓声。
「わあ〜たが屋強いね」。
「強いだろう。
あれ俺のおいっ子だい」。
「うそをつけこの野郎」。
「わあ〜」という歓声の中「おのれ同輩の敵」という声を背中で聞いたたが屋が後ろをふと振り返るってえと2人目の侍が長いのを抜きまして「え〜い!」ってんで斬りかかってくる。
たが屋の方は「もう駄目だ」と思いますから刀を持ったまんまその場にヘナヘナヘナヘナヘナ…崩れちゃった。
いきなり的がいなくなったもんですから侍がたが屋の上へワ〜ッと覆いかぶさってくるってえとたが屋が持っていた刀の切っ先が侍の心の臓へズブッズブッズブズブズブ…。
知らないうちに2人目もやられちゃった。
3人目の侍が考えた。
「たが屋強い…。
嫌だな俺チャンバラ苦手なんだよな〜。
あ〜殿様にらんでる。
これやらねえ訳にいかねえな」。
やれやれ不承不承抜いた刀。
「らあらあらあらあ!」大きな声を出しながらも考えた。
今までの2人は斬りつけてってやられちゃった。
「よし今度俺は突いてみよう」。
めっぽう突いてった。
たが屋がスッと体をかわしますってえと侍の刀が橋の欄干へザクッと刺さっちゃった。
ふだんからチャンバラやってりゃ何て事はない。
長いのは諦めて短い方で立ち合えばいいんですけれども何しろこの侍生まれて初めてチャンバラやってますから長いのでなけりゃいけないもんだって思いますから「ちょっと待って。
今刺さっちゃった。
今抜く。
ちょっと待って。
ぐっ…今抜くからちょっと待って」なんてな事言ってるってえと血刀ぶらさげたたが屋が後ろからやって来て「わあ〜!」。
「がっ!ああ!ああ!ああ!ああ〜!」。
ここはどうしたってコマ送りになるところ。
3人みんなやられちゃった。
馬上のお殿様「おのれふがいないやつらめ」。
ひらり馬から降りますってえと中間に持たせてありました槍を受け取ります。
さやを払ってりゅうりゅうとしごいております。
こういうの端から見てますってえとどっちが強いのかよ〜く分かりますな。
「ととと…殿様出てきちゃったありゃ強そうだ。
よし何か投げて助太刀してやれ」。
「よっしゃ〜!」。
げたは飛んでくる草履は飛んでくる石ころは飛んでくる祝儀は飛んでこない。
飛んでこない飛んでこない。
「無礼者参れ!」。
見よう見まねで構えた正眼をたが屋がスッと脇へそらした。
「隙あり!」突いてくる。
自分で作った隙ですから来るのはよ〜く分かる。
スッと体をかわしますってえと殿様の持っている槍の先っぽを「うんしゃ〜!」。
斬っちゃった。
槍というのは先に刃が付いてるから怖い。
ここを切り落としちゃったもんですから殿様が持ってるのは単なる棒。
殿様しばしぼう然。
「どうにもやりくりがつかねえ」。
いろんな事を言いながら捨てちゃった。
やりっぱなしそんな事はないけれども大刀のつかへ手がかかるより一歩早く踏み込んだたが屋。
横へ払った一文字。
殿様の首がスポ〜ンと中天高く上がりますってえと見物人が一斉に「た〜がや〜!」。
(拍手)さあそれでは審査員の皆さんにお話を伺いましょう。
まずは文珍師匠いかがだったでしょうか?この噺は本当に庶民が最後に留飲を下げるような結末で気持ちがいいですよね。
そこへ行くまでに話をテンポ息と間でトントントントンと行くところ早口でもちゃんと聞き取れるという。
もう師匠を超えてらっしゃるんではないかと。
でも本当にいいものを聞かせて頂きました。
結構でした。
ありがとうございます。
山本一力先生。
この話を11分で見事にまとめて聴きどころを全部省かずにやられたというのは本当お見事でした。
いいものを聴きました。
ありがとうございます。
ありがとうございます。
どうですか?本人はやり終えて。
いつもどおりしゃべれましたんで。
本当?あとは野となれ山となれという。
師匠は超えた?まさかもう…。
さあ最後はこちらの方です。
春風亭一朝師匠に弟子入りした朝也さんに前座の仕事など手取り足取り教えてくれたのは1つ年上の兄弟子一之輔さんでした。
その尊敬する兄さんが4年前に受賞している大賞に…一之輔兄さんの取ったこの大賞私も今年最大のチャンスだと思ってますんで負けずに頑張りたいと思います。
よろしくお願いします。
うちのお弟子さんの中では一番稽古熱心な朝也さん。
ふだんどおりにやれば大丈夫です。
どうぞ頑張って下さい。
(出囃子)
(拍手)
(拍手)え〜春風亭朝也でございます。
一席おつきあいを願いますけれども。
今だんだん医学というものが発達をしてまいりまして昔あって今なくなった病に癪という病がございます。
これは特効薬はなかったんだそうで代わりに合薬と申しますいわゆる民間療法こいつが随分ありまして例えばまむし指と申しますこの太い親指でもってグ〜ッと腹を押してやるですとかあとは男の下帯ふんどしでもってきりりきりり締め上げるとたちどころに癪がよくなるという変わった合薬がございますが。
あるご大家のおかみさん大変な癪持ちで薬は効きません。
ただたった一つよく効く合薬がございましてこれがうちにありますやかん。
やかんをペロペロッとなめるとたちどころに癪がよくなるという不思議な合薬がございますけども。
今日は陽気がいいってんで供の女中を2人連れて原中を歩いております。
目の前をニョロニョロってんで蛇がはい出してきた。
これを見た途端おかみさん「ん〜」ってんで癪を起こして倒れちまう。
「おかみさんしっかりして下さい。
おかみさん。
どうしようおはなさんおかみさんが癪を起こして倒れちまったよ」。
「弱ったねこんなとこにやかんなんぞある訳ないし。
おかみさん!」。
どうしよう。
困っておりますと向こうからやって参りましたのが人品卑しからぬお武家様。
供を1人連れておりましてよほど仲の良い主従何やらざれ言を言いながらこちらへやって来る。
このお武家様よほど若い頃からのぼせ症と見えまして頭がツル〜ってんで見事にはげ上がっている。
「おはなさん向こうから来るお武家様のおつむりを見ておくれ」。
「えっおつむり…まあ!うちにあるやかんそっくり」。
(笑い)「あれがやかんだったらおかみさんどれだけ助かる事か」。
「事によるとあのお武家様のおつむりをなめさして頂ければ癪がよくなるやもしれません。
私頼んでまいります。
お願いにございます。
お願いにございます」。
「いや待て待て可内よいから待てと申すに。
何やらのこの者が身共に頼みがあると申しておる。
身共はよくよく婦人から頼み事をされやすいたちじゃ。
またそれを一度も断った事がないのが身共の自慢である。
可内よいから待てと申すに。
その方いかがした?さては何だなこの原中において賊に襲われたな。
身共に助けを求めに参った。
よくぞ身共を呼び止めた。
と申すはの身共こう見えても一刀流免許皆伝の腕前でな。
早速にその賊を斬り捨ててつかわそう。
どこにおる?その賊は。
何?そうではないそうではない?では一体何じゃ?」。
「実は手前どものおかみさんが癪を起こして難儀を致しております」。
「そうであったかうん。
よくぞ身共を呼び止めた。
と申すはの身共の奥が大変な癪持ちでこの腰の印籠の中に癪によく効く薬が入っておる。
これを早速にその方に下げつかわすぞ。
何?効かぬ効かぬ?効かぬとはどういう事じゃ」。
「おかみさんに薬は効きません。
ただたった一つよく効く合薬があるのでございます」。
「そうであったかうん。
よくぞ身共を呼び止めた。
何であろう。
まむし指であろう。
フフフ…身共このように正真正銘のまむし指。
早速にその者の腹を押してつかわすぞ。
何?そうではないそうではない?そうか。
これは身共がすまん事をした。
おなごの口からはちと言いにくいのう。
何であろう。
下帯ふんどしであろう。
きりりきりり締め上げるとたちどころに癪がよくなる。
ではの早速身共の下帯を下げつかわすぞ。
うん…ハッこれはしまった。
いや…と申すはの身共本日は下帯が越中でな縛り上げるにはちと長さが足らん。
いやしかし待て。
可内!可内その方は下帯何じゃ?何?六尺?おお六尺か。
それも並みのものより五寸は長い?何を申すたわけ。
バカ!ハハハ…。
よくぞ身共たちを呼び止めた。
と申すはのここにいるこの者腕は一刀流とはいかんが下帯はまさしく六尺を所持致しておる。
それも並みのものより五寸は長いと申す。
さだめし効き目があろう。
まあそれで効き目のない時には身共の越中で頬かぶりもしてつかわすぞ」。
「お戯れを。
そうではございませんで実はおかみさんの合薬と申しますはその…やかんなのでございます!」。
「何?やかんだ?ほれほれその方うろたえるでない。
よいか身共もこの者もやかんは所持致しておらん」。
「それは重々承知でございます。
ただその…お許し下さいませ。
お許し下さいませ」。
「いやいや謝ったって分からん。
何じゃ?」。
「実は手前どもにありますやかんに旦那さまのおつむりがうり二つなのでございます。
事によると旦那さまのおつむりをなめさして頂ければおかみさんよくなるやもしれません。
せめて一なめせめて一なめなめさして頂きとう存じます」。
「何ぃ!?言うにこいて身共のつむりがやかんに似ておる?いやその方無礼討ちじゃ。
無礼討ちじゃ!」。
「せめて一なめ。
せめて一なめ」。
「黙れ黙れ黙れ!聞く耳を持つか!言うにこいて身共のつむりがやかんに似てる…。
可内!その方は何をゲラゲラゲラゲラ笑ってるか!その方無礼討ちじゃ。
無礼討ちじゃ!」。
「もとよりお手討ちは覚悟の上にございます。
どうぞ斬るなど突くなどお好きになすって下さい。
う〜っ」。
「泣くな!いざとなれば泣けばよいと思って。
笑うな可内!何をゲラゲラゲラゲラ笑ってるかその方。
第一だなその方少しはこの者を見習ったらどうだ。
この者はの町人ではあるが主人のためなら一命をなげうっても構わん所存と申しておる。
それに対し何だその方は。
かりそめにも武家奉公する身でありながら主人のつむりがやかんに似てると言われゲラゲラゲラゲラ笑いおって。
笑うのはよせ。
泣くな。
笑うな。
泣くな〜!身共の方が泣きたいわ。
相分かった。
本来ならば了見致しかねるところではあるがその方の主人を思う心に身共甚だ感服した。
望むところではないが耐え難きを耐え忍び難きを忍び少しだけな」。
「ありがとうございます。
ありがとうございます」。
「よいよいその者はどこにおる?可内!その方はいつまで笑っておるか!ついてまいれ」。
「おはなさんこちらのお武家様がおつむりをなめさして下さるそうだよ」。
「ありがとうございます。
おかみさん癪の合薬のやかんがお見えになりました」。
「待て待て待て待て。
何だその『やかんがお見えになりました』と言うやつがあるか!お〜この者か。
苦しそうじゃの。
どうすればよい?つむりを出せばよいか?可内!その方はいつまで笑っておるか!何?笑っておらん?笑っておろうが。
今その方肩が小刻みに揺れておった。
辺りを見張れ辺りを。
このようなとこ人に見られてみろ。
末代までの恥辱じゃ。
人が来たらすぐに知らせよ。
相分かったな?ではこれでどうじゃ?もそっとか?これでどうじゃ?」。
さあおかみさんの方だってお武家様のおつむりだと分かってりゃなめる気遣いはないんですが何しろ朦朧としたところへやかんのようなものがぬ〜っと出てきたもんですからなめたのなめないの。
べ〜ろべろべろ。
「コラコラコラ!そのようになめるんじゃない。
抱え込むな抱え込むな。
おいそこは耳だ耳だ。
おいまだか。
まだ治らんのか!」。
「おかみさんしっかりして下さい。
おかみさん!」。
「お前たち…」。
「おかみさんが急に癪を起こされましてやかんがございませんでしたのでこちらのお武家様のおつむりをなめさして頂いたんでございます」。
「お武家様の?知らぬ事とは申せ数々のご無礼平に平にお許しを」。
「いやいや謝らんでもよいが。
しかしその方本当に治ったのか。
本当に治った?う〜ん不思議な合薬があればあるもんじゃ。
いやしかしその方にはきつく申し渡す。
よいか今後外出の折にはやかんを所持致せ。
そうせねば身共のようなつむりの者は甚だ迷惑を致すからな」。
「肝に銘じておきます。
あの…改めてお願いが」。
「改めて?あっ!さてはその方まだなめ足りぬからなめだめをしておこうと言うのか」。
「お屋敷を教えて頂きとう存じます」。
「屋敷?さてはその方屋敷まで度々なめに来るつもりであるな!」。
「お礼に伺いとう存じます」。
「黙れ。
つむりをなめられた礼などに来られてたまるか。
妻子の手前面目ないわ。
いやいやもうよい。
その方もうよい。
行け行け。
あっ!待てその方。
よいか。
今後その方と身共が往来でばったり出会うような事があってもその方と身共は他人だぞ。
今でも他人ではあるがな。
決して会釈などしてはならん。
黙って通り過ぎる。
相分かったか?いやもうよい行け行け」。
「可内!その方はいつまでゲラゲラ笑っとるか!ついてまいれ。
ついてまいれ!う〜ん何たる悪日じゃ。
『犬も歩けば棒に当たる』とは聞いた事があるが身共が歩けばつむりをなめられるなど聞いた事もないわ」。
「旦那様いかがでございましょうお屋敷に戻られたら看板を出されては」。
「うん?何の看板じゃ?」。
「癪の合薬一なめ百文」。
「黙れ!」。
(笑い)「その方なぞには暇をくれてやる。
ゲラゲラゲラゲラ笑いおってからに。
笑うのはよせ。
笑うな。
ハッハッハッハッよいよい。
まあ何にせよ人助けというのは心地のよいものであるがいや〜しかしあの女め調子に乗ってべろべろべろべろなめよってからいまだにこの辺りがベトつくような気が致す。
うん?うん?うん!?」。
「旦那様どうなさりました?」。
「何やらのこの辺りがヒリヒリヒリヒリするのであるがの。
可内どうかなっておらんか?」。
「えっ…プッ。
旦那様大変でございます。
きれいに歯形が2枚ついてございます」。
「何?歯形?あ〜さてはあの者めなめるだけでは飽き足らず時折ガリガリガリガリやりよったな!南無三どうじゃ傷の具合は?」。
「ハッハッハッハッ心配召さるな。
まだ漏るほどじゃございません」。
(拍手)さあ審査員の皆さんのご意見をお伺い致しましょう。
米丸師匠。
寄席ではあんまりこの噺聴かれないんですよ。
でもねここで笑っちゃったですよ。
たあいないような感じなんですがそういう噺ほど難しいです。
そういった点非常にもう呼吸を心得ているから大したもんだなと思いましたね。
見事です。
本当でしたね。
ありがとうございます。
お褒めの言葉を頂きました。
(拍手)続いて文珍師匠いかがだったでしょうか?やかんのようなものっていうところの扱いがお見事でございまして。
ありがとうございます。
もしも大賞を逃されたとしても大賞のようなものはもらえるんではないかと…。
よろしくお願いします。
結構でした。
ありがとうございました。
(拍手)ご自分でやってどうだったですか?楽しく噺もできましたしお客様にも楽しんで頂けたかなと思って楽しかったですやってて。
(拍手)春風亭朝也さんでした。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
お疲れさまでした。
(拍手)さあここからいよいよ審査に入ります。
審査の方法なんですが審査員の方々にそれぞれ10点満点で点数をつけて頂きます。
一番得点の多かった方が見事大賞に輝くという訳です。
さあそれでは審査員の皆様方準備はよろしいでしょうかね?皆さん採点が済んでおります。
まず桂米丸さんお願いします。
という事で昇吉さんが9点です。
(拍手)続いて桂文珍さんお願いします。
3人が9点で並んでおります。
(拍手)それでは…。
松倉久幸さんお願いします。
朝也さんは満点10点です。
(拍手)続いては恩田雅和さんお願いします。
三度さん10点満点!
(拍手)続いて山本一力さんお願いします。
歌太郎さん満点!
(拍手)神津友好さんお願いします。
朝也さん10点満点!
(拍手)最後に三溝部長お願いします。
これで7人の審査員全員の点数が出そろいました。
ではたい平さん審査の結果をお願いします。
はい。
平成26年度NHK新人落語大賞大賞は…64点春風亭朝也さん大賞です!
(拍手)おめでとうございます。
見事大賞に輝いた朝也さんにはNHK制作局第2制作センター長若泉久朗より記念のトロフィーが贈られます。
(拍手)おめでとうございます。
ありがとうございます。
(拍手)おめでとうございます。
いや〜改めて朝也さんおめでとうございます。
ありがとうございます。
どうですか?今の気持ち。
いや〜本当にうれしいですね。
多分世の中で生きてきた中で一番一番…あの〜そうですね…。
師匠の弟子になった次にうれしいです。
師匠も喜んでくれてるよね。
はい。
師匠ふだん何も言ってくれないんですけど「今度NHKの本戦出ます」って言ったら「頑張ってこいよ」ってしみじみと言ってくれたのでそれは師匠にすぐ報告したいと思います。
すばらしい!もう一度皆さん大きな拍手を朝也さんに。
(拍手)平成26年度NHK新人落語大賞大賞は春風亭朝也さんでした。
本当におめでとうございます。
おめでとうございます。
(拍手)そして惜しくも大賞を逃した皆さんも本当にすばらしい熱演ありがとうございました。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
それでは皆さんの今後の活躍を期待してお別れしたいと思います。
皆さんどうもありがとうございました。
ありがとうございました。
さようなら!
(拍手)2014/11/01(土) 15:05〜16:20
NHK総合1・神戸
平成26年度NHK新人落語大賞[字]
今年から「NHK新人落語大賞」と名称を改めた、伝統ある若手落語家のコンテスト番組。東京・大阪の予選を勝ち抜いた5人が大賞を目指して競いあう。司会は林家たい平。
詳細情報
番組内容
40年を越える歴史を持つNHKの若手落語家のコンテスト番組で今年から「NHK新人落語大賞」と名称を改めた。今年の予選は東京で58人、大阪で46人がエントリー。合計104人の中から勝ち上がったのは桂三度(隣の空き地)、三遊亭歌太郎(たがや)、春風亭昇吉(紙屑屋)、春風亭朝也(やかんなめ)、笑福亭べ瓶(真田小僧)の5人。この5人が大賞を目指して競いあう。司会は、林家たい平と藤井彩子アナウンサー。
出演者
【司会】林家たい平,藤井彩子,【出演】桂三度,三遊亭歌太郎,春風亭昇吉,春風亭朝也,笑福亭べ瓶,【審査員】桂米丸,桂文珍,松倉久幸,恩田雅和,山本一力,神津友好
ジャンル :
バラエティ – お笑い・コメディ
情報/ワイドショー – 芸能・ワイドショー
劇場/公演 – 落語・演芸
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