木曜時代劇 ぼんくら(3)「やってきた迷い子」 2014.10.30

鉄瓶長屋から姿をくらました差配人久兵衛の代わりとして湊屋から若い佐吉がやって来た
(佐吉)官九郎ここにいたのか。
(平四郎)官九郎?
本所深川見廻り方同心井筒平四郎がひいきにする煮売り屋のお徳はなぜか佐吉を毛嫌いするがその佐吉の仲裁で桶屋権吉の博打の借金で岡場所に売られそうになった孝行娘が父親に愛想を尽かして長屋から出奔。
事は一件落着する。
しかしその陰で何やらえたいの知れぬ動きがあるらしく…
(烏の鳴き声)ああ〜!
(鳴き声)
(弓之助)えい!
(小平次)よっと!えい!うんやあ!
(弓之助)えい!やあ!痛っ!・
(弓之助)小平次さん大丈夫ですか!?続いてるようだなヤットーの稽古。
(志乃)道場で筋がよいと褒められたそうです。
ふ〜ん。
3日で逃げ出すと思ったが偉えもんだ。
はい。
ただな…。
はい?稽古料がこっち持ちなのが腑に落ちねえ。
河合屋は金持ちだ。
向こう持ちでいいじゃねえか。
いけませんそのような事。
どうして?ゆくゆくは井筒家の跡取りになるべく弓之助を仕込むためのかかりなのですからこちらが持つのが筋でございます。
姉にもそう伝えてあります。
そういうもんかね。
それが大人というものです。
それじゃまるで俺が子どもみてえじゃねえか。
似たようなものです。
どういうところが子どもだというんだ。
先ほどからあなたはひじきの中のにんじんをよけお好きなものだけお食べになっています。
あっ。
この間も頂き物の煎餅を早速その場でお開けになりました。
そうそう甘い物が大好きで餅菓子などいつも一番大きいものに手を出す癖もございます。
みんな食い物がらみの事じゃねえか。
ですから子どもだと申し上げております。
それに…。
まだあるのかよ。
どこへ行くにも小平次をお供にお出かけになります。
それも子どもだからです。
バカ言うな。
小平次はうちの中間だ。
連れて歩かなきゃ…。

(小平次)坊ちゃん坊ちゃん!それは私の仕事でございます!いいえ私にやらせて下さい。
何ですか騒々しい。
弓之助ほうきなど手にして何のまねです。
はい。
道場のお稽古料を出して頂いているのですから掃除のお手伝いをと思ったら小平次さんが!まあこの子ったら…。
そんな事はしなくてよいのです。
そうです。
小平次の仕事がなくなります。
おうちの中の事も私の仕事なんでございます。
それに坊ちゃんはゆくゆくはこの家の跡取りになられるのですからそのような事なすっちゃいけません。
そそれでは私の気持ちが…。
よしよしじゃあ一緒に鉄瓶長屋の方を見回ってみるか。
はい!えっ旦那?お前はよそを回ってくれ。
え…。
世の中には子どもがそんなにお好きではないくせに子どもに好かれるお方がいらっしゃいますがそういうお方は根が子どもなのです。
ですから子どもがそばにいたがります。
アハハ…出かける。
はい!
(いびき)ゆうべの夜回りが大変だったようだな。
こう陽気がよくなっちゃね旦那。
大川の土手の桜も今が盛りじゃござんせんか。
俺は桜は嫌いだよ。
え〜?だってそうじゃねえか。
遠い昔っからさんざっぱらいろんなやつらに褒められてるくせに枝もいでよく見てみろ。
花はみんな下向いて咲いてるんだ。
謙遜するにも程がある。
景気よく上向いて咲いてみろってんだ。
(お徳)旦那は物を知らないね。
桜の花はねみんながこうパカ〜ンと口開いて見上げるだろ?だからわざわざ下向いて花咲かせてんだよ。
何言ってやがる。
旦那こそ何言ってんのさ。
さんざっぱら褒められてるんだからいい加減に上向いて咲きやがれなんて桜にけんつく食らわせる人がどこの世界にいるのさ。
そういうところが子どもだっていうんだよ。
旦那のご新造様は偉いよ。
よく務まってるよ。
そいつは相身互いだ。
俺だって偉い。
またすぐそういう事言う。
ねえ坊ちゃん。
はい。
お徳さんと叔父上は本当に仲が良いのですね。
え…嫌ですよそんな事言って。
おいごめんよ。
あっ行ってらっしゃい。
旦那どうも。
どうも。
「どうも」じゃないだろういつもいつも何できちんと挨拶できないんだいあんたたちは!
(2人)へい。
行ってきます。
まあ!
(善治郎)おはようございます。
おはようございます。
ああこれはこれは井筒様お見回りご苦労さまでございます。
うんありがとよ。
一家でお出かけかい?いいえ。
おしゅんとおみよが桜を見たいと申しますのでお店に出るついでに一緒にとはい。
よかったねおみよちゃん。
エヘヘ…。
では行ってまいります。
旦那私ゃ善治郎さんがおしゅんさんやおみよちゃんと一緒にいるのを見るともうここんとこが温かくなってくんですよ。
年が半分は違う女房だし娘はまだ2つだ。
かわいいだろうさ善治郎も。
ちょちょちょ…。
一体何?あの方たちは夫婦なのですか?そうなんですよ坊ちゃん。
善治郎さんはね富岡八幡の門前町にある成美屋って小間物屋の番頭さんなんですけどね。
真面目な働き者だからってんで成美屋さんが本来なら住み込みで置いておきたいところを所帯を持たせて通いになったのが3年前でしたかね。
びっくりしたね。
お徳邪魔したな。
えっ何だこりゃ。
えっ?離れろって。
何だ!
(弓之助)駄目ですほら何して…。
どうしたんだ?ちょっと何やってんだいよいしょ!うん?お前どこの子だい?名前は?名前だよ名前。
年は?一体どっから来たんだい?ねえ知ってるかい?この子。
(箕吉)さあ?見た事ねえなこんな子ども。
(おしま)汚いなりだね。
迷子じゃないんですか?旦那。
迷子札もついてねえ。
おいこの長屋に何か用かい?おなかがすいてるんじゃないでしょうか?そうですね。
おまんま食べるかい?ちょっとお上がりよ。
待てお徳。
まずは差配人に任せるのが筋だろう。
旦那この鉄瓶長屋には差配人なんかいませんよ。
ねえ?いるよ。
お前も知ってる佐吉だ。
あんな小僧っ子差配人なんかじゃありませんよ。
(水音)いくぞ。
よっ。
うわ〜…。
あ〜…。
すまねえなおえん。
(おえん)いいんですようちのガキたちの洗うついでですから。
ほらお前たち表で遊んどいで。
ほら。
(2人)は〜い!ちょっと待って。
待って〜!旦那この子は野宿してたみたいですね。
こいつは昨日今日の垢じゃねえや。
分かるのか?お前。
昔親方の躾が厳しいのがつらくて逃げ出す度にお稲荷さんや神社の境内に潜り込んでたもんです。
賽銭やお供え物も盗んだし時にはかっぱらいも…。
あっいけねえ旦那の前で。
俺だってそこまで暇じゃあねえや。
湊屋の縁戚だって話だったがお前も苦労してるんだな。
よくある話ですよ。
おっ俺はここの差配人で名前は佐吉っていう。
お前がどこの子で何て名前かなんてのは気が向いた時に教えてくれりゃあいい。
今日からお前は俺と一緒に暮らす。
外で寝泊まりなんかしなくたっていいんだ。
おまんまも食わせてやる。
独り者のお前に任せて大丈夫か?へえ。
これでも差配人なんで。
最もお徳さんはそうは思っちゃいねえようですが。
叔父上叔父上。
何?叔父上この継ぎ当てを見て下さい。
ほら。
「牛込」「風見」?これを頼りに調べたら何か分かるのではないでしょうか。
よく気付いた弓之助。
こいつは手拭いか?
(烏の鳴き声)カア〜!初めて出した声が官九郎の鳴きまねか。
(烏の鳴き声)カア〜カア〜。
いや〜佐吉さんは優しいお方なのですね。
ガキの時分を思い出してるのかもしれねえな。
う〜ん…とはいうものの牛込は遠いぜ。
申し訳ありません。
つい目に入ってしまったものですから。
いやお前は悪くねえよ。
調べ事は俺の仕事だからな。
(政五郎)井筒の旦那じゃございませんか?え〜っと…お前さんは確か…。
この男深川の大親分岡っ引きの茂七の一の手下で政五郎という。
昨今は今年米寿を迎える茂七の代理を務めてもいた
旦那はあっしらとあまり関わりを持ちたがらないお方と承知していながら姿をお見かけしたもんですから。
ついお声をかけちまいました。
申し訳ござんせん。
おいおい茂七の一の手下のお前さんが俺なんぞに頭下げる事はねえよ。
お見回りの途中で?ああ迷子がいてな。
迷子?ああいやいやいや…。
あっしではお役に立てない事でしょうか?いやそうじゃねえんだが…。
まあいいか。
実はな…。
なるほど。
牛込通り下風見屋の手拭いですか。
確かあれは…。
何年前だった?おでこ。
おでこ?
(政五郎)ああ三太郎というんですがねおでこの方が通りがいい。
(おでこ)あい。
ああ…アハハハッ本当だ。
いやこのおでこさんが何か?坊ちゃんこのおでこは物覚えがひどくいいんです。
あいあたいは物覚えがひどくいいんです。
うちの大親分ももう年ですからね。
自分が見聞きした話の切れっ端から人の名前江戸の町の出来事のあれこれを覚えさせたりもしてましてね。
おでこは一度聞いたら忘れねえんです。
なあおでこ風見屋の手拭いの一件だ。
風見屋は牛込の古着屋でございまして3年前の春先にぼやを出し店の一部と商い物を少し焼いたんでござんす。
その時近隣の方々に大いに助けられたというので後になってお礼にと特にあつらえた手拭いを配って歩いたと承ってござんす。
ああ…。
いや〜大したもんだな。
いやこの弓之助もな物を測る事にかけちゃあ人に負けてねえ。
なあ?はい。
測る?おでこさんの額は縦が1寸と7分幅が3寸2分で目と目の間が1寸2分とちょっとです。
なあ?大したもんだ。
旦那その子の古着に使われていたのはその手拭いで間違いないでしょう。
気がかりなのはその先か。
探索事は面倒くせえがしかたねえか。
これも何かのご縁です。
よかったらあっしに手伝わしておくんなせえ。
いえもし旦那さえよろしければの話です。
うん。
じゃあ頼まれてくれるか?任せておくんなせえ。

それから数日たったが迷子の身元はようとして知れない
(佐吉)近場の迷子石に貼り紙を出してみたりあちこちの木戸番やお店にもこの子を預かっている事を告げてもみたんですが…。
そんな顔するな。
お前はよくやってる。
ですがこのままじゃ名なしのまんまですから。
おおどうした?はい道場が終わって八丁堀の組屋敷に寄ってみたらおでこさんが叔父上を訪ねてきたものですから。
ああ上がれ上がれ。
何か分かったのかい?あいあい分かりましたでござんす。
旦那この子は一体?深川の岡っ引き政五郎んとこの子でおでこというんだがまあ見てろ。
岡っ引き?どうぞおでこさん。
牛込の風見屋さんの手拭いをもらった古着屋を何軒か当たってみたでござんす。
そうすると賃仕事で古着屋に出入りしていた仕立て直しのおこうさんという人がおりましてそのおこうさん早くに亭主に死に別れ女手一つで幼い男の子を育てていたんでござんすが半年ほど前にはやり病で死んでしまったんでござんす。
身寄りが亡くなった男の子は牛込柳町のおけら長屋の差配人卯兵衛さんに引き取られましたがやがて男の子も病にかかり高い熱でうまく話せなくなってしまったのでござんす。
その男の子が10日ほど前に突然卯兵衛さんの所から姿を消し川にはまったのか人さらいに遭ったのかと卯兵衛さんは心配でおちおち眠れないという事でござんす。
うん。
こいつは間違いねえ。
旦那今からひとっ走り牛込まで行ってその卯兵衛さんとやらに会ってみたいんですが。
うんここへ連れてくるといい。
今卯兵衛さんを連れてくる。
分かるな?卯兵衛さんだ。
う〜へ〜え〜?そうだ。
それじゃあ。
おう。
じゃあお徳んとこでも行くか。
どうした?坊ちゃんの事はともかく旦那が岡っ引きまでお使いになっているとは夢にも思ってみませんでした。
もう小平次は要らなくなったんでございますか?うへぇ〜。
上手ですね。
(弓之助)そうか官九郎ですね。
どうしたい?不憫な子ですよね。
二親そろっていないなんて。
そうだな。
(烏の鳴き声)井筒様いつもいつも見回りご苦労さまでございます。
今日は早えな。
はい。
娘のおみよが少し風邪気味でして旦那様が薬湯を持たせて下さいましたもので。
そりゃあ大変だ。
大事にしてやんな。
ありがとうございます。
では失礼致します。
あっ旦那。
うん。
すいやせん。
(卯兵衛)あんた…。
そうかここにいなすったのかあんた。
私は…私は失礼致します!ちょっと善治郎さんどうしたんだい!?何だ一体?どういう事なんだ?どうもこうもありませんよ。
あの男は長助の父親なんですよ。
こちらで助けられた長助の実の父親なんでございますよ。
ええ〜!?ただいま。

(卯兵衛)9年ほど前あの善治郎さんは成美屋で女中奉公をしていた長助の母親おこうと親しくしていて所帯を持つ約束までしていたそうですが成美屋のご主人がそれを許さなかったそうです。
番頭の分際で女中と通じるとは何事かって訳だ。
はい。
したが善治郎さんがいなくちゃ成美屋さんも困るんでしょう。
追い出されたのはおこう一人。
どこにも行く当てないんだ。
(卯兵衛)昔の奉公仲間を頼って牛込に来た事で私はおこうと知り合い長屋や賃仕事を世話したりしたのですがそうこうするうちにおこうがみごもっている事が分かったんです。
おこうは一人で産んで育てるつもりだったようです。
私はおこうの請け人として成美屋さんに善治郎さんと所帯を持たせてやってほしいと掛け合いに行ったんですがまるで話にならんのです。
善治郎さんも何でも旦那のおっしゃるとおり。
おこうと間違いを起こしたのも自分が悪いの一点張り。
(佐吉)奉公人にとって旦那ってのは親も同然。
それ以上ですからね。
おこうもそれが分かってたんだな。
はい。
おこうはしっかり者でしたから。
じたばたはしませんでした。
かつかつの暮らしではありましたが長助を元気に育てていたんです。
したが無理がたたったのか…。
死んじまった…か。
(卯兵衛)私はこれを引き取ってず〜っと面倒見ていくつもりでした。
もちろん善治郎さんを当てにしようなどとは思いもしませんでしたが…。
長助はここへ来た。
偶然じゃないでしょう。
この子は実の父親が鉄瓶長屋にいる事を知ってやって来た。
でなけりゃ手間ひまかけてあんな泥だらけになって来やしねえ。
おこうが話したんでしょうかね?どちらにしろ善治郎さんはこの迷子の子が長助が自分の子だとは気が付かなかったって事です。
(戸をたたく音)ああ…私が出るよ。
よう。
これはこれは。
お願いでございます!この事おしゅんや娘には知らせないで下さいませ!ようやっとつかんだ幸せなのでございます!だったら長助はどうなる?長助は俺にむしゃぶりついて離れなかった。
あの子の目には父親しか映ってなかったんだぜ。
何もできません。
私には何もできません。
あの子を引き取るなどとそんな事したら大恩のある旦那様に顔向けできません。

(佐吉)そりゃそうだ!お店には逆らえませんよね。
佐吉。
そんなもんですよ奉公人ってのは。
けどなこいつは所帯を持ったじゃねえか。
おこうが駄目でなぜあの女房ならいいんだ?成美屋も分からねえ事をする。
そりゃあ今の善治郎さんのかみさんが成美屋さんのお手つきだからですよ。
そうですよね?善治郎さん。
何だ?娘さんも成美屋さんの子だ。
おかみさんの悋気がきついんで囲う訳にもいかずとどのつまり善治郎さんが腹の子と一緒にお下がりを押しつけられたんです。
本当か?それだって…それだって私ゃ満足してるんだ!店のために懸命に働いたって幸せのかけらもない番頭や大番頭が掃いて捨てるほどいる世の中なんだ!なら誰も文句はつけません。
そうだ。
長助は私が引き取ります。
今そう決めましたから。
佐吉。
へい。
お前本気で長助を引き取るつもりか?卯兵衛さんもお年ですからね。
その方が助かるはずです。
そりゃそうだが…けどよく知ってたな。
何ですか?お手つきの話だ。
ああ。
久兵衛さんが知ってたんです。
書いて残してありました。
差配ってのは間者みてえだな。
油断ならねえ。
長助はこれから鉄瓶長屋で佐吉と暮らす。
お前も仲良くしてやるこった。
あい。
河合屋のお迎え遅いですね。
今夜は泊まってけ。
いいえ帰ります。
(鐘)どうして泊まらねえんだ?弓之助。
えっあっいやべ別に訳なんか…いえね。
坊ちゃ〜ん私がお送りしましょうか?お願い致します。
叔父上叔母上これにてはい。
弓之助お待ちなさい。
何だ?あれは。
(小平次の笑い声)どうした?坊ちゃんはよそには泊まれませんよ。
ああ?おねしょの癖があるんですよ。
この間1人で見回っていた時に河合屋の裏におねしょをした布団が干してありましてね。
女中さんに聞きましたから間違いありません。
(小平次の笑い声)おねしょか…。
それから数日後の事である
出ていくのかい?善治郎さん。
何があったんだい?知らないよ。
さあ商売商売。
あら深川一いい男の差配さん。
ちょいと見せてもらいに来ましたよ。
かわいい坊や。
何だい?いい匂いだね。
何か買うのかい?いえね。
何だか懐かしいなってそう思ってね。
何が懐かしいのさ?
(烏の鳴き声)善治郎一家が出てったんだってな。
お徳?えっ?う〜んそりゃあ居づらいでしょうよ。
佐吉があの子を預かってたんじゃねえ。
おかげでまた一軒空きが出来たんですよ。
そう言うなよ。
相変わらずうめえなあお徳の田楽はよ。
何だよさっきからどうしたんだよ。
ねえ旦那。
旦那のお父上ってのは随分お盛んな人だったって聞いたけど旦那はどうなんですか?えっ何が?だから旦那だって一度くらい女を囲おうって思った事はないんですか?ああ?おいおいお徳よ。
味な事聞くじゃねえか。
俺に謎かけようってんじゃねえだろうな。
独り寝が寂しいんならよそ当たってくれよおい。
何言ってんですか!何がどうしたって私ゃ旦那なんか相手になんかしやしませんよ!いくら旦那だってね言っていい事と悪い事があるんだからね!いやいや何だいそんなに怒らなくたっていいじゃねえかよ。
いや俺だってな本気で…。
もう出てって下さいよ!私ゃね旦那なんか大っ嫌いだ!ふん!ああ…。
あっあっああ〜!イタタタ…おっ。
旦那大丈夫ですかい?うん。
そうですかお徳さんが。
何かあったのか?いつものお徳ならあんな軽口ひょいと受け流すはずなんだ。
旦那南辻橋のたもとに幸兵衛長屋ってのがありますよね。
そこの差配人の幸兵衛さんからこっちに家移りしたいっていう人を引き合わされましてね。
その人が今朝こっちに顔を出したんです。
その時お徳さんと何かあったようなんですが…。
どういう店子だ?それが年の頃なら30過ぎおくめって人でして。
おくめ?女郎上がりの女ですよ旦那。
ほら口元にほくろのある。
あああの女か。
読めた。
因業じじいの幸兵衛の野郎手前んとこで持て余した厄介者をお前に押しつけにかかったってとこか?そうなんですか?幸兵衛長屋はみんなでおくめを嫌って力ぁ合わせてる。
長屋ってのはそういうとこがあってよ。
憎まれ役が一人いた方がほかがうまくいく。
そうか。
するとここじゃ俺が憎まれ役って事なんですね。
お前はよくやってる。
そのうちみんな分かってくれるさ。
旦那そのおくめって人の今の生業は何ですか?ああ〜両国辺りの水茶屋で仲居をしてるとか言ってたが。
そりゃ表向きで女郎上がりだから勝手知ったるその道。
裏じゃかなり稼いでるはずですぜい。
なるほどな。
おくめの家移りには何かもう一つ裏がありそうだ。
あの幸兵衛も狸だからなあ。
お前鉄瓶長屋のお徳ともめたそうじゃないか。
お徳さん?煮売り屋のお徳だよ。
おっ。
あっ…。
お徳は気の強い女だがめったにはけんかなんかしやしねえ。
けんかなんかしてませんよ。
ただね「あら懐かしい」って言っただけなんですから。
ああ?何が懐かしいのさ。
ご亭主の加吉さんを知ってるんですよ私。
ここにも何度か知らん顔して煮しめ買いに来た事もあったんですよ加吉さんの顔を見に。
何だって?加吉さんいいお客さんだったんですよ。
もちっと店が大きくなって稼げるようになったらおくめさん囲って楽さしてやれるんだがなんて冗談にしてもうれしかった。
病にかかる前まではひとつきに一遍ぐらい結構長い事ごひいきにしてもらったんですよ。
いい人ほど早死にするって本当なんだよね。
でもお徳さん元気そうでよかった。
今度こっちに家移りするんですよ私。
よろしく頼みますよ。
(おくめの笑い声)
(小平次)うへぇ〜。
それじゃあお徳も荒れる訳だ。
(おくめ)あらそれじゃあ言っちゃいけなかったかしらね。
いけねえも何も…だから嫌われんだお前は。
お前このまま家移りなんかしたってうまくなんかいきっこねえ。
俺から幸兵衛に話つけてやるからこのままここにいたらどうだ。
(おくめ)そうもいかないんですよ。
何でだ?店賃はちゃんと払ってるんだろ?嫌ですよ旦那。
私ゃ店賃なんて払った事ありませんよ。
…あ?幸兵衛さん私から店賃なんか取りませんよ。
そのかわり私もお金取らなかったから。
お金…取らなかった?もう10年このかたそうやってきたんですよ。
でもここんとこ幸兵衛さんほら年だからもう無理なんですよ。
何で鉄瓶長屋なんだ?若い差配人さんがいるからじゃないですか?でもまあ私が店賃と代金取り替えっこするかどうかは幸兵衛さんには分かりゃしませんけどね。
自分より年上の差配さんがいる長屋じゃあねえ?分かるでしょ?旦那。
ああまあそりゃあそうだなあ。
ハハハハ。
私家移りして構いませんよね?ただなこのままじゃお徳がかわいそうだ。
お前は知らねえだろうがあいつは加吉のために骨身削って尽くしたんだ。
それが裏切られたって聞いたりしちゃあ…。
私は別に加吉さんがお徳さんを裏切ったなんてしゃべっちゃいませんよ。
私とただ遊んでたって言っただけなんですから。
だからそれは女の考え方じゃねえんだよ。
だって私は女ですよ。
それなのにどうして女の私の考える事が女の考えじゃないんですか?お前どれくらい春を売ってる?かれこれ20年ぐらいですかね。
お前も苦労してるんだな。
嫌ですよ旦那優しい事言って!危ない危ない。
その苦労の分お前は女の部分を売り尽くしちまったんだ。
だから女の考えができねえんだ。
あら旦那ってうまい事言うんですね。
分かりやすい。
そこへいくとお徳は女だ。
だからよあの話は作り話だって言ってやってくれねえか?じゃねえとお徳は立ち直れねえ。
それはいいですけど「はいあれはうそでした」って言ってもお徳さん信じちゃくれませんよ。
女はうたぐり深いんですからね。
でもまあ私に任せて下さいな。
頼んだぜ。
(仁平)おい。
ちょいと聞かせてくれや。
なあおくめ。

(長助)にいさ〜ん。
もう少しだな。
(善治郎)どうぞ。
ありがとうございます。
よう。
幸せにやってるかい?叔父上あれを。
あっ!
(弓之助)くちばしの形からしてあれは鳶です。
って事は長助は官九郎じゃなくてこいつを描いてたって事か。
(弓之助)そういう事になります。
一体誰が教えたんでしょう?さあなあ?分かったところでしかたねえや。
ご苦労さまでございます。
番頭さんから。
(銭の音)こいつはいいや。
長助に菓子でも買ってやるか。
はい。
長命寺の桜餅に致しましょう。
桜は嫌えだが桜餅は大好きだぜ。
あっこれはこれはいらっしゃいまし。
例の簪入っております。
どうぞ。
お…叔父上それは長助さんの。
要らないのか?
春は盛り。
平四郎の足も浮かれがちだがこの後何とも言えぬ災いのような出来事が降りかかろうとはいまだ平四郎は知るよしもない
壺信心ってのは何なんだ?自分の中にあるよこしまな願いを紙に書いて壺ん中に入れるだけでいいそうで。
だから信心して効き目があるのかって話だよ。
鉄瓶長屋はどうもおかしいってあれだろ?長助。
壺信心とかいうのもこれ以上広がる心配なんかいらないはずだ。
あそこは悪いうわさのある湊屋が地主だろ。
一体どうなってんの?湊屋という看板よりむしろ家の事情なのではないかと。
家の事情。
2014/10/30(木) 20:00〜20:43
NHK総合1・神戸
木曜時代劇 ぼんくら(3)「やってきた迷い子」[解][字]

宮部みゆきの傑作時代劇人情ミステリーをドラマ化。江戸深川の鉄瓶長屋から次々と店子が姿を消してゆく。この不可解な事件を、“ぼんくら”同心・井筒平四郎が暴いてゆく。

詳細情報
番組内容
鉄瓶長屋に突然現れた迷子の長助は、満足に言葉がしゃべれない。井筒平四郎(岸谷五朗)は、そんな長助の素性を探り、親元に帰してやろうとする。長助の素性を知る老人を捜し当てた佐吉(風間俊介)が平四郎と共に話を聞くと、鉄瓶長屋に住む通い番頭の善治郎(徳井優)が、本当の父親だという。善治郎は奉公先の主人の「お手つき」女性と一緒になるため、それまで関係のあった長助の実の母を捨てたのだった。
出演者
【出演】岸谷五朗,奥貫薫,風間俊介,加部亜門,秋野太作,志賀廣太郎,松坂慶子,六平直政,須藤理彩,徳井優,大杉漣,【語り】寺田農
原作・脚本
【原作】宮部みゆき,【脚本】尾西兼一
音楽
【音楽】沢田完

ジャンル :
ドラマ – 時代劇
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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日本語(解説)
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