衆院選がきょう公示される。

 14日の投開票に向け、12日間の選挙戦が始まる。

 「この道しかない」

 「今こそ流れを変える時」

 きのうの日本記者クラブでの党首討論。安倍首相はアベノミクスの継続を訴え、民主党の海江田代表は政権の強引な政治手法を批判した。

 だが、それぞれの公約を掲げた与野党8人の党首がほとんど語らなかったことがある。

 急速に進む少子高齢化と、人口減。そのことによって、負担の分配が避けられない日本社会の厳しい現実である。

 政治が利益を分配し、有権者はそれを期待しているだけでいい時代は、とうに過ぎた。社会を支えるため、負担をどう分かち合うか。それは、一人ひとりの生活を直撃する。

 いずれ有権者の痛みは避けられない。そのことを政治家は直視し、着実な方策を正直に語るべきではないか。

 万能の処方箋(しょほうせん)があるかのような甘言はもう通じない。

 これから始まる「2014年の選択」は、有権者にとって自らの暮らしと社会の行方を定める重い決断となる。

■将来へのツケの上に

 自民党が圧勝した05年の郵政選挙は、郵政民営化に賛成か反対か。09年の政権選択選挙は、政権交代が是か非か。

 政治の側からの二者択一の争点設定があり、熱気とともに政治が大きく動いた。

 12年の衆院選では、民主党政権への失望から再び政権交代がおき、自公政権が返り咲いた。

 過去3回の選挙に比べると、今回は争点が見えにくい。野党第1党の民主党の候補者は定数の半分に達しない見込みで、高揚感もわきにくい。

 いま、なぜ、何を問う選挙なのか。

 衆院解散のそもそもの動機が分かりにくかったとしても、選挙に臨む以上、有権者はそれぞれの立場から選ぶことの意味を考えなければならない。

 しかも、事は現在にとどまらない。若い世代や子どもらの未来に確実に影響していく。

 積み上がった国の借金は1千兆円を超える。次世代へのツケの上に、今の暮らしはある。目先のことだけ考えるわけにはいかない。

 市場の視線も厳しい。米格付け会社のムーディーズはきのう、日本国債の格付けを1段階引き下げた。税制や社会保障制度改革の必要性を指摘し、「その達成は容易ではない」との見方を示した。

 安倍首相は消費再増税の先送りを表明したが、給付と負担のあり方を描く作業は急務だ。

■語らないことを問う

 どんな政治を選ぶのか。その選択は、いのちにも関わる。

 安全神話のもとに進められた原発拡大路線。東日本大震災と福島第一原発の事故の教訓から導かれた反省が十分に生かされないうちに、九州電力川内(せんだい)原発の再稼働や、海外への原発輸出が進められている。

 集団的自衛権の行使容認など安全保障政策の転換は、平和国家としての「軍事のしばり」を解く方向性を示した。憲法改正の法的手続きも整っている。

 中国とどう向き合うかは日本の針路にかかわる。民主党政権時代の尖閣国有化や安倍首相の靖国参拝など、政権トップの判断が外交問題に発展し、いまだに出口が見えない。

 やはり視界不良の環太平洋経済連携協定(TPP)について自民党の公約は「国益にかなう最善の道を追求する」としているだけ。交渉の行方も、妥結した場合の影響も見通せない。

 候補者が、これまで何を約束していたか。今回は何を語るのか。語らないことがあるなら、有権者から問いかけ、判断材料にしたい。

■「冷笑」を超えて

 経済や安全保障での政策転換をどう考えるか。ここで、はっきりした意思を示さなければ、次の政権への「白紙委任」と受けとめられかねない。

 そうは言っても、自分の考えを反映できる候補者はどこにいるのか。票の「受け皿」を探しあぐねて途方に暮れる。そんな人も少なくないだろう。

 この10年間の衆院選で、民意は揺れてきた。選挙のたびに政治への不満をぶつけ、政治不信に行き着いてしまったのかもしれない。12年の衆院選小選挙区の投票率は59・32%で、戦後最低を記録した。

 日本の政治は今、危うい縁(ふち)に立っている。

 政治は「悪さ加減の選択」ともいわれてきた。確かに、選びにくい。それでも、選択しなければ声は届かない。票を投じることで政治のありようは変わりうる。

 この社会の問題を候補者が正面から見すえ、痛みを語っているか。いままで有権者が見落としがちだったそんな視点も大事だろう。どうせ何も変わらないという冷笑の先に、確かな将来はないのだから。