我々はどこから来たのか。
そしてなぜここにいるのか。
今謎の巨大ピラミッドで世界が注目する空前の発掘作業が行われている。
舞台はメキシコの古代遺跡…ピラミッドの地下深くで1,800年もの間封印されていた不思議なトンネルが見つかった。
発掘現場の奥に世界で初めてカメラが入った。
現れたのはおびただしい数の埋蔵品。
宝石。
そして謎めいた石像。
2,000年前に生まれその後こつ然と姿を消した古代文明テオティワカン。
文字による記録を持たず誰がなんのために巨大ピラミッドを造ったのか分かっていない。
トンネルの奥深くには100年探しても見つからなかった幻の王の墓があるのではないか。
謎の解明の向こうには「文明はなぜ生まれたのか」という問いに対する全く新しい答えがある。
古代トンネルで続けられる史上空前の大発掘。
文明発祥の大いなる謎に迫る。
メキシコの首都メキシコシティから北東におよそ40キロ。
行く手に巨大なピラミッドが見えてきます。
テオティワカンは1世紀ごろ中央アメリカのほぼ中心に興った古代都市。
東ではマヤ文明が栄えていた時代です。
最盛期の人口は15万ともいわれ当時ローマと並ぶ世界屈指の大都市でした。
南北を貫く大通りには3つの巨大ピラミッドが配置されています。
正面に位置するのは最も古い時代に建てられた…その手前には1辺が225メートル世界最大規模の…そして大きな広場の中に建つのが…神々の石像が至る所にあるため特別な場所だったと考えられています。
これらのピラミッドには大きな謎があります。
誰がなんのために造ったのか。
全く分かっていないのです。
その謎が解けるかもしれないと期待されているのが現在進められている古代トンネルの発掘です。
入り口はケツァルコアトルのピラミッドの広場にありました。
発掘はメキシコの国家プロジェクトとして行われ考古学者セルヒオ・ゴメスさんが率いています。
古代トンネルはひょんなきっかけで見つかりました。
2003年の大雨のあとの事でした。
地面に深い穴がぽっかりと口を開けていたのです。
人ひとりがやっと通れるほどの人工の縦穴でした。
ロボットを使った調査などで土砂に埋まったトンネルの存在が判明しました。
5年前から本格的な発掘調査が始まり巨大な地下空間の詳細が次第に明らかになりつつあります。
最初の縦穴が開いていたのはピラミッドの目の前です。
周囲を調べると出入り口に使ったと見られる大きな穴が見つかりました。
そこから古代トンネルがピラミッドに向かってまっすぐ伸びていたのです。
今回私たちはメディアとして初めて古代トンネルの奥深くまで撮影を許されました。
厳重に閉められた扉。
その向こうには人の背丈ほどのトンネルがはるか奥まで続いています。
中は蒸し暑く土の匂いがします。
トンネルはなんと1,800年もの間誰も足を踏み入れた形跡がないといいます。
しばらく進むとトンネルの下に石積みのようなものがありました。
トンネルを60メートルほど進むと目を引く変化がありました。
壁の一部が青白く光り輝いていたのです。
このキラキラ。
その後の分析で光る鉱物を壁に塗り付けたものだと判明しました。
更に進むとトンネルは急に狭くなります。
まるで人の進入を阻んでいるかのようです。
この地点で大量の出土品が見つかりました。
トンネルを掘るために使ったと見られる木の棒です。
思わぬ物も発掘されました。
巻き貝です。
1,000キロ以上離れたカリブ海に生息するものだと分かっています。
宝石も見つかりました。
この辺りでは採れないヒスイで出来た首飾りです。
そして入り口から103メートル掘り進んだ地点でトンネルは終わります。
そこは十字架のような形をした不思議な空間でした。
精密な測量を行った結果驚くべき事が分かりました。
十字に交差している地点はピラミッドの中心の真下だったのです。
トンネルの十字とピラミッドの頂点がほぼ一致する驚くべき正確さで造られていたのです。
誰が一体なんのためにこんなトンネルを造ったのか。
ゴメスさんは何か特別な意味が込められていると考えています。
この十字の空間の下に何があるのか。
現在地下を掘り下げる仕上げの発掘調査が進められています。
謎に包まれた古代遺跡テオティワカン。
これまでもさまざまな角度から研究が行われてきました。
3つのピラミッドのうち現在発掘が進むケツァルコアトルのピラミッド以外の2つの成り立ちについてはある仮説が発表され大きな注目を集めています。
30年以上前からテオティワカンの調査を続けている考古学者の杉山三郎博士です。
杉山博士は町の構造から2つのピラミッドの謎を解き明かそうとしてきました。
博士の調査によるとかつて町はおよそ5キロ四方に広がっていました。
大通り沿いの建物は赤く塗られ方向を厳密にそろえて配置されていた事が分かっています。
整然と並んだピラミッドの上には神殿が建ち郊外に住んでいた人々を集めて儀式が行われていたと考えられています。
2つのピラミッドの配置には不思議な仕掛けがある事が知られています。
1年に2回ピラミッドの西の正面に太陽が沈むのは…それは雨期と乾期が始まるタイミングにぴたりと一致するのです。
月のピラミッドの方もですね…。
杉山博士は2つのピラミッドを詳細に調べた結果ほかにも雨期と乾期を示す仕組みがある事を突き止めました。
測量によって当時の長さの単位を割り出しピラミッドを測ると月のピラミッドの一辺は105単位太陽のピラミッドは260単位。
それは雨期と乾期の日数と一致していました。
トウモロコシの栽培で暮らしていたテオティワカンの古代人。
彼らにとって種まきの時期を決める雨期と乾期の始まりを知る事は極めて重要な事でした。
杉山博士は2つのピラミッドはそうした情報を伝える暦だったのではないかと考えています。
更に最も古い月のピラミッドについて杉山博士はテオティワカンの起源に関わる事実を発見しました。
ピラミッドの内部から別のピラミッドの一部を見つけたのです。
初めから巨大なピラミッドが造られたのではなく最初は小さなものが造られ7回の増築を繰り返し300年かけて大きくなっていたのです。
最初のピラミッドが建てられたのは1世紀ごろ。
調査の結果周りに町が出来るより前に造られていた事が判明しました。
町よりも先に造られたピラミッド。
その役割は雨期と乾期の始まりを示す暦である。
この仮説は文明はどのようにして生まれたのかという考古学の大命題に衝撃を与えるものでした。
古代文明の象徴と呼ばれる巨大ピラミッド。
エジプトなどのいわゆる四大文明ではまず大きな川のそばの肥沃な土地に人々が定住し同時に農業が始まったとされています。
人口が増え町が出来そこに権力者王が生まれます。
その権威の象徴としてピラミッドが造られたと考えられてきました。
社会が成熟し文明が生まれた結果として巨大な建造物が造られたという説です。
杉山博士が唱えたテオティワカンの仮説は全く異なります。
まず最初に暦などの役割を持ったピラミッドが造られ人々がそれに引き寄せられるように集まり町が大きくなって文明が発達したというのです。
こうした四大文明とは異なる文明誕生のパターンは今世界各地で発見されています。
3,000年前のペルーパコパンパ遺跡。
都市が生まれる前に巨大な神殿が造られていた事が分かっています。
1万年以上前のトルコギョベックリ・テペ遺跡。
農業すら始まっていなかった時代に大規模な建造物が造られていました。
こうした新しい文明発達の形はなぜ生まれたのでしょうか。
脳科学や心理学を使って人の心から文明の発達を解き明かす認知考古学の第一人者です。
新しい文明発祥の形として注目を集めるテオティワカン遺跡。
その中心となった高度なピラミッド。
これを造ったのは一体何者だったのでしょうか。
今年3月。
トンネルの発掘現場で動きがありました。
トンネルの先端でこれまでにない貴重な発見があったのです。
極秘に進められていた作業にカメラを入れる許可が下りました。
これは頭と体が埋まった状態の石像だといいます。
場所は一番奥の空間の少し手前です。
下半身が見えてきました。
全身が姿を現すと人間をかたどった石像は緑色の滑らかな石で出来ていました。
緑は神聖な場所に使われる色だと分かっています。
不思議な石像が指し示す重要なものとは何か。
それはテオティワカンを造り上げた存在と関係しているのでしょうか。
テオティワカンを生み出したのは一体何者だったのか。
エジプト文明のような強い権力を持つ王だとすればどこかに墓があるはずです。
しかしいまだ見つかっていません。
残された石像や壁画にも王の姿が見当たらない事から王はいなかったと考える研究者もいます。
一方杉山博士は王は存在したと主張しています。
ただしその権力の源は四大文明のような富ではなくピラミッドへの信仰そのものだったのではないかと考えています。
発掘が進む謎の古代トンネル。
果たしてそこに王の墓はあるのでしょうか。
雨期を迎えた7月。
古代トンネルの発掘は重大な局面を迎えていました。
交渉の結果撮影の許可が下りました。
大量のつぼのような土器が一面を埋め尽くしていました。
トンネルの先端ではあの緑色の石像が更に2体見つかりました。
男女のペアだと考えられます。
最初に見つかった石像の横からも1体出土し合計4体がそろって発見されました。
ゴメスさんは倒れている2体の石像ももともとは立っていたと推測しています。
男女が対になってトンネルの奥を向き視線は最も奥の空間で交わっていたと考えています。
石像は奥の空間を見守る番人として配置されたのではないか。
そうだとすると重要な人物がそこに埋葬されている可能性があります。
1週間後気になるものが出てきました。
石像の前から朽ちた木箱が出土したのです。
木がぼろぼろになっているためすぐに開ける事ができません。
研究所に持ち帰り分析する事になりました。
2か月後。
木箱の分析結果が伝えられました。
トンネルの奥で出土した木箱の中から何かを燃やした灰が見つかりました。
もし火葬された遺灰だとすればピラミッドの地下に葬られた重要人物のものである可能性が高まります。
灰の成分を特定するため専門の研究機関に送り科学的な分析を行う事になりました。
一方発掘現場では予想もしなかった発見が相次ぎました。
一つは地質調査によって地下15メートル付近にはかつて水の層があり地下水が湧き出していた事が分かったのです。
黒い線は水面の跡です。
当時トンネルの一部は地下水で満たされた池のようだったとゴメスさんは考えています。
そのそばで大量のほら貝も見つかりました。
水と貝は何を意味するのでしょうか。
更に重要な意味を持つものが発見されました。
メキシコには古代から伝わるペロータというゴムボールを使ったゲームがあります。
その起源は太陽に祈りをささげる儀式だといわれています。
ボールは太陽の象徴。
それを打ち合い的に入れ点数を競います。
(歓声)負けた人々はいけにえとして太陽にささげられる決まりでした。
出土したゴムボールはこのペロータで使われたボールつまり太陽の象徴ではないか。
次々と見つかる出土品の関係をゴメスさんは考えました。
太陽の象徴と思われるボール。
水が張られていた古代トンネルと海から運ばれたほら貝。
ゴメスさんには一つ思い当たるものがありました。
神殿に残されていたテオティワカンの人々の世界観を表した壁画です。
その中に山の中腹から水があふれ出し地下世界につながっている絵がありました。
この地に伝わる神話では地下には水で満たされ死者が住む冥界があるといいます。
そこは同時に沈んだ太陽がよみがえる再生の場所だと信じられていました。
太陽をあがめる習わしはこの土地に最も根づいている信仰です。
沈んだ太陽が再び昇ってくるよう古代から人々は祈ってきました。
ゴメスさんは一つの仮説にたどりつきました。
古代トンネルはピラミッドから見るとまっすぐ西へ延びています。
大地に沈む太陽はトンネルの入り口から地下世界に入り冥界を通ってよみがえりピラミッドの頂上から再び姿を現す。
トンネルとピラミッドは一体となって太陽再生の物語を語るための壮大な装置だったという仮説です。
杉山三郎博士の30年にわたる調査。
そしてゴメスさんによる新たに見つかった古代トンネルの発掘。
そこから導き出された古代文明テオティワカンの成り立ちです。
およそ2,000年前。
痩せて貧しいこの土地に知恵を持つ者が現れ最初のピラミッドを造った。
いつ雨期が始まりいつ乾期に変わるのか。
人々が知りたいと欲した自然の周期を教えるためのピラミッドだ。
その魅力に引き付けられた人々が集いやがて町になり更なるピラミッドが造られていく。
人々に大事な何かを伝えるために。
最後に造られたのは地下にトンネルを持った巨大なピラミッド。
なぜ太陽は沈みまたよみがえるのか。
それを説明するためのピラミッドだ。
自然の仕組みを知りたいという根源的な欲求。
それに応えた者が権力を得人々の上に君臨する。
こうして痩せた荒野だったこの土地に一つの文明が花開いた。
今古代トンネルの発掘はいよいよ最終段階を迎えています。
毎日のように新たな発見が続いています。
テオティワカンで初めて見つかった犬の形をした土器です。
木箱から見つかった灰は分析が続いています。
慎重に作業を進めているため結果が出るまでには時間がかかると見られています。
もしも人の遺灰だと分かれば王である可能性が高まります。
それは1人なのかそれとも親子なのか。
そうした情報からテオティワカンがどんな権力によって治められていたのか詳しく分かってくるかもしれません。
発掘は古代人との知恵比べのように掘れば掘るほど新たな謎を生んでいます。
人類はいかにして文明を生み出したのか。
その答えを求めて果てなき旅が続いています。
2014/10/30(木) 00:40〜01:30
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル「謎の古代ピラミッド〜発掘・メキシコ地下トンネル〜」[字][再]
なぜ生まれたのか分からない、メキシコの古代都市・テオティワカン。3月、新たな発掘現場に世界で初めてNHKのカメラが入った。古代文明最大のミステリーに挑む。
詳細情報
番組内容
誰が何のために作ったのか分からない、メキシコの古代都市・テオティワカン。3月、新たな発掘現場に世界で初めてNHKのカメラが入った。そこはピラミッドの地下15メートル、長さ100メートルにわたって続く「謎の古代トンネル」の最奥部。ヒスイの装飾品など貴重な出土品が相次いだことから、この文明の成り立ちを解明する鍵が眠っているのではないかと期待が高まっている。世界の考古学者たちと、文明発生の謎に挑む。
出演者
【語り】田中泯
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
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