そこに行けばなぜかお年寄りが笑顔になる。
そんな不思議な場所が新宿にあります。
深刻そうな顔をした女性が誰かに話を聞いてもらっています。
何やら夫婦間のお悩み相談のようです。
じっくりと話を聞いてもらう事1時間。
気持ちが落ち着いてきたようです。
ここは暮らしの保健室と呼ばれるよろず相談所です。
学校に保健室があるように町の中にも保健室があればと3年前に造られました。
利用者の多くはお年寄りです。
体の不安から心の悩みまで老いゆく日々でのお困り事が持ち込まれます。
こちらの相談は抗がん剤治療のつらさ。
保健室にいる看護師が応えてくれます。
この女性も元気になって帰っていきました。
町の中の笑顔あふれる保健室。
そこに集うお年寄りたちの泣き笑いの日々の記録です。
東京・新宿。
繁華街から程近い緑あふれる団地の中に保健室はあります。
この団地の住民はもちろん新宿区内からお年寄りが相談に訪れています。
暮らしの保健室。
前は本屋さんだった場所を改装して造られた木のぬくもりにあふれた温かい空間。
東京都の支援を受けているため誰もが無料で利用できます。
相談には3人の看護師そして薬剤師や栄養士など専門知識を持ったスタッフが応じます。
健康や病気そして生活全般のお困り事など幅広く対応しています。
更に30人のボランティアがふらりと立ち寄った人の話し相手にもなってくれるんです。
珍しい相談が持ち込まれました。
こちらの女性買い物に出たものの自宅が分からなくなったそうです。
保健室の室長秋山正子さんが話を聞きました。
高橋。
高橋下は?高橋キクヨ。
高橋キクヨさんか。
訪問看護師として多くのお年寄りをみとってきた秋山さん。
病院でも福祉施設でもないもっと気軽に相談できる場所として保健室を立ち上げました。
暮らしに困ったお年寄りをサポートする場として今全国から注目されています。
情報を手がかりに調べてみます。
高橋さん…ですか?息子さん?高橋さんですか?そう。
いくつになるんだろ?団地のご近所さんの協力で親子は無事再会できました。
やっぱりそうか。
ありがとうございました。
おばさん無事に届けてきました。
娘さんとも会えた。
ありがとう本当に。
ありがとうございます。
保健室の常連さんがやって来ました。
89歳の節子さん。
週に2回は顔を出します。
この日節子さんが持ってきたのは壊れてしまった夫の位牌。
節子さんは軽度の認知症と診断されていますが日常生活を送るには支障がなく独り暮らしをしています。
笑顔がすてきな節子さん。
この日は位牌を修理するために仏具店に向かいます。
自分でお店を探しましたが見つける事ができなかったため保健室に相談に乗ってもらいました。
節子さんが出かけるとスタッフが慌ただしく動き始めました。
一体何が始まるのでしょうか?こっちには何か修理中とかって…。
あれこれ指示を出しているのは節子さんを担当している看護師の杉本みぎわさんです。
位牌を修理に出している事を節子さんが忘れないようにする工夫です。
節子さんが帰宅したと聞いて家へと向かいます。
寝てたの。
ごめんね。
節子さんは9年前に夫を亡くしました。
今は思い出深いこの家でできる限り長く暮らしたいと考えています。
保健室ではそうした節子さんの独り暮らしを見守りサポートを続けています。
どうもねありがとう。
(杉本)はいじゃあまた。
失礼しま〜す。
節子さんの相談に乗っている杉本さんは30年のベテラン看護師です。
長らく訪問看護の専門家として多くのお年寄りのケアをしてきました。
158の70です。
この保健室の母体は訪問看護ステーション。
杉本さんはそのステーションの訪問看護師でもあり在宅ケアの相談にも乗っています。
この日杉本さんが向かったのは半年前保健室で相談を受け在宅療養の環境を整えたお宅です。
(杉本)こんにちは。
失礼しま〜す。
おっすばらしい。
おはようございます。
ご主人の達次さん。
肺がんを患っています。
入退院を繰り返しながらさまざまな治療を行ってきましたが効果がなく去年の秋から自宅療養を続けています。
幸い痛みはありません。
酸素吸入器の助けを借りてはいますが体調は安定し外出する事も可能です。
しかし余命は1年と告げられており気持ちは沈みがちだといいます。
すいませんね。
杉本さんはこの半年達次さんに日々を楽しむ気持ちを取り戻してもらいたいと励まし続けてきました。
達次さんは日がな一日テレビを見て過ごしています。
外に出る事はなく退院以来家に閉じ籠もったままです。
一方洋服の仕立て職人だった達次さんと結婚し50年になる妻の礼子さんです。
この日医療や介護など達次さんの在宅療養を支える担当者が集まりました。
杉本さんの提案で達次さんにデイサービスを利用してもらう事にしました。
外出する事で気力を取り戻すきっかけを作ろうというのです。
1週間後達次さんがデイサービスに通い始めました。
高齢者用の器具を使い寝たきりにならないよう筋力を鍛えます。
突然保健室の杉本さんがやって来ました。
達次さんがちゃんとデイサービスに来ているか心配して様子を見に来たのです。
新しいの替えてね今度ね。
はい。
おはようございます。
フルーツトマト食べた?食べましたおいしかった。
ありがとうございます。
またよろしくとか言っちゃって。
保健室があるこの団地が出来て半世紀近くがたちました。
昭和40年代庶民の憧れの的だった団地。
ニューファミリーと呼ばれた若い世代がこぞって入居しました。
それからおよそ50年。
子どもたちは独立し残った親たちは皆年老いた世代となりました。
独り暮らしや夫婦だけの世帯が多く超高齢社会を迎えた日本の縮図といわれています。
保健室にはお年寄りならではの切実な相談が連日持ち込まれます。
独り暮らしをしている83歳の女性。
1人でいると悪い事ばかりを考えふさぎ込んでしまう。
数多く寄せられる相談です。
真剣に耳を傾け続けるボランティア。
話をしっかり聞く事でお年寄りの気持ちが軽くなるといいます。
看護師の杉本と申します。
よろしくお願い致します。
76歳のこの女性も独り暮らし。
家事も全て自力でやってきましたがいよいよつらくなってきたという相談です。
その今のご状態が介護保険を…。
杉本さんは公的サービスを使って体への負担を減らす事を勧めました。
杉本さんは介護保険の窓口へ電話をかけて橋渡しをしました。
お年寄りの中には介護保険の使い方を分かっていない人も少なくありません。
老いを抱えながらの生活には不安がつきものです。
それを少しでも軽くするのが保健室の役目です。
保健室には時折踏み込んだ相談も持ち込まれます。
電話の相手は終末期のがん患者の家族。
自宅でみとりたいがどうすればよいのかという相談を受けひとつき前から支援を続けています。
お邪魔します。
白十字です。
杉本さんが担当となり毎日のように訪問看護を行っています。
夏彦さん76歳。
残された日々を自宅で過ごすために病院から戻ってきました。
家族と一緒の時間を少しでも増やしたいと考えたからです。
この2週間前には妻と一緒に桜を見に行きました。
大好きな演劇や寄席にも妻と出かけ充実した時を過ごしました。
この日妻ナオミさんが杉本さんにある相談を持ちかけました。
夏彦さんは家族と一緒にこの映画を見に行きたいと望んでいました。
闘病生活を送る中で家族のありがたさがはっきりと分かったと言います。
夏彦さんと家族の願いをかなえようと杉本さんは車椅子での入場許可や車の手配など試写会へ行く準備を始めました。
当日夏彦さんの体調が安定している事を確認した上で家族を送り出しました。
夏彦さんは家族と一緒に会場に入っていきました。
2時間後。
映画を最後まで観賞して夏彦さんが出てきました。
試写会から3日後夏彦さんは自宅で静かに息を引き取りました。
誰にでも訪れる老いと死。
その最期の時を笑顔で迎えられるように支えたい。
それが杉本さんたちの思いです。
夫の位牌を修理に出していた節子さんが相談に訪れていました。
節子さんは軽度の認知症と診断されています。
部屋にあったエアコンのリモコンが無くなったというのです。
大丈夫じゃんほら。
どうやらテレビとエアコンのリモコンを取り違えて混乱していたようです。
更に1週間後。
今度は生活費が見当たらないと保健室にやって来ました。
おうちに1回戻ろう。
でもそのまんまだね。
生活費はいつもの決まった場所に置いてありました。
これまでより物忘れが頻繁になってきた現実。
節子さんはショックを受けていました。
募っていくさまざまな不安。
杉本さんは一つ一つ丁寧に答え節子さんの心配を取り除こうとしていました。
杉本さんたちは認知症と向き合うお年寄りの姿を数多く見てきました。
自分たちにできるのはどんな事があってもその傍らに寄り添い続ける事。
杉本さんたちの信念です。
肺がんになってから家に籠もりがちになっていた達次さん。
デイサービスをきっかけに少し外出するようになっていました。
この日は4か月ぶりに長男の俊彦さんが顔を見せてくれました。
達次さんは退院以来飲む気がしないと言っていたビールを自ら注ぎました。
その10日後。
達次さんは体の状態を診てもらうため妻の礼子さんと一緒に病院にやって来ました。
胸のレントゲン撮影を退院以来7か月ぶりに行います。
初めてですね?そうですね。
よろしくお願いします。
7か月前には3/3は写っていた左の肺の写真が真っ白になり機能が失われている状態でした。
そうか…。
分かりました。
帰り道達次さんはもうデイサービスには行かないとつぶやきました。
次の日。
お邪魔しま〜す。
はいどうぞ。
検査の結果に落ち込んでいた達次さん。
死ぬのを待つしかないと言っていた頃のパジャマ姿に戻っていました。
(杉本)あっレントゲン撮ってこられた。
(杉本)左の胸がなくなってた?ショックを隠しきれない達次さんを杉本さんは励まします。
だからといって…
(杉本)何にもしたくないの。
話にも応じたくない様子の達次さん。
それでも杉本さんが話しかけ続けていると…。
(杉本)ああそうですか。
よかったですね。
ねえ!きゅうりもみが好きなんだ俺。
(杉本)「外で会いましょう」オオッ!
(せみの声)暑い夏がやって来ました。
節子さんは更に保健室を頻繁に訪れるようになっていました。
この日は家の中に銀行の通帳がないという相談でした。
杉本さんが行ってみたところ通帳はいつもの場所にありました。
更に4時間後。
再び節子さんから相談を受け杉本さんは自宅にやって来ました。
この時節子さんは4時間前の出来事を覚えていませんでした。
午前中にホームヘルパーが来ていました。
しかしごはんを炊いてくれた事も記憶にありませんでした。
お金とごはん大事な事2つの記憶がありません。
落ち込んでいた節子さん。
突然意外な事を口にしました。
何の記念?吹っ切れたように自分から語ります。
それもまた自分でさ何か…
(ため息)食べる物ちゃんと食べて下さいよ。
ごはんはあるし。
うん。
杉本さんは「認知症を悟った」という節子さんの言葉が一つの転機になると受け止めていました。
そういう事でやっぱりちょっと…
(取材者)そういう事って?認知症でもできる事はたくさんあります。
そしてできない事は遠慮せずに助けてもらえばいい。
この数日後2人は一緒に老人ホームを見に行きました。
認知症が進んでいよいよ生活が難しくなった時慌てないための準備です。
クーラーがよくききますね。
こんにちは!お久しぶりでございます。
達次さんは再びパジャマからシャツに毎日着替えるようになりました。
デイサービスにも通い始めた達次さん。
今度は妻礼子さんと一緒に回転寿司に行こうと話しています。
保健室に通う節子さん。
この日修理に出していた位牌が戻ってきました。
すごい立派なのがねえ。
見せて頂いていい?節子さんの笑顔から周囲に笑いが広がりました。
ちょっとした支えがあるだけで人は前を向く事ができる。
不安はあっても笑っていられます。
またね。
おとなしくしてますから。
団地の片隅の小さな保健室。
そこにはなぜかいつも笑顔がありました。
2014/09/29(月) 00:50〜01:40
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル「新宿“人情”保健室〜老いの日々によりそって〜」[字][再]
お年寄りが悩みや不安を何でも相談し笑顔になれる場が新宿にある。「暮らしの保健室」。年をとってもがんや認知症になっても、日々の暮らしを支援し前向きな気持ちに誘う。
詳細情報
番組内容
お年寄りが多く利用する、新宿にあるよろず相談所「暮らしの保健室」。学校と同じように町にも保健室があればと作られた。ちょっとした体の不調から、家庭の問題、伴侶を亡くした心の痛みまでどんな内容でも耳を傾け、気持ちを穏やかにさせる。相談者の中に在宅ケアが必要な人がいれば、介護や医療につなぎ、その後寄り添い続けてもくれる。訪れる誰もが何故か笑顔になれる場所。大都会の片隅にある小さな保健室の日々を見つめる。
出演者
【語り】風吹ジュン
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 報道特番
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:4036(0x0FC4)