らくごのお時間【桂文之助◆「一文笛」▽彦八まつりの様子も】 2014.09.28

(福島)皆さんおはようございます。
番組の案内役を務めますMBSアナウンサーの福島暢啓です。
この「らくごのお時間」では毎月1回寄席にお邪魔しまして落語を一席お届けしております。
さて今回私は大阪市天王寺区にあります生國魂神社の彦八まつりの会場に来ております。
この彦八まつりでは毎年落語家の皆さんが実行委員長を持ち回りで担当しているということなんですが今日は今年の実行委員長にお越しいただきました。
それではよろしくお願いします。
(桂文之助)どうも〜桂文之助でございます。
よろしくお願いいたします。
芸歴39年…。
そして今年は大役である彦八まつりの実行委員長に。
でもなぜ噺家さんが生國魂神社の祭りに参加しているのかというと…。
実は生國魂神社通称・いくたまさんは…。
そこで翌年から彦八まつりが始まりました。
毎年噺家さんたちが中心となってお祭りを盛り上げています。
と言ってもいいんじゃないかと思うわけでございますね。
ですからお客さんにも楽しんでいただくんですが我々も楽しもうと。
そのためお祭りでは奉納落語会などが行われているほか…。

(バンドの演奏)バンドのステージにお茶席踊りなど高座の上とはちょっと違う噺家さんの一面を見られます。
そして40の屋台で落語家の皆さんと気軽に触れ合うこともできるんです。
そこで文之助さんに会場を案内していただくことに。
まずは…。
今年ね新しく出来た桂塩鯛さんのお店。
どうも。
おはようございますどうも。
ご苦労さんでございます。
お忙しそうですがこれは…。
塩鯛さんの…。
(塩鯛)はいブースでございます。
米朝一門桂塩鯛さんの屋台は生地と餡に塩をブレンドした特製たい焼き。
その名も「塩鯛焼き」。
(塩鯛)形はちょっといびつですけどね。
(笑い)
(小鯛)すみません覚えてください。
さてそのお味は?ほんとだ。
(塩鯛)どうですか?ちょっと確かに塩気が少しあって甘さが抑えめで非常に上品ですね。
なるほどね。
なるほどね。
おいしいですおいしいです。
だいたいこういう焼き物ってね夏場は売れないそうなんです。
どうですか?売り上げ。
(塩鯛)めちゃめちゃ売れてます。
そのかわり小鯛汗だらけ。
(塩鯛)昨日ねほんとに倒れかけた。
600個!こうしてですね噺家さんにも気軽にお話ししていただけるという。
続いて案内していただいたのは五代目桂文枝一門の屋台。
ここでは先代の五代目文枝さんが若い頃によく食べお弟子さんたちにも振る舞っていた名物・焼うどんを頂くことができます。
細うどんにしょうゆ卵を加えただけというシンプルな焼うどん。
師匠直伝の味が祭りの名物にもなっています。
(枝女太)製麺屋さんしか作ってないという…。
あっ!どうですか?おいしい。
原価はなんぼやねん?
(枝女太)ちゃうちゃうちゃう!お弟子さんがね焼きはるんですけどこうして色んな屋台があってはあ〜なるほど。
落語だけやなしに味も味わえる。
これは楽しいですね。
はい。
中にはこんな屋台も。
並んでいるのは食器に帽子…ボーリングの玉も置いていましたが初日に売れたんだそうです。
ちなみにこれらはそしてそのお隣の屋台がこちらなんですが文字を書いているこの方実は…。
橘右佐喜さんといいまして寄席文字を書いてる先生でございます。
寄席文字を…。
噺家がですね出てくるときに名ビラというのが横に…あの独特の…寄席の独特の文字を書かはる。
右佐喜さんの書いた名ビラで出していただくという。
そうなんですか。
(右佐喜)こちらこそお世話に…。
寄席文字は物事がうまくいくよう右肩上がりにそして客席が埋まるよう隙間なく書かれているのでとても縁起がいい文字とされています。
ここでは毎年一般の人も寄席文字を書いてもらえるんです。
書いていただけるんですか?
(右佐喜)はい。
全部寄席文字でっていうことになるとお時間かかりますので書かせていただこうかなと思っています。
ありがとうございます。
こちらの右佐喜さんが寄席文字を書いていらっしゃる間にですねこの時間を利用しましてここで桂文之助さんの落語をご覧いただきます。
お願いいたします。
今日の演目は…。
腕利きのスリが登場する人情噺。
ある日足を洗った兄貴分に堅気に戻るよう諭されますが…。

(出囃子「連獅子」)
(出囃子「連獅子」)
(拍手)
(観客)文之助さん!ありがとうございます。
何かご用事が?
(観客たち)あははっ。
ご用事はないんやろと思いますが。
まあ我々いろんな所でしゃべらせていただくんですね。
ですからどういうおしゃべりしてええか困ることがちょいちょいあるわけでございまして。
こういうとき先輩から二つの棒のお噺を教えてもらうんですね。
二つの棒のお噺。
このお噺をしてると大概のとこでは怒られる気遣いはないんだそうでございましてどういうお噺かと申しますとケチん棒という棒と泥棒という棒。
この二つのお噺はどこでやらせていただいてもお差し障りがないなんていわれておりまして。
だいたいケチな人はこんなしょうもないことをね入場料払うたり電車賃使うたりして聴きに来るわけがない。
ですから我々噺家はもうケチん棒に恩も義理もない。
(観客たち)あははっ。
ですから今日もこの会場にケチん棒の方は一人もいらっしゃらないと思いますがひょっとご家族やご親類にケチん棒の方があったらこれはお詫びをするわけでございますが泥棒…これはもう絶対大丈夫でございますね。
なんぼ私がここで泥棒の悪口言うたからいうてね「ようも俺の悪口言いやがったな!」言うてね楽屋へねじ込んできたことはいっぺんもないんでございます。
今日もこの会場に泥棒の方決していてはらしませんがひょっとご家族やご親類…にもいてはらへんと思うんでねこの二つのお噺はどこでやらせていただいてもええとこういうことになっております。
まあ泥棒なんていうのもちょいちょい出てきますがねまあ物を取り込むってなことで験を担ぐわけでございますがあんまり大泥棒は出てこないんでございます。
浪曲とか講談をね白浪物なんていいまして大泥棒が活躍をいたしますね。
まああんまり落語の方には石川五右衛門なんて出てまいりません。
石川五右衛門の子分で石川二右衛門半とかね石川零点五右衛門とかそういうのが出てくることになっておりましてね。
以前は…江戸時代でございますが小僧というのが大変はやりまして有名なんが鼠小僧次郎吉とかねお芝居…弁天小僧菊之助とかセンダイ小僧とか稲葉小僧なんてね。
「小僧」なんてネーミングが付きますというと江戸の夜の町屋根から屋根へ猿のごとく走り抜け盗みはすれど非道をせずってなこというてね義賊なんてかっこいいんですけどね。
でもあれ小僧やからいうて別に子供がやってるわけでもなんでもない。
ちゃんとした大人が…。
まあちゃんとしてるかどうかよく分かりませんけど一応成人男性がやってるんですね。
いつまでも小僧もおかしいやないか年齢とともに名前も変えたらどないやいうてね弁天親父の菊之助とかね鼠お父つぁん。
なんか「ゲゲゲの鬼太郎」に出てきそうで具合が悪い。
やっぱしこれは小僧にかぎったようでございますが。
これはある泥棒が天王寺さんに盗みに入りましてね賽銭箱をばぁ〜っとぶっちゃけて中の賽銭わしづかみにして懐へぐいっとねじ込んで悠々と表門から出ていこうといたしますというとあの天王寺さんは大きな大きな仁王さんが門番しておられます。
「ちっ!わしが門番してるのに賽銭泥棒するとは不届きなやつ」。
泥棒の襟髪をぐっとつかんで上へがぁ〜っと持ち上げた。
今度は下へパ〜ンとたたきつけましてね仁王さん大きな大きな足で泥棒をぐっと上から踏んだ。
ところがそのとき泥棒ちょっとおなかの調子が悪かったんですね。
ぐっと踏まれた拍子に後ろから臭いやつをブゥ〜!「くぅ〜臭いやつめ」。
下から泥棒が…。
「におうか?」。
(観客たち)あははっ。
ここで笑っていただくと私はほっとするんでございます。
いいお客様でございますがね。
またこれはある泥棒でございますね。
料理屋に盗みに入りまして子分を見張りに立たしますというと親分の方は締まりを破って主人の部屋でございますね。
いわゆるうまい泥棒になりますと枕元に立たれても気が付かなんだんやそうでございます。
長いやつをずらっと抜きますというと首筋に冷たいもんがぴちゃっと当たったりなんかしますとこれは気持ちのええもんやない。
「おっ…」。
「大きな声出すな。
大きな声出すな。
俺は盗人や。
金を出せ金を」。
「いいえ。
金なんかおません」。
「うそをつけ。
ええっ?頼もしいで20両この家に落ちてあるのは分かってある。
金を出せ」。
「それをどこで?うちの嫁はんも知らんのに。
まあまあしかたがない。
そこまでご存じなら。
はいどうぞ」。
「よしよしよし。
ところでお前のとこは料理屋やな。
なんぞ作って食わしてもらお」。
「もう堪忍しておくんなはれな。
夜中に起こされて金は盗られるわ仕事はさせられるわ」。
「ぼやくなぼやくな。
金を盗んのはこっちの仕事。
料理を出すのはお前の仕事や。
金は払うてやる」。
「あっお代は頂ける…。
それならお客さんや。
ただね今日はしけで魚がなんにも…。
あっ鯉のええのがありますんでこれをひとつ洗いにして…。
で酒はな火落としてしまいましたんで冷やでご辛抱」。
「なんでもかまへん。
早いことしてくれ」。
落ち着いた泥棒でございまして盗みに入った料理屋で鯉の洗いで一杯飲んでええ気持ちになりまして…。
「うんうまかった。
なんぼや?」。
「20両頂きます」。
「に…20両!?そらお前高い!」。
「夜の仕事でございますな。
しけで品物がなかった…。
あっそれとも払わずにお帰りですか?」。
「分かった。
払うてやる。
どうもならんなほんまに。
そしたらこれ20両」。
「おおきに。
ありがとさんで。
またどうぞお越し…」。
「誰が来るかこんな所。
何しに入ったんや分かれへんな」。
ぼやきながら表へ出てまいりますと子分の方が…。
「親分首尾は?」。
「しぃ〜!こいが高い」。
(笑い)ええ〜徐々にお分かりになっていったようでございます。
まだ分かってらっしゃらない方もあるようでございますがまああとでゆっくりと考えていただこうという。
泥棒にもいろいろ種類がございますがちょっとひとつ毛色の変わったのにスリというのがございます。
昔大阪ではこれを「ちぼ」ってなことを言ったそうでございますがこれは相手の体を触って何か盗っていくわけでもないですしね人が寝てるところへそっと忍び込んで物を盗るわけでもない。
まして刃物を突きつけて脅して金を盗る強盗なんてスリの方から言わすと下の下やそうでございましてねスリから言わすと自分らは盗人やない。
泥棒やない。
技術者や。
エンジニアや。
盗る方に腕があって盗られるやつがまぬけやなんてねなんか職人みたいな気持ちでございます。
まあなんでございますね日本のスリというのは大変に腕…水準が高いそうでございましてまああの〜皆さん方男性のお客さんなんか背広とかジャケットを着られることがあると思うんでございますね。
内ポケットにお財布をこう入れたりいたします。
上にちょっとボタンが掛かってたりファスナーが付いてたりします。
あれを閉めとくだけボタンをちょっと掛けとくだけで犯罪率がずっと落ちるんだそうでございますが。
でもうまいスリになったらそんなものは物ともない。
そんなことは関係なしにぱっと抜いていく。
もっとうまいやつになりますと財布を抜いて中の金だけ盗ってその財布を元のポケットへ戻しておくと。
すごいのがおる。
もっとうまいのになりますというと札を勘定しましてね領収書入れて元のポケットに戻しておくという。
神業みたいなんがあったんやそうでございますが。
まあそれでもスリにはスリ堅気なんと申しましてねそんな気持ちがあった明治の初めの頃のお噺でございまして。
「旦那…旦那!」。
「はい。
私のことですか?」。
「へい。
突然お声を掛けたりして誠に相すまんことで。
実はちょっとお願いしたいことがございますねやわ」。
「はい。
なんでおまっしゃろ?」。
「立ち話もなんで…。
ちょっとそこの茶店までおつきあい願えまへんやろか?いえじきに済むことです。
決してお手間は取らせまへん。
まあまあ。
まあまあ。
どうぞそこへ掛けておくれやす。
お婆ん甘酒2つ持ってきて。
見ず知らずの人間が道の真ん中で突然声掛けたりして誠に相すまんことで…。
実はお願いの筋と申しますのはあんさんえらいええ煙草入れを下げてはりますな」。
「えっ?これのことですか?いや別に…ええというほどのもんでもない。
気に入って下げてます。
これがどないぞいたしましたか?」。
「実は私これ3円で買いました」。
「はっ?いやいや私は売った覚えはない」。
「いやいやあんさんご存じないことでおます。
えっ?ああ〜そこへ置いといて。
うん。
まあまあよかったら。
ここの甘酒なかなかいけます。
実は私あの〜大阪のちぼでおまんねん…スリで。
いえいえびっくりしてもうては困ります。
こっちから割ってお話をいたしておりますんで。
実は我々の仲間のある男があんさんのお腰のもんに目ぇ付けましてな。
堺筋の長堀の辺りでこれに目ぇ付けてええ品やな欲しいなっちゅうわけで後をおつけ申した。
つけていった。
ところがあんさんのお体に隙がないというかなんというかどうしても抜き取ることができまへん。
八幡筋の辺りまで来たらね仲間の者に会いましてこれは見たらじきに分かりますね。
ふ〜んあれ狙うてるなってなもん。
ええ品やないかい。
なんで抜けへん?。
抜かれへん。
何を言うてんねんお前あんな老いぼれ…。
あっ…えらいすまんこって。
我々もう陰でいろんなこと申します。
あんなお年寄りの楽なもん…。
抜かれへん。
ぶさいくな…何を。
よしよしよしよし俺に1円で売れ言うてこいつがまあ1円出して買いよったお腰に着けたまま。
まあいわば抜き取る権利を買いよった」。
「ほうそういうことがある?」。
「まあまあ我々にはそういうことがございます。
こいつが1円出したもんやさかい仕事にせんならんっちゅうわけでお後を慕うてミナミへミナミへ参りましたがなるほどなんでもないように見えるどうっちゅうことないように見えるあんさんのお体に隙がない。
どうしても抜き取ることができまへん。
道頓堀の辺りまで来たらおんなじようにミナミ流してましたんがこいつは元江戸っ子でな我々の仲間内では「隼」なんて異名を取ったなかなかええ仕事をする男でこいつがよ〜しおいらがいちばんっちゅうわけでこれが2円出して買いよった。
私もミナミぶらぶらしててこの話を聞いてこれはおもろいっちゅうわけでじきに後を追いかけて御蔵跡の辺りで追いついたらこいつもまだよう抜いてやしまへんねん。
よし俺に3円で売れっちゅうて買うたんでやすけどなるほど仲間がてこずったはずや。
なんでもないように見えるあんさんのお体に隙がない。
どうしても抜き取ることができまへん。
大阪・合邦とやってまいりましてとうとう西門まで来てしまいました。
どうやら天王寺さんへご参詣のご様子。
まあ悲願っちゅうならともかくこんな閑散とした境内に入られてしもたら余計どうすることもできしまへん。
恥を忍んで一枚当たって砕けぇと思ってお声を掛けさせてもうたようなわけで。
まあ人さんの品物に値を付けて誠に申し訳ないがこの煙草入れ15〜16円からひょっとしたら20円近く出しはった品物やないかと思います。
飽きがきて道具屋へ払い下げたとおぼし召しになって私に10円で譲ってもらうっちゅうわけにはまいりまへんやろか?」。
「うん。
いやそらまあ今これ道具屋へ持っていっても10円で買うてくれるかどうかは分からんがしかしあんさん先に3円出してなはる。
またここで10円で出して13円でこの品物が引き合いますか?」。
「あほらしいわ。
引き合いますかいな。
えっ?いやいや我々のもんばっかり買うてくれる商売人もいてますねんけど足元見てますわ。
これだけのもん持っていったところで3円か3円50銭…。
まあとても4円は出しまへんやろ。
いやいや損は覚悟のうえでおます。
皆がどうすることもできなんだ品見事に俺が抜いてきたやろと自慢したいだけでお願いをいたしておりますんでひとつ曲げてお願いできまへんやろか?」。
「んんっ。
そこまで言われると断りにくいな。
そしたらまあせっかくぶっちゃけて言うてくれはったんやさかい10円で買うてもらいまひょ」。
「誠に相すまんこって。
ご無理なお願いいたしました。
ほんだら気の変わらんうちにこれ。
そしたら確かにこれ頂戴いたします。
それからこれあんまり人さんにおっしゃらんように。
自慢できた話じゃございませんのでひとつ内聞にお願いいたします。
えっなんですか?いやここは私が私が。
お婆んなんぼや?ああそうか。
ここ置いとくよってに。
つりはかまへんさかい。
そしたらえらいお手間を取らせましてすまんこって。
どうもさいなら。
ごめんやす」。
「はあ〜不思議なことがあるもんやなぁ。
しかしなぁ大勢の腕利きのスリが何人もかかってわしの腰のものを抜けなんだというのはまんざら悪い気もせぇへん。
あの煙草入れかってあんだけ使うて10円で売れたら損でもないがな。
今日は思わんことに10円ってな金が…。
あっ!財布がない!」。
「おい仕事っちゅうのはこういうふうにすんねん。
分かったか?お前ら。
お前らな煙草入れを抜こうと思ったら煙草入ればっかり目がけてるやろ。
それやさかいあけへんねや。
煙草入れで仕事がしにくかったら形を変えたらええねん。
これが兵法っちゅうやっちゃ。
ん?財布の方がずっと仕事がしやすいねん。
形を変えるために10円出そうが20円出そうがそらかまへん。
そいつはまたお仲間連れてこっちへ戻ってくんねん。
こんな結構なことはあれへん。
なっ?世の中が明治と変わってんねん。
これからのスリはちぃっとここも働かさなあかんで。
分かったかい?」。
「秀えらい売り出してるやないか」。
「えっ?おおっ兄貴お越し…」。
「兄貴ってなこと言うてくれるな。
とうに足洗うて今では堅気や。
お仲間扱いは堪忍やで。
しかしお前という男はえらい男やな。
わしは今こっちで聞いてて感心した。
それだけの才覚ええ方へ使たら…。
どや秀このへんで心入れ替えて堅気になろうっちゅう了見にはならんのかい?」。
「またやまた。
兄貴のお説教堪忍してぇな。
いや兄貴とわしとは違うねん。
兄貴は堅気になって当たり前の人や。
間違うてこんなところへ来た人や。
そこ言うとわしは違う。
えっ?おぎゃ〜っと生まれたときからこの世界や。
自慢になる話やないけど小さい時分から飴玉一つ親に買うてもうた覚えはない。
菓子が欲しい菓子が欲しいっちゅうたら仕事せぇっちゅうて大きなってん。
泥水が骨の髄まで染み込んである。
しょうがないっちゅうねんそんなくどうに言われても。
そらまあまあ俺もええと思ってやってるわけやないけど…」。
「そない思うねやったらやめたらどないやねん?わしはお前という人間が惜しいよってに言うてんねん」。
「何を言うてんねん。
わしは兄貴の腕こそ惜しいで。
ええ腕してたやないかい。
ほれぼれとした。
聞きゃあこのごろ情けない商いしとるそうやないかい。
で兄貴このへんで心入れ替えてこっち戻る気ないか?」。
「秀俺は真面目に話をしとる。
なっ?わしはお前という人間がもったいないよってに言うてる。
お前一生こんなことしてるつもりか?」。
「しょうがないがな。
俺に何ができんねん。
これするよりほかに俺にどうせぇっちゅうねん。
今更大工にも左官にもなれんやろ?なっ?そのかわり言うとく兄貴言うとく。
この辺の手合いみたいにな銭にさえなったらなんでもするそんな了見と俺は違う。
はばかりながらなあくどい仕事っちゅうのはいっぺんもしたことがない。
うん。
まあこの金がなかったら明日の釜の蓋が開かんというような人の懐は狙うたことがない。
まあまあこれぐらいの金あってもなかってもどうっちゅうことないような人の懐かこんなやつにこんな金持たさん方が世の中のためやっちゅうようなそういうやつの懐しか狙うたことがないんやさかいそれだけははっきり言わしてもらうわ」。
「はっ偉そうなことぬかしたな。
ほな昨日うちの長屋でなんであんなことしてん?」。
「おかしなこと言わんといてくれ。
いやいや昨日行ったよ。
近所まで行ったさかい寄ったんよ。
留守やっちゅうたからじきに帰って来たんや。
なんぼなんでも兄貴の住んでる長屋で俺が…ましてあんな貧乏長屋で俺が仕事したりするかいな。
おかしなこと言わんといてくれ」。
「角の駄菓子屋でおもちゃの笛…一文笛盗ったんお前と違うんか?」。
「えっ?おもちゃの笛…あはははっ!何を…何を言いだすんやと思ったらあのこと言うてんの?ああ〜あれは俺。
お察しのとおりあれは俺。
いやいや帰りかけたんや。
そしたらあの角の駄菓子屋の所へ卸屋が竹でこしらえたおもちゃの笛…青やら赤に塗ったやつ。
えっ?一文笛っちゅうの?あれがさっと卸してきよったんや。
ほな子供がじきに集まってきてあれがええかこれがええかとよってるやつがある。
もう銭出して買うてるやつがある。
ピ〜ピ〜ピ〜ピ〜吹いてる者もある。
皆面白そうにわあわあ騒いでた。
とちょっと離れた所でな髪の毛バサバサに伸ばして洗いざらしの着物着た痩せた子がそれこう指くわえて見てんねん。
みんながあんまり面白そうにしてるさかい自分も後ろから近づいていって後ろからのぞいてたけどな。
ほかの子とおんなじように1つ笛取ってこう見てると向こうの婆や。
俺前からあの婆虫が好かん。
その子の笛ぱっとひったくって銭のない子はあっち行ってんか。
わしはもうむかっとしてな小さい子供にそんなこと…。
俺の小さい時分見てるような気がしたさかいなくそっこの婆と思ったさかい通りしなにすっと1本取ってあの子の懐にほり込んで帰ったんや。
それがどないぞしたんかい?」。
「やっぱしお前やったんか。
俺は帰ってお前が来たっちゅうことを聞いてこれはお前の仕業に違いないと思ってここへ来たんやがお前あのあとどないなったと思う?子供懐へ手ぇ入れた。
買うた覚えのない笛が出てきた。
おかしいなぁと思ったけどそこは子供や。
やっぱし口へ持っていってピ〜ッと鳴らした。
それを婆が目ざとう見つけてあれ?お前に買うてもうた覚えはない。
はは〜んさては盗んだな。
泥棒泥棒!と親のところへ引っ立てていった。
あの子の親はな元侍や。
士族や。
母親はとうに死んでお父つぁん腰の抜けたような病気になって手内職でやっとおかゆを吸うてるっちゅううちや。
貧乏さしても盗人するような子供に育てた覚えはない。
お前はうちの子供違う。
出ていけ!。
子供が泣いて覚えがないと言い訳しても現に懐から笛が出てきたさかいしょうがないやないか。
閉め出されてしもうた。
長屋の者が口を利いてもおかまいくださるな。
わあわあわあわあ泣いてる声がし〜んとしたときおかしな音がしたさかい長屋の者が飛び出したらかわいそうにあの子井戸へ身投げたで」。
「えっ?」。
「長屋の者がじきに気が付いてすぐに引き上げた。
息は吹き返したけどず〜っと寝たきり気が付かん。
おいお前な子供がかわいそうやと思ったらたかだか5厘か1銭の笛なんで銭出して買うてやらん?それが盗人根性っちゅうねん。
お前なんぞええことでもしたように思ってたんと違うか?最前お前偉そうなことぬかしたな。
この金がなかったら困るような人の懐は狙わん。
お前になんでそれが分かんねん。
えっ?どんな格好してようと誰が持ってようとその金がどんな事情のある金か金がなくなったがために回り回ってどこの誰がどんな迷惑するかいっぺんでも考えたことがあんのかい?偉そうなほげたたたくな!」。
「はぁ…。
すまん」。
「俺に謝ってもしょうがない。
お前なあの子が死んだら親にどない言うて申し訳するつもりや?えっ?あの子があのまま死んでもうたらあの子一体なんのためにこの世へ生まれてきたんや?」。
「兄貴…堪忍してくれ」。
懐へ左手がすっと入ったかと思います。
取り出してまいりました匕首右手の人差し指と高々指敷居の上へのせたかと思うとポン!「何すんだ!?」。
「兄貴俺は今日からスリやめる」。
「むちゃしやがって。
おいきれかなんか持ってこい。
根元ぐっとくくれ。
血の止まるまで思いっ切りくくれ。
ほんまに大胆なことしやがって」。
「兄貴…俺もう今日から堅気になるけど盗人以外俺はしたことない。
これから万事引き回し頼む」。
「分かった。
お前だけの男や。
どんなことがあっても一人前以上の男にしてみせる。
まあとにかくな医者へ行け医者へ。
痛みが止まったら明日でもあさってでもうちへ来い。
なんぼでも相談に乗ってやるよってに」。
「兄貴…昨日はどうも」。
「お前か。
こっちへ入り。
もう傷は痛まんか?」。
「そんなことはどっちゃでもええねん。
あの子生きてるか?死んだか?あの子に死なれたら俺どうしてええや分からん。
生きてるか?」。
「生きてる…というだけのこっちゃ。
あれからず〜っと寝たきり。
気が付かん」。
「医者は?」。
「そら診したわい。
けどこんな裏長屋へ来てくれるような医者てこに合うかい。
こらまたえらいことになったな。
まあとにかくしばらくこうしてそっとして様子を見てってなことを言うて去んでしまうだけや」。
「もっとええ医者はおらんのかい?」。
「おらんな。
この表通りに伊丹屋っちゅうて酒屋があるやろ。
この辺一の金持ちや。
あそこへ北浜の高田とかいう洋行帰りで博士やとかいうてえらい威張っている医者毎日のように伊丹屋へ往診に来てんねん。
ところがこの医者困ったことに金が好きで貧乏人が嫌いっちゅうやっちゃ。
だますようにして連れてきた。
長屋でいちばん上等の座布団出したけど心悪そうに座りやがって…。
それでも診るだけ診てくれた。
腕の方は…見立ての方は確かなそうな。
すっすっと診るなりこんなりほっといたら8割方死ぬ。
まあひょっと助かっても元のようには戻らんやろう。
そのかわり今すぐ入院させてありとあらゆる手立てを施したら今度は逆に8割請け合うとこない言うてくれた。
ああ〜さよか。
先生ほんならなんとか入院とかいうやつをっちゅうてるとな懐から紙切れすっと1枚出しやがって規則書とかなんとかいうやつや。
これに書いてあるとおりにせぇ。
段取りみんなこれに書いてある。
20円前金添えてな。
しゅっと去んでしまいやがった。
あっさり言いやがったで20円やなんて。
この長屋の金みんなかき集めても15円が危ないやろ。
隣のヨシとこな嫁はんが6銭5厘のおかずしたっちゅうて。
ぜいたくないうて夫婦ゲンカして別れるのなんの言うてんねんおい。
6銭5厘でケンカする長屋で20円やなんて…。
俺はもう今日ほど金が欲しいと思ったことはないな」。
「20円?その医者はもう去んだか?」。
「いやまた伊丹屋へ戻って蔵出しの上等のとっときの酒飲んでご機嫌で帰りよる。
行って頼んだかてあかん。
口に風邪ひかすだけや。
金積んで見せなんだら話ならんっちゅう評判の医者や。
おい待て!どこ行くねん?」。
「兄貴この金で子供入院させてやって。
40〜50円入っとる」。
「お前この財布どないしてん?」。
「酒屋の前行ったら医者の人力止まってあったんや。
車夫居眠りしてよったよってに陰へ隠れて待ってたら医者酒に酔うてふらふら出てきよったんや。
わいも酔うてるようなふりしてすれ違いざまにちょっともうてきたんやけど…。
もうそんな顔しぃないな。
ほかのときと違うがな。
この金かてやでいっぺんこっち回るだけでまた元へ戻んねやないかいな。
いや約束破ったのは悪い。
名乗っても出る。
けど今俺が名乗って出たらあの子助けるわけにいかんやないかい。
この金で子供入院させて命が大丈夫やと分かったら俺は懲役へでもどこへでも行くさかいもっぺんだけ見逃して。
頼むわ!」。
「そらお前人の命に関わるこっちゃさかい見逃すも見逃さんもない。
しかしお前は名人やな。
この指2本飛ばしてようこれだけの仕事ができたな」。
「兄貴実はわいぎっちょやねん」。
(拍手)
(受け囃子)「らくごのお時間」。
今月は桂文之助さんと生國魂神社の彦八まつりへ。
縁起の良い寄席文字の屋台で。
さあ先ほどお願いしていた寄席文字が完成いたしました。
こちらです!あっやりましたね!やりましたね。
これはすてきですね。
すごく縁起の良い文字ですからね。
なかなかこういう体験ってできませんもんね。
まあこのお祭りならではです。
彦八まつりの実行委員長を務めた文之助さん。
今後の目標何かありますか?まあ文之助っていう大きな名前を継がしていただきましたんで…。
またごひいきお願いしたいと思います。
今日は桂文之助さんと共にこちらの彦八まつりの会場からお送りいたしました。
今日はほんとに…。
(2人)ありがとうございました。
ここで落語会のお知らせです。
11月にサンケイホールブリーゼで桂雀三郎さんの独演会が行われます。
詳しくは番組ホームページまで。
2014/09/28(日) 04:55〜05:30
MBS毎日放送
らくごのお時間[字]【桂文之助◆「一文笛」▽彦八まつりの様子も】

<第12回>桂文之助◆「一文笛(桂米朝・作)」9月上旬に行われた「彦八まつり」を実行委員長・文之助さんが案内します▽月1回、第4日曜の朝に本格的な落語を一席。

詳細情報
お知らせ
月に1回、寄席小屋を訪れて、脂の乗った落語家の落語を1席お届けします。
番組内容
桂文之助さんが「一文笛(桂米朝・作)」を披露。
今回は、9月上旬に行われた「彦八まつり」の会場で、祭りの実行委員長・文之助さんが見所を案内してくれてます。

「彦八まつり」とは、大阪落語の始祖・米澤彦八の名を後世に残すために、生國魂神社の境内に、平成2年に『彦八の碑』を建立した事が始まりです。大阪の伝統芸能として身近な上方落語の更なる発展と後世への継承を目的としています。
出演者
【落語】
桂文之助
【案内人】
福島暢啓(MBSアナウンサー)

ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
バラエティ – お笑い・コメディ
福祉 – 文字(字幕)

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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