『誰かの妄想・はてな版』という匿名サイトがある。

このサイトはどうも暴言や妄言が酷い。なにしろ、最新記事は『「懲罰」として天皇や米大統領が殺害される怪獣映画を作ってほしい。2014-11-29』である。
サイト運営者のscopedogと名乗る人物は、よほど天皇陛下のことがお気に召さないようで、以前にも『天皇こそ役に立たないんだから心置きなく静養に行けばいいと思うんだが。2014-08-22』という記事を書いている。

いったい誰が書いているのだろうかと思っていたが、最近、京都第一法律事務所の渡辺輝人(てるひと)弁護士だと分かった。というのも、渡辺氏自身が「ナベテル業務日誌」のフロントページで自身のブログとして紹介しているからだ(そういう意味で『誰かの妄想・はてな版』は、間接的には匿名ではない)。
渡辺3
「ナベテル業務日誌」より

実はこのサイトに『山田高明氏の捏造 2014-04-30』と題する記事がある。

これは、私の「従軍慰安婦問題ではなぜ“被害者家族の抗議”がないのか?」という記事を受けて、反論として書かれたもので、皆さんもまず一読してほしい。

端的にいえば、渡辺氏の反論はナンセンスな揚げ足とりである。私は呆れて氏のブログ内で再反論しようと思った。ところがコメントを書く欄には「なぞなぞ認証に回答する必要があります」とある。
渡辺1

なかなか面白い趣向である。私はこういうセンスは嫌いではない。だが、クリックしてみると、出てきたのがコレ。
渡辺2

なんと、「安倍晋三」と書かないとコメントできないのだ。ドン引きである。私はとくに安倍氏の支持者ではないが、さすがにこれは気持ち悪い。

そこで放置しておこうと思ったが、ふと、興味深いことに気づいた。それは弁護士ともあろう者が、なぜこのような稚拙な論法と卑劣なレッテル貼りに及んだのか、その真の理由に気づいたからだ。そしてその瞬間、この件は私と渡辺弁護士の「私闘」ではなくなり、公共の言論空間にとって大きな意味を持つものとなった。だから、私は大勢の人々の目に触れるここ「アゴラ」に舞台を移すことにした。

慰安婦問題の核心を突いてしまう質問とは?
慰安婦の行く末について、渡辺氏自身が紹介する韓国政府と挺隊協の主張はこうだ。
「しかし、多くは日本軍によって殺されたため帰ることができず、ひどい病気にかかってまともに歩けない状態だったり、故郷に帰るすべを知らず、遠い他国に残されたままの場合も数多くありました。」


だとすると、「なんで終戦直後にたくさんの慰安婦家族から抗議の声が上がらないのか?」というのは、誰もが思い浮かぶごく常識的な疑問ではないだろうか。

ところが、渡辺氏はこの疑問自体には、直接的には回答を避けて、私に対してひたすらレッテル貼りを続ける。いわく、
「相手の不幸につけこんで慇懃無礼に嘲笑」
「元慰安婦や支援者らを侮辱する論法」
「過酷な体験の後、それ故に家族を持てなかった被害者に対し『慰安婦少女の両親や兄弟を名乗る人が現れたことすらない』とあげつらうのが歴史修正主義者の特徴」


散々である。私という人間はそんなに冷酷非情なのだろうか(慇懃無礼というのは事実だが)。私的には当然の疑問を口にしたまでである。だが、この人身攻撃まがいの反論が、逆にヒントをくれた。結論から言うと、運動サイドにとって、これほど触れられたくない疑問はないのだ。なぜなら、彼ら自身もまともに答えることができないからである。私は無邪気にもそれに触れてしまったというわけだ。

だから、発言者を指して、要は「かわいそうな元慰安婦の方々を嘲笑する血も涙もない人間だ」という風に印象操作する。そうやって発言者の信用を貶め、二度と口にさせないように躍起になっているのだ。私は「なるほど」と膝を打った。ここが運動サイドのアキレス腱だったのである。だが、こういうアンフェアな真似をされると、生まれつきの天邪鬼の私は、逆に言いたくなるものだ。だから、彼らが一番訊かれたくない質問を、再び繰り返そう。「なぜたくさんの家族から抗議の声が上がらないのか」と。

この質問に対して納得のいく回答をすることは難しいだろう。

第一は、「日本軍が家族もろもろとも皆殺しにして口封じしたからだ」と嘘をつくことだ。だが、この嘘はリスキーで、大半の人から疑いの目を向けられることは必至だ。それだけの大量虐殺の証拠はあるのか。目撃者はどこにいるのか。なぜ人口動態グラフに欠落がないのか、等など。結局は嘘をカバーするために新たな嘘を重ねなければならない。

第二は、「朝鮮人の親が、自分の娘を、朝鮮人の業者に売り飛ばしたからだ」と認めることだ。ちょうど、朴裕河(パク・ユハ)世宗大教授の『帝国の慰安婦』を受けて、「朝鮮日報日本語版 14 07 20」のコラムが以下のごとく記したように。
「しかし、慰安婦問題では朝鮮人も責任を避けられない、という指摘は認めざるを得ない。娘や妹を安値で売り渡した父や兄、貧しく純真な女性をだまして遠い異国の戦線に連れていった業者、業者の違法行為をそそのかした里長・面長・郡守、そして何よりも、無気力で無能な男性の責任は、いつか必ず問われるべきだ。」


今問えよ(笑)。

女衒から巨額の前金また送金を受け取っていた親としては、公然と世間に顔を出し辛いものだ。ただし、それでもなお、自分の娘が生きて帰って来ない事態に対してたくさんの家族から抗議がないのは不自然だと見ることもできる。だから、第二の回答をもってしても世間を完全に納得させることはできず、おかしいとの突っ込みが入るだろう。

そすると、答える側は、結局は質問の前提そのものを否定せざるをえなくなる。一つは、「多くが日本軍によって殺されたという話は最初から嘘でした」と認めることだ。だが、自分を嘘つきと認めることは、彼らにとって自殺行為になる。他人を陥れても守りたい世間体だ。もう一つは、以下の渡辺氏のように曖昧にしてしまうことだ。
これまで「慰安婦」として連行された女性たちが何人で、戦争が終わった後生き残った人は何人なのか、またそのうち帰国したのは何人か、正確に把握されていません。


煙に巻くつもりなのだろうか。だが、この論理ならば、そもそも日本を告発すること自体がおかしいではないか。これで起訴が成り立つのか、弁護士自身が一番よく知っているはずだ。日本を告発する時には「8〜20万と推定される」などと具体的に数字を挙げながら、「なんで家族から抗議がないのか」と突っ込まれる側になると、こうやってボカして曖昧にするのは卑怯である。そもそも戦後の南北両政府は日本帝国時代の役所と戸籍簿をそのまま受け継いでいるから、こんな言い分は通らない。妙齢女性の行方不明者はすぐに割り出せるし、その家族と周辺に簡単な聞き込みをするだけで、強制連行された疑いがあるか否かはすぐに判明する。だいたい家族のほうから韓国警察に捜索願いが行くはずだ。

ご覧の通り、どの返答であれ、結局は運動サイドにとって都合が悪いのである。だから、一瞬して矛盾を露呈させてしまうこの質問は彼らとってタブーなのである。

(次回が反論の本番だ)

(フリーランスライター 山田高明 yamadataka*mbr.nifty.com *=@)

(付記)「ボドムズ」ファン(?)の渡辺弁護士にもおススメ!
第45回オール讀物推理小説新人賞最終候補『電脳の楽園』(Kindle版)*その他の電子出版にも対応。おかげさまで「アマゾン 日本文学」のベストセラーに一時ランクイン!

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