今年は資料作成の本が多く出版されました。私自身が執筆した『資料作成の基本』や監修したものも含め、パワポ・エクセルに関する実務レベルの上達術は書籍だけではなく、ビジネス誌でも例年以上に取り上げられたように思えます。
ただし、資料作成といっても用途に応じて作り方や魅せ方は違います。たとえば、部内の会議や協力会社とのやり取りでは見映えよりもコンテンツの充実が求められますし、マネジメントや顧客・社外の利害関係者に対する報告・提案では何よりも分かりやすさが要求されます。私が今年説明してきた資料はどちらかといえば前者の方が多かったのですが、当事者以外は目にする機会が少ないため、実際に資料作成することが多い立場でなければ実感しにくい部分もあったかもしれません。
そこで、2014年もあと1か月という年の瀬にあたり、上場企業が公開しているプレゼン資料から「よくできました」と「がんばりましょう」を採点し、コンテンツと分かりやすさの両面で参考になる資料を挙げてみました。
今回私が比較してみたのは以下12社の企業で決算説明に使われたプレゼン資料です。
これら企業の資料について、(1)内容の分かりやすさ、(2)図表の分かりやすさ、(3)文章の読みやすさ、(4)全体の色づかい、(5)全体の構成力の5観点で各10点、合計50点満点になるよう採点しました。
(モバイル通信系)
・NTTドコモ
・KDDI
・SoftBank
(自動車系)
・トヨタ
・NISSAN
・HONDA
(家電系)
・シャープ
・パナソニック
・ソニー
(スマホゲーム系)
・GREE
・DeNA
・ガンホー
最初に結論を述べます。
資料作成について、上位3社(GREE/Softbank/KDDI)が頭一つ抜けており、そこにNTTドコモとDeNAが続くという構図になりました。
業界別で捉えると、モバイル通信系>スマホゲーム系>家電系>自動車系という順位に分かりやすく、かつ見やすいプレゼン資料に仕上がっています。製造業の面が色濃い家電と自動車の各社は、説明者の立場で資料を作成しているからでしょうか、他社と比べて口頭説明の必要性が強い構成になっていました。モバイルとスマホゲームの各社はパワーポイントが資料作成の主要ツールとして浸透していると思われるため、スライドの魅せ方が相対的に秀でています。
各社資料のうち、特に気になった点は以下の通りです。
(モバイル通信系)
●ソフトバンク :43点
【(1)9点,(2)9点,(3)10点,(4)7点,(5)8点】
良くも悪くもいつも通りのスタイルであり、他社とは一線を画す独特な構成です。孫さんの技量を見込んでの構成だと思われ、プレゼンターの腕腕次第で良くも悪くもなる構成です。
●KDDI :42点
【(1)9点,(2)8点,(3)9点,(4)8点,(5)8点】
魅せ方はソフトバンクと同系ですが、もう少し文章で説明が加えられています。プレゼンターに頼らずとも資料単体で分かる作りになっているので、一般的にとても優れた資料だと思います。
●ドコモ :39点
【(1)8点,(2)7点,(3)9点,(4)7点,(5)8点】
他2社と似たような感じですね。モバイル通信系はほとんど資料構成が一緒です。ただ、NTTドコモはソフトバンクと同じようなシンプルスライドを志向しながら、図表の見映えで若干差がつきました。その部分が良くなれば、総合的にトップレベルの分かりやすい資料だと思います。
(自動車系)
●トヨタ :※得点は後述
パワーポイント禁止令で有名になりましたが、その影響が出ているのか、少々読み手の読解力を要求するプレゼン資料です。内容自体は経営状況の説明に必要なコンテンツを網羅していると思いますが、財務資料は独り歩きするため、やはり文字による説明がもう少し欲しいところです。
●HONDA :※得点は後述
トヨタと同様の傾向にあるプレゼン資料でした。プレゼンターが説明してくれないと資料の意図をうまくつかめないかもしれません。
●NISSAN :28点
【(1)5点,(2)6点,(3)5点,(4)6点,(5)6点】
他の2社と比べると資料単体での分かりやすさは上でした。色系統の使い分けを徹底すればさらに分かりやすい内容になります。
(家電系)
●ソニー :28点
【(1)4点,(2)7点,(3)6点,(4)7点,(5)4点】
一般的に分かりやすい部類の資料になっていると思います。こちらも自動車系と同様に、文章による説明を加えることで分かりやすさが大きく向上するでしょう。
●パナソニック :※得点は後述
資料の構成と色づかいは分かりやすさに配慮しているように思えます。数字のアピールもできているので、後は文章によるメッセージの明示とシンプルな色づかいの徹底によって分かりやすさが増すでしょう。
●シャープ :※得点は後述
資料構成の傾向はパナソニックと同様です。グラフではなく表形式で財務情報を説明していた箇所は、メッセージの明示と図解によって分かりやすさがアップするものと思われます。
(スマホゲーム系)
●GREE :44点
【(1)9点,(2)9点,(3)8点,(4)10点,(5)8点】
とてもよくできています。細部にこだわりつつ、シンプルかつ主張はしっかり押さえている構成になっており、資料作成のお手本と言ってもよいレベルだと思います。。
●DeNA :36点
【(1)9点,(2)9点,(3)10点,(4)7点,(5)8点】
必要以上にプレゼン資料の見栄えにはこだわらない感を受けました。コンテンツを分かりやすく説明しており、メッセージの明示によって読み手に誤解を与えません。
●ガンホー :28点
【(1)7点,(2)3点,(3)7点,(4)6点,(5)5点】
ソフトバンクの資料と傾向は似ており、シンプルで分かりやすい構成を追求しています。ソフトバンクと同じくらい資料の統一感に拘れば、図表の見やすさや全体の構成は格段に向上すると思います。
これらの講評はすべて当方の個人的な見解ですので、人によって採点内容は変わるでしょう。ですが、総合得点の順位はだいたい似たような結果になるものと認識しています。明らかにモバイル通信系とスマホゲーム系のプレゼン資料作成レベルは高水準でした。
今回の採点結果は、2014年11月末に発売された雑誌「Ambitious」(晋遊舎)にて、分かりやすいグラフや図解とともにさらに細かく解説しており、各社のプレゼン資料の画像と合わせて、見映えの良い誌面で確認することもできます。得点が低くてこのエントリーでは得点表示を控えた「トヨタ」「Honda」「シャープ」「パナソニック」についても内訳と解説を書いていますので、コンビニや書店で手に取ってみてください。
日常的に職場で作る資料と外部向けのプレゼン資料では作り方が大きく異なります。ですから、このエントリーで紹介した各社の財務報告プレゼン資料の作り方を社内資料向けにそのまま参考にすることはオススメしません。
しいて言えば、スライドごとにメッセージラインをしっかり示してプレゼンターの説明なしでも十分理解ができるGREEの資料構成と魅せ方は、普段の資料作成にも活かせる点がいくつもあるでしょう。
一方で、総合得点が低かった資料については、改良点を意識することで自身の資料作成レベルのアップにもつながります。これらのポイントは『資料作成の基本』でもすべて伝えている王道テクニックですので、気になる方は書店などでご参照ください。