ここから本文です

長野地震1週間 「白馬の奇跡」防災モデルに 住民連帯で死者ゼロ

産経新聞 11月29日(土)7時55分配信

 長野県北部で最大震度6弱を観測した地震から、29日で1週間を迎える。家屋倒壊の被害が出た同県白馬村では142人、小谷(おたり)村では84人が避難生活を続けている。

 ◆嫁入り道具「救出」

 白馬村では28日も、被災者らが損壊した自宅の片付けに追われた。地震で大きく損壊した同村神城の堀之内地区の民宿「大わで荘」では、10人がかりで建物の2階からロープでたんすを下ろしていた。

 たんすは民宿の主人、津滝晃憲さん(40)の妻、浩子さん(42)の嫁入り道具。たんすが2階から無事に下ろされると、浩子さんは「大事なものなので運び出せてよかった。手伝ってくれた皆さんに感謝です」と話した。

 震度5強という強い揺れに襲われた白馬村では40棟以上の家屋が全半壊しながら、住民らによる迅速な安否確認と救助活動が功を奏し、死者をゼロに抑えた。地域で築き上げた強い連帯感のたまものといえ、各地で巨大地震への備えが進められる中、「白馬の奇跡」から減災へのヒントを得ることができそうだ。

 ◆強い絆

 36棟が全半壊した堀之内(ほりのうち)地区では、豪雪に耐える重い屋根が地面に崩れ落ち、路地をふさいでいる場所もいまだ多い。この地区に暮らす白馬村消防団の横山義彦団長(55)は「死者がなかったのは奇跡だ。地域に濃密な人間関係があったからこそ」と話す。

 白馬村は29の行政区に分かれている。形は異なるものの、地区ごとに「区長」を頂点としたピラミッド型の住民組織が築かれている。86世帯230人の堀之内地区では、区長の下に10世帯ほどを束ねる8人の「組長」が、さらに各組長の下に補佐役として2人の「伍長(ごちょう)」がいる。横山さんも伍長を務める。災害時、伍長は受け持ち世帯の住民の安否を組長に伝え、組長が区長に伝える仕組みがあらかじめできていた。

 こうした住民組織が機能するには、日頃からの親密な近所交際が前提となる。堀之内地区の柏原頼子さん(67)は、地震後すぐ倒壊した隣家に向かった。「向こう三軒両隣の家族なんて知っていて当然。誰が家のどこで寝ているのかだって分かっているよ」。倒壊家屋のどこを捜索すればよいのか消防団などに即座に伝えられ、スムーズな救助につながった。

 結びつきの強さは投票率にも表れている。今年7月の村長選で堀之内地区の投票率は83%、24年の前回衆院選も77%に達した。いずれも村内一だ。消防団長の横山さんは「誰が投票に行かなかったかすぐに分かってしまう。周囲の“目”があるからね」と話した。

 ◆都市型

 7棟が全半壊した三日市場(みっかいちば)地区では5年ほど前から、高齢者の所在を地図に書き込み災害時に地区の誰が誰を支援するか事前に決めていた。県独自の防災対策の一環だったが、住民がとっさの行動に迷うことなく1時間ほどで41世帯118人の安否を確認できた。

 白馬村を視察した防災・危機管理アドバイザーの山村武彦さん(71)は「白馬村の住民の連携は工夫次第で各地でも生かすことができる」と指摘する。

 山村さんによると、東京都内ではマンションをフロアごとに組分けし安否確認を行う都市型の住民組織づくりが進んでいる。「近所交際が希薄な地域では、回覧板をポストに投函(とうかん)するのではなく、直接会って手渡すことから始めてほしい」

 被災から1週間。堀之内地区や三日市場地区では、避難を余儀なくされた住民らが集落を去り、今ある絆が綻(ほころ)ぶ懸念もある。

 三日市場地区の太田史彦区長(58)は「地震のため、地区を出たいという声もある。住民が減ってしまえば、助け合うことすらできなくなる」と危機感をあらわにした。(玉崎栄次)

最終更新:11月29日(土)9時49分

産経新聞

 

PR

特別企画「解散選挙を政治学者はどう見るか?」

衆議院の解散、総選挙が行われることをうけ、総選挙の持つ意味、問われるべき日本の課題を考える討論番組動画をオンデマンドで配信中(THE PAGE)

・【動画】一強多弱。なぜなのか?

・【動画】第2次安倍政権を総括、政治学者の評価は?

・【動画】総選挙に大義はあるか? 安倍総理の狙いは?

・全編動画はこちら