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2013年09月19日

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「今日子と修一の場合」(日本映画):東北大震災が齎す主人公二人の夫々の人間ドラマ

 最新の外国特派員協会(FCCJ)「ナンバーワン新聞」にブルース・ダニングの訃報が載っている。転倒し意識を失くして担ぎ込まれたNYマンハッタンのマウント・サイナス病院で8月23日に亡くなった。享年73歳。
ブルースはCBSニュースマンを35年勤めたが、ヴェトナム戦争で1975年3月29日のダナンからのアメリカへ向けての最後の避難民救助の模様をレポートして数々の賞を授与された。1979年には北朝鮮から放送した最初のアメリカ人放送ジャーナリストだった。
1978年から79年にFCCJで会長を務めている。春に亡くなった元LAタイムスのサム・ジェームスンと言い昔は大物ジャーナリストたちが次々と会長に就きFCCJを円滑に運営していた。

 ところがどうだろう。最近はスイスのTV&ラジオなんてどうでも良いメデイアの駐在員が3年の長期政権でやりたい放題のワンマン経営をしたかと思うと、何処のメディアにも属さないカメラ・ウーマンが会長職を張る。そして元会長たちを会員資格停止に処すべきバイロウ改悪に意欲的に取り組んでいる。
 
 ナンバーワン新聞で更に驚いたのはあの渡辺女史の老残の顔の超クローズアップ写真とHugのヨイショ提灯記事。たかがインターネットマガジン「ロゼッタストーン」にコラムをもっているだけでレギュラー会員の大物となり、選挙管理委員長をして大奥を取り仕切る。天国のサムもブルースも今のFCCJの荒廃に驚いているだろう。

 昨夜(18日)、FCCJでこの映画の試写会があった。観衆は50人弱で思ったほど多くない。上映後奥田瑛二監督、安藤サクラ、柄本祐の記者会見が予定されていた。しかし会見は9時頃からスタートするし、1度じっくり鑑賞した2時間15分の映画を再度見るのも辛いので、少し疑問に思っていた映画の冒頭部分40分ほどを見てから会場を後にした。残念だが家が遠いので仕方がない。

 主人公の今日子(安藤サクラ)と修一(柄本佑)は共に宮城県南三陸町の出身だが、一度も出会うことなく映画は二人を交互に追ってパラレルで展開する。
南三陸町は2013年3月11日の大震災の津波で全滅した町だ。

 漁師の夫も息子もいる今日子は義理の両親と暮らしている。夫が病に倒れ一家を支えなければならない今日子は保険外交員をしていたが成績は下位を低迷している。上司(カンニング竹山)は身体でとって来いと命じられる。

  カンニングはこう言う押しの強い男の役は上手い。女を売り物にして地元の社長の大口声明保険契約をとった今日子は会社で褒められるが、家族の知るところとなり、家族から白い眼で見られる。誰も働かないから身体を張って稼いでいるのに、息子も義母に奪い取られる。夫も冷たい目で家を追い出され東京に出て来る。渋谷で優しい言葉をかけた男(和田聰明)に誘われデリヘリ嬢に。ここまでの今日子は自分の意思と言うものが無いままに流れに身を任せているようだ。

  同棲したヒモ男の言いなりで心身共に束縛される生活を送るが、311の大地震が」起こる。調理台から振り向いた際に誤って男を包丁で刺し殺してしまう。
この刺殺が如何にも不自然だ。台所で料理をしているところに男が後ろから愛撫をしながら抱きつく。地震で驚き正面を向いて倒れる途端に刺してしまう。もっと他の手を考えられなかったのだろうか?殺してしまった男に何の感情も抱かぬ今日子。死体をどうする積りか?

 修一のケースは更に6年前にさかのぼる。大学受験準備に忙しい修一なのに、父は失業して毎晩酒を飲んで暴力を振るう。八つ当たりは母親に向けられ殺されそうになる母親を助けるため父を重い花瓶で殴り殺してしまう。ぐったりした父親を花瓶で10数回殴りつけるシーンは狂気を感じる。
上述のシーンは何れも2人の回想。映画の冒頭は6年間の少年院の刑期を終えた修一。迎えに出た保護司(平田満)は小さな町工場を経営している。この保護司は実に優しく前科を持つ性根たちの面倒を見ている。工場へ向かう途中で立ち寄るラーメン屋。

 この映画でラーメンを食べるシーンは多いが、少年院を出たばかりの修一は美味しそうのラーメンを啜る表情が良い。そこへ大きな地震。ラーメン屋の主人は腰を抜かす。母を故郷に残して町工場で働く修一を同僚の工員2人が前歴を知って苛める。じっと耐える修一。工員で友だちになったのは音大を受けようとしていたが傷害事件で前がある工員(和音匠)と工場主の娘(小篠恵奈)。この二人が修一の空洞の空いた心を癒してくれる。

 故郷を思い偲びながら帰れない主人公二人が、過去を清算し消化しようと東京で生活する中で突然大地震が発生する。そしてテレビ画面には、掛け替えのない彼らの故郷、宮城県南三陸町が巨大な津波にのみ込まれる様子が映し出す。

 311をテーマにした劇映画は多いが、この映画程辛い個人の心に迫る厳しい人間ドラマは無かった。主人公の心中は如何ばかりか推察も出来ない程だ。
修一の母親、父親から命がけで守った一人暮らしの母親は津波に巻き込まれて行方不明。今日子は避難生活をしている息子に会いに行くが今日子に気付いた義母は孫の顔を今日子と反対側に向けて抱き、声をかけようともしない。

 今日子が避難所から坂道を下って来る所で登って来る修一と出会う。勿論知らぬ同士の二人はただすれ違うだけ。津波で何も無い原っぱになった南三陸町越しの海に太陽が沈もうとしている。奥田監督の得意なシーンだ。余韻を残して映画は終わる。ここから生きる力、将来の希望に向かって歩む気力、再生の明かりがあるのだろうか?

 奥田瑛二のモントリオール世界映画祭グランプリ受賞作『長い散歩』よりも良く出来た感動作。次女の安藤サクラとその夫・柄本佑(柄本明の息子)を主演にシリアスな人間模様を描く。和田聰宏、宮崎美子、平田満ら実力派が共演している。

 10月5日より新宿ピカデリー他で公開される。

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