東京で働くKさんは、瀬戸内海東部の播磨灘に浮かぶ家島諸島の出身だ。その離島での暮らしぶりを「何をするにも不便」と語るが、「ヘビやカメを捕まえて遊んだ」と楽しかった子どもの頃を振り返る。
大小40余りの島から成る家島諸島だが、「最近、外国資本が孤島を買いに来るようだ」と話す。だが、「誰がどんな目的で買うのかはよくわからない」と言う。噂ばかりが独り歩きしているようだ。
日本列島は本土の5島を除けば、その数6847島にのぼる離島で構成されている。小さなものを入れれば、島の数は数万にもなる。そのうち、日本の領海やEEZ(排他的経済水域)の基点となる国境に接する離島は約500島あるが、そんな国境離島にも外国の影が延びる。
2012年夏、長崎県・五島列島で国境離島の無人島が、ネットオークションで売りに出された。五島最大の福江島に属する包丁島、その価格は1500万円だった。関係者によれば、「地権者は高齢を理由にこの島を手放したがっていた」という。ネットでの売り出し直後、この包丁島に中国資本からのアプローチがあった。
福江島には自衛隊基地もあり、まさしく防衛上の要衝である。海の向こうは中国大陸、上海市の南に位置する浙江省寧波には中国人民解放軍海軍の東海艦隊が司令部を置き、その周辺を上海基地、舟山基地、福州基地が固める。仮に中国資本がここを購入したら、後にこの土地はどう利用されるのか。これが五島市の住民にとって、大きな不安材料となったことは察するに余りある。
民と民の取引に
行政は不介入だが
その後、当時の市長が「待った」を掛け、最終的に地権者に売却を思いとどまらせた。2014年7月22日の産経新聞には「みんなで情報を共有して山を守ろうとした」(同市長)と当時の状況が綴られている。この売却話が持ち上がった背景には、当時の野田政権による“尖閣諸島の国有化”の動きもあり、国境離島の所有については誰もが敏感になっていたことが伺える。