高倉健さん死去:評伝 「想い」あふれた人
2014年11月18日
「あなたへ」の公式上映後に大きな拍手を受け、涙を流しながら感謝の意を示す主演の高倉健=モントリオール世界映画祭のメゾヌーブ劇場で2012年9月2日、鈴木隆撮影
「想(おも)い」にあふれた人であった。
「お金で人が集まっても、想いがこもっていないと映画はできないんじゃないですか」
映画を、俳優を、あるいは人生をどう語っても、そこにはいつも「想い」という言葉があった。
健さんとは古くから手紙のやりとりがあったが、ある時、文章論と高倉さんの演技論を併せて書いた拙著に気をとめられ、私が授業のお手伝いをしている早稲田大大学院での聴講を希望された。2012年晩秋、教室に一人でふらりと現れ、受講後、学生の多くがジャーナリスト志望だと知ると、友人であるロバート・デ・ニーロ主演の「ディア・ハンター」が描くベトナム戦争批判に触れてこう続けた。
「国のやった間違いを書かないとジャーナリストはたぶんダメなんだと思いますよ」
印象に残る一言だった。
続けて「ローマの休日」のジャーナリストを話題に、「自分が心に感じたものを大切にして、すごいなあ」と感嘆の口ぶりで語った。王女のことを公にしなかった想いへの共感なのだ。
中国の張芸謀(チャン・イーモウ)監督の作品「単騎、千里を走る。」に出て6年のブランク後、「あなたへ」を撮っているが、この間の自分を語る言葉は単なる回顧ではない。「単騎−−」は高倉健という生き方を決定付ける作品だった。出演者やスタッフから受けた数々の心遣いに触れてこう語っている。
「想いを届けるということがどういうことなのか、中国のロケで教えられました。モノを送ってすます日本とは違って、もう参りましたって感じでした」
大学での言葉をもう少し書き留めておきたい。
「お金はほしいですよ。でもそればっかりでいいのっていう時がいつか来ます。書いたものが誰のボディーを打って誰が泣いてくれたか。そこまで行かないと」
私自身は健さんから想いをいただくばかりだったが、一つだけ喜んでくれたことがある。種田山頭火の「何を求める風の中ゆく」の句だ。「あなたへ」に山頭火の有名な句が何度も出てくるので、こんな句もありますよ、と紹介したのだが、「人間、何を求めて生きたかなんですよね」と感想をいただいた。
健さんが心に刻んでいた比叡山大阿闍梨(あじゃり)、酒井雄哉氏の言葉「行く道は精進にして、忍びて終わり悔いなし」とどこか通じるものがあったのだろうか。(客員編集委員 近藤勝重)