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 107人が死亡したJR宝塚線(福知山線)脱線事故から来年4月で10年。JR西日本は29日、現場保存の最終案を犠牲者の遺族らに提示した。「ほっとした」と賛同する遺族がいる一方で、案に対する疑問の声も上がった。

 電車が衝突した9階建てマンション(兵庫県尼崎市)は4階部分まで階段状に残す。最終案は7月にまとめた案を修正。線路側の壁の一部をガラスにし、運転士がより安全を意識できるようにするなどとした。7月の案にも遺族の過半数から前向きな回答があり、大きな変更はなかった。

 29日午後の説明会には遺族78人が出席した。息子を亡くした兵庫県伊丹市の70代男性は、通勤でほぼ毎日宝塚線に乗り、現場を通る。マンションを見るのはつらく、本心では全部撤去を願うが、「ほったらかしの状態を見ると切ない。どんな形でも早く進めて」。JRの最終案に「きれいになり、お参りに行きやすくなる」と理解を示した。

 不満を示す遺族もいる。次男の昌毅さん(当時18)を亡くした上田弘志さん(60)=神戸市北区=は「公園にしか見えないほどきれいで、悲惨な事故があったとは想像できない。風化の第一歩だ」と批判。マンションを全部保存するよう改めて求めた。賛同する遺族と共に周辺住民から意見を聞き、来春までにJR西に伝えるという。「子どもに報告するため、やれることはすべてやりたい」と話した。

 説明会後に記者会見したJR西の真鍋精志社長によると、遺族からは「マンションと慰霊碑にもう少し一体感がほしい」「単なる公園ではなく、事故が起きた慰霊の場だと明確にして」などの意見が出たという。真鍋社長は「これらを咀嚼(そしゃく)した整備計画を来春に示したい」と述べ、反対する遺族には「もう少し時間があるので、理解していただく努力をしたい」と語った。(千種辰弥、柳谷政人)