【コラム】北朝鮮による奴隷輸出

 2004年4月初め、私がまだ見習いだったころ、取材のためにおよそ1週間、ソウル市内の風俗街を毎日取材した。そのとき出会った数十人の女性たちは、店の経営者が席を外すと、誰もが自らの置かれた悲惨な立場を嘆いた。女性たちは「客の男たちから人間以下の扱いを受け酷使されているのに、自らの手に残る金はほとんどない」と言ってため息をついた。売り上げは食事代、先払いの利子、保護費などさまざまな名目でピンハネされ、手元に残るのはわずかだという。常に経営者の監視を受け、食事も店内で周りの顔色をうかがいながら取り、体調を壊しても休むことさえできず、文字通り「奴隷のような立場」と涙ながらに語る女性もいた。

 ここで10年前の話を紹介した理由は、英国と米国のメディアが北朝鮮から派遣された労働者について報じた記事を見たとき、風俗街の女性たちの置かれていた立場を思い出したからだ。推定で少なくとも16カ国に5万人以上派遣されているという北朝鮮労働者の平均契約期間は3年だ。この期間は休暇などもちろんなく、休みと言えばせいぜい1カ月に2日ほどだ。週7日勤務で労働時間は12-16時間、1日の平均睡眠時間は4時間ほどだという。それでも彼らの手に残るのは、外国人の雇い主から支払われる賃金のわずか10%ほどしかない。「革命資金」「党支援金」などの名目で、給与の70%以上が金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の統治資金としてピンハネされ、残る30%のうち20%も「思想教育のための資料」「万寿台の金正日(キム・ジョンイル)総書記の銅像に備える花代」「現地の大使館など公館の維持費」など、ありとあらゆる名目でやはりピンハネされる。そのため労働者が手にする給与は通常月10万ウォン(約1万700円)ほどで、場合によっては給与を受け取れないこともあるようだ。脱北者たちによると、北朝鮮当局は労働者たちに「給与は家族に送金している」などと言ってだましているという。

 北朝鮮の労働者たちが「現代の奴隷」と呼ばれるもう一つの理由は、作業場や宿舎に国家保衛部の要員が配置され、24時間体制で監視しているからだ。逃亡できないよう、作業現場には鉄条網が張られ、宿舎のドアには外からカギがかけられるケースも多い。昨年ロシアの工事現場作業員の宿舎で一酸化炭素が漏れ出し、北朝鮮の労働者5人が死亡したが、これは宿舎のドアに外からカギがかけられ、労働者たちが外に逃げ出せなかったことが原因だ。それでも北朝鮮では「外に出れば飢え死にすることはない」として、海外派遣を希望するケースが多いという。

 北朝鮮の人権問題を取り扱う市民団体などは、2012年に金正恩第1書記が権力を握って以降、海外で働く北朝鮮労働者の数が一気に2-3倍に増加したものと試算している。北朝鮮の政権が海外に労働者を派遣し、奴隷労働によって手にする現金もおよそ2兆ウォン(約2100億円)に増えたという。北朝鮮の海外派遣労働者の人権問題を扱うINHLは「国連安全保障理事会による制裁が始まって以降、北朝鮮が海外貿易で手にする収入は8分の1にまで減った。そのため労働者を海外に派遣することで得られる賃金が、今では北朝鮮による外貨稼ぎの主な収入源になっている」と指摘している。哨戒艦「天安」沈没事件以降、韓国政府は北朝鮮との経済協力を中断しているが、それでも金正恩政権はぜいたく品の輸入を堂々と増やし続けている。それにはこのような背景があるからだ。

 北朝鮮による現代の奴隷制度を利用し、労働者を雇う国々についても、米国や英国などでは「非難されてしかるべき」とする声が高まっている。これらの国々が北朝鮮に支払う賃金が、結果的に北朝鮮政権を支える統治資金として使われているからだ。売春宿の経営者と何ら違いのない行動を取る金正恩政権に対し、韓国政府も国際社会に向けてより厳しい制裁を訴えていかなければならない。

社会政策部= 郭守根(クァク・スグン)記者
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