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29 Nov 2014 11:03

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山下敦弘監督、乃木坂46主演で驚きの映像表現「超能力研究部の3人」

産経新聞 11月29日(土)15時0分配信

 120年もの映画の歴史の中で、映像の表現方法はもうあらかた出尽くしたかと思っていた。ところが12月6日全国公開の日本映画「超能力研究部の3人」を試写で見てびっくりした。フィクションなのかドキュメンタリーなのか、見ている側も、恐らく演じる側もよくわからない。だけど何かとてつもない力で感情が揺り動かされる。そんな世界がスクリーンに展開されていたのだ。

 手がけたのは、「リンダリンダリンダ」や「天然コケッコー」といった青春もので知られる山下敦弘(のぶひろ)監督(38)で、主役は秋元康プロデュースのアイドルグループ、乃木坂46の秋元真夏(21)、生田絵梨花(17)、橋本奈々未(21)の3人が演じている。まさかそんなコテコテのアイドル映画が映画史に刻まれるような意欲作とは思いも寄らないが、「アイドルの彼女たちで普通に劇映画を作って、ほかの映画と肩を並べるだけの力を持つ作品になるのかなと、ちょっと不安だった。新しい映画を作るといった考えは全然なかったが、自分の中で演出する上での可能性みたいなことは考えていたかもしれませんね」と山下監督は振り返る。

 できあがった映画がどう普通ではないのか。とにかく劇場で驚いてほしいとしか言えないが、ほんのさわりだけ紹介すると、3人の主役で大橋裕之の連作短編漫画「シティライツ」を映画化することになり、その撮影現場を別のクルーが追いかける。彼女たちはメーキングのカメラの前では素顔に戻って、悩みを打ち明けたり涙を見せたりするのだが…。

 「初めに3人に1人ずつ会って、人となりを取材してから撮影に臨んだのですが、最初の印象と実際に撮影しているときとでずれがあったりして、現場で悩んだこともあった。彼女たちから跳ね返ってくるものが魅力的である場合とそうでない場合があって、それはやりながら探っていった感じです」と、自身も山下監督として出演している山下監督は打ち明ける。

 例えば、秋元真夏演じる女子高生が不良の女の子に絡まれる場面がある。怒りのリアクションをもっと引き出そうと、山下監督は不良役にひどい言葉を投げるように指示するが、そのとき、アイドルって何なの、と聞かれて、秋元が「人を笑顔にさせる」と答えたことに、山下監督はハッとさせられたという。

 「台本にあったら、わ、これはないな、と削ってしまうセリフだけど、彼女が言うことで力があるセリフになる。机の上では書けないというか、そういう点ではモキュメンタリーとかおもしろいですね」

 モキュメンタリーとはドキュメンタリー風に演出した表現方法のことで、フェイクドキュメンタリーとも呼ばれる。最近では「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」や「クローバーフィールド/HAKAISHA」などの映画が話題を集めたが、山下監督は20代のころから「不詳の人」「道(子宮で映画を撮る女)」といった短編でこの表現を試みていた。どちらも舟木なる架空の怪優が大暴れして笑いを誘う作品だ。

 今回の映画にもこの人物が出てくるが、「まさか劇場でかかるロードショー作品でああいうことができるなんて、全く考えていなかった。中学高校から遊びでやっている延長で、同級生たちが見たら、あいつらまだこんなことやってるよ、と思うかもしれませんね」と苦笑する。

 大阪芸術大学映像学科の卒業制作作品「どんてん生活」で注目を集め、以後、「ばかのハコ船」「リアリズムの宿」と早くから劇映画の分野でキャリアを積んできた。一方でドキュメンタリーに対する憧れのようなものもあったという。

 「同世代の松江哲明監督のドキュメンタリーとか見て、自分にはできないなと思っていた。結局、劇映画は台本があって、リハーサルがあって、と考えると全部ウソなんです。その分、台本もない、セリフも決まっていない、というお芝居を作っていくことに魅力を感じていたのかもしれませんね。テレビで言えば『電波少年』だったり水曜スペシャルの『川口探検隊』だったり、ああいうものの影響もあったと思います」

 今回は大きな流れでいうと、3人のアイドルが女優になっていくという裏テーマがあった。確かに単なるモキュメンタリーとは異なり、3人が撮影を通じて悩み成長していく姿が映像に刻み込まれていて、ちょっとした感銘を覚える。

 「でも彼女たちを女優に引っ張り上げたというよりは、アイドルとしての彼女たちを僕らの方がどんどん認めていったという方が強い。今までも若い女優さんとやってきたけど、今回は初めての感覚というか、ちょっと異質だったなと思います。いつも映画は作品を作らなきゃという感覚があるが、今回はそれがなかった。アイドルの3人の魅力を生かしてベストを尽くそう、といった感じでした」

 映画のラスト近く、3人が「最後までわけわかんなかったね」と話す場面がある。見る側も実はよくわからないというのが本音のところだが、監督自身、「これが全部わかる、という方がおかしいですよ。自分でもまだよくわかっていないんですから、この映画の何たるかが」と認める。

 「フィクションとドキュメンタリーが混ざったり近づいたりする今回のやり方は、今後も演出する上で何か生かせるかもしれないと思うし、でも行き着いた部分もあるかなとも思う。とにかくこの3人だからこの形になったというのはあって、同じことはできないなと思っています」と感謝の言葉をつぶやいた。(藤井克郎)

最終更新:11月29日(土)15時0分

産経新聞