第1次大戦100年、現代の起点を再考 京大人文研
第1次世界大戦から100年の今年、大戦の意義を総合的に問い直している京都大人文科学研究所(人文研)の共同研究班のメンバーが成果を発信している。欧州中心で、政治・軍事にかたよった史観を超える通説の確立を目指し、政治や美術、思想、文学など幅広い領域の専門家が論文を執筆。メンバーは「第1次を知らずに現代は語ることはできない」と強調する。
人文研では2007年から第1次大戦の共同研究に着手、多彩な分野の研究者が100回を超す討議を重ねてきた。その成果をもとに10年から出版された「レクチャー 第一次大戦を考える」(人文書院)シリーズは10巻を超え、今年は1月に国際ワークショップを開催、論集「現代の起点 第一次世界大戦」(岩波書店、全4巻)も刊行した。このほど開かれたトークイベントで共同研究班に参加したメンバーらが成果を紹介した。
第1次大戦については、日本では青島の戦いやシベリア出兵などの歴史的事実は知られているが、一般的には欧州の戦争というイメージが強い。人文研の山室信一所長(近代法政思想史)は「世界史を出来事の羅列でなく、どういう連関性をもってつながったのか、社会の根底にある変化をみることが重要。人間の精神性まで変わっていったことを考えるべきだ」と指摘。「世界性」「総体性」「持続性」をキーワードに大戦を分析し、航空機やメディアの発達、化学兵器の開発、エネルギー革命などを背景に大戦が世界や国家のあり方だけでなく、「人々の思想や生活も変えた近代から現代への転換点になった」とみる共同研究班の要点を解説した。
藤原辰史准教授(農業史)は「子供が食糧をまかなうためにサクランボの種の中にある油を集めたり、おもちゃにも戦車が取り入れられたりした。女性や子供も戦争に巻き込まれる転機になったのが第1次大戦だ」と話した。小関隆准教授(イギリス・アイルランド近現代史)は「デモクラシーやナショナリズム、テクノロジーの問題など、大戦の中から出てきたものは山ほどある。20世紀という大きなくくりの中で行く末を問い続けていくことが重要」と今後の研究課題を語った。
政治的、経済的に市民が巻き込まれる紛争は今も絶えない。第1次世界大戦を再考することは、その後に引き起こされた戦争や国際社会の問題、さらには将来の世界のあり方を読み解くための出発点になりそうだ。
【 2014年11月28日 18時14分 】