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青森なのに、このクオリティーはすごいと褒められると、めちゃくちゃ腹が立ちます

STAGE

青森だからこそ生まれた、大震災と原子力を出発点にした2つの演劇

インタビュー・テキスト:萩原雄太(2014/11/13)

たとえ高校生でも、批判にさらされる覚悟で表現をするべきですし、観客側も遠慮することはないと思います。

―青森中央高校演劇部の生徒たちは、『F/T14』で『もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら』を上演します。これは、東日本大震災をテーマとした作品で、2012年の『全国高等学校演劇大会』で最優秀賞を受賞。その後も14都府県で52ステージを重ねている名作です。

畑澤:東日本大震災以降、高校演劇の世界でも、たくさんの震災関連の作品が生まれました。私も震災から半年ほどして、演劇で何かをやらなければならないと感じ、『もしイタ』を作ったんです。青森にはイタコやカミサマという文化が根付いており、死者の声を聞くことはそんなに突飛な話ではありません。そんな癒しの文化を持つ私たちにしかできない表現を、東日本大震災に対する「中途半端な距離感」も織り込んで表現しようと考えました。

『もしイタ ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら』メインビジュアル
『もしイタ ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら』メインビジュアル

―中途半端な距離感?

畑澤:東日本大震災における青森って、じつはすごく中途半端な立場で、青森県としてみると被災したエリアもあるのですが、青森市内では大きな被災もなく、停電くらいだったんです。しかし、青森は東北地方という大きなコミュニティーの一員でもあるため、この震災を他人事だったとは口が裂けても言えない。震災の当事者ではないが他人事でもないという微妙な距離があって。

―そうだったんですね。『もしイタ』は、当初から被災地で上演することを考えて創作されたわけですが、これまでの作品とは違う部分もあったのでしょうか?

畑澤:被災地では当然、照明、音響などの設備が整っていないので、シンプルな場所で上演できる作品にしようと思いました。また、体育館などで上演するにあたって、通常の演劇のように1時間しっかりと座って観る状態を観客に強いるのも難しい。その結果、複雑じゃない物語で、おにぎりを食べながらでも観られる作品、そして何よりも圧倒的に元気な作品を作ろうという考えに至ったんです。高校生が元気に演じたほうが、高齢者の方も喜んでくれますしね。

―実際に観客の反応はいかがでしたか?

畑澤:被災地で公演をすると、上演中に号泣する人や、泣きながら高校生の手を握って帰っていくような人も少なくありませんでした。だけど、被災地以外では「これに感動しなければ人間じゃない」みたいな、逆差別的な雰囲気も出てしまっていたような気がします。なぜそう感じたかというと、私たちの作品ではありませんが、被災地の高校生が東京で舞台を上演した際、Twitterでたまたま流れた作品批判めいた内容に対して、「なぜ批判するのか!?」という感情的なツイートがいくつか出てきたんです。もしかすると、被災地から離れた地域にいる日本人には、遠くで起こってしまったことに対する、どうにもできない負い目があるのかもしれません。もちろん私たちの作品を反応して下さるのはとても有難いのですが、そういった恐さを感じることもありました。

―たしかに「東日本大震災」「被災地」「高校生」という記号だけが先行すると、作品に対して何か疑問を感じたとしても、指摘しづらい空気が生まれてしまいます。

畑澤:高校生が震災を扱った演劇をやっているからといって、「批判してはいけない」のなら、それはもはや表現ではありません。もちろん私は部員を守る立場なので、いわれのない批判には対処を考えますが、たとえ高校生でも、批判にさらされることは覚悟して表現するべきですし、観客側も遠慮することはないと思います。


「青森なのに、このクオリティーはすごい!」と褒められるとめちゃくちゃ腹が立ちます(笑)。

―『もしイタ』の上演を通じて、高校生たちは何を感じたのでしょうか?

畑澤:一番悩んだのは部員たちだったと思います。2011年10月頃から『もしイタ』の上演を始めましたが、当時の被災地は瓦礫がそのまま転がっていて、避難所に数百人の方々が暮らしている状態でした。上演を通じて「これが許されるのか」「被災した方々を傷つけるかもしれない」「怒られるのではないか」ということを、部員たちはものすごく考えていました。そして、生半可な覚悟では上演できないということを理解して、顔つきが変わってきたんです。それは彼らだけでなく、僕も同じ。これまでずっと演劇をやって来ましたが、僕自身も演劇をやる意味や覚悟なんて考えたこともありませんでした。

渡辺源四郎商店と高校生の合同稽古の様子 提供:渡辺源四郎商店
渡辺源四郎商店と高校生の合同稽古の様子 提供:渡辺源四郎商店

―被災地での公演は、高校生にとっても貴重な経験で、「表現」としても価値がある上演だと思いますが、「部活動」として行うには難しい部分もあったのではないでしょうか?

畑澤:もちろん、当初は学校もあまり応援してくれなくて、反発も随分ありましたが、被災地に行ってプレッシャーの中に部員たちをさらすことは、教育者としてやってはいけないことだとは思いませんでした。舞台の上では何も隠すことができず、頼れるのは表現するという覚悟だけ。演劇をやるって、そういうことだと思うんです。コンクールの舞台でも緊張しますが、被災地の人々にしっかりと観てもらうことのほうが、プレッシャーは大きいのではないでしょうか。コンクールでミスをしても次の大会に行けなくなるだけです。でも被災地に呼んでもらった公演でミスをするのは、観に来てくれた人たちを裏切ることになってしまいます。

―お話を伺っていると、高校演劇も「表現」であることに変わりがないって、よくわかりますね。

畑澤:18年間やってきた僕の実感として、高校演劇というのは「たまたま15~18歳までのメンバーが集まった」カンパニーなんです。

―普通の劇団と変わらない、と。

畑澤:その年齢の幅を武器に「高校生にしかできないこと」をしなければならないんです。それは、青森という土地性についても同様ですね。「青森なのに、このクオリティーはすごい!」と褒められるとめちゃくちゃ腹が立ちます(笑)。青森にいるからこそできること、高校生だからできること、そんな必然性を担保しなければならないんです。


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