衆院選の報道について、自民党がテレビ局に、〈公平中立〉〈公正〉を求める「お願い」の文書を送った。

 総務相から免許を受けているテレビ局にとって、具体的な番組の作り方にまで注文をつけた政権党からの「お願い」は、圧力になりかねない。報道を萎縮させる危険もある。見過ごすことはできない。

 自民党の萩生田光一・筆頭副幹事長と福井照・報道局長の名前で出された文書は、20日付で在京の民放キー局5社に送られた。NHKは来ているかどうか明らかにしていない。

 文書は、過去に偏った報道があったとしたうえで、出演者の発言回数と時間▽ゲストの選定▽テーマについて特定政党への意見の集中がないように▽街頭インタビューや資料映像の使い方の4点を挙げ、公平中立、公正を期すよう求める。

 選挙の際、報道機関に公正さが求められるのは当然だ。なかでもテレビ局は、ふだんから政治的に公平な番組を作らねばならないと放送法で定められている。日本民間放送連盟の放送基準、各局のルールにも記されている。政権党が改めて「お願い」をする必要はない。

 文書には〈具体名は差し控えますが、あるテレビ局が政権交代実現を画策して偏向報道を行い、それを事実として認めて誇り、大きな社会問題となった事例も現実にあった〉ともある。

 1993年のテレビ朝日の出来事を思い浮かべた放送人が多いだろう。衆院選後の民放連の会合で、報道局長が「反自民の連立政権を成立させる手助けになるような報道をしようという考え方を局内で話した」という趣旨のことを言った問題だ。

 仲間内の場とはいえ、不適切な発言だった。局長は国会で証人喚問され、テレビ朝日が5年に1度更新する放送局免許にも一時、条件がついた。

 ただし、放送内容はテレビ朝日が社外有識者を含めて検証し、「不公平または不公正な報道は行われていない」との報告をまとめ、当時の郵政省も「放送法違反はない」と認めた。文書がこの件を指しているとすれば、〈偏向報道〉は誤りだ。

 放送に携わる者の姿勢が放送局免許にまで影響した例を、多くの人に思い起こさせた威圧効果は大きい。

 選挙になるとテレビ局には与野党から様々な要望が寄せられるという。テレビ局は受け取った要望書などを、公平に公表してほしい。有権者にとっては、そうした政党の振る舞いも参考になる。