豪州:「潜水艦産業を守れ」地元で広がる雇用不安

毎日新聞 2014年11月28日 21時46分(最終更新 11月29日 01時29分)

高い鉄条網に囲まれたオーストラリア潜水艦企業(ASC)の工場=オーストラリア・アデレードで2014年11月12日、平野光芳撮影
高い鉄条網に囲まれたオーストラリア潜水艦企業(ASC)の工場=オーストラリア・アデレードで2014年11月12日、平野光芳撮影

 オーストラリア海軍の次期潜水艦建造を巡り、豪州で世論を二分する議論が起きている。日豪両政府が防衛協力を進める中で、豪政府は海上自衛隊が誇る「そうりゅう」型の導入に関心を示す。だが、最大12隻となるこの計画は、総額数兆円に上る「豪史上最大の防衛プロジェクト」。日豪間の協議がどう進むかは分からないが、豪州では既に「自国の産業や雇用を守れ」との声も上がっている。潜水艦産業が集積するサウスオーストラリア州の州都アデレードでは、市民の不安と期待が交錯していた。【アデレードで平野光芳】

 市中心部から車で30分。海沿いの工業地帯に国営の「オーストラリア潜水艦企業(ASC)」の建物群が並ぶ。

 「侵入者は訴追する」。看板の掛かるフェンスの向こうで、約2500人が働く。今後、順次退役予定のコリンズ型潜水艦を建造し、保守も請け負う豪州防衛産業の一大拠点だ。だが、日本製導入が決まれば「用済み」になりかねない。

 「地元で安定して働ける職場。皆、仕事を失うことを心配している」。ASCに勤務経験がある40代の男性が言った。男性によると、ASCでの手取りは週1000豪ドル(約10万円)ほど。「へき地の鉱山に行けば給料は倍になるが、家族との生活を犠牲にしたくない人は多い。閉鎖されればここはゴーストタウンになってしまう」

 ASCから25キロ離れた場所にはかつて、三菱自動車のアデレード工場があった。2008年に操業を停止し、仕事を失った従業員930人の有力な受け皿が、実はASCだった。

 地元労組のアーロン・カートリッジ書記長は「防衛産業は地元の数少ない製造業で、失えば他のハイテク産業を呼び寄せる力まで失う。地元での建造は譲れない一線だ」と強調する。

 オーストラリアの製造業は先細りする一方だ。順調な経済成長で最低賃金は時給約1700円と日本の約2倍に上がった。このため、賃金の安い東南アジアなどに押されて競争力を喪失。米ゼネラル・モーターズ(GM)やトヨタも相次いで工場撤退を表明し、17年には国内の自動車生産拠点がなくなる。

 次期潜水艦も高い賃金がネックの一つで、自国ですべてを賄うことになれば、費用が余計にかかる。

 そこで、地元関係者が可能性の一つとして望みをかけるのが「日本が設計や技術指導を請け負い、アデレードで建造する」という折衷案だ。雇用や経済効果を維持できるとして「受け入れ可能」との意見が多い。

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