<今週のキーワード>

benefit tourism (ベネフィット・ツーリズム)

<例文>

"Such a strong increase from one year to another has been rarely observed in any major OECD country, and we can clearly speak about a boom of migration to Germany without exaggeration," said Thomas Liebig, administrator at the OECD's migration division.(中略)The data come days ahead of European Parliament elections in which some parties—including the Alternative for Germany, or AfD,—have put so-called benefit tourism and rising housing costs, which some blame on immigration, in the spotlight.(5月22日)

 OECD移民部門のトーマス・リービヒ氏は「OECDの主要加盟国ではこのような年ごとの急激な伸びはまれだ。誇張ではなく、ドイツへの移民ブームが起きていると明確に言える」と話した。(中略)EUでは間もなく欧州議会選が行われ、一部の政党―ドイツの「ドイツのための選択肢(AfD)」など―はいわゆるベネフィット・ツーリズム(労働のためではなく社会保障給付金を得るための移民)や住宅コストの上昇などを選挙戦での争点にしている。一部には住宅コスト高は移民の流入によるものだとの見方もある。

【キーワード解説】

 移民の安価な労働力を最大限活用して経済成長につなげてきた欧米先進諸国。その半面、さまざまな社会問題も派生し、最近の米国では中南米諸国から親を伴わない未成年の不法入国がオバマ政権を悩ませている。

 一方欧州でも欧州連合(EU)の拡大以来、域内からのEU先進国への移民が増える中で、ドイツなどの政府が頭を痛めているのが「benefit tourism=ベネフィット・ツーリズム」現象だ。

 この言葉は1990年代に使われ始めた。特に2004年にチェコ、ハンガリー、ポーランドなど旧ソ連圏の東欧諸国を中心に10カ国がEUに加盟。こうした国々の人々が、EU先進国での雇用機会ではなく、「benefits=社会保障給付」を目的に「移動=tourism」してくる恐れが高まったため、この言葉が定着した。「社会保障」の別の言葉である「welfare」を使い、同じ意味で「welfare tourism」とも呼ばれる。

 特に現在低迷するEU経済にあって、唯一気を吐くドイツでは、この「benefit tourism」対策が課題となっている。

 このところEUとの軋轢が増して離脱論が息を吹返しつつある英国でも7月下旬、キャメロン首相が移民労働者の社会給付の受給期間を11月からは半年から3カ月に半減する方針を発表した。

 実際、EU内への毎年の移民者の数は高水準を保っている。経済開発協力機構(OECD)の調査によると、2012年のドイツの移民者数は39万9000人、英国が28万2600人、スペインが27万5000人となって上位3カ国を占めている。

 このうち、どの程度が社会保障目当ての移民であるかについての統計はないが、こうした移民の労働力が国内総生産(GDP)の底上げに貢献していることは確実だろう。また、米国は103万1000人でやはり多い。これに対し、日本の移民者数は年平均7万人程度で、2013年10月末時点での外国人労働者数は総計で71万8000人にとどまっている。

 少子化による人口減少でGDP成長のためには将来の労働力確保が不可欠の日本。先の「アベノミクス」の成長戦略では明確な移民政策は示されなかったが、政府は「benefit tourism」のような問題の可能性に目配りしながら確固とした移民政策を作る必要がでて来るだろう。

【表現のツボ】

 今週は単複両方の扱いがある単語の復習。例文の「data」は続く動詞「come」が示すように複数扱いとなっている。しかし、辞書には「The data is collected by researchers=そのデータは調査官らによって収集される」などと単数扱いの例も出ている。この使い分けは、公式な文書では複数扱いが多く、くだけた使い方の場合は単数扱いとなる。 

 同様に政府「government」、委員会「committee」、スタッフ「staff」などの集合名詞も単複両方が可能だ。これらの名詞は、文脈の違いで使い分ける。「The government supports the bill=政府は(一体となって)その法案を支持している」と単数だが、「The government are divided over the course of action=政府(関係者の間)で今後の対応に意見が分かれている」などと複数となる。

【その他の表現】

migration:移動

without exaggeration:誇張なしに

blame A on B:AをBのせいにする

<この表現が使われている記事>

「移民、ドイツを目指す」

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竹内猛(たけうち・たけし) フリー・ジャーナリスト兼翻訳業

 1980年より共同通信社の日本語記者として主に経済ニュースを取材。日本のバブル崩壊時に日銀・大蔵省担当を長く担当。米国のジョンズ・ホプキンズ大学高等国際関係大学院(米外交・国際経済学修士取得)を経て、1997年よりダウ・ジョーンズ経済通信で英文記者。東京支局で日本政治・経済のコラムニストを務め、ワシントン支局で国際通貨基金(IMF)などを担当。2004年より東京支局のマクロ経済・政治総括担当副支局長。2010年の退社後、日本翻訳連盟の日本語から英語への1級翻訳士に2011年合格(金融・証券分野)し、2012年に同連盟の翻訳試験の出題・検定委員。ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、国際金融機関の定期出版物などの翻訳と、このコラムの前身である「金融英語」欄を2011年6月より担当。

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