ちょっと前の記事ですが、気になっていながら書きそびれていたものがあるので、月内に取り上げておきます。NTTドコモ(以下ドコモ)が15年3月期の連結営業利益見通しを発表。前年比23%減の6800億円と過去15年で最も低い水準になり、大手通信キャリア3社中でも最低に位置することが確実となったという、確か11月1日(WEBは31日付)の日経新聞の記事です。
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO79175530R01C14A1TJ2000/
昨年同時期に、他社2社に後れをとっていたiPhoneの取り扱いをスタートし一気の巻き返しをはかったハズの同社が、なぜこれほどまでに苦戦をしいられているのか。その理由をこの記事では「電電公社体質」にあると帰結していました。
「電電公社体質」に関して記事中に詳しい説明はなく、要は官僚体質ということをいいたかったのでしょう。その根拠と思しき事象はいくつか取り上げられてはいますが、具体手的な根拠の提示はありませんでした。私が思ったのは、読んだ人はなぜ「電電公社体質」がドコモ苦戦の理由であるのか、何をもって「電電公社体質」と断じているのか、果たして理解できたのだろうかと。そこで、この記事に関する私なりの解釈を一応書いておくことにします。
ドコモは、ソフトバンク・モバイル(以下ソフトバンク)が携帯事業に参入した06年時点で55%の圧倒的な業界シェアをほこっていたものが、現在は45%。トップシェアこそ守ってはいるものの、8年で10ポイントというシェアダウンは、ある意味驚異的なシェアの減らし方であったとも言えるでしょう。この間、ドコモが減らしたシェアを逆にまんま増やしたのがソフトバンクです。その原動力は08年に単独取り扱いをスタートさせたiPhoneでした。ソフトバンクは日本で特に人気が高いiPhoneを協力な武器として、他キャリア、特にドコモからの乗り換え客を続々奪っていったのでした。
ドコモにとって、iPhone取り扱いスタートの遅れは大きな足かせになりました。そして決定的だったのは、11年にソフトバンクから遅れること3年、auもiPhoneの取り扱いをスタートさせドコモだけがiPhone非取り扱い通信キャリアとなってしまったことでした。これ以降、ドコモのスマホユーザーは草刈り場状態となり、一層のシェア減らしへと向かったのです。ドコモがiPhoneの取り扱いを開始したのは、auからさらに遅れること2年の13年秋の事でした。ドコモはなぜ、ソフトバンクから5年、auからも2年の遅れを取ったのか。それは、取り扱いを巡る諸条件で、販売シェア、製品仕様等の面で一向に譲ることのないアップル・コンピュータに対して、どこまでも自社の条件を貫いたからだと言われています。
日経新聞が言う「電電公社体質」は、まずはなによりこれを指し示しているのかなと。iPhone導入をめぐるドコモの姿勢には、自社の姿勢を簡単には曲げない融通のきかない企業体質が見て取れる。これこそが記事にある「環境変化に機敏に対応できない」体質を体現してているという理解で間違いないでしょう。
記事ではiPhone取り扱い開始前のドコモの「ツートップ戦略」にも言及しています。昨年夏、ソフトバンク、auからのiPhoneの攻勢に苦しむドコモが苦肉の策とも言える販売戦略を打ち出します。特定の2機種に絞って価格優遇をするという「ツートップ戦略」。しかしこの戦略、結果的には一層乗り換えを促進しますますドコモは苦しい立場に追い込まれることになったのです。この戦略が失敗した理由は、民間の新聞社系調査機関によるアンケート調査に見ることができます。ツートップ戦略を「悪い」とする人は「良い」とする人を上回っており、その理由として「自分が買いたい機種が安く買えない」と言う意見が多数を占めたのです。
「ツートップ戦略」は、ユーザーのニーズはさて置いて、自社が売りたい機種を「イチオシ」として安くする戦略。日経新聞が言いたいのは、ここにもドコモの自己中心的な企業風土が見えるということかなと。「電電公社体質」はここにも見て取れるということなのでしょう。
記事はさらにiPhone取り扱い開始後の新料金体系を戦略ミスとして取り上げ、追い打ちを掛けます。通話の定額制を軸とした新プランは、スマホの無料通話利用者対策と、ヘビーユーザーの通話料実質引き下げによる他キャリアへの流失防止が目的であったはずが、一層収益環境を悪化させユーザーの流出を招いたと。au、ソフトバンクも同様のプランで追随しましたが、ドコモの戦略上一番の違いは、旧料金プランの新規受け付けを中止したこと。ヘビーユーザーの通話料収入が減る一方で、ライトユーザーはかえって月額通信料が高くなるケースもあり、他社への流出および他社からの乗り換え阻害要因になっていると指摘しています。
これもまたドコモの組織風土に原因があると言う理由で取り上げたのでしょう。つまり、ドコモ・ユーザーの平均月間通話料が約1200円である中で、使い放題とは言え定額2700円への切り替えで収益底上げをはかろうと言うのは、やはり顧客本位ではなく企業本位と言わざるを得ないということ。新聞記事として行き過ぎたドコモ批判を恐れたのか言葉足らずですが、対比として定額制に追随したソフトバンク、auは共に旧プランを残しつつの定額制導入(ソフトバンクは旧プラン受付は期限付きながら、ニーズを勘案して現在延長中)との記載もあり、言いたいことは十分理解できます。
日経新聞がドコモを「電電公社体質」と断言する理由は、マーケティング用語にある送り手本位のプロダクトアウトと受け手本位のマーケットインという考え方がその根拠にあるように思われます。世間一般は、高度成長期終焉以降、プロダクトアウトからマーケットインへと対消費者姿勢を変えてきたのですが、iPhone戦略、ツートップ戦略、通話定額制新プラン、どれをとってみてもドコモの組織風土に厳然として流れるプロダクトアウト臭を感じずにはいられない、すなわち旧態然とした官僚的企業姿勢=「電電公社体質」そのものなのだと。記事としてはこれに加えて、経費は削減どころか増えていると余計な尾ひまで付けて報じられた。それが私なりの解釈です
実はこの記事には、続きがありました。1週間後の日経新聞に、ドコモ佐藤CFOの“言い訳インタビュー”記事が掲載されているのです。「業績は今年が底」「新料金体系は間違っていない」「経費削減は積極的にすすめている」、等々。この記事が掲載された真の経緯は知る由もありませんが、日経新聞がドコモ側から、今時何十年も前の国営前身企業を引き合いに出して「電電公社体質」とは何事かと、なにがしかの抗議を受けたであろうことは想像に難くありません。
埋め合わせ記事の掲載を要求したのか、日経側から申し出たのか、それは分かりませんがタイミング内容共にあまりに不自然な掲載で、ハッキリ言ってカッコ悪いですこの記事。日経新聞の「電電公社体質」という表現が良いか否かは別としても、先に私なりの解釈を書かせていただいたように、ドコモが顧客本位とはおよそ言い難い、官僚的で自己中心姿勢ととられても致し方ないやり方を続けてきたことは厳然たる事実であると思います。
携帯電話利用者の立場から第三者的に見て報道の事実を認めざるを得ない中で、このCFOの“言い訳インタビュー”は企業広報を長く経験した目から見れば、カッコ悪さの極みじゃないかと個人的には思うのです。あくまで、掲載の経緯は分かりませんが。まあそれはどうでもよくて、日本を代表する大企業が社会公器である新聞に書かれた以上、「世間的にそう思われても仕方のない認識があるのだ」と素直に認め、ならば経営姿勢や対顧客態度で改善を示して行こうじゃないか、記事を自社に対する叱咤激励として受け止めるぐらい鷹揚な姿勢が欲しいものです。こういう埋め合わせ記事が出ることそのものが、いまだ「電電公社体質」は認めざるを得ない事実ですと言っているような気がして、実に残念です。
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- 2014年11月28日 13:42
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