民主的な選挙を求める抗議活動が続く香港。
今月(11月)15日、市民メディアが主催して民主化や社会の進歩に貢献したジャーナリストを表彰する式典が行われました。
「最優秀時事漫画賞の受賞者は、変態唐辛子さんです。」
「変態唐辛子」のペンネームで活動する風刺漫画家の王立銘さん。
風刺漫画家 王立銘さん
「香港の皆さん、こんにちは。
このたび最優秀時事漫画賞を受賞でき、大変光栄です。」
中国社会の矛盾を痛烈に皮肉る王さんの漫画は、大きな反響を呼んでいます。
王さんは、自宅のある北京を離れて、今、日本に滞在しています。
もともと広告デザイナーだった王さんが風刺漫画を描くようになったのは5年前。
中国の社会をどうしたらもっとよくできるか。
そんな思いを漫画に託して、比較的自由に表現ができる中国版ツイッター「ウェイボー」などで発表したのがきっかけでした。
北京の大気汚染がテーマのこの作品。
ガスマスクを付けた男性とデートする女性は、スモッグに隠れて姿が見えません。
“今日買ったスカートなんだけど、すてきな色でしょ?”
そんな北京にも、APEC=アジア太平洋経済協力会議の開催期間は青空が広がりました。
海外の要人を迎えるクモの姿の習近平主席が、10本の脚で大気汚染の元になる工場の操業を止めたり車の通行を制限したりしています。
共産党のメンツをかけた国際会議のために、市民生活に多大な犠牲を強いている、というわけです。
ユーモアを交えながら社会について考えさせる王さんの風刺漫画は大きな人気を呼び、中国国内でのフォロワー数は一時90万人にも上りました。
風刺漫画家 王立銘さん
「紋切り型の怒りをぶつけるのではなくあざ笑うことで、君子面している政府のイメージを切り崩していく。
これが風刺漫画の力なんです。」
習近平指導部は「社会秩序を守らなければならない」として、去年(2013年)の夏以降、「ウェイボー」上で大きな影響力をもつ「オピニオンリーダー」たちを相次いで拘束したり、アカウントを閉鎖したりして、インターネット上の言論への締めつけを強めています。
ろう獄に入れられ鎖につながれたパソコン。
「中国ではネット上の言論活動は自由ではない」という風刺です。
政府の取り締まりを避けるために直接的な批判は避け、風刺という手段で表現してきた王さんも例外でありません。
警察からの呼び出しを受けるようになり、日本を旅行中だった今年7月末、ついに、王さんの「ウェイボー」のアカウントが突如閉鎖されました。
さらに共産党機関紙のサイトが、王さんが戦後日本の平和主義などをネット上でたたえたことを「売国奴」と激しく罵倒。
記事は中国各地の新聞に一斉に転載されました。
風刺漫画家 王立銘さん
「『関係部門は法によって調査したうえで処分すべきだ』と書いてあります。
このくだりを見たとき、かなり重大な事態に巻き込まれたと感じました。
表現がここまで来ると、帰国すれば逮捕されるだろうと思いました。」
帰国後の身の安全を心配した支援者の協力で、妻とともに、日本にとどまれることになった王さん。
定収入はなく、貯金を取り崩して生活しています。
風刺漫画家 王立銘さん
「非常に複雑な心境です。
妻と話し合ったとき、私は泣いてしまいました。
私は祖国に捨てられた人間だとの思いが頭にわいてきたんです。
私は帰りたくないのではなく、帰れないのです。
今も中国の警察が夜中にドアをたたき、逮捕しに来る悪夢にうなされます。」
不安を感じずに、自由に漫画を描きたい。
それだけが今の王さんの望みです。
王さんは日本に滞在している間にジャンルが豊富な日本の漫画を研究して、表現の幅を広げたいと考えています。
「好奇心旺盛ですね。」
風刺漫画家 王立銘さん
「宝物の詰まった倉庫に来たみたいです。
私に最も影響を与えた漫画です。
小さいころに『鉄腕アトム』を読んでいました。
まだ日中の関係がよかった時期です。」
王さんが描いた、日中関係をテーマにした作品です。
領土や歴史問題で互いのナショナリズムをあおる日中両国をパンダと侍に託しています。
火遊びをしているうちにお互いの体に火がつき、最後のコマは「解決できない問題は次の世代に持ち越そう」というセリフで締めくくっています。
風刺漫画家 王立銘さん
「私の漫画に中国を変えるほどのエネルギーがあるとは思いません。
それでも一部の人の物の見方を変えられる可能性はあります。
そうした影響を及ぼせることが、漫画を描く達成感ですね。」