国際報道2014

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[BS1]月曜〜金曜 午後10時00分〜10時50分

特集

2014年11月26日(水)

“帰国できない” 風刺漫画家 中国で強まる言論統制

習近平指導部のもと、言論や思想の統制が強まっている中国。辛口の作風で人気を集めてきた中国人の風刺漫画家が帰国できないと訴えている。王立銘さんだ。日本に滞在していた今年8月、マンガを発表していた中国版ツイッターのアカウントが突然閉鎖され、中国共産党の機関紙のサイトが王さんを激しく罵倒する記事を掲載した。中国では、反体制的な活動家だけでなく、理性的なやり方で社会の変革を訴えてきた知識人も公安当局に拘束される事態が相次いでいて、王さんも帰国すれば拘束されると考えている。強まる言論や思想の統制の実態、習近平指導部のねらいなどを、中国の現場で取材を続けてきた記者の解説とともに伝える。
出演:小田真(国際部記者)

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有馬
「特集です。
今日(26日)クローズアップするのは、中国の風刺漫画家。
混乱が続く香港は、こんなふうに描いています。
抗議のシンボル、黄色い傘を持つ学生たち、共産党のスローガンが書かれた甲羅に閉じこもる習近平国家主席。
学生たちの訴えに向き合っていない様を描いています。」

佐野
「作者は中国の漫画家、王立銘(おう・りつめい)さん。
中国社会の矛盾を題材に、庶民の視点から痛烈な皮肉を込めた漫画を発表しています。
言論への締めつけが強まる中、王さんは、今年(2014年)8月に生活の場を北京から日本に移しました。
王さんの目に今の中国はどう映っているのか。
密着取材しました。」

祖国・中国を描く 反骨の風刺漫画家

民主的な選挙を求める抗議活動が続く香港。
今月(11月)15日、市民メディアが主催して民主化や社会の進歩に貢献したジャーナリストを表彰する式典が行われました。

「最優秀時事漫画賞の受賞者は、変態唐辛子さんです。」



「変態唐辛子」のペンネームで活動する風刺漫画家の王立銘さん。

風刺漫画家 王立銘さん
「香港の皆さん、こんにちは。
このたび最優秀時事漫画賞を受賞でき、大変光栄です。」

中国社会の矛盾を痛烈に皮肉る王さんの漫画は、大きな反響を呼んでいます。
王さんは、自宅のある北京を離れて、今、日本に滞在しています。
もともと広告デザイナーだった王さんが風刺漫画を描くようになったのは5年前。
中国の社会をどうしたらもっとよくできるか。
そんな思いを漫画に託して、比較的自由に表現ができる中国版ツイッター「ウェイボー」などで発表したのがきっかけでした。

北京の大気汚染がテーマのこの作品。
ガスマスクを付けた男性とデートする女性は、スモッグに隠れて姿が見えません。

“今日買ったスカートなんだけど、すてきな色でしょ?”



そんな北京にも、APEC=アジア太平洋経済協力会議の開催期間は青空が広がりました。
海外の要人を迎えるクモの姿の習近平主席が、10本の脚で大気汚染の元になる工場の操業を止めたり車の通行を制限したりしています。
共産党のメンツをかけた国際会議のために、市民生活に多大な犠牲を強いている、というわけです。
ユーモアを交えながら社会について考えさせる王さんの風刺漫画は大きな人気を呼び、中国国内でのフォロワー数は一時90万人にも上りました。

風刺漫画家 王立銘さん
「紋切り型の怒りをぶつけるのではなくあざ笑うことで、君子面している政府のイメージを切り崩していく。
これが風刺漫画の力なんです。」

習近平指導部は「社会秩序を守らなければならない」として、去年(2013年)の夏以降、「ウェイボー」上で大きな影響力をもつ「オピニオンリーダー」たちを相次いで拘束したり、アカウントを閉鎖したりして、インターネット上の言論への締めつけを強めています。

ろう獄に入れられ鎖につながれたパソコン。
「中国ではネット上の言論活動は自由ではない」という風刺です。
政府の取り締まりを避けるために直接的な批判は避け、風刺という手段で表現してきた王さんも例外でありません。
警察からの呼び出しを受けるようになり、日本を旅行中だった今年7月末、ついに、王さんの「ウェイボー」のアカウントが突如閉鎖されました。


さらに共産党機関紙のサイトが、王さんが戦後日本の平和主義などをネット上でたたえたことを「売国奴」と激しく罵倒。
記事は中国各地の新聞に一斉に転載されました。

風刺漫画家 王立銘さん
「『関係部門は法によって調査したうえで処分すべきだ』と書いてあります。
このくだりを見たとき、かなり重大な事態に巻き込まれたと感じました。
表現がここまで来ると、帰国すれば逮捕されるだろうと思いました。」

帰国後の身の安全を心配した支援者の協力で、妻とともに、日本にとどまれることになった王さん。
定収入はなく、貯金を取り崩して生活しています。

風刺漫画家 王立銘さん
「非常に複雑な心境です。
妻と話し合ったとき、私は泣いてしまいました。
私は祖国に捨てられた人間だとの思いが頭にわいてきたんです。
私は帰りたくないのではなく、帰れないのです。
今も中国の警察が夜中にドアをたたき、逮捕しに来る悪夢にうなされます。」


不安を感じずに、自由に漫画を描きたい。
それだけが今の王さんの望みです。
王さんは日本に滞在している間にジャンルが豊富な日本の漫画を研究して、表現の幅を広げたいと考えています。

「好奇心旺盛ですね。」

風刺漫画家 王立銘さん
「宝物の詰まった倉庫に来たみたいです。
私に最も影響を与えた漫画です。
小さいころに『鉄腕アトム』を読んでいました。
まだ日中の関係がよかった時期です。」

王さんが描いた、日中関係をテーマにした作品です。
領土や歴史問題で互いのナショナリズムをあおる日中両国をパンダと侍に託しています。
火遊びをしているうちにお互いの体に火がつき、最後のコマは「解決できない問題は次の世代に持ち越そう」というセリフで締めくくっています。

風刺漫画家 王立銘さん
「私の漫画に中国を変えるほどのエネルギーがあるとは思いません。
それでも一部の人の物の見方を変えられる可能性はあります。
そうした影響を及ぼせることが、漫画を描く達成感ですね。」


言論統制 強める中国

有馬
「取材した国際部の小田記者です。
この夏まで北京の特派員ですよね。
それにしても、風刺漫画家まで取り締まるという言論統制の厳しさ、ずいぶん厳しいんですね?」

小田記者
「そうなんですよね。
特に今年に入ってから厳しさが増してるという印象を受けます。
例えば、我々、海外メディアに対してなんですけども、取材現場で警察の妨害を受けたりとか、一時的に拘束されるといったケースが非常に増えてるわけです。

これは今年1月に人権活動家の裁判の様子をリポートしようとしたときなんですが、強引に排除されたわけです。
こういうとき、当局は決まって『ボトムラインを守れ』という言葉を言うんですね。」

有馬
「『ボトムライン』?」

小田記者
「そうなんです。
『中国政府がこれ以上は取材をさせないという一線』で、ある種の警告なんですね。
この『ボトムライン』というのが、習近平指導部になってから相当上がってるというような印象を受けます。」

佐野
「外国のメディアに対してもそうですと、現地の中国の人たちに対してはもっと締め付けが厳しくなっているんでしょうか?」

小田記者
「当然そうですね。
王さんもそうなんですけども、これまでは『ボトムライン』に引っかからなかったような人たちにも締めつけ、弾圧の対象が広がっているということが言えると思います。

こちらなんですけれども、今年に入って中国国内で逮捕、あるいは投獄された主な人たちなんです。
まずは、人権派弁護士の浦志強(ほ・しきょう)さんですね。
この方は天安門事件の25周年を記念する私的な集会に参加したあと、逮捕されました。
そして、ウイグル人の学者のイリハム・トフティさん。
中国政府の民族政策を批判してきたわけですけれども、国家の分裂を図った罪で先週、無期懲役という重い判決を受けました。
それから、ジャーナリストの高瑜(こう・ゆ)さん。
この方は海外メディアを通じて言論の自由といったことを訴えてきた方なんですが、国家機密を漏らした罪で裁判にかけられているんですね。
3人とも非常に理性的な方法で社会の改革を訴えてきた人たちですので、中国の知識人の間では非常に大きな衝撃が広がっているんですね。」

有馬
「なぜそこまでっていう話なんですが、どうして今、習近平指導部は言論統制を強めなければいけないんですか?」

小田記者
「ひと言で言いますと、自分たちの一党独裁の正当性が揺らぐことへのおびえというのがあると思います。
ほとんどの人たちが所得格差、それから腐敗のまん延といったことに対して漠然とした不満を感じている程度なんですけれども、根源的な問題は共産党の独裁体制そのものにあるんじゃないかという考えもじわじわと広がっているんですね。
こうした中で習近平主席は、欧米の民主とか自由といった価値観が国内に浸透することに対して、非常に今、危機感を抱いています。
この危機感というのが、政府に批判的な人たちに対しての弾圧につながっているんじゃないかと思います。
こうした姿勢なんですけれども、中国国内では、かつての毛沢東の強権政治をほうふつさせるという指摘もありまして、中国の民主化を求める人たちの間では、ある種絶望感というのが広がっているのが現状です。」

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