宗教、洗脳、自己啓発セミナー、悪徳商法……身近に潜むニッポンのカルトな風景に「やや日刊カルト新聞」の藤倉善郎がゆる~く切り込む!
世界基督教統一神霊協会(統一教会)といえば、壺や印鑑を高額で売りつける「霊感商法」で有名ですが、一方で反共産主義活動を展開して日本の保守系人脈とも交流が強いことで知られています。ところが韓国の教団本体は、関連企業を使って北朝鮮で商売をしたり、日本人信者たちが韓国で「(日本の)従軍慰安婦問題」について謝罪してみせるパフォーマンスをするなど、日本での政治的スタンスとは逆のことをしていたりします。そんな統一教会の関連団体が、3月7日に靖国神社で「戦没者と東日本大震災犠牲者」の慰霊祭を行うと聞き、行ってみました。
■反日カルトが靖国で?
統一教会は1960年代から、勝共連合という関連団体を使って反共運動を展開してきました。その関係から、日本の保守系人脈とも関係が深く、かつて安倍晋三首相などが統一教会の合同結婚式に祝辞を送ったことなど、自民党議員の関係もしばしば指摘されます。
一方で統一教会は、共産主義国家である北朝鮮で関連会社による観光事業や自動車の製造販売を展開しています。また2012年に韓国で、従軍慰安婦問題について「日本人たちが謝罪する」というイベントが行われているのですが、そこで「日本人代表」として謝罪した日本人参加者たちは合同結婚式で韓国人と結婚した日本人妻信者だと韓国メディアから指摘されています。
共産国で商売をし、韓国で反日活動に関わったとされる宗教が靖国神社で慰霊祭をするというのですから、まるで悪い冗談みたいな話です。
東日本大震災についても同様です。震災から半年ほどたった頃、統一教会では信徒組織の代表者(当時)が東日本大震災について、「このくらいしたら日本が本当に悔い改めるはず」「このくらいすれば真の御父母様(教祖・文鮮明夫妻)の入国もさせる」という意図で起こしたものだと講演していました。震災を、自分たちの宗教的な正統性を主張するネタにしているわけです。
また統一教会は、地震発生の数日後には、信者の全家庭に対して1世帯40万円の献金を指示しました。当時まだ存命中だった教祖・文鮮明は、被災地に義捐金1億4000万円を寄付したとされていますが、40万円で割ると350万世帯分です。統一教会でははるかに多くの日本人信者が合同結婚式で結婚していることになっているので、被災地に送ったカネより多くのカネが集まっていそうなのですが。
■「左翼じゃない」認定もらいました
3月7日に靖国神社で慰霊祭を行ったのは、宗教新聞社と平和大使協議会という2つの統一教会関連団体です。慰霊祭のタイトルは「戦没者並びに東日本大震災犠牲者の追悼慰霊祭」で、今年で2回目。
共産国にすり寄り、韓国での反日活動に関わり、東日本大震災に際して被災者を愚弄した統一教会の関連団体が、靖国神社で戦没者と震災犠牲者の慰霊祭を行う。取材に行くまでもなく無茶なイベントです。
前日に事務局に「取材で入りたい」と電話したところ「会場がもういっぱいなのでお断り」と言われてしまいました。当日、受付でも、一旦は入場を断られたのですが、受付の前で慰霊祭参列者とおしゃべりをしていたら、主催者からこう言われました。
「あ、この人は入ってもらって大丈夫ですよ。左翼じゃないですから。いま下(会場の1階)に左翼がうろついていますが、この人は違います」
「昨日お電話くださった藤倉さんですか? 断ってすいませんでした。左翼の方が中に入ろうとしていたので警戒していたんです」
なんだかよくわかりませんが、私が左翼ではないことは確か(だと思う)なので、ありがたく慰霊祭を取材させていただくことにしました。
■神道・仏教・キリスト教が揃い踏み
出席者は主催者発表で約100人。司会は宗教新聞代表・前田外治氏です。まずは国歌斉唱。左翼ではない私は、日本国民として日の丸に礼をして君が代を歌いました。
続いて、靖国神社の元宮司・湯沢貞氏が「宗教新聞の立場から」と称して挨拶に立ちました。
「(靖国神社には戦犯が祀られていると言われているが)日本の法律上、“戦犯”というものはありません。日本の政治家の中にも“戦犯”という言葉を使う人がいるが、もっと勉強してほしい。石原慎太郎氏が国会で安倍晋三首相に対して、“靖国に行かなくていいから、陛下に行っていただくように進言を”と言っていた。両陛下に揃って(靖国に)参拝してほしい」
その後、神道、仏教、キリスト教の聖職者が順番に出てきて、慰霊の儀式を執り行いました。
会場では式次第も配られず、慰霊を執り行う宗教者たちの所属・氏名が書かれたものも配られませんでした。慰霊の際に司会が所属や氏名を読み上げたのですが、取材後、筆者は主催者から「個人攻撃を受けるから、個人名や所属宗派などは記事にしないでほしい」と言われました。批判を浴びるであろう自覚はあるようです。
今回の慰霊祭、参列は事前申し込み制で、事前に申し込んで断られた人もいました。一般には公開しない仲間内イベントのようなので、私としても宗教者の個人名を晒すまでのことはないかなと思うのですが、宗派等の所属団体くらいは公にしておくべきだろうと思います。少なくとも会場では所属宗派も読み上げられた上で慰霊を執り行っているわけですから、単なる個人活動ではなく、宗派の看板が統一教会系イベントに並んだともいえるからです。
【神道】
にっぽん文明研究所3名
茨城県と長野県の神社の神職3名
【仏教】
法華宗真門流1名
真言宗智山派1名
浄土宗1名
【キリスト教】
カトリック1名
日本基督教団1名
?1名
統一教会を名乗る宗教者はいませんでしたが、カトリックを名乗るキリスト者は、統一教会のネット放送でキリスト教講座を担当していた人物でもあります。
■祈りの言葉で「中国ガー」「北朝鮮ガー」
慰霊を行った宗教者のうち、キリスト教による祈りが最も扇情的でした。
「全能の父なる御神、慈愛に満ち溢れたもう天のお父様。私たちはここに、先の大戦で戦火に倒れた方々の鎮魂と、東日本大震災で亡くなられた方々の慰霊のために集まりました。これらの方々は、間違いなく日本のために犠牲になられた方々だと思います。先の大戦で亡くなられた方々は、新生日本の布石となられ、その犠牲において戦後日本の67年に及ぶ平和が作られました。感謝いたします。言葉では言い尽くしえぬ感謝です。しかし、その尊い犠牲によってもたらされた平和も、軍事大国の道をまっしぐらに進む中国や核武装を急ぐ北朝鮮、領土的野心を捨てないロシアなどの動きによって、日に日に危ういものとなっています。67年の栄誉栄華に酔いしれた日本には、公徳心を失い、国を守る気概も覚悟も持たない、愚かな民となり、滅びの時をただただ指を咥えて見ている、情けない姿を呈するようになりました。おお神よ、この国を救い給えと祈らざるをえない状況でありました。このような危機的な状況の中で、あなたは日本に覚醒の一撃を与えました。さる3月11日に起こった東日本大震災は、そのようなものであったと信じます……」
靖国神社で日の丸を前にして日本人の公徳心を語り、「中国ガー」「北朝鮮ガー」と神に祈る、憂国のクリスチャン。カッコイイですね。
それにしても、統一教会系イベントにこうやって参加して宗教儀式までやってしまった各宗教者たち、大丈夫なんでしょうか。統一教会が反日カルトだということ以前に、霊感商法や偽装勧誘、多額の献金等で社会問題化している宗教団体なんですが。
●ふじくら・よしろう
1974年生まれ。東京出身。0型の乙女座。宗教やスピリチュアル団体をめぐる「カルト問題」を取材するフリーライター。ニュースサイト「やや日刊カルト新聞(http://dailycult.blogspot.jp/)」主筆。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)。