ICT(情報通信技術)で地域や経済による学びの格差をなくす。障害児が学びやすい環境をつくる。各地で奮闘する人々がいる。

■授乳しながら学び直し

 教えるのがうまい先生の授業を動画に収録し、「最高の授業を世界の果てまで」届ける。日本の教育支援NPO「e―Education」は2010年、バングラデシュでそんな試みを始めた。日本の予備校の動画講義をモデルに、これまで10カ国で貧困層に映像授業を実施してきた。

 早稲田大学5年の佐藤建明さん(24)は12年から、フィリピンのミンダナオ島とカミギン島を担当する。イスラム勢力と政府軍の紛争が40年以上続いた余波で、貧困層が多い地域だ。

 「この数式の法則を学びます」

 日曜の朝、ミンダナオ島北部カガヤン・デ・オロのマカバラン高校。1歳の娘に授乳しながらマリー・クレスティル・フリオさん(18)が数学の動画を視聴していた。約10分の映像が終わると、今度は問題を解く時間が続いた。

 比政府が高校中退者向けに開く「オープン・ハイスクール」の一幕だ。

 マリーさんは昨年、長女を出産後に高校を中退。やがて娘の父親は姿を消した。平日は娘と末弟(1)の育児に追われ、学校には通えない。でも、小学校時代は算数が学年トップだった。「動画のおかげで、数学がもっと分かるようになった。大学を出て、将来は会計士になりたい」

 最前列でノートを取っていたのは、ナカラバン・エルビラさん(45)。学校近くのどぶ川沿いの掘っ立て小屋で豚を飼い、パートナー、長女(25)、高校生の三女(16)、0~7歳の孫4人と暮らす。朝5時に起床、夕方まで医療施設で働き、夕食後に裸電球の下で教科書を開く。以前、高校を出ていないばかりにクウェートでの出稼ぎ話が消え、悔しい思いをした。「動画は、分からないところを何度も再生できるのがいい。高卒資格を得て助産師をめざす」と語る。

 これまでオープン・ハイスクールの授業は、図解が少ない上に英語で書かれた教科書が使われ、貧困層の生徒には難解だった。そこで佐藤さんは、現地語を交え、解答プロセスを詳述する動画による授業を島の地元教育局に提案した。「学生に何ができる」と半信半疑だった当局者も、中古パソコン約30台を日本から取り寄せた行動力を買い、教師約100人が収録や編集に協力した。現在、両島の24校で、数学と物理の動画を提供している。

 一方、e―Educationが首都マニラ近郊の貧困地域で開いた映像授業の教室からは、フィリピン工芸大学の合格者が輩出している。

 国連開発計画(UNDP)の人間開発報告書によると、フィリピンでは人口の28%しか大学に進学しない。フィリピン大学のフェルディナンド・ピタガン教授(43)は「動画の授業は貧困層が高卒資格を得て、高等教育に進む道を開いている」と評価する。

 だが、課題も尽きない。ミンダナオの事業は企業の支援を受けているが、資金確保は難題だ。目標は、日本政府の途上国援助(ODA)を得ること。佐藤さんは「すべての人が教育にアクセスできるよう、現地の自主性を重んじた公的事業にしていきたい」と話す。