秘密保護法:「福島再び」広がる懸念 来月10日施行
毎日新聞 2014年11月28日 10時51分(最終更新 11月28日 10時58分)
1枚の地図に驚き、怒りを覚えた。東京電力福島第1原発事故から2週間後の2011年3月25日、福島県の南相馬市役所内で政府高官から見せられた。桜井勝延市長は「見たこともないものだった」と振り返る。
第1原発周辺の放射線量を測った汚染地図だった。浪江町や飯舘村の30キロ圏外でも、線量が高いことを桜井氏は初めて知る。南相馬市の一部は30キロ圏にかかり、住民が多数圏外へ自主避難していた。何も知らされず、より線量の高い地域へ逃げた住民もいた。「住民に必要な情報をきちんと伝えるべきだ」と、高官にいらだちをぶつけた。
東日本大震災と原発事故は、日本にとって一種の「有事」だった。実際、現地に自衛隊が派遣され、米軍も艦船約20隻、航空機約160機、兵員2万人以上を投じる「トモダチ作戦」で協力。多数の被災者が救われた。しかしその際、放射性物質飛散を予測するシステム(SPEEDI)による試算結果を、政府は米軍には原発事故から3日後の3月14日に提供。国民への公表は12日後の23日と遅く、住民の無用な被ばくを招いたとして批判を浴びた。
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衆院選の投開票4日前の来月10日に、特定秘密保護法が施行される。特定秘密になりうるのは、防衛▽外交▽スパイ防止▽テロ防止−−の4分野で、漏えいには最高で懲役10年を科す。
過去、同法制定を公約に掲げた政党は、自民党を含めて一つもなかった。種をまいたのは第1次安倍内閣だ。有事に備え07年、米国と安全保障情報を共有する協定を結び、秘密保護法制整備が事実上の対米公約となった。その後、福田、麻生内閣で検討を進め、途中で民主党に政権交代。野田内閣は法案を準備したが、提出には至らなかった。2年前に返り咲いた第2次安倍内閣が自ら刈り取る形で昨年10月、法案を国会に出した。
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続く法案審議で、原発と特定秘密の関係を巡り論戦があった。当時の森雅子・特定秘密保護法担当相らは「原発事故の情報は特定秘密にはならない」と強調した。ただ、原発はテロの標的となる恐れがあり、その場合、住民の安全にかかわる情報が特定秘密となる可能性は否定できない。