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なぜ銭湯のおけは「ケロリン」なのか?
編集委員 小林明

(1/3ページ)
2014/11/28 6:00
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 全国どこの銭湯に行ってもよく見かけるのが「ケロリン」という文字が印刷された黄色いプラスチック製のおけ。「何とも懐かしい」「昔からよく使っていた」などと愛着を抱く読者の皆さんも多いに違いない。

 ところでこの「ケロリンおけ」。いつから、どのような理由で全国の銭湯に出回るようになったのかご存じだろうか?

 興味を持って取材してみると、背後に意外なアイデア商法やユニークなビジネスモデルが隠れていることが分かってきた。今回はそんな「ケロリンおけ」の謎に迫ってみよう。

■「木→プラ」「置き薬→薬局」 思惑が一致

 取材に訪れたのは内外薬品(富山市)の東京支社。

 「『ケロリンおけ』が誕生したのは1963年。それ以来、年約5万個のペースで生産し続け、累計で約250万個が全国の銭湯や旅館、ホテル、レジャー施設などで使われていると考えられています」。取締役で東京支社長の笹山敬輔さんが事情を説明してくれた。

 1963年といえば、ちょうど翌年に東京五輪開催を控えた高度経済成長期のさなか。全国の銭湯では衛生面や耐久性の問題からそれまで使っていた木おけをプラスチック製のおけに切り替える時期にさしかかっていた。

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 「そのプラスチックのおけに文字を印刷して広告にしてみたらどうだろうか?」――。広告会社、睦和商事(東京・江戸川)の山浦和明社長がこうひらめいたのがきっかけだったという。山浦社長は日本海沿いの酒造、製薬、化粧品会社などを中心にスポンサー探しの旅を続け、最後に富山県の内外薬品にたどり着いた。

 内外薬品の主力製品は「ケロリン」。鎮痛効果がある「アスピリン」と胃の粘膜を守る「桂皮(けいひ)」を配合した鎮痛薬(効き目が早く、「飲めば痛みがケロリと治る」ことから「ケロリン」と命名)。もともとは富山の薬売りが全国を回る「置き薬」として販売されていたが、この時期、内外薬品は急増していた薬局への販路拡大を目指していた。

 「薬は味見ができない。商品名の知名度を上げるのが効果的。銭湯のおけを広告媒体にするアイデアは面白い!」。当時、内外薬品の副社長だった笹山忠松さん(笹山敬輔・現東京支社長の祖父)が山浦社長と意気投合し、両社の思惑が一致したのだ。

 全国各地の銭湯に営業をかけるため十数台の自動車でキャラバン隊を組み、宣伝を兼ねながら行脚を続けたという。山浦社長や内外薬品の懸命の努力が実り、「ケロリンおけ」は徐々に全国の銭湯に普及していった。

 ちなみに内外薬品は1958年にCMソング「青空晴れた空」(サトウハチロー作詞、服部良一作曲)を制作。さらに後楽園球場のゴミ箱や東京タワーの入場券の裏側にも「ケロリン広告」を展開するなど多角的な広告戦略に力を入れていた。

 「ケロリンおけ」もこうしたユニーク広告の1つだったのだ。

■初期は白色、関西版は小ぶり……のワケ

初期の白色の「ケロリンおけ」。希少性が高い“お宝グッズ”。「湯アカが目立つ」ために後に黄色に変更した
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初期の白色の「ケロリンおけ」。希少性が高い“お宝グッズ”。「湯アカが目立つ」ために後に黄色に変更した

左が関東版、右が関西版。関西版が一回り小さい。持ちやすさや節約が理由とか。背景には関東と関西の風呂文化の違いもある
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左が関東版、右が関西版。関西版が一回り小さい。持ちやすさや節約が理由とか。背景には関東と関西の風呂文化の違いもある


 ここで「ケロリンおけ」の豆知識を紹介しよう――。

 「ケロリンおけ」は最初に東京駅八重洲口にあった「東京温泉」に導入されたが、初期は白色の「ケロリンおけ」だったそうだ。だが「おけに付いた湯あかが目立つ」という理由から、汚れが目立ちにくい黄色のおけに切り替わった。そのため、今でも現存する白い「ケロリンおけ」には希少性があり、マニアの間でプレミア価格で取引されているとか。

 豆知識をもう一つ。

 関西地区に出回っている「ケロリンおけ」はサイズが小ぶりだということをご存じだろうか? 実は「関東版」と呼ばれる通常のサイズは直径22.5センチ、高さ11.5センチ(重さ360グラム)なのに対し、「関西版」のサイズは直径21センチ、高さ10センチ(重さ260グラム)と一回り小さい。関西では最初に湯船からおけでお湯をくみ上げ、掛け湯をする習慣がある。だから、「客が持ちやすいように軽くした」とも、「掛け湯の量をできるだけ節約するように小さくした」ともいわれている。

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