事故の時に命を守るはずの装置が、命を奪う凶器になるのでは、安全・安心への備えが根底からくつがえってしまう。

 エアバッグで世界第2位、約2割のシェアを持つタカタ(東京)が製造したエアバッグの欠陥問題が、米国や日本を中心に拡大している。車の衝突時にエアバッグが破裂し、金属片が飛び散る恐れがあるという。

 米運輸省は、タカタが米国の一部地域で進めているリコール(回収・無償修理)を、全米に広げるよう命じた。タカタ製品を使う自動車メーカーも対応を迫られ、全世界で1千万台規模というリコール台数がさらに膨らむのは必至だ。

 タカタが関連を認めただけでも3件の死亡事故が米国などで起きた。日本でも死傷者こそいないとされるが、4件の事故が報告されている。

 タカタと自動車メーカーはリコールに全力で取り組むべきだ。米当局の新たな指示に応じるのは当然だろう。

 日本国内でのリコール台数は260万台余だが、10月末時点で90万台近くが未改修のままだ。10年近く前に造られた古い車が多く、所有者の追跡が難しいのが一因という。

 各社ともホームページで対象車種を公開し、車台番号を入力すればリコール対象かどうかがわかるようにしているが、より広く注意を促してほしい。

 業界を監督する国土交通省は、関連事故が見逃されていないか調査しつつ、リコールの範囲が適切かどうかも確認する必要がある。既にリコール対象外のタカタ製品の破裂がわかっており、対応は急務だ。

 それにしても、タカタと自動車メーカー側、特にリコール台数が多いホンダの対応は後手に回ったと言わざるを得ない。

 タカタが不具合に気づいたのは05年、ホンダからの連絡だったという。だが「特異な事例」と判断し、運輸当局に報告しなかった。07年になって破裂事故が相次ぎ、再調査した結果、08年に米国でリコールを始めた。

 一方のホンダは、タカタ製エアバッグがらみの事故を含め、米当局に報告義務がある死傷事故について、過去11年で1700件余の報告漏れがあったと新たに発表した。

 タカタ、ホンダとも隠蔽(いんぺい)は否定しているが、再発防止に向けた焦点であり、第三者機関による検証が必要だ。全容解明と責任追及に乗り出した米議会の関心もその点に集中する。

 「安全」を売り物にしてきた自動車業界への信頼を守れるかどうかが問われている。