【マニラ=佐竹実】東南アジア経済に減速感が出ている。27日発表のフィリピンの7~9月期の実質国内総生産(GDP)伸び率は、前年同期比5.3%と、前の期の6.4%から低下した。市場予想を大きく下回り、四半期ベースで2年9カ月ぶりの低さだった。域内経済は物価高による消費不振が影を落とすが、今後は原油相場の下落が追い風になると期待され、底堅い成長が続くとの見方が多い。
フィリピン経済は世界各国で働く出稼ぎ労働者からの送金や、サービス産業の発展が個人消費を下支えし、域内のけん引役となってきた。2013年に7.2%の高成長を達成し、14年の目標も6.5~7.5%としていた。「目標達成は非常に困難になった」とバリサカン国家経済開発庁長官はいう。
フィリピンペソの対ドル相場は現在、1ドル=44.9ペソと1年前に比べおよそ4%安い水準で推移する。輸入品の値上がりなどで消費者物価は年初から上昇傾向にあり、8月ごろの消費者物価上昇率は5%近かった。
フィリピンはGDPの7割を個人消費が占めるため、物価高は消費減退に直結する。7~9月の個人消費の伸びは前年同期比5.2%と、前期に比べ0.5ポイント下がった。
インフレに対応するため、フィリピン中央銀行は9月、2回連続で利上げに踏み切った。来年にも予想される米国の利上げを視野に為替市場では相場がドル高・ペソ安に傾きやすい。通貨安を防ぐためさらなる利上げに踏み切れば景気の腰折れにつながりかねず、中銀は難しいかじ取りを迫られている。
通貨安が物価高と消費意欲の減退につながる構図は、インドネシアも同じだ。多額の経常赤字を背景に通貨安傾向が続いており、7~9月のGDP伸び率は約5%と5年ぶり低水準だった。11月に政府が打ち出した燃料補助金の削減により市中のガソリンが値上がりしており、物価上昇圧力は一段と強まっている。
域内で比較的安定的な成長を続けていたマレーシアも、7~9月は5.6%と前期に比べ減速した。欧州や中国などの不振を受け、輸出が伸び悩んだ。
東南アジア諸国連合(ASEAN)の主な輸出先は中国と欧州。中国の成長が減速しているほか、欧州の回復も鈍い。マレーシアやタイでは7~9月の輸出が伸び悩み、成長の足かせになった。
ただ、エネルギー輸入国である多くの国にとって原油価格の下落は追い風となる。石油製品の値下がりはインフレ圧力を緩和する可能性が高い。
6億人の市場であるASEANでは中間層が育ちつつあり、長期的な需要については楽観的な見方が多い。インフレ懸念が払拭されれば個人消費も戻り、成長軌道に戻るとの期待は根強い。
直接投資が底堅いことも成長を支えそうだ。タイの12年の直接投資額は前年の2倍の5490億バーツ(約1兆9600億円)、13年はやや減ったものの4789億バーツと高水準だった。フィリピンでも高速道路や地方空港などのインフラ整備が進んでいる。
アジア開発銀行(ADB)は、東南アジアの14年の成長率を4.6%と予想。15年は5.3%に加速すると見ている。足元の域内経済の減速は一時的なものだとの見方が多い。