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【主張】前支局長初公判 韓国司法の矜持をみたい

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【主張】
前支局長初公判 韓国司法の矜持をみたい

 韓国司法にとって、ここが正念場ではないか。大統領府や政府の意向に左右されることなく、法治国家における司法の独立性や矜持(きょうじ)を世界に示すことができるか。公判の行方を注視したい。

 韓国の朴槿恵大統領に関するコラムをめぐり、名誉毀損(きそん)で在宅起訴された産経新聞ソウル支局の加藤達也前支局長に対する事実上の初公判が、ソウル中央地裁で開かれた。

 問題とされたコラムは、旅客船「セウォル号」沈没事故当日の朴大統領の所在が明確でなかったことの顛末(てんまつ)について、韓国紙の記事などを紹介し、これに論評を加えたものだ。

 加藤前支局長は意見陳述で「韓国の政治や社会の状況として、ありのままに日本の読者に伝えようとしたものだ」と述べ、無罪を主張した。

 公人である大統領に不都合な報道だからといって、公権力の行使で対処するのは、民主主義国家のありようとはいえない。

 本紙は、報道、表現の自由に反する起訴自体を不当と訴え、撤回を求めてきた。日本新聞協会や「国境なき記者団」など国内外から多くの非難声明が出され、欧米メディアも韓国当局を批判する社説を掲げてきた。公判は世界が注目するなかで行われる。

 「セウォル号」の沈没事故では犠牲者の多くが修学旅行中の高校生だったこともあり、乗客の救助より自らの脱出を優先させた船長らに韓国国民の多くが激しく憤った。そうした世論を受けて朴大統領は「殺人に等しい行為」と発言し、検察当局は殺人罪での船長の起訴に踏み切った。

 船長の行動は非難されて当然のものだった。それでも、事故船舶の船長を「殺人罪」で裁こうというのは、国際常識から大きくかけ離れている。

 死刑を求刑された船長に対し、光州地裁は遺棄致死罪などで懲役36年の判決を言い渡した。遺族らは強く反発したが、殺人罪を回避した判断は妥当といえた。

 司法の独立性を示したともいえる。検察は行政庁だが、裁判所は司法権を行使する場である。

 加藤前支局長の公判では傍聴席から怒声が飛び、廷外では卵が投げつけられた。法治をうたう民主国家の法廷にふさわしい光景ではない。法と証拠のみに基づく、冷静で厳正な判断を望みたい。

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