余録:私たちは高い威厳と規律を保って闘いを…

毎日新聞 2014年11月28日 00時05分(最終更新 11月28日 00時07分)

 「私たちは高い威厳と規律を保って闘いを続けねばなりません。創造的な抗議が暴力に堕するのを許してはなりません。何度でも繰り返し言います。私たちは魂の力によって暴力に立ち向かうという崇高(すうこう)な高みに昇らねばならないのです」▲米黒人の公民権運動の指導者・キング牧師は、歴史的なスピーチとして名高い1963年8月28日のワシントン大行進での演説の中でこう述べている。師はこの時「私には夢があります」というフレーズを繰り返して人種平等の夢を訴え、20万人聴衆の心をとらえた▲「私には夢があります。……かつて奴隷だった者の子と、かつて奴隷の所有者だった者の子が、兄弟として同じテーブルに着ける日がくるだろうという夢が」。その夢から約半世紀、目の前を見渡せば、黒人大統領の米国で広がる人種差別への激しい抗議行動である▲丸腰の黒人青年を射殺した白人警官が不起訴になったのは人種差別だとミズーリ州から全米に広がった抗議とデモだった。事件のあった地元では一部が暴徒化して放火や略奪も起こった。日ごろ法の執行の不公平を肌で感じてきた人々の怒りが噴出したかたちである▲米国の世論調査では警官不起訴への評価が白人と非白人とで二分されているという。暴動による破壊を非難したオバマ大統領も黒人らの鬱屈(うっくつ)した不満を鎮める手立ては乏しい。貧困、銃規制もふくめ今日の米社会のいくつもの断層線を映し出す人種問題の緊張である▲キング師は暗殺前日の予言めいた演説で、主(しゅ)に許されて登った山の頂(いただき)から約束の地を見たと語っていた。その頂から今日の米国はどう見えるのだろうか。

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