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わざわざ足を運んで観ることの意味ってどこにある?「劇場」入門

インタビュー・テキスト:萩原雄太 撮影:相良博昭(2014/11/27)

アートや映画、音楽に興味のある読者でも、劇場には久しく行っていない、という人もじつはいるだろう。どこか敷居が高く、入りにくいその建物。日本全国、様々な自治体で立派な劇場が作られているにも関わらず、映画館、コンサートホール、美術館などとは違って、万人が利用しているとは言いがたい。

劇場は、古代ギリシャの時代から人々が集う公共の場所として機能しており、ヨーロッパでは現在でも町の中心に位置する場所に設置されている一方、日本においては1980年代以降、全国に数多くの公立劇場が設置されてきたものの、どこかよそよそしさを感じてしまうのは何故なのだろうか?

舞踊家・演出振付家の金森穣は、2004年から新潟市の公共劇場「りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館」の舞踊部門芸術監督を引き受けている人物。10年にわたって、舞踊家としてヨーロッパの名門カンパニーを渡り歩いてきた彼は、新潟から世界に誇れる劇場文化を作ろうというチャレンジを試みている。では、金森がチャレンジの場としている「劇場」とは、本来どのような空間なのだろうか? そして、そこで舞台芸術に触れる意味とは? 金森と社会学者の大澤真幸に、日本の劇場文化の可能性について聞いた。そして、この記事を読んだ後には、ぜひ近くの劇場に足を運んでみてほしい。

PROFILE

金森穣(かなもり じょう)
ダ演出振付家、舞踊家。りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館舞踊部門芸術監督 / Noism芸術監督。ルードラ・ベジャール・ローザンヌにて、モーリス・ベジャールらに師事。ネザーランド・ダンス・シアターII、リヨン・オペラ座バレエ団他を経て帰国。2004年4月、りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館舞踊部門芸術監督に就任し、日本初の劇場専属舞踊団Noismを立ち上げる。近年では『サイトウ・キネン・フェスティバル松本』での小澤征爾指揮によるオペラの演出振付を行う等、幅広く活動している。2014年6月より新潟市文化創造アドバイザーに就任。平成19年度『芸術選奨文部科学大臣賞』ほか受賞歴多数。
www.jokanamori.com
Noism Web Site


大澤真幸(おおさわ まさち)
1958年長野県松本市生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。社会学博士。千葉大学文学部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を歴任。現在、月刊個人思想誌『大澤真幸THINKING「O」』刊行中、「群像」誌上で評論「〈世界史〉の哲学」を連載中。
大澤真幸オフィシャルサイト | THINKING「O」主宰

僕が若いころは舞台芸術が、ものを考えたり、世界に関わろうとするときの1つの重要な通路というか、「趣味以上のもの」だった気がします。(大澤)

―今日は「劇場文化」をテーマに、お二人にお話を伺いたいと思っています。金森さんは、10代半ばでヨーロッパに留学され、複数の世界的カンパニーで活躍された後、現在は「りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館」舞踊部門の芸術監督を務め、劇場専属舞踊団Noismを立ち上げるなど、劇場と共に人生を歩んでこられました。一方、社会学者である大澤さんはどうして劇場に足を運ぶようになったのでしょうか?

大澤:僕が若いころは今と少し違っていて、特に演劇が好きな人じゃなくても劇場に行くことが普通だったんです。ものを考えたり、世界に関わろうとするときの1つの重要な通路というか、舞台芸術が「趣味以上のもの」だった気がします。だから、何か気になる作品があれば、観に行くのが日常的なことでした。1970年代終わり、野田秀樹の「夢の遊眠社」が有名になる少し前くらいのタイミングですね。

左から:金森穣、大澤真幸
左から:金森穣、大澤真幸

―劇場に足を運ぶのが日常的で、演劇やダンスを観るのが「趣味以上」のものだったというのは、今では想像しにくい感覚ですね。その状況は、その後どのように変わっていったのでしょうか?

大澤:舞台芸術がだんだんと細分化されて、趣味的なものになり始め、力を失っていきました。それで僕も劇場から足が遠のくようになってしまったんです。しかし2000年ごろに、鈴木忠志(唐十郎、寺山修司らと共に1960年代アングラ演劇の担い手とされる演出家)さんと知り合ったこともあって、ふたたび劇場に足を運ぶようになり、まだ可能性があるぞと再確認してからは、観に行くようにしています。その中で出会ったのが、金森穣さんだったんです。

金森:そうだったんですね。でも、今お話いただいたような社会における舞台芸術の変化には、どのような要因があったと考えられていますか。1960年代から今にかけて、社会の何が変わったんでしょう。

大澤:僕の社会学の先生だった見田宗介さんは、1945年からの戦後の歴史を「理想の時代」「虚構の時代」「不可能性の時代」という3つの時代に分けて考えていました。その中で言うと、舞台芸術が最も力を持っていた時代は「理想の時代」が終わりかけて「虚構の時代」に入りかけた1960年代末から1980年代初めにかけて。60年代の学生運動が終息し、一般人が政治的な目標を立てることに欺瞞を感じ始めつつ、精神や文化的な立場から社会をプロテストするというような時代であり、そのころに演劇が若い人に受け入れられていたんです。

大澤真幸

―鈴木忠志さんが、早稲田小劇場で活躍していた時代ですね。

大澤:他にも、寺山修司、唐十郎などが活躍し、「理想の時代」を「虚構」によって相対化しようとする力が演劇にはありました。それを徹底的にやりきったのが野田秀樹でしょう。彼はすべてを言葉の力で笑い飛ばして、古典的な理想にこだわるものを嘲笑していく。当時の人々はその軽やかさに感動したんです。けれど、野田さんの後にはどんどん趣味っぽい演劇が多くなっていったように思います。逆に、金森さんは今の日本のシーンをどのように捉えていますか?

金森:私は17歳でヨーロッパに渡り、1992年から2002年までの10年間は日本の状況にコミットしていませんでしたが、ここ20年の間に「大きな社会性のある作品」が減り、「小さな個人的作品」が増えていったように感じます。それは作品規模のみならず、舞踊団の規模、集団性に対しても言えることですね。

―具体的にはどのような部分でしょうか。

金森:日本では、ヨーロッパのように近代的なスタイルや文化が確立されていないにも関わらず、それを相対化しようとしたコンテンポラリーな感性だけを真似ようとしてしまったことが問題だと思います。そのことによって踊れない舞踊家がさらに踊らなくなったり、集団活動も満足にできていないのに集団性を否定してみたり、一見するとコンテンポラリーだけど、内実は迷走している感じを受けます。もちろん日本の場合、舞踊家たちが望んでも、独自のスタイルを確立したり、集団活動ができる環境がないことも事実です。意識が先か、環境が先かといったところでしょうね。


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