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V.A.『Why not Clammbon!?~クラムボン・トリビュート』

クラムボンは、なぜ消費されることなく、20年間独自の歩みを続けてこられたのか?

クラムボンは、なぜ消費されることなく、20年間独自の歩みを続けてこられたのか?

テキスト:金子厚武 (2014/11/27)

トリビュート盤に名を連ねた多彩な顔ぶれは、まさにクラムボンの音楽性とヒストリーの象徴である


クラムボンの結成20周年を記念したトリビュートアルバム『Why not Clammbon!?』が12月3日に発売される。SUPER BUTTER DOG時代からの盟友であるハナレグミやレキシをはじめ、ストレイテナー、salyu×salyu、Buffalo Daughter、downyらが名を連ね、さらには何とあの小室哲哉までもが参加という、ジャンルも世代も問わない総勢14組は、そのままクラムボンが内包している多彩な音楽性を表していると言えよう。とはいえ、この顔ぶれを見ても、実際には「そこまで驚かなかった」という人も多いのではないだろうか? それは単に「クラムボンだから、これぐらいは当たり前」というファン目線によるものではなく、iTunesでシャッフルして音楽を聴き、YouTubeの関連動画を次々と見ることが普通になって、聴き手にとってもカテゴライズが意味をなさなくなったという時代背景が関係しているように思う。

上段左から:GREAT3、小室哲哉、下段左から:HUSKING BEE、青葉市子
V.A.『Why not Clammbon!?~クラムボン・トリビュート』参加アーティスト(上段左から:GREAT3、小室哲哉、下段左から:HUSKING BEE、青葉市子

今年CINRAではクラムボンのミト(Ba)に2度インタビューを行っているのだが(TAMTAM、SEBASTIAN Xとの対談)、その中でミトはバンド結成時の構想をこんな風に話している。

ミト:当時は「ELP(Emerson, Lake & Palmer)と矢野(顕子)さんが一緒になったぐらいのバンドになったら面白いな」とか、「そこにAPHEX TWINっぽいのも入れられたら……まあでも難しいか」って感じだったんですけど、機材が発達したり、MICE PARADEとか、海外のポストロック / エレクトロニカチームとも仲良くなったりして、だんだんいろんなことができるようになっていったって感じかなあ。
(TAMTAM×ミト対談「破綻ギリギリが面白い」(2014年4月 CINRA.NET掲載)より)

メンバー全員が専門学校のジャズ科出身ということもあって、デビュー当時はジャズのイメージが強かったものの、クラムボンははじめからエクレクティック(折衷的)な音楽性を内包していて、その資質がプロデュースに亀田誠治を迎えた『ドラマチック』(2001年)、MICE PARADEを迎えた『id』(2002年)あたりで、一気に解放されていった。ちなみに、それぞれ独自の音楽性を持ちながらもシンパシーを寄せ合っていた、くるり、スーパーカー、NUMBER GIRLなどを、雑誌『SNOOZER』はそのデビュータイミングから「98年の世代」と呼んでいたが、今にして思えば、くるりと同様にエクレクティックな資質を持つクラムボンが、ここに括られていなかったのは不思議なようにも感じられる。これに関しては、ミトのこの発言に注目したい。

ミト:クラムボンってメディアライクな宣伝戦略を基本しないんですよ。自分たちのブランドイメージをわかりやすくするために、あえてメディアライクな宣伝をしないで、メジャーっていう場所なんだけど、友達の輪で作って行くっていう、逆転の発想でやろうとしているんです。うちらがやってるような音楽は、決してパンチがあるわけでもないし、出頭のインパクトもないから、時間はかかると思ったけど、メジャーデビューから15年で、結果は出てきたかなって。
(永原真夏×ミト対談 不思議と繋がるクラムボンとSEBASTIAN X(2014年10月 CINRA.NET掲載)より)

ミト(撮影:田中一人)
ミト(撮影:田中一人)

様々な音楽性を内包し、ひとつのジャンルに括ることのできないクラムボンというバンドは、確かに15年前は理解をするのに時間のかかるバンドだったかもしれない。しかし、メディアによる消費を免れながら(『SNOOZER』は消費を避けるために、音楽性ではなく、世代で括ったわけだが)、友達の輪でコアなファンを構築していく中で、前述したようなiTunesやYouTubeの登場によって聴き手の意識も変わり、「いいものはいい」というクラムボンのあり方は、とても自然なものとなっていった。例えば、今年のバンドシーンの出世頭であるゲスの極み乙女。(川谷絵音はクラムボンのファンを公言している)は、かなり折衷的な音楽性でありながら、瞬く間にブレイクを果たしたし、先日『日本レコード大賞』の優秀アルバム賞を受賞した赤い公園にしても、同じことが言える。「いいものはいい」という時代。それはつまり、クラムボンの時代なのだ。


錚々たるミュージシャンのオリジナリティーが加味され、新たな生命が宿った名曲たち


では、トリビュートアルバムに収録されている全14曲を駆け足でご紹介していこう。「原曲が凄過ぎて、太刀打ちできないほどセンスの宝庫なので、開きなおってパワーポップにしてしまいました」というストレイテナーの“Folklore”は、シンプルなアレンジながら、ホリエアツシの裏声がいい味を出している。軽快なチェンバーポップに仕上げた蓮沼執太フィルの“ある鼓動”は、アウトロの環ROYによるラップも印象的。シンガーとしてのスキルの高さが際立つsalyu×salyuの“アホイ”は、個人的にもかなりのお気に入りだ。

上段左から:ストレイテナー、蓮沼執太フィル、下段左から:NONA REEVES、downy
V.A.『Why not Clammbon!?~クラムボン・トリビュート』参加アーティスト(上段左から:ストレイテナー、蓮沼執太フィル、下段左から:NONA REEVES、downy)

ここからはファンクゾーンといった感じで、レキシは“大貧民”をグル―ヴィーに、ハナレグミは“華香るある日 ~clommbon loves clammbon ver ~”を骨太なバンドサウンドでアレンジ。SUPER BUTTER DOG勢に続く、「ワーナー同期組」NONA REEVESのダンサブルな“SUPER☆STAR”もばっちりはまっている。よりディープに、ポストロック~音響系寄りになっていくアルバム後半は、初音ミク風のボーカルが印象的なBuffalo Daughterの“ロッククライミング ~Let's Roooooock Mix~”から。生演奏とエレクトロニクスでサイケデリックに仕上げたdownyの“5716”、シンセをフィーチャーしたメランコリックなGREAT3の“246”と、数字タイトルシリーズに続き、TOKYO No.1 SOUL SETはメジャーデビュー曲の“はなればなれ”をムーディーにしっとりと聴かせてくれる。

上段左から:Buffalo Daughter、ハナレグミ、salyu × salyu、下段左から:MICE PARADE、TOKYO No.1 SOUL SET、レキシ
V.A.『Why not Clammbon!?~クラムボン・トリビュート』参加アーティスト(上段左から:Buffalo Daughter、ハナレグミ、salyu × salyu、下段左から:MICE PARADE、TOKYO No.1 SOUL SET、レキシ)

かつてクラムボンがトリビュートアルバムに参加しているHUSKING BEEは、“海の風景”でギターポップからフォークに展開する異色のアレンジを見せ、シンプルな弾き語りのアレンジながら、アトモスフェリックな雰囲気が唯一無二の存在感を発揮している青葉市子の“雨”と続き、MICE PARADEは自らがプロデュースした『id』の収録曲“ハレルヤ”を陽性のレゲエアレンジに。そして、ラストはクラムボンの楽曲の中でも屈指の人気を誇る“バイタルサイン”を、小室哲哉が大胆なダンストラックに変貌させている。曲調的にも、ネームバリュー的にも、アルバムのラストにしか入れどころがなかった感じだが、歌詞の順番を入れ替えることによって、ラストに印象的な余韻を与えているのが何とも憎い。




“Folklore”が意味するものとは?


さて、こうしてクラムボンの名曲がさまざまな形でカバーされたわけだが、クラムボン自身は過去に『LOVER ALBUM』(2006年)と『LOVER ALBUM 2』(2013年)という2枚のカバーアルバムを発表していて、前者に収録されているSmall Circle of Friendsの“波よせて”や、フィッシュマンズの“ナイトクルージング”などは、オリジナル曲と同等の扱いでライブの定番曲になっている。例えば、OASISは毎回ライブでTHE BEATLESの“I Am the Walrus”をやることが有名だったが、このようなカバー文化は日本ではそれほど浸透していないように思う。しかし、名曲というのは、こうやって共有され、受け継がれていくもの。10月に行われたツーマン企画『clammbon faVS!!! vol.5』で、クラムボンとくるりが実に15年ぶりの共演を果たしたときに、アンコールで2組合同で演奏されたのは「民間伝承」を意味する“Folklore”だった。このトリビュートアルバムをきっかけに、各アーティストがこれからもクラムボンの名曲を演奏し続け、後世にまで伝わっていくことを願って。

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クラムボンは、なぜ消費されることなく、20年間独自の歩みを続けてこられたのか?

V.A.
『Why not Clammbon!?~クラムボン・トリビュート』(CD)

2014年12月3日(水)発売
価格:3,240円(税込)
COCP-38844

1. Folklore / ストレイテナー
2. ある鼓動 / 蓮沼執太フィル
3. アホイ! / salyu × salyu
4. 大貧民(♠♣♥♦) / レキシ
5. 華香るある日 ~clommbon loves clammbon ver ~ / ハナレグミ
6. SUPER☆STAR / NONA REEVES
7. ロッククライミング ~Let's Roooooock Mix~ / Buffalo Daughter
8. 5716 / downy
9. 246 / GREAT3
10. はなれ ばなれ / TOKYO No.1 SOUL SET
11. 海の風景 / HUSKING BEE
12. 雨 / 青葉市子
13. ハレルヤ / Mice Parade(featuring Chancellor)
14. バイタルサイン~Tetsuya Komuro Remix~ / 小室哲哉

クラムボン

1995年、福岡出身の原田郁子(Vo,Pf)と東京で育ったミト(Ba)、そして札幌出身の伊藤大助(Dr)の三人が、同じ専門学校で出会う。99年、シングル『はなれ ばなれ』でメジャーデビュー。当初より、ライブバンドとして高い評価を得ながら、ライブやレコーディングなどにおいて他のアーティストとのコラボレーションや楽曲提供、プロデュースなど多岐に渡る活動を続けてきている。来年で結成20周年を迎えるにあたって、アニバーサリーイヤー企画第1弾として初のMV集『clammbon music V 集』、第2弾としてバンドスコア『clammbon GUIDE BOOK』を発売。12月3日にトリビュートアルバム『Why not Clammbon!?~クラムボン・トリビュート』を発売し、2015年には5年ぶりとなるオリジナルアルバムをリリース予定。

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